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17 残された可能性
最初に目に入ったものは、鮮やかな緑の樹木だった。
――ここは……?
記憶をたどり、自分がどこにいるのか、そしてそれはなぜなのかを考えていく。
周囲を見回してみると、2匹のポケモン。ルナとカミルだ。
――そうだ。
そこまで考えて、レイは問いの答えを見つけ出す。
「ここは、もとの世界……?」
向こうを向いていた、ルナとカミルがレイの方を向く。
「ええ、帰ってこれたみたい。私達は」
「そのようだな」
帰って来た。暗黒の未来世界から。
レイは大きく深呼吸した。
そして、次に思い浮かぶ疑問は。
「で、ここはどこだ?」
レイが誰にともなく聞こうとしたが、カミルが先回りする。
そして、それを知っているのはルナ。
「私にはわかる、ここは小さな森よ。私とレイが初めて出会った場所」
なぜか、レイにもそんな気がしていた。
確信はできなかったので、言わなかったのだが。
「そうだったのか……。オレがタイムスリップで着いたのは東の森だったから、
かなり離れた場所に降りていたんだな」
カミルは、静かに言った。
「さて、これからどうする?」
レイが、誰にともなく言った。
「とりあえず、みんな心配してるよね……」
ルナがぽつりと言う。
――とりあえず、皆に会うか。
だが、ここでカミルが割り込む。
「だが待ってくれ。オレが行っても大丈夫なのか?」
「あっ……」
この世界では、お尋ね者としてカミルが指名手配されていた。
未来からやってきたスペクターがポケモン達の力を借りて、
カミルを捕らえることに成功したのだ。
それが意味することは。
「大丈夫じゃ……ないかも」
3匹は、考え込んだ。
そして、次に口を開くのもレイだった。
「しかし、ここは町に近い。どっちみちここにいては見つかるだろう」
「それなら、私達の基地はどう?仲間達がいるけど」
ルナの提案に、レイとカミルは反対する言葉を持たなかった。
「結局、それが一番か」
「お前らがそう言うなら、オレはその仲間達の信頼に賭けるぜ。
下手に騒がれないように、注意しなければな」
そうして、話はまとまった。
ウィンズの基地にたどり着いた頃には、すでに夕刻を迎えていた。
目の前に建つ建物が、レイとルナにはなつかしく思えてくる。
「さて、入ろうか」
カミルは建物の裏に隠れ、レイが入口をたたく。ルナはその後ろにいる。
あえて、名乗らずに。
入口の扉は向こうから開いた。
「!!!!」
レイの目の前で、入口を開けたポケモンは驚きのあまり固まった。イオンだった。
と、別のポケモンの気配がする。2匹分。
その2匹も、突然現れたポケモン達に硬直した。が、
「わあ!帰ってきた!!」
「まったく、心配かけやがって」
目にも留まらぬ速さでロットが突っ込んできて、ルナにくっつく。
押しのけられたレイは、さらにグレアに羽交い締めにされる。
「うわわ、わかったから離してくれ!」
「私達みんなに話さなきゃならないことが……」
2匹がそう言うと、仲間達はすんなり離れてくれた。
レイが、基地を出ていこうとしながら言う。
「客を1匹連れてきた。これから呼ぶけど……くれぐれも、驚くなよ」
そう強く念押しする。
ルナにはわかっていたが、グレア達3匹にはわからない。
レイが呼びに行った客の正体を。
ほどなくして、そのポケモンは現れた。
「な……」
「なんだって……」
念を押しておいたにも関わらず、仲間達は驚きを隠せなかった。
しかし、それも無理はなかった。
レイが呼んできた客は、他ならぬカミルだったのだ。
