・「殺し屋の営業術」は、野宮有によるユーモラスなビジネス小説である。題名こそ物騒だが、内容の核心は営業という仕事の本質を、極端な設定を通して浮き彫りにする点にある。殺し屋という裏社会の職業を通じて、人間関係、信頼、提案力といった営業の普遍的な技術を描き出す異色の物語だ。
・物語の主人公は、腕は確かだが営業が苦手な殺し屋。依頼を確実に遂行する能力はあるものの、顧客を獲得する力がない。つまり「技術者としては優秀だが、ビジネスとして成立していない」状態にある。そんな主人公が出会うのが、営業センスに長けた人物だ。この人物は、殺しの技術ではなく「顧客の心理」を読む能力を持っている。
- 顧客は何を恐れているのか
- 何を解決したいのか
- なぜ依頼するのか
依頼人の本当のニーズを理解し、信頼を築き、最適な提案をする。そのプロセスは、一般企業の営業活動とほとんど変わらない。物語は、主人公が営業という技術を学びながら成長していく過程を描く。殺し屋の世界という非日常的な舞台の中で、「売る」という行為の本質が少しずつ明らかになっていく。
・作品のテーマ
本書が描くのは、営業という行為の誤解である。多くの人は営業を「売り込み」と考える。しかし本作が示すのは、営業とは 問題解決のプロセス だという視点だ。優れた営業は、商品を押し付けない。むしろ顧客が抱えている問題を理解し、その解決策を提示する。殺し屋の依頼も同じ構造を持つ。依頼人は「殺し」を求めているのではない。その背後には、恐怖、恨み、利害、絶望といった複雑な事情がある。営業とは、その背景を読み解く技術なのだ。
・『殺し屋の営業術』は、一見すると奇抜な設定のエンターテインメントだが、その内部には非常にまっとうなビジネスの原則が流れている。人は商品を買うのではない。 信頼できる相手の提案を受け入れる。 殺し屋という極端な職業を通して、そのシンプルな真実が浮かび上がる。読後に残るのはブラックユーモアではなく、営業という仕事の静かなリアリティである。
殺し屋の営業術 [ 野宮 有 ]
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