Moyashi

Moyashi

脚本 robotomy


すべてを肯定、そしてすべてを否定するドリルの動作音は優しく彼を崩壊させようとしていた
規則的に切れ目の入った電気ドリルの先端は彼の前頭部に向かってゆっくりとしかし確実に
的を射るように吸い込まれる
座っているベッドの傍らにはメモ用紙で走り書きがしてあった
”僕はすべてにとって解き放たれた存在になりそしてこの世界の解放者となります”
彼は回り続ける電気ドリルの先端を見つめながら考えていた

世界は僕にとって複雑すぎる
決められた規則、檻の中の自由、作られた秩序、目に見えるすべてが僕を押さえつけ
首を絞め上げ、正しいのは自分だと主張してくる
僕はこの世界に順応しようと必死になってがんばった
あらゆる自己啓発の本を見つけては手に取り隅々まで読みつくしたし
苦手な会話も吐き気を抑えながらキャッチボールしたし
毎朝6時におきてNHKラジオ体操をしながら宮沢賢治を音読してみた
世界はシワいっぱいに出しながら大きな口をあけ僕をスプーンに乗せてその包容力ある
咀嚼力で噛み砕いてくれると信じていた
その先には母なる胃酸が僕を溶解してくれると

でもそうじゃなかった
僕は世界にとって鉛玉だった
鉛はいつまでたっても鉛だし、世界はいつまでたっても世界のままだった
元素記号は僕の中で核をなして30番目の微笑みを絶やさなかった
もし僕を飲み込んだならば世界の胃は穴が開きそこから胃酸が流れ落ち朽ち果ててしまうのだろう
でもあらゆる欲望が欲望のままのように自然の倫理にのっとって僕は鉛のままで存在する

こうして僕は口に入ることなく世界に拒絶されその生存意義は元素記号にのみ定義されることとなった
なぜ純粋な僕だけが拒絶されなくてはいけないのか
ゴテゴテに混ぜられた不純物の塊だけが開いた口に受け入れられおいしくいただけてもらえるのか
理不尽だ
僕は正しいはず
それなのに何もかもが僕を嘲笑う
生存意義を否定してまでも僕はあらゆるものに適応しようとした
結局は一元素記号でしかなく手に触れるものは化学反応さえしなかった

すべては僕が悪いのかもしくは世界が悪いのか
否 世界が悪いのである
その根拠は明快である
僕は純粋だからだ
僕が基準であり僕から派生してゆく
その他の副産物は偽者でのうのうと存在さえしちゃいけないのだ
僕は偽者で満ちた世界を消さなきゃいけない
無垢な世界にしなきゃいけない
こんな世界消してしまおう




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