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そこまでは良かったのです。箱根彫刻の森美術館は優しい秋の日差しに包まれていました。かながわ職人の森主催の「技道展」「人と環境にやさしい環のくらし展」は木と土の家オタクの私が心から共感できる素敵なイベントでした。名職工が生み出す畳や家具が名だたる現代彫刻に負けずに並んでいました。私の出番....書家の武田双雲さん、家具作家の安藤和夫さんと「アルチザンとしての職人」について熱く語るトークライブも盛り上がりキラキラした言葉の数々を胸に刻むことができました。一仕事を終えた後久々に対面したピカソやヘンリームーアの作品も想いも、静かに心に染み入るのでした。閉園間際の誰もいない美術館の木立には見たことの無い小鳥たちが飛び交っていました。その鳴き声もしぐさも、あまりに愛らしくしばし立ち尽くし見とれていました。万事が是好日で終わる予定だったのです。しかし楽しいことばかりは続かないのが世の常。勝ち続けると次に必ず負けが来る。勝つほどに怯え不機嫌になるギャンブラー阿佐田哲也氏のごとくあまりの快適空間にて良い人ばかりに会った後ゆえ少しイヤーな感じがしました。そういえばこの日、私にはまだ一つ使命が残されていました。尊敬するフットマークの磯部成文社長と先日交わしたお約束です。同社が小涌谷の大規模スパ施設ユネッサンに出店している水着ショップukiukiをこっそり視察するミステリーショッパーにならなくては...。さて問題はここからです。まず、いただいた招待券を忘れてきました。パスポートが3,500円。レンタル水着が630円。いきなりディズニーランドなみの出費です。しかも営業時間の残りは1時間半。中は相当広いらしい。ちょっとあせります。しかし、日帰り温泉、スーパー銭湯マニアの誰かさんはこの時点ではやる気満々です。まだ、どんな目に遭うのか気づいていません。無事ショップの視察も終わり、後は入るだけ。なぜか迷彩カラーのレンタル水着を身にまとい水着でお風呂が楽しめるスペースにGO!おお、中央にはスパリゾートハワイアンズで見たような、円形の巨大なお風呂が....しかも人影はまばらです。一見ラッキー。さてゆっくり疲れを取るか....と思いきや、風呂にポツポツと浮かぶ頭の影が不穏です。うわっ、体が一つで頭が二つ。なんじゃ?ヨルダン展か??否....最初に目に飛び込んできたのは、スパより熱い抱擁と接吻だったのでありました。あわてて、目をそらしてはみたものの、そこにもあそこにも、Here There and Everywhere ひと目をはばからぬ、のぼせきったカップルたちがゆらゆら一つのシルエットになっているのでした。そうですねえ、カップル7割、ファミリー2割、おばさま倶楽部1割とお考えください。かの麗しき大円形風呂の端々には、癒しの泡が吹き出る素敵なゾーンがあるのですが、要所要所は、すべて二人で一つのカップルが....しっかり押さえています。居場所を失った私は、山ほどあるはずの風呂から約束の地を渡りあるく決意をしたのですが、行く風呂、行く風呂、勝手に貸切状態の2人組に占拠されています。たとえば....直径5メートルほどの円形ジャクジーの類がいくつもあり、混んでいれば、それぞれ10人は入れそうなのですが、どれもこれも貸切状態。ひと目をはばからぬ愛のプレイに興じているので、邪魔をせぬよう、こっそり死角から入ろうとするのですが、キッとにらまれること数え知れず。サトラレならずとも「このエロオヤジがっ」という思念波を容赦なく飛ばしていきます。そんな見たいほどのものじゃないのに...。いたたまれずに、ついに屋外に出ました。日はもう暮れなずみ、10月の箱根の山を吹きぬける風が、鳥肌になる間も許さず、容赦なく体温を奪っていきます。目の前に、人口の小山があったので体を温めようと思わず階段をかけ上ってみたのですが山頂につくと既に体は震えています。「何やってんだ。オレ。」生命の危険を感じて、あわててそこにあった何の変哲もない風呂に飛び込みました。ここには誰もいません。助かった!そして視界いっぱいに広がる空を見上げると、輝く星こそ、まばらではありましたが、ようやく私も貸切気分が味わえそうです。モトがとれるかもしれません。薬効成分も、泡もない、この風呂で、このまま眠ってしまおうか.....。あまりの気持ちよさに体中の筋肉は弛緩し、なにやらくだらない独り言恨み言でも言っていたかもしれません。その時、視線を感じました。そこは、子供向け滑り台の行列待ちの人たちが暖を取るテンポラリー風呂だったのです。さすがに、この時間に滑り台に興じる子供はいませんでしたが、というより、滑り台をやろうとする人は誰もいませんでしが、だからこそ、真面目そうな男性監視員が、怪しげな厄年男=私をじっと見つめているのです。別に声をかけられたわけでもないのに、なぜか恥ずかしさでいっぱいになった私は、あれこれ考えるよりも先に口を開きました。今もなぜ言ったのかわからない一言を。