壮年の森 放浪日記

2007年02月09日
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カテゴリ: 随想
 その日只野は、午後2時半より休暇を取り、確定申告のため税務署へ向かっていた。

 春の陽気である。本来なら除雪で汗をかく2月であるが、陽気で汗をかいている。ふところだけは相変わらず寒いことになっている。

 ふところ…そう思ったときにふと、年末に作った通帳のキャッシュカードが届いていないことに只野は気づいた。

 ちょうどいいタイミングである。只野はまず銀行に行くことになった。

 窓口で問い合わせる。窓口係は「しばらくお待ち下さい」と言い、所長らしい人に報告する。

 「郵便局に問い合わせていますので、もうしばらくお待ち下さい」と所長らしき人に言われ、只野はしばらく待つことになった。

 銀行の午後3時は、窓口終了の時刻である。ソファで待つ只野を残したままシャッターが降り始める。

 「閉店間際の銀行に強盗が…」という事件をよく耳にすることがある。実際こういう状況で強盗が騒ぎ出すのかなどと、只野は妙なことを考えていた。

 そのうち、いよいよ只野は完全密閉された銀行の中に取り残されてしまった。「困ったことになった…」困る必要もないのだが、只野はなんとなくそう思った。「帰りはどこから出ればいいのだろう」などとも思っていた。

 それにしても、銀行員というのは大したものである。閉店後もすべての行員が次から次へと手を休めることなく動かしている。しかもすべての行動が素早い。なかなかこういう光景は見られるものではない。

 もっともそういう光景を見れば見るほど、只野はここにいることが場違いであるという思いを深くしていた。

 やがて時計の針は3時半になろうとしていた。強盗ならすでに逃げていると思われた。

 そう思った頃、ようやく所長らしき人が近づいてきた。

 「どうも郵便局でも配達したようなのですが。印鑑も丸い感じのものが押されていたということで…」

 只野は「これは真に困ったことになった」と思った。しかし出口については、所長らしき人が隅のドアを開けてくれた。この時点で只野の心配は一つ消えたことになる。

 結局キャッシュカードは、棚の上の見えないところに置いてあった。只野が酔っていたときに何気なく置いたと、只野は推測している。





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最終更新日  2007年02月09日 17時45分36秒
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