私は誰?!



 年が明けると、美容院は成人式に向けて忙しくなるのでしょうが、散髪屋は暇になるもので、僕はそれを狙っていたのです。そして、事件は1月中旬に起こりました。

 その日は先ず本屋に寄って、週間サッカーマガジンを買い、その足で散髪屋へと向かいました。その店は去年の春に出来たばかりで、夏に初めて行き、そして秋にも行きました。つまり、これが三回目です。自転車をとめて店内に入ると、思ったとおり3人の店員さん達は、暇そうにしていて、そこへ入っていって僕は、まるでVIPのように歓待されました。

 椅子に座り、店長さんが自らが、僕の散髪の準備をしながら話しかけてきました。

店長「今日はどうするの?」
ぼく「結構放りっぱなしやったから、サッパリしたいんすけど。」
店長「ほんまやね、随分伸びてるもんね。君よくうち来てくれてるよね?」
ぼく「(あ、覚えててくれたんや、と思いながら)はい、そうなんすよ」
店長「今日はいつもみたいな感じでええんかな?」
ぼく「あ、はい。お願いします。」

 覚えてくれていたんなら、説明する手間が省けて丁度よかった。僕はすっかり安心して、店長さんにお任せしました。そしてメガネもはずして(視力は0.03なので、メガネは必需品です)、メガネホルダーにしまって頂きました。

 ここで、このお店のことについてご説明しておきます。この店は、所謂『大衆理容』で、カットのみが900円、顔そりが+200円、そして洗髪も+200円という破格の値段。まぁ、洒落っ気の無いおっちゃんと子どもを相手にしている理容店です。そして、店長さんはなかなかファンキーなというか、なかなか気合の入ったルックスのお方で、お店の暇さも手伝ってか、見る度にこのルックスにも磨きがかかって、今では氣志團の綾小路のようになってしまわれています。暇なときはよく店の外にお出になって、道行く人々や車、自転車などにおメンチをお切りになられておられます。

 さて、待つこと15分、どうやら2ヶ月ぶりの散髪も終わったようです。衣服に付着した細かい毛をはたいて頂きながら、メガネを受け取り、お金をお支払いして、店を出ようとしたその時、窓の向こうに見慣れない人が歩いています。

「あれ?あんなとこに窓あったかな?」

と思い、窓の方を見ると、それは、窓ではなく鏡。ということは、あれは外の人ではなく、中にいる人。中にいるのは綾小路店長と、2人の店員さんと僕。

「え?!じゃあ、あれは!!」

 よく見ると、そこには頭髪以外見慣れた人物の姿が映っていました。紛うことなき、自分の姿…。こんな髪型だったことなんて、ただの一度もないのに…。

 団長、教えて下さい!あなたは勘違いしていたのですか?それとも、占い師のようにテキトーに話を合わせて、知ったかぶりをしていたのですか?

 僕の髪型は、翌日学校で心ある友人たちによって『知ったかカット』と命名されました。ちなみに、この『知ったかカット』の特徴は、スポーツ刈りでもなく、ぼっちゃん刈りでもなく、大変微妙な長さのカットであることを付け加えさせて頂きます。


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