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松井君とお父さん(総集編)
松井君とお父さん(総集編)
はい、それでは松井君についてです。
小学校5年生のとき、僕には松井君(もちろん仮名)
というお友達がいました。
当時から伏目がちな僕でしたから、
そんなにいっぱい友達がいるわけではありません。
数少ない大切な友達の一人でした。
松井君もどちらかというと僕と同じ伏目がちな少年でしたが、
トークのセンス、キレともに最高で、僕の中ではかなりの人気者でした。
もちろんクラスの中では僕も松井君も、
かなりの暗い影となってましたけどね。
クラスでの評価などどうでもよく、松井君は光り輝いていた。
エロの知識も松井君からだった。
彼はどうしたら子供が生まれるのかといった生命の神秘や、
エロ本が捨ててある場所に僕を連れてってくれたりもした。
そんな松井君だったが、僕を自分の家に呼ぶことはなかった。
大好きな松井君の家にいきたい。
しかし松井君は頑なにそれを拒否した。
その時はなぜそんなに拒否していたのか分からなかった。
だって僕と松井君は好きな女の子を言い合える仲だったし、
ちんちんも見せ合えるほどの仲だった。
でも・・・もしかしたらそのまま分からないままのほうがよかったのかもしれない。
だって、松井君の家であんなことがあったんだから・・・
つづく たぶん
頑なに僕の自宅訪問を拒む松井君、
そんな松井君があの夏の暑い日、突然僕を自宅に招待してくれました。
松井君は「ファミスタ買ったから」という理由を話したけど、
事実はそれだけではなかった。
松井君の家にはお昼を食べてからいきました。
松井君の家は古いアパートの二階でした。
別に驚きもしません。
そういう情報は松井君からあらかじめ聞いていたし、
僕の家だってかなりのぼろやだったから。
松井君は僕をこころよく受け入れてくれ、
冷たいジュースを僕に出してくれました。
狭いアパートでしたが、扇風機がくるくるとまわり、
その前で僕と松井君は、ファミスタに高じていました。
ふと松井君の家に家族がいないなあと思って聞いてみると
「今日はおとうさんもおかあさんもいないんだ」
といいました。
兄弟もおばあちゃんもいない松井君だから、
両親が不在となれば誰もいないはず。
僕は当たり前のように納得し、
おしっこをしたくなったのでトイレにいきました。
松井君は一人用でファミスタをやってました。
僕は松井君に教えてもらったトイレの場所に行きました。
ション便をしてトイレを出ると松井君の家の居間が見えました。
その居間の壁側には、ぼろく狭い松井君の家にはおよそ場違いな
きれーなガラスの棚の中に、これまたきれーな瓶がいっぱいありました。
なんか3段の棚に10本ぐらいずつずらっと並んでんの。
大きい瓶や小さい瓶、透明な瓶から壷みたいな瓶、
いくつかの瓶の中には、うちの家にもあるお酒があったので見覚えがあり、
そこから
「これは全部お酒だ!」
という結論にたどり着きました。
この大量の酒はなんだろうと思いながら松井君のところに行き、
気になったので松井君に
「お酒すごいいっぱいあるね」
といいました。
すると松井君
「見たの?」
とテレビ画面を見たまま言いました。
眠くなってきたのでしゅうーりょー
はいでは松井君の家の続きを書きたいと思います。
トイレの後に僕が見た松井君の家の酒棚。
今思えばバーカウンターのような酒の羅列。
「あのお酒なに?」
ときく僕と
「見たの?」ときく松井君。
静かなボロアパートの一室。
外では蝉がこれでもかと鳴き続けるが、蒸し暑い部屋の中では、
レトロな扇風機がくるくると回る音だけが響く、アンニュイな午後。
テレビ画面からはファミスタでフライを上げたときの効果音、
「ぷうううーぷうーうん」
という音がしていました。
そんな午後のひと時に、これから嵐が吹き荒れるとは・・・
その嵐は松井君の
「ねえ、たなかくんはお酒飲んだ事ある?」
