南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2022.11.05
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類



 太平洋戦争で家屋敷をうしないホームレス同様になった我が一族は、疎開さきから東京に戻ったとき、生きるために母は赤坂の一流料亭で住み込みで働いていたことがある。母自身、娘時代に嫁入り修行としてフランス人からフランス料理を習っていたそうだが、そのフランスの料理界も『食の芸術』は日本から学んだと聞いた。

 母が働いていた料亭は政界や大企業のVIPが世界中のVIP客をもてなす場所だったから、シェフもその道の一流ばかりであった。家に戻ると、母は目を輝かせて素晴らしいお料理の話をしてくれた。「昨日の前菜は日本庭園のシーンでね、ちゃんと魚もおよいでる池や橋、築山があって季節の花々や・・・・外国のお客様もオーとびっくりして写真をとっていたわ。本当に食べるのが惜しいくらいだったのよ。」

 母は、ある日どうしても私に見せたいと言って料理長の許可を得て私をその料亭に招いてくれた。大勢の見習いがいそがしく準備をしているところだった。一人は、大根を麻雀のパイのサイズのように切り、人参を鼻緒のように切り下駄を沢山つくっており、一人はパセリのようなもので松の木を作っていたし、一人はキュウリで扇をつくっていた。まだ中学生だった私は彼等の包丁の手さばきを手品師をみるように見張っていたのを思い出す。
兎に角、『食の芸術』にかんしては、日本人の目はかなりこえているとおもう。

 皆さまが素敵な日本料理のシーンを想像していらっしゃるところに、どんでん返しのような話で申し訳ないが、アメリカに来て、その日本人の繊細さを破壊するような話がよく身近で起こるので、どうしても書いてみたくなった。

 つい最近、何年振りかで日本人の知人一家が手土産を持って訪ねてきた。大きな箱には、沢山のお煎餅やアラレを種類ごとに包んだ袋が美しく並べられて8袋入っており、小さな箱には、兎、水に戯れる魚達、ススキや桜の花びらとか、日本画を描いたような和菓子が並んでいて思わず「うぁ~きれい!」という言葉がでたが、食べる前に写真をとっておいてフェイスブックで皆に見せてあげようと思い、二階に携帯を取りに行った。その間わずか二分、写そうと思ったらもう一個なくなっていた!

 私と住んでいるのは夫と犬だけであるから、犯人は分かっている。そして和菓子の芸術も観賞せずに、パクリと数秒で食べたであろう夫を想像して「野蛮人!」と一人で憤慨していた。

 写真をとったあと、喜んでくださりそうな日本人のお友達におすそわけしてあげようと思って、彼に見つからない場所に置いたあと久々に、半世紀以上前に日本をはなれた時いただいた由緒ある湯飲み茶わんをおもむろに出し、緑茶をきちんと入れ、母の遺品の輪島塗の木のお皿にキラキラ光る朝顔のような花模様の和菓子をのせて、静かなダイニングルームに行ってまず茶碗を愛で、和菓子を愛で思い出にふけりながら暫くの間一人で日本人を楽しんだ。

 お茶の時間をおわらせ、束の間の夢想から目覚め台所にいくと、カウンターに大きなお煎餅の箱が開けっ放しになっていて、はさみと、ちょん切った袋の先が二つ置きっぱなしで、お煎餅も二種類を試した形跡があり、『食の芸術』を無視したアメリカ人と住んでいる現実に引き戻された。乾燥した地方だから良いものの、袋も開けっ放し。「もぅ~~っ!」と言いながら片付けたが、夫はケロリとして、「もうお腹いっぱいだから、昼飯ぬきだ!」と、まるで握り飯でも食べた態度でのたまったのだ。「食べものだろう?ライス・クラッカーだろう?」

 彼にしてみれば、私がお茶碗を手にとって眺めたり、折角の熱湯をさましてから急須にそそいだりするのは不思議なわけで、その国に住んでみないと分からない文化の違いなのだろう。結局、いただいたお煎餅などは、ありがたがりながら、いただく私の口に数枚はいっただけで8袋ぜんぶ数日中になくなってしまった。これだから、『野蛮人』には山積みになってるスーパーの、大安売りのお煎餅で充分なのである。











お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2022.11.05 11:47:50
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

Hirokochan

Hirokochan

お気に入りブログ

ピンク・スタッカー… New! 宮じいさんさん

ヒメウラナミジャノ… New! いねねさん

美味しい夕張メロン… New! 松島タツオの楽しい家庭料理 札幌在住さん

ジャングル・ナイト… ナイトサファリさん
Cota Lina~こたりな… shachieさん

コメント新着

aiannse @ Re:光陰矢の如し(03/04) こちらにも 足跡を。 20年前にオース…
aiannse @ Re:一寸先は闇(06/05) 以前 こちらでメッセージをやりとりさせ…
Hirokochan @ Re[1]:光陰矢の如し(03/04) 銀線名人ぬかしんぼさんへ よく覚えてま…
銀線名人ぬかしんぼ @ Re:光陰矢の如し(03/04) まさに光陰矢の如しですね。 私も73に…
Hirokochan @ Re[1]:Orange Network 1月号・かぞえうた(12/31) maki5417さんへ Maki さん 明けましてお…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: