壮年の森 放浪日記

2006年11月21日
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カテゴリ: 随想
 その夜、只野には一つの目論見があった。「京都の真ん中に泊まっているのに、サンボアに行かない手はない。」

 サンボアは老舗のバーである。もとは京都ではないが、その長い歴史の中で本舗となりつつある。只野としては、その老舗の雰囲気を味わってみたいと思っていた。

 ただし、只野がそのことを思いついたのは宿に着いてからである。宿のフロントに電話をすると、ボーイは時を待たずして、丁寧に旅雑誌のコピー、宿を中心とした地図にマーキングしたものの2種を持ってきた。

 こういう時の只野は、単独行動になる。自分の趣味を人に押しつけてはいけない。

 サンボアに入ると、そこはまさに古きよき「バー」であった。古い木造の調度品に並ぶ幾種もの瓶が、そのことを物語っている。

 マスターは職人である。こういうときは一言一言の間が絶妙になる。
 「一度来たいと思っていました。」…
 「それはありがとうございます。」…
 「山口瞳のファンで」…
 「よく来られましたよ」…

 つまみは南京豆である。皮はカウンター下に落とすことになっている。只野は皮まで食べた。

 「先生(山口瞳)は、ハイボールでしたよ」…
 「じゃ、同じものをください」…

 万事この調子で、只野はついつい飲んでしまうことになる。

 帰り道において只野は、来た道をどこで曲がってきたか思い出せなかったので、タクシーに乗って宿に戻ることになった。

 タクシーの料金が基本料金で済んだことは、なんとなく只野の記憶に残っていた。





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最終更新日  2006年11月21日 12時40分10秒
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