という言葉から発生しました。
小学生だった僕はもちろんそんなおおそれた経験はなく
「ないよ」
と小学生らしく答えました。
すると松井君はすごく大人びた表情で
「あれうちのお父さんのお酒なんだ。ねえ今こっそり飲まない?」
と僕を誘ってきました。
僕はファミスタで負け続けていたため、
もう一度松井君と勝負したかったのですが、
お子様が飲んではいけないものを飲む、
というちょっとした刺激もいいかなと思い、軽い気持ちで
「いいよ、飲もうよ」
と答えました。(僕はもちろんお酒など飲んだことはありませんでした)
松井君は僕の同意が取れたのが嬉しかったのか、
笑顔できれいなガラスの棚から、一本のお酒を持ってきました。
なんか茶色い瓶で、周りに日本語じゃない文字(多分英語かフランス語)
がびっしり書いてあるものでした。
今思い返せばきっとワインだったのかな。
たぶん。
「これ結構いけるんだぜ」
と彼は言いました。
そしてワインの瓶を持つといきなりラッパ飲みを始めました。
ゴクンゴクンとおいしそうにワインを飲む松井君。
今思えば
「小学生がワインをラッパ飲み」
これは尋常な事ではなかいと思うんだけど、何せ僕も小学生、
その光景を見た僕は心の中で
「松井君すげーよ」
と感動していました。
「たなかくんも飲みなよ」
そういうと僕にワインの瓶を渡しました。
僕はあまりに松井君がおいしそうにワインを飲んでいたので、
きっとこの飲み物はものすごくうまいものなんだと思っていました。
松井君と同じようにラッパ飲み。
・・・・うまい
はずもなく
「ぐえー」
と飲んだ分だけ吐き出す僕。僕はすぐに台所に行き、
水で口をゆすぎました。
飲んだ瞬間ドクターペッパーを思い出しました。
まずい・・・まずすぎるよ、松井君・・・
口の中の不快感を消せないまま松井君のいる部屋に戻りました。
松井君はせっせと僕の吐き出したワインをティッシュで拭き取ってました。
「松井君、ごめんね」
僕はなんだか松井君の期待に応えられなかったような気がして、
ちょっぴリ申し訳ない気持ちでした。
すると松井君は
「いいよいいよ、僕も始めはまずかったからしょうがないよ
。でもがまんして飲んでるとうまくなってくるよ」
と真っ赤な顔で、潤んだ目で僕を見つめながら言いました。
僕は心の中で、いつかこれがおいしくなるのかなあなんて半信半疑だったけど、
松井君が言うならそうなんだろうと思っていました。
そんな時玄関のドアが
がちゃっと開き
「ただいまー」
の声。
まずい。松井君のお母さんだ。
僕はあせりました。
子供同士で子供が飲んじゃいけないお酒を飲んでいるのだ。
これは一大事だ、そう思って松井君を見ると、
松井君は特にあせるようでもなく落ち着いていました。
「松井君、どうしよう?」
僕はちょっと泣きそうになりながらききました。
すると松井君は
「別にどうもしなくていいよ」
とダンディーな答え。
僕は意味が分かりませんでしたが、
松井君はワインの瓶を持ったまま居間の方に消えていきました。
今日はここまでっていうか、主役がなかなか出てこない話になってしまった 。
前回までのあらすじ
やばい、松井君のお母さんが帰ってきた。
「どうしよう」
慌てふためき混乱する僕。
「どうもしなくていいよ」
となんとも頼もしい松井君。
彼はワインを持って母のいる居間に消えていった・・・。
怒られる。僕はそう思っていた。
だって松井君の顔は真っ赤だ。
どう考えてもアルコール顔だ。
小学生の僕が分かるんだ。
大人の松井君のお母さんが分からないはずがない。
そんな子供がワインの瓶を持っている。
もうこれ異常ない証拠だ。
コナン君の前で血のついた包丁を持って、
死体の前で呆然としているぐらいに証拠が挙がっている。
怒鳴られるに違いない。
僕はそう思った。
「あっ、ただいま、なーに、
またお父さんのお酒の瓶持ち出して遊んでたの?
お父さんに見つかったら怒られるわよ」
やさしい口調でした。
はあっ!?
お酒の瓶で遊んでる?
なんだそれ?