だがそれも予想の範囲内。声を上げられる前に押さえつけることができた。
レイがイオンを取り押さえ、
ルナがロットの、カミルがグレアの口をそれぞれふさいでいた。
「~~~~~~!!!」
「バカ、だからレイが驚くなと言ったんだろう!」
「お願いだから落ち着いて!最初からちゃんと説明するから!!」
基地の中で、レイ達は未来で見たことを話した。
スペクターの豹変、カミルの本当の目的、そして……星の危機。
話を聞いた3匹のポケモン達は、言葉を失うほかなかった。
「ハ、話ヲ整理スルト……」
聞いた話を、まとめていく。
「まず、カミルの時の歯車を集めるという行動は、星の停止を招くものではなく、むしろその逆だった」
「スペクターは、こっちの世界のポケモン達をだまして利用していた」
「そして未来に帰る時、スペクターがレイとルナを引きずりこんだ」
「けど、お前らはこの世界に戻ってきた」
「星の停止を防ぐために、カミルはこれから再び時の歯車を集める」
ロットとグレアが、交互に話の内容を思い返していく。
「……コンナトコロカ?」
レイは、1つ頷いた。
聞き役の3匹の表情からは、まだ驚きの色が消えない。
「それ、本当だとしたらすごいことだよ……」
「ああ。正直言って突拍子もないぜ」
「シカシ、考エテミレバ……アリエナイ話デハナイ」
イオンの言葉を受けて、グレアとロットも頭を働かせてみる。
「そういえば、なんでレイとルナは未来へ連れていかれたのかな?」
そのことはまだ話していなかった。レイが言う。
「カミルとスペクターの話では、僕はカミルの親友だったという」
「!!!?」
またしても、聞き役達が仰天した。
「……それについては、僕もまだ詳しくは知らないんだけど。
あの2匹が同じことを言っているとなれば、本当の話である可能性は高い」
レイが付け加えると、カミルが横槍を入れる。
「まあ、その話は後でな」
続いて、グレアが話す。
「だったら、ルナはどうして狙われたんだ?」
それは誰にもわからなかった。
ここで、先ほどまで話し手だったレイが質問をする。
「今度は僕が聞きたい。僕達がいなかった間、こっちの世界はどんな状況だった?」
その質問には、グレア、イオン、ロットが答えを返す。
「10日くらい経ったかな。確か、湖の3匹が時の歯車を戻し終わったのが4日前」
「だが、なんだか妙な噂が立ってやがるぜ」
「え?」
妙な噂、というところが引っ掛かった。
「なぜか、止まった時間が動かないままらしいよ」
「ソレドコロカ、時ガ止マル場所ガ増エテイルトイウ」
「それは本当か?」
イオンの言葉に反応したのは、カミルだった。イオンはその顔を縦に振った。
「みんなさすがにあわててた。何でそうなるのかわからないって」
「これはおかしいと思って、俺達で調査に行こうとしてたんだ。時の歯車のある場所を。
その矢先に、お前らが帰ってきたというわけだ」
答えは以上だった。
「どっちにしろ、これは調査に行くしかないな。
お前らの話が本当かどうかも、それではっきりする」
「あたしはレイ達を信じるよ。仲間だもんね」
グレアをロットがたしなめる。
しかしレイ達にとっては、ロットの心づかいがただうれしかった。
カミルが次の話題を切り出す。
「であれば、いずれにしろ時の歯車があるどこかに行かねばならんのか。オレも、お前らも」
そういうことになる。
「で、どこに行く?」
グレアが地図を広げる。
候補となる場所は――キザキの森、マグマの地底、霧の湖、地底の湖、水晶の湖――の5か所。
「距離的には、水晶の湖が近そうだ」