「この3本の滑り台の中で、どれが一番面白いですかねえ?」さすがの監視員も不意をつかれたようです。「何を聞いているんだこのオヤジは?」という思念波。しかし、気を取り直して考えたあげく、「この右はしが、一番くねくねとしていて面白いです。」私としては、恥ずかしくて、その場を一刻もはやく立ち去りたかっただけなのですが.....聞いてみた以上、申し訳ないので滑り台で降りるはめになりました。ところが、滑ってみると...おー。やばい。これ。後半になるほどスピードも横Gも増して、水面に直撃、かなりキケン。面白いのです。気がつくと、また階段を駆け上って滑る。駆け上って滑るの繰り返し。自発的へルタースケルター。無邪気といえば無邪気。不気味といえば不気味。もうとまりません。しかし....その滑り降りたところ正面にギャラリー用のジャクジーがあるのですが、ふと気がつくと、先ほどの某茶髪カップル。なに邪魔すんだと、警戒と侮蔑の視線を投げかけてくださった二人が、そのジャクジから放つまたも氷の視線。「何やってんだ。オレ。」やっと吾に帰ると、体中を羞恥と後悔のホルモンが駆け巡り体と心のバランスが危うくなりましたので、その人口山脈の中の洞窟風呂に逃げ込みました。そこを歩き回ると、なにやら滝らしきものがあるので、打たせ湯フェチ、禊マニアの神社系ボーイスカウトの私は、「そうだ。ここで何もかも洗い流してしまおう。」と即決即断。その滝の下に入っては見ましたが、その水量水勢たるや、温泉法違反レベルの半端じゃない野蛮さ。ほとんど滝行です。全山、ゆるゆるとカップルがイチャついている中、お子様プール温泉の、滝で行をする男1人。「いきの構造」を読み違えた野暮な人。「何やってんだ。オレ。」でも、これが....気持ちイイんです。これまでの打たせ湯なんて、この滝に比べたら、子供だましそのもの。肩全体の血行がよくなって痒さ爆発。病み付きになりそうな快感が....いかんいかん。まだココは、全風呂の1/3。先を急がねば。今一度、気を取り直して、盛りのついた室内に戻り、ひとつひとつ風呂を制覇していく私は、もはやどんな冷たい視線にも動じることはありません。そして、見つけた「死海風呂」あの「死海」よろしく強烈な塩分でプカプカ浮かぶという独創的な風呂で、これは初めて入るシロモノです。一度、身をゆだねれば、浮かぶ浮かぶ。耳を水の中に入れると、そこは別世界。誰も入ってこれない私だけの世界。ここが約束の地か。体中の余計な力を抜きかけた時に、あちらこちらに激痛が.....。う、蚊に刺されて掻いた膝が、くるぶしが。さらには、どうしたことか、尿道口までも痛い。身の危険を感じた私はあわてて飛び起き、シャワーで体中の穴という穴に浸水したであろう死海の名残を洗い流したのでした。イタタ....。「何やってんだ。オレ。」その後、長い廊下を駆け抜け、珈琲風呂だか緑茶風呂だか知りませんが、八十八箇所巡りのごとく駆け抜けていくわけですが、どこもかしこもかしこもかしこもかしこもいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ....とてもとても長くは風呂につかれず、風呂をめぐればめぐるほど身も心もますます冷えていくのが今となっては、はっきりわかります。足も疲れます。歩き回ってますし....。これでは、帰りの東名ソロ運転が思いやられます。「何やってんだ。オレ。」平日の夜だからかわかりませんが、ここは、男1人でくるところではありません。男1人で来ているなんて、よほどの変人....と思うときっとそう見えているに違いない自分の姿が、ブロードバンド動画で脳裏に再生されてなんともはや悲しくなるのです。かわいそうになるのです。他にいないか。そんな1人身の勘違い男は....。いました。やっと、あやしい米国人?いました。ここにも、あやしい英国人?いました。ようやく、あやしい日本人も.....。でも.....もし、間違いだったらごめんなさい。その人たちの体格も、視線も、しぐさも....そちら方面の関係者に見えました。なんだか楽しそう。特に水着を捨て去り男女別になった森の湯で...。なんだか仲間を探しているみたい。目が合ってニコっとされると、なんだか怖くて、早足になります。また疲れます。「何やってんだ。オレ。」というわけで、平日夜は、ある種の二人にはとてもとてもお薦めです。絶対楽しい。桃色の楽しいオーラが全山を包んでいます。おそるべしユネッサン。 ▼水着で遊ぶアミューズメントスパ「ユネッサン」 http://www.yunessun.com/ ▼箱根彫刻の森美術館 http://www.hakone-oam.or.jp/ ▼かながわ職人の森 http://www.smp.jp/久米 信行@縁尋奇妙http://kume.jp/http://t-galaxy.com/news/http://jentle.co.jp/http://t-galaxy.com/
2004.10.17
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