「でもお父さん帰って来るのは夜でしょう」
松井君は落ち着いています。
「うんそうだけどねえ・・でも瓶で遊ぶのはいいけど、
お酒飲んじゃだめだよ」
いやいや、あなたの子供は飲んでますよ。
「わかってるよお、お酒なんて飲まないよお」
ものすごく甘えた口調です。
さっきまでワインをラッパ飲みしていた子供とは思えません。
「今日はたなかくん来てるんだ」
松井君が言うと、松井君のお母さんが部屋に入ってきました。
「こんにちわ、たなかくん、いつもこのこと遊んでくれてありがとねー」
初めて見る松井君のお母さんでしたが、
とても細くて、白くて、優しそうなお母さんでした。
それにしても何で気づかないのだろう。
お母さんの後ろにいる松井君の顔はまだ真っ赤だ。おかしい。
優しそうな松井君のお母さん、
お母さんは僕たちにおやつを用意してあげるといって部屋を出て行った。
「ね、大丈夫だったでしょう」
松井君はニヤリと笑いました。
その顔はまさに悪の顔でした。
松井君に詳しく話を聞くと、松井君はもっと子供の頃から、
お酒の瓶をコロコロところがし、酒瓶で遊んでいたというで、
別にワインの瓶を持っていてもなんら怪しまれなかったこと。
また顔面の紅潮は、暑さのせいだと説明して
納得させたことを僕に告げました。
もう僕にとってはコナン君もびっくりな大逆転です。
僕はそんな悪の松井君をとても頼もしく思うとともに、
松井君すげーよ
と尊敬のまなざしで見ていました。
それからしばらくは、松井君のお母さんが持ってきてくれた
雪見だいふくを食べながら、二人でファミスタをやり続けました。
それはそれは、楽しい時間でした。
そんなこんなで17時近くになったので、
そろそろ家に帰ろうと思っていた、そんなときです。
「ただいま」
誰かが帰ってきました。そうです。
松井君のお父さんです。
ところがなんだか様子が変です。
帰ってくるなり松井君のお父さんとお母さんが口論しています。
尋常ではない雰囲気でしたが、
僕たちはそのままファミスタを続けました。
この時松井君はただじっと、そんな事は聞こえないとばかりに、
画面を見入ってました。
松井君はジャイアンツだったため、
「くわわがんばれよ、打たれんなよ」
とぶつぶつ言ってました。
さて松井君の話 前回までのあらすじ
松井君のお父さんが帰ってきたが、お母さんとなにやら口論。
でも松井君はまったく聞こえないフリ、
「なんか喧嘩みたいだね」
僕がそういうと、松井君は
「いつもあんな感じだから別になんでもないよ」
と特に顔色を変えるでもなく言いました。
しばらくするといきなり松井君のお父さんが僕たちのいる部屋にきました。
もちろん僕と松井君のお父さんは初対面でした。
しかし松井君のお父さんにとってそんな事はたいしたことではありません。
「オーたなかくん、元気か?がんばってるか?」
赤ら顔でした。
えー、それもかなりの。
「おとうさん、今日仕事は!?」
松井君が言いました。
松井君の顔を見ると、なんだか泣きそうです。
「あんなとこで働けねえんだよ、俺はよお、職人なんだからよ」
松井君のお父さんが言うと、
「お父さん今日からちゃんと働くって言ってたじゃん、うそつきー」
と松井君が涙を流しながら絶叫しました。
するとそこに松井君のお母さんが割って入ってきて、
「もうお金がないのに・・・これからどうすればいいのよー、
ちゃんと働きなさいよー」
と言いました。
さっきの優しそうな松井君のお母さんではなく、
かなり切羽詰った感じの状態になっていました。
すると松井君のお父さんは
「うるせぇ」
と言って松井君のお母さんを殴りました。
松井君のお母さんは、後ろに吹っ飛びました。
そしてほほを押さえたまま、あーと泣き始めました。
僕は目の前で繰り広げられた非日常的な光景になんだか頭がしびれてしまい、
なんだかボーとしてしまいました。
はっと我に返って松井君を見ると、
松井君の顔はもう涙でぐちゃぐちゃでした。
松井君のお父さんはそんな松井君には目もくれず、
「なんかどっかで酒のにおいがするなあ」
と言いました。
おいおい酒臭いのはどっかじゃなくて自分じゃねえのかと思いましたが、
違いました。
松井君のお父さんはゴミ箱に行くと、
中をごそごそをあさり始めました。
ゴミ箱の中、そうです。
その中には僕が吐き出したワインを拭いた、
ティッシュが入っていたんです。
それを松井君のお父さんは、トリュフを探す豚のように探し当てたのです。
さすが酒飲みは鼻が違うねえ、
なんて関心している場合ではありません。
だって松井君ののお父さんが
「お前あれほど言ったのに俺の大事な酒を無駄にしたなぁぁ」
般若のような顔で松井君に迫ってきました。
松井君はもうぐちゃぐちゃな顔で
「無駄にしたんじゃないよ、飲んだだけだよ」
と反論しました。
ま、松井君!?
