Potatos Diary

終わらせてほしい

終わらせて ほしい

 昨日まで暖かかったのに、今日は時ならぬ風と雪です。
 地吹雪といって、積もった雪が、風で砂漠の砂嵐のように舞い、視界が悪くなります。
 病院へ行く道すがら、白魔の世界に迷い込んだようでした。

 父の、手術というか、処置の日は3月5日に決まりました。
 鼻から、入れた管で、栄養を摂っていましたが、処置が済んで落ち着いたら、胃に直接通した管から栄養を摂ることになります。
 内視鏡(胃カメラと同じように)で見ながら、口から食道、胃まで通して持っていった管を、胃壁から腹壁まで貫通させて、固定します。
 胃の中と、お腹の外とつながるわけで、その管を使って栄養を送り込みます。
 怖い処置のように思う方がいると思いますが、脳障害で、水や食べ物を飲み込めず、むせて気管に入ってしまう人は、これを使っている人が最近は多いようです。水も食物も気管に入ると、肺炎を起こしやすいので有効な処置です。

 更に、父の場合は痴呆があり、鼻からの管(チューブ)をすぐ抜いてしまいます。
 チューブを入れるときは、協力する気はなく、のどからしゃくりあげるので、慣れた人でないと喉を突くばかりで、父の苦痛は甚だしく、時には、傷ついた喉からの血が痰に混じってくるくらいです。
 側に人がいないときは、チューブを抜かれないように、手に袋をはめます。更に、栄養剤を注入している時は、腕でチューブを払わないよう、ベッドに手が縛り付けられます。
 この頃少し元気になってきた父は、マヒのない方の腕が縛られると、何故縛られたのか分からず、怒り、助けを呼び、大声を出し、腕を動かそうと必死になります。
 そういう患者は他にも何人もいるから、いちいち看護婦さんはきません。
 病院に行ったとき、流動食が始まっていると、父の絶望的な大声は、エレベーターを出た途端に聞こえ、私は思わず走ります。

 なんにちもこれが続き、考えた末に縛る事よりも、胃瘻の処置(ペグを取り付ける)を受けようと決めました。
 処置は簡単ですが、細菌感染の恐れはじゅうぶんあるし、体力も落ちているので、傷口の盛り上がりも悪いかもしれません。リスクはかなりあるかもしれません。
 経過がよければ、ピアスの穴のように、お腹に丈夫な口がつく筈です。それを祈って処置を受けます。それができれば、痰もへるし、喉に管が入っていないので、口から食べる練習も少しずつ出来るかもしれません。
 このままでは決して自宅には帰れません。
 私がいるとき、手袋をさせずに側にいますが、24時間父がする辛抱から見ると、それはほんの僅かな時間なのです。

 先日の事、回らない口で父は、「もういい!もういいから終わりにしてくれ」と言いました。
 マヒしていない右手を私が撫でている時の事でした。分からないふりをしていたら、「早く、早くオワリにしたいんだ」と繰り返します。
「つらいのも、もう少し!鼻のクダももうすぐ取る様になるからね、頑張ろうね」と、私が言うと、「いいから、さっさと終わらしちゃってくれ、たのむ」と言います。
 「つらいよねぇ!でもね~お父さん、私がこんなになって、苦しいから、殺してくれって頼んだら、お父さん私を殺してくれる?・・・それはできないでしょう?」喉に込み上げるものを抑えながら、私は言いました。
 すると、「そうか・・すまん、いらんこと言った」「すまんなぁ」「ごめんなぁ」たどたどしく繰り返す父の目から涙がポロポロと伝い落ちました。

 この日のように、痴呆があるとはとうてい思えない会話が出来る日もあります。
 元に戻ったように、しっかりした父をたまに見るのは嬉しい反面、現実を認識した父の姿、それはあまりに悲しく、胸が潰れる思いがします。






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