レイが、地図を見ながら言う。
だがカミルがその話に割り込んだ。
「キザキの森はどうだ?ここから北東だ。
少々遠いが、あそこにはアグノムのように、時の歯車を守るポケモンがいない」
カミルの話に、レイが納得したように返す。
「そうか、騒ぎが起きにくいってわけか」
「その通りだ」
彼らの目的地は、キザキの森に決定した。
続く話は、レイとカミルの関係。
これについては、ほぼカミルが1匹で話した。
「オレとレイは、星の停止について一緒に調査していたんだ」
いきなり、聞き役達に疑問が生じた。
「ポケモンと人間のペアで?」
「ああ。知っての通り、レイが持つ時空の叫びを使ってな。
だがこれには問題がある。信頼できるパートナーポケモンが一緒にいなければならないという」
またしても疑問が生じる。
「って、あれ?確かこっちでは、レイは私と出会ってすぐの頃から時空の叫びを発動していたような」
ルナの質問にも、カミルはすっきり答えた。
「何を言う。それだけお前らが初めから信頼し合っていたということじゃないか?」
ストレートな言葉だった。ルナの顔が赤くなった。
その傍ら、レイも黙りこくっていた。
――考えてみれば、最初からルナのことは好きだった、かも。
カミルが話に戻る。
「オレ達は時の歯車のある場所を、時空の叫びを使って未来から探し出した。
そして、シルビアに頼んで過去……この世界に送ってもらったのだが」
ここで、一度言葉を区切った。
「タイムスリップ中に事故があって、オレとレイは離ればなれになってしまった。
レイが記憶をなくしポケモンになったのは、その事故が原因じゃないかと思う」
確かではないが、と付け加えた。
レイの頭の中には、カミルから聞いた話が渦のように回っていた。
しかし、気づくとカミルが真っ直ぐこちらを向いている。
「レイ。今のお前は覚えてないかもしれないが……お前はオレの親友だったのだ。
離ればなれになり、とても心配したが、元気でよかった。
例え姿が変わり、記憶をなくしたとしても……親友なのは変わらない」
ひとつ息をおいて、カミルははっきりと言った。
「レイ。また会えてよかった」
レイには、返す言葉が見つからなかった。
一通りの話が終わった頃には、すっかり夜になっていた。
レイ達にしてみれば、未来での疲れも残っていたことではあるし
キザキの森に向かうのは、明日ということになった。
その夜明け。
基地2階の窓から、ふとカミルは外を見る。
ルナが出て行くのが、その視界に入った。
ルナは、基地の裏にいた。
「どうした?眠れないのか?」
突然、声がした。カミルだった。
実際その通りだった。目が冴えて眠れない。
「うん……。何となく考え事してたの。
レイは人間だったってことは本人から聞いたんだけど、
未来から来たっていう話……さっきの話で、改めて本当だったってこと。
そんなことを何となく考えてた……」
ルナは、言葉の出てくるままに話した。
そのうちに。
日差しが差し込んできた。
「朝日だ……」
「きれい……」
2匹の目に、朝日がまぶしく映った。
「ずっと暗い未来にいたからなのかな。
夜が明けることが、こんなにも新鮮だなんて思わなかったわ」
朝日を見つめながら、カミルが話す。
「オレは暗黒の未来しか知らなかったから、この世界で初めて太陽を見た時は衝撃を受けた。
そして、だからこそ……未来を変えなくてはならないと、強く思ったんだ」
ここで、カミルがルナの方に向き直る。
「ルナ、1つ聞きたい」
「ん?」
ルナも、顔をカミルに向ける。
「あの時、未来でディアルガ達に囲まれた時、なぜお前はあきらめなかった?