そんなこと言ったらさらに油を注ぐのでは・・・
しかし松井君のお父さんにとってそんな油はもう不要でした。
だってもうガソリンが爆発している状態でしたから。
「そんなのはどっちでもいいんだよぉぉ」
松井君のお父さんは聞く耳を持ちません。
自分の息子の飲酒がわかっても、上記の言葉です。
すごいです。
そして次の瞬間、松井君はぶっ飛ばされました。
それを見た松井君のお母さんは、さらに声を上げて泣きました。
松井君はほほを押さえて立ち上がると、
「うぉぉぉ」
とそこにあったファミコンの本体をお父さんに投げつけました。
しかし松井君が渾身の力を込めて投げたファミコンの本体は、
お父さんの大きなふところにがっちりとキャッチされていましました。
すると松井君のお父さんは何を思ってのか、
そのキャッチしたファミコンをそのまま窓の外に投げ捨てました。
二階から投げられたファミコンは1秒ぐらいしてから
ガチャン!
と言う鈍い音がしました。
松井君はそれを見るなり、
「このくぞじじー」
と言ってお父さんにむかって行きました。
お父さんは油断したのか松井君のタックルを食らってしまい、
畳の上に倒れてしまいました。
そして松井君はそのままお父さんの上を通り過ぎ、隣の部屋に行きました。
数秒後
ガチャガチャ-ン ガチャーン
なんだかものすごい音がしました。
松井君は何かとんでもない事をしている。
そう思った僕はまたなんだかぽーっとしてきてしまい、
そうだ・・・帰ろう
と言う結論にたどり着き、かえることにしました。
なんだかこの辺のことはよく覚えていません。
ただ松井君ちのドアを閉める際に、松井君のお父さんの
「やめてくれー」
と言った絶叫は今でもよく覚えています。
帰り際に松井君の家の窓をみると、そこからはあの、きれいな色の酒瓶が、
夕日に映え、きれいにきらきらと光り輝きながら、何本も何本も、
どんどんと窓から落ちる光景が見えました。
そして次々と瓶の割れる、
がちゃーん
と言う音の連続音が周囲に響き渡り、それが今でも僕の頭の中で木霊します。
このお話はほぼノンフィクションです。
もちろん松井君は仮名ですけど。
今振りかって見ると、松井君が僕を家に呼びたくなかったのは、
きっと赤ら顔の父親がいたからでしょう。
そして僕を家に呼んでくれたのは、
そのお父さんが働き始めたから呼んでくれたのだと思います。
しかしお父さんは仕事の初日にそうそうと仕事をやめて赤ら顔。
それであの雰囲気になったのかなあなんて思います。
この後松井君は転校して行きました。
確か転校していくときに、
「これ新しい名前」
と僕に松井と言う名前ではない、違う名前を僕に教えてくれました。
「手紙書いてね」
松井君は僕にそう言ったけど、僕は一度も松井君に手紙をかかなっかた。
松井君からも、一度も手紙は来なかった。
僕が初めて松井君の家に行ったあの日、きっと松井君にとっての、
かなりの人生の時だったんだと思う。
けれどあの日は、僕にとっても間違いなく、
かなりの人生の時だったと思う。
だっていまだにお酒飲めないんですもの
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