12 記憶を求めて




 ここは、濃霧の森の中。
グラードンの石像を前にして、3匹のポケモンが地面に転がっている。
彼らは、探検隊イジワルズ。
ここに至るまでの行動が、トレジャーギルドの親方・フォリスの逆鱗に触れ
必殺の一撃をくらったのが彼らだった。
「な……何が起こったんだ……」
サペントが、やっと聞き取れるほどの小さな声で言う。
「あのプクリン、何者なのよ……」
地面に伏しながら、ルビィがつぶやく。
「はっきり言って……すごすぎだぜ……」
リーダーのダークネスも、立つ気力すら残っていない。
「……ガクッ」
「……ガクッ」
「……ガクッ」
3匹は、その場で動かなくなった。

 そんな事件はつゆ知らず、レイ、ルナ、グレア、イオンの4匹は
大岩の根元に洞窟を発見していた。
「中がこんなに暑いなんて、聞いてねえよ……」
グレアが悪態をつく通り、この洞窟の内部は暖かい水が流れていた。
霧のかかった広い森という洞窟の外とは、不釣り合いな洞窟の内部である。
「この洞窟を上に登っていけばいいのよね?」
ドンメルを追い払いながら、ルナが言った。
「おそらくはそうだろう。しかし、どう進めばいいんだ?」
レイが周囲を見渡す。ちょうどその時だった。

グォォ……

どこからか、正体不明の音が聞こえてきた。
不思議に思って、あたりをきょろきょろする一行。すると。

グォォォォォ……

「な、なに、この音?」
ルナは不安の表情を浮かべている。
「ワカラナイ……」
イオン以外にも、音の正体はわからなかった。
一行は先に進むことにした。

 その途中でも、謎の音は何度か聞こえてきた。
しかも、回数を増すごとに音が大きくなっていった。

グオオオオオォォォォォ……

何回目かの、謎の音がした。
「これは、気のせいというわけにはいかねえな」
グレアが誰にともなく言った。
しかし、先ほどからレイは考え事をしている様子だった。
「みんな、話したいことがある」
考えた末、レイは仲間達にそう話しかけた。
そして語る。自分がここに来てから感じたことを。
湖にすむという伝説のポケモンの話を聞いて思ったことを。
レイの話が終わると、今度はルナが話す。
「もしかしたら、あり得るかもしれないわね」
「レイ、考え込んでも仕方ないぜ。先に進もう」
グレアが言った。イオンはいつもながら無言だが、その様子から肯定しているとわかる。
「そうだな、グレアの言う通りだ。行こうか」
一行は、洞窟を登っていく。

 さらに先に進んでいくうち、空が見えてきた。
強い日差しが差し込んでくる。
「なんだこの日差しは……?登ってきただけというには、強すぎるような」
レイが、思った通りを言った。
「それだけじゃない、なんだか妙な感じがするわ……」
ルナの表情が青ざめていた。
こういう時は、決まって何か起こる。レイはそう予感した。
「張りつめた感じというか……体中の皮膚が、逆立つような感じというか……」
その時!

グオオオオオオオォォォォーーーッ!!!

先ほどから聞こえていた正体不明の音が、その大きさを増して再び聞こえてきた。
「ひえっ!」
ルナはすくみあがってしまい、レイにしがみついた。
そして、一行は何かが近づいてくることを察知した。

グオオオオオオオォォォォーーーッ!!!

大音の主が、ようやくその姿を現した。
高さだけでレイ達の10倍ほどにもなる体格を持ち、
背中には赤く輝くウロコを持つポケモン。
「な、なんかどこかで見たことがある気がする!」
すると!

グオオオオオオオォォォォーーーッ!!!