どうしてあそこまで、気持ちを強く持てたのだ?」
聞かれて、ルナは少し考える。
「どうしてかな……私にもわからないな、正直。
でも、もしかしたら……レイがいてくれたからかもしれない」
「レイが……?」
「うん」
ルナは、思い出を語り始める。
「今起きていることの前触れだったのかどうかはわからないけど、前はこの世界では自然災害が続いていたの。
私も探検隊になって、ポケモン達を助けたかった。けど、1匹では何もできなくて。
そんな時に、レイに出会った」
ルナのその澄んだ目が、輝いているようだった。
「レイと出会ってから、臆病だった私も少しずつ勇気が出せるようになってきた。
そして、今ならこう思えてくるの。
レイと一緒なら、どんなことだって乗り越えられるって」
その話に、カミルは少しだけ表情を緩めた。
「なるほど。何となくわかる気がする。レイには、そう思わせる何かがあるんだ」
カミルは、再びルナの顔を正面から見た。
「レイを大切に思う気持ちは、オレもお前も同じなんだな」
そして、カミルは基地の2階、レイがいる部屋に目線を向ける。
「幸せ者だな……レイは……」
話しているうちに、太陽は昇り始めていた。
空が明るい。
「もう朝だな」
「ええ。準備して出発しましょう!」
2匹は、基地へと戻っていった。
数時間後。
ウィンズの5匹にカミルを加えた6匹は、キザキの森を訪れていた。
だが、カミルの表情に疑いの色が見える。
「どうした?」
レイが問いかける。
「ああ。何だか、前に来た時と雰囲気が違うような……。まあ気のせいだろう」
カミルは森を見ながら言った。
レイも、ひとまずは考えないことにした。
その一方で、ルナはロットを見ている。
「さっきから気になってたんだけど、それは?」
ルナの目線は、ロットの身を包むものに注がれていた。
「あ、これ?はなびらのドレスだよ。この前もらったの」
そう言って、ロットは着ているドレスを見せるかのように1回転してみせる。
桜の花のようにピンク色をしていて、さらに動きを制限しないような作りに見える。
「すごくきれいな服ね。よく似合ってるわ」
「わーい、ありがとう!」
ルナの言葉に、ロットは飛び上がった。
話が一段落し。
一行はキザキの森の探索を始め――ようとした、が。
突然、イオンが待ったをかける。
「6匹集マッテ進ムト、必要以上ニ目立ッテシマワナイカ?」
いつもながら鋭い指摘だった。
「それもそうだ……な」
「よし、二手に分かれよう」
レイ、ルナ、カミルの3匹と、グレア、イオン、ロットの3匹に分かれることとなった。
レイ達は、緑豊かなキザキの森を進んでいく。
時折野生ポケモンが襲ってくる以外は、特に事件もない行程だった。
しばらく進んだ後、3匹は少しばかりの休憩を取っていた。
切株に座ったレイが、袋から木の実を取り出して食べる。
いつものように、フィラやマトマの強烈な辛みをものともしない。
「本当に……オレの知ってるレイなんだな」
激辛のマトマをおいしそうに食べるレイを見て、カミルがぽつりと言った。
「やっぱり人間のレイも、辛党だったの?」
「ああ」
ルナの質問に答えながら、カミルはレイからフィラを1個受け取る。
「お前もそうだったと思うが、オレも信じられなかった。
まさか、あの辛さが好きだというヤツがいるだなんて……それも人間が」
話しながら、カミルも木の実にかじりつく。
「かく言うオレも辛党の部類に入るかもしれないが、レイは並外れている」
「ルナも食べるか?」
カミルが質問に答え終わったところで、レイが割り込んだ。
「ううん、私はいいや」
ルナは辛党ではないようだ。
休憩を終えて、森の中を歩く。
さらにしばらくして。
「……あれ?」
なんと、別行動を取っていたグレア達と正面から出くわした。
「まさか正面からとはな」
とりあえず、どうするかを考える。
「どうする?また別行動するか?」
「いや、もう時の歯車があった場所は近い。このまま行くとしよう」
カミルがそう言った。
6匹は、再び先に進もうと――
「あーっ!?」
ルナが思わず声を上げる。
一瞬の後、他の5匹も異変に気づく。
いつの間にか、野生ポケモンの大群に囲まれていたのだ。
彼らが合流した場所は、ちょうどモンスターハウスだった。
「こんな時にかよ!」
「な、なんか強そう……」
「コウナッタ以上仕方ガナイ」
「蹴散らして突破するぞ!」
「OK!」
戦いが始まった。
襲いくる野生ポケモンは、フーディン、キルリア、チェリム、ビークインなど。その数は多い。
しかし一行は以前より確実に強く、さらに桁外れの実力を持つカミルがいる。
強力なポケモンの大群にも、押されることなく対抗することができる。
「まったく、多勢に無勢だな!」
グレアが、ふといホネをキュウコンに向けて振り下ろす。
確かに、数で不利なことには変わりない。
「エスパー技には注意しろよ!」
カミルもリーフブレードを振るい、フーディンを斬りつける。
レイやルナ、イオン、ロットもそれぞれ自分にできる戦術で、
目の前の野生ポケモン達と戦っていた。
だが、なぜか妙なプレッシャーを感じる。
「おかしい、やけに追い詰められている感じがする!」
数的不利な割には、そこまで厳しい戦いではないはずだが。
「ビークインのせいだ!いるだけでプレッシャーを与えてくる!」
カミルが素早く接近するが、ビークインはそれを見切る。
だが、それでよかった。ルナとイオンが攻撃の準備を終えているのだから。
「ココハ一気ニ決メル」
「イオン、同時に行くわよ!」
空中を飛ぶイオンが、ルナの頭上に陣取る。
そして!