再び咆哮が鳴り響いた。
「いかにも!我が名はグラードン!霧の湖の番人だ!」
一歩ごとに地面を響かせながら、グラードンは一行に接近する。
「侵入者は!生きては帰さんっ!!」
突拍子もない言葉だった。
しかも、次の瞬間には攻撃態勢に入っていた。
「覚悟っ!!」
その大きな口から、炎を吐きだす!
正面にいたルナが、水の力で抑え込もうとした。
しかし、相反する2つの力が衝突した瞬間
グラードンの炎だけが真っ直ぐに伸びていく!
「……!?」
大の文字に広がる炎を、ルナは回避しようとした。
しかし炎の勢いは強く、標的を逃がさない。
「あつっ……」
燃え広がる炎が、ルナの体を焦がす。
「グオオオオォォォッ!!!」
続いて、グラードンはその場でジャンプ!
地震がその周囲を襲う。
レイが距離を取り、10まんボルトを放つ。
閃光がグラードンに向けて伸び、あっさり命中する。
しかし、その攻撃はグラードンに全くダメージを与えられなかった。
「グオオオオオオオ!!!」
周囲の土を巻き上げ、泥として発射した。
泥の塊はレイに命中する。
「くっ……わかった、じめんタイプか」
「レイ、伏せて!」
真後ろにルナがいた。氷の塊を撃ち出す!
正面からグラードンの巨体を捉え、一瞬にして大きな氷像とした。
「やった……?」
ルナは、そう言いかけてやめた。
目の前にいるグラードンの氷が、一瞬にして融けたのだ!
「グオオオオオオオォォォォーーーッ!!!」
再び燃え盛る火炎を吐きだした。
一行は、四方に散って炎をかわす。
「一体どうなってるの!?水も氷も効かないなんて!」
「日差シダ!コノ日差シノ影響ダ」
イオンが指摘した。
強い日差しは、この地に今も降り注いでいる。
地響きを飛び上がってかわし、グレアが飛びかかる!
しかしその目の前を横切る爪の一撃によって弾かれる。
同時にイオンがラスターカノンを放つ!
が、グラードンはその命中した場所を右手でさするのみだった。
後ろに回り込みレイが切りつける!
攻撃は赤いウロコによって防がれた。
またしても巻き起こる地震が、一行の体力を削いでいく。
「くそっ、一体どうしたら……」
グレアが吐き捨てるように言った。
目の前の巨大なポケモンは、今度は泥を巻き上げ発射する!
近くにいたイオンが、マグネットボムで受け止めた。
その時、この攻防に目をつけたポケモンがいた。ルナだ。
「イオン、思いっきり力をためておいて!レイとグレアはグラードンの注意を引きつけて!」
仲間達にとっては意外なことだった。
ルナが自分からバトルの指揮をとることは珍しいことだからだ。
しかしそれでも、仲間達はルナを信じる。

銀色の光を集めるイオンの横で、ルナは泥を巻き上げる。どろかけの技だ。
もちろん、これでは距離が離れていて意味がない。
けれど、この泥を遠くに飛ばすことができれば。
さっきのグラードンの攻撃と、イオンのマグネットボムを参考にして。
「そこっ!」
タイミングを見計らい、巻き上げた泥を弾き飛ばす!
レイとグレアの陽動で、グラードンの反応が遅れた。
一直線に飛んだ泥は、グラードンの顔で弾けた。
傍目にも、視界を失っているのがわかる。
「ラスターカノン!!」
間髪入れず、イオンが銀色の光線を発射する!
狙いはグラードンの腹部。寸分の狂いなく命中した。
そして、レイとグレアが最大速度で接近する!
「これで!」
「終わりだ!!」
グレアは上からたたき、レイは左から切りつける。
十字の残像が残った。
「グガアアアアアアーーーーッ!!!」
またしても咆哮が響いた。だが、それで最後だった。
辺りはまぶしい光に包まれる。

 いつの間にか、グラードンの姿が消えていた。
代わりに、小さな黄色いポケモンが現れた。
目を閉じながら、空中を漂っている。
「あのグラードンは……私が作り出した幻です。
 そして、私こそが本当の番人、ユクシーです」
二重の意味で、一行は驚いた。
ユクシーが話を続ける。
「あなたがたは、ここに何を求めてきましたか?」
単刀直入だった。
その目は開いていないように見えるが、
レイは自分がユクシーに見つめられているように感じた。
「僕は記憶の手がかりを探しに来た。1つ聞きたい。
 ここに、レイという人間が来たことはないか」
単刀直入なのは両方だった。
「いいえ……ここに人間が来たことは1度もありません」
少々の間。再びレイが口を開く。
「そうか……僕は記憶をなくしてポケモンになったんだけど
 もしかしたらここに手がかりがあるのかと思って……」
その言葉に、ユクシーが答える。
「確かに私には記憶を消す能力があります。しかしそれは、この湖に来た記憶のみです。
 ですので、あなたが記憶をなくされ、ポケモンになってしまったのは
 また別の原因ではないでしょうか」
少し考えて、ユクシーが再び話しかける。
「私はここで、ある物を守っているのです。
 今から、あなた方を霧の湖へ案内しましょう」
一行は、ユクシーの後をついていった。