「アイスコフィン!!」
ルナがれいとうビームを、イオンがラスターカノンを撃ち込む。
2本のビームが重なりビークインに直撃する!
着弾点が、まるで雪のような白銀色に輝く。
ものの数秒のうちに、女王蜂は凍りついて動かなくなった。
しかし、次の瞬間。
突然、戦いの空間がまぶしく輝く!
上空から強い日差しが差し込んできたのだ。
それに呼応するかのように、チェリム達が花を開く。
ロットの身を包む服と同じ、ピンク色の美しい花だった。
「気をつけて!花が開くとパワーアップするから!」
その台詞とほぼ同時に、ヘルガーの炎が迫る。
さらに、チェリム達が一斉に木の葉を飛ばしてきた。
ルナが防御に回るが防ぎきれず、ロットが巻き起こす真空波でなんとか炎をかき消した。
だがその時、小さな虫がカミルを取り囲む。
復活したビークインが、手下の小さな蜂を操って攻撃している。
「くっ!氷が解けてやがる!」
「こっちはどうだ!」
いつの間にか、レイがビークインの後ろをとっていた。
そして10まんボルトを放つ!
その一撃で、今度こそビークインを仕留めることができた。
手下達は四方八方に散ってゆく。
「一撃必殺、お見舞いするぜ!」
さらに、グレアがチェリムを相手につばめがえしを決める。
宣言通りの一撃必殺だった。
しかし。
「うおっ!?」
どこからか、緑に輝く木の葉が飛んできた。
避けようにも、まるで意志を持っているかのように標的を追いかける。
「とりゃっ!」
カミルが、両腕の刃で木の葉を切り裂く。
「助かったぜ」
グレアは大きく息をつく。
攻撃の主はチェリムではなく、エスパータイプのキルリアだった。
踊るような身のこなしで、次々とマジカルリーフを連発してくる。
だが、そんなキルリアに対抗心を持ったポケモンが1匹。ロットだ。
「あたしだって負けないよ!!」
言うが早いか、ロットはキルリアの目の前に現れる。瞬間移動のごとく。
キルリアは目を光らせる。おそらくエスパー系の技だろう。だがそれは無効に終わる。
それよりも早く、ロットの攻撃が決まっていたのだ。
さらにロットの攻撃が続く。華麗に舞うように、次々と攻撃が命中していく。
その度に桜の花びらが弾け飛ぶ。
まさに、見る者を圧倒する光景だった。
「決まった!」
桜の花の中、ロットはキルリアを完全にノックアウトした。
「よし!一気に攻める!!」
レイがそう叫んだ。それを合図に、他のメンバー達も激しい攻撃を仕掛けていく。
それからは、一方的だった。
一瞬のうちに、一行が勝利をものにする。
「……終ワッタカ」
イオンが、空中を漂いながら言った。
しかし、カミルの表情には再び疑問の色が浮かぶ。
「ロットとかいったな。チェリンボは進化しないとはなびらのまいを使えないはずだが?」
「うーん、それはあたしも確かなことは言えないけど……
このドレスを着てから使えるようになったから、多分それが理由なんじゃないかな」
ロットはそう答えると、またその場で回転してみせた。
色鮮やかなドレスが、風に浮き上がる。
辺りにもう野生ポケモンが残っていないことを確認して、一行は先に進む。
カミルが言った通り、森の最深部はすぐだった。
しかし、そのカミルは森に入ってからずっと違和感を感じているようだった。
そして……
「こ、これは!?」
彼以外のポケモン達にとっても、衝撃的な風景が目に入ってきた。
風も吹かず、雲も動かず、草木は動かない。