 すっかり、辺りは夜の闇に染まっていた。
洞窟を抜けた一行の眼前には、大きな湖が広がっている。
「ここが……霧の湖……」
「すごい……」
一行は、目の前に広がる絶景に見とれていた。
「バルビートやイルミーゼの光が、きれいに輝いてる……」
「トコロデ、アノ青緑ノ光ハ?」
イオンが質問を投げかける。
「あれこそが、私がここで守っている物――時の歯車です」
「!?」
ユクシーの答えに、4匹は驚く他なかった。

 レイは前に進み出て、時の歯車を見つめた。
――なんだろう、この感じは?すごくドキドキする……
どうしてだ……どうしてこんな……
「どうしたの?」
「うわっ……と!」
すぐ横にルナがいることに、レイは今になって気づいた。
「レイ、来てよかったよね。こんなにきれいな景色を見れて」
そう言いながら、ルナの目には湖が映る。
しかし、レイは湖を見ていない。
その目線はルナを捉えたまま、しばらくの間動かなかった。
「ん?なーに?」
気付かれた。
「いや、なんでもない」
レイは、目線をルナから外した。

 ちょうどその時だった。
「残念だなあ、さすがに時の歯車は持って帰れないよね。
 けど、いい景色だね♪」
現れたのはフォリスだった。
「この方は?」
「トレジャーギルドの親方だよ」
ユクシーの問いに、レイがすばやく答える。
「あれ?ロットは?他の連中は?」
グレアがそう聞いた、次の瞬間!

「ぎょええええーーーーーーーーーっ!!!?」

洞窟の方から、絶叫が聞こえてきた。
湖から戻ってみると、そこにはギルドの参謀であるノーテ、
そして……幻のグラードンがいた。
先ほどの絶叫の主であるノーテは、今にも目が飛び出しそうである。
そこに、ロットとギルドの仲間達が追いついてきた。
「きゃーーーーーー!!!」
「ですわーーー!!」
ミティとヒーリンが、同時に悲鳴を上げた。
しかしこんな状況でも、ヒーリンは口癖を忘れない。
「グ……グ……グ……グウウウ……」
その隣では、デシベルが言葉を喉の奥で詰まらせている。
「ヘイ!はっきり言えよ!グラードンってえ!!」
後ろからはギザの突っ込みが入った。
「やあみんな、どうしたの?」
おびえるポケモン達に、フォリスが声をかけた。
全く怖がっている様子はなく、むしろ楽しげな雰囲気を出している。
「お、お、親方様―!!」
ノーテは大量の汗をかいている。
「みんな、霧の湖はもうすぐだよ♪早く行こうー!」
ギルドのメンバー達は、グラードンを気にしつつ慎重に横を通っていった。

 その頃、霧の湖からは水が高く吹きあがっていた。
遅れてきたポケモン達も、この光景を目に焼き付けている。
「霧の湖のお宝って、これのことだったんだね♪」
フォリスが言った。
「あなた方の記憶は消さないでおきます。
 その代わり、ここのことは秘密にしていただけますか?」
そう言ったのはユクシー。
「もちろんだよ♪プクリンのギルドの名にかけて、絶対誰にも言わないと約束するよ。
 いいよね、ウィンズのみんな?」
「当然、OKだ」
満場一致。

 しばらくして。
「今回の遠征は、これにて終了だ。みんな、お疲れ様!」
ノーテの声が響く。
「そうだ、これもらってよ♪
 みんなと一緒に探検できて、ボクすごく楽しかったから♪」
そう言いながら、フォリスがレイの近くに歩いてくる。
そして、1個のスコープを渡した。
「これはピントレンズ。途中で拾ったものだよ♪」
「ありがとう、もらっておくよ」
レイは少し考えた後、ピントレンズをイオンに渡してみた。
しかし、スコープの形状のせいでうまく装着できなかった。
「ダメみたい……?」
「イヤ、改造スレバイイ」
受け取ったピントレンズは、イオンが使うこととなった。
「……コホン」
再び場の主導権がノーテに移る。
「さあみんな、ギルドへ帰るよーーー!!」
「おおーーーーーーっ!!」

 こうして、ウィンズとトレジャーギルドの遠征は終わった。
その真夜中のこと……

 赤く照らされる空間の中を、一筋の影が走り抜ける。
場所は、とある洞窟の奥。
熱く燃える溶岩が、陽炎となってその姿を映しだす。
「あったぞ!時の歯車が!!」
次の瞬間、周囲にある全てのものが止まった。
走り去る1つの影だけを除いて。

 運命の時は、着実に近づきつつある――




Mission12でした。遠征編はこれで終わりです。
今回は改造できる余地が少なく、話としてもあまり自信はありませんが。

さて、次回はどうなる……?

2008.05.26 wrote
2008.06.25 updated



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