時が、止まっているのだ。
「い、一体……」
「どういうことだ?」
「確かにユクシー達は、時の歯車は元に戻したと言っていたのだが」
リレーのように言葉がつながっていく。
だが、次の瞬間。
一行は、さらにとんでもないものを目にする。
「!!?」
時の歯車が、確かに存在している。
「な、なんで時が止まってるの……?」
「これはもう、カミルの話が本当だったってことじゃない?」
青ざめた表情のまま、ルナとロットが言う。
それをよそに、カミルは時の歯車を取っている。
「お、おい!」
「どうせここの時は止まっているんだ。今さら時の歯車を取ったところで変わりはない」
ほとんどオウム返しのような速攻で切り返した。
「とにかく、ここは引き揚げよう」
レイが言った。
再び、ウィンズ基地。
6匹のポケモンが、キザキの森から戻っていた。
「キザキの森で見たあの光景、そしてグレア達が話したこっちの世界の現状……」
ウィンズのメンバー達は、カミルの台詞を待った。
「これが意味することは、ただ1つ……時限の塔が壊れ始めたのだ」
その言葉に、レイとルナは驚いた。
「そ、それってすごくマズくない!?」
「ああ。早く時の歯車を集めて、時限の塔に納めなければ」
それができなければどうなるか……今さら話すまでもないことだった。
カミルが話を続ける。
「時限の塔は、幻の大地という場所にある。
しかし、幻といわれている通り、どこにあるかオレにもわからない」
話を聞いた5匹のポケモン達は、言葉を失った。
彼らの前に立ちはだかる、大きな壁に。
「ここは手分けしよう。オレは時の歯車を集めるから、お前らは幻の大地を探してくれ」
カミルが提案し、話はまとまった。
5日後。
ウィンズのメンバー達は、幻の大地についての情報を集めていた。
しかし、成果はない。
ポケモン広場のポケモン達にも協力を求めているのだが、
それでも有力な情報が入る気配すらない。
全く先が見えない状態が、しばらく続いた。
そんな状況で迎えた、ある朝。
「今日は何をしてみる?」
レイが言ったが、返事は全く返ってこない。
誰もが、思いつかないのだ。今を打開する方法を。
そんな時のこと。
入口の方から音がした。
「あれ?客か?」
ルナが音のした方へ向かう。すると。
「あーっ!?」
驚きのあまり、ルナは大声を上げた。
それに反応して、他の4匹も入口に集まる。
彼らもまたびっくりしていた。意外な来客に。
「……カオス!?」
現れたのは、災いを予知する銀色のポケモンだった。
Mission17。未来から帰ってきて、その後の話。Chapter-16~17にあたります。
もう原作のエンディングまで遠くありません。終盤に入っています。
ロットがはなびらのドレスを装備。これで全員分の装備品が揃いました。
しかし、この装備品は原作と効果を変えています。
原作では「ほのお技のダメージを吸収する」。
装備品はバトルシーンを盛り上げる要素になるとともに、
外見的にも(擬人化を含め)アクセントになるという考えから導入。
最後に、カオスが登場。たまにはこんな区切り方もいいのでは、と。
彼が今になって再登場した理由は……?
2008.08.01 wrote
2008.09.05 updated
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