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今回は私の好きな森雅裕さんの小説を紹介します。『いつまでも折にふれて/さらば六弦の天使』クリスタル細工のような瞳を持つボーカリスト錺泉深(かざり いずみ)のミステリアスな魅力で人気のロックバンド、HERGAは、TVや雑誌にも出ず、ライブもやらず、活動としてはレコード出すのみだが、一番売れている。ニューアルバムの録音中に作曲家が不慮の死を遂げる。折しもメンバーの一人が財閥の孫だという噂が飛び交って…。氏自身が参加していた実在のバンド名を使っているが、モデルのバンドは別にいる。今ではCMに出る事さえ普通になったニューミュージックやロックミュージシャン達が、TVや雑誌の露出を控え、それ故に神聖視されていた。そんな懐かしい80’s~90’sの雰囲気を思い出させる。主人公達の名前は刀剣譲りか。本作のヒロイン・泉深も「美人だねぇ。あれで性格がキツくなければね。」と言われてしまう森ヒロインの宿命を背負う。母娘関係は『さよならは2Bの鉛筆』の諏訪幽穂&暁穂に通じる所があるけれど、一緒に暮らしていた時間が長いだけ、幾分こちらの方がツンツン角つき合わせる度合いは低め。泉深の前に現れる探偵も、同じく『さよなら…』に登場する冴えない外見に反して鋭い頭脳、所謂能ある鷹は爪隠すパターンを踏襲。寂しいくせに、もっと言いたい事がある癖に、我慢するヒロインは、ひねくれ者だけど憎めない。不器用な人生を生きている事を重々承知していても、それ以外の生き方をあえて選ばない意地っ張りは、いつかどこかで見た誰かのような気がして、放っておけない。続編『さらば六弦の天使』にも吹子葵ら、恐らくモデルがいるだろうバンド名の女性達が登場。権力のある者におもねる者達や扇情的な記事を求めるマスコミに対する見方は、相変わらず厳しい。断定を避ける「かなー」を必ずつけるレポーターの登場には「いたいたそんなの」と苦笑を禁じ得ない。「魔夜峰央と森雅裕が同一人物だという噂は本当なのかな」と言わせたり、アニメ『パタリロ!シバイタロカ博士の恋愛講座』に見入らせたりとパタリロ登場率非常に高し。片手でらくらくカンタン操作。【シャープ】電子辞書 PW-AC10価格:9,980円(税込、送料別)
March 21, 2012
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辻村深月さんの小説『本日は大安なり』がNHKの夜ドラ枠で2012年1月に登場します!ジューンブライド、といって6月の花嫁は幸せになれる、とはよく言われています。本作は、4つのトラブルが同時に押し寄せる結婚式場を舞台に描かれる小説です。結婚しているのを言い出せないまま結婚式当日まできてしまった男。家族に「頼りない新郎」と揶揄されている男性の謎の言動に気づいてしまった新婦の甥。ある企みを新郎にしかけた新婦がいる一卵性双生児の片方の結婚式。何かとトラブルメーカ-の新婦がいる結婚式。この日だけは何も起こって欲しくないのが結婚式。でも、そんな日に限って何かが起こってしまうのも結婚式。そんな特別な一日は、ロバート・アルトマンの『ウェディング』、インド映画『モンスーン・ウェディング』など、結婚式をテーマにした映画で描かれています。結婚式は、複数のストーリーを同時進行させられるし、複数人物を違和感なく登場させられる格好のイベントですから、もちろん小説にももってこい。というわけで、自身も大安に結婚式を挙げた辻村さんが、実体験を元に(というのは嘘)著した作品です。 結婚しているのを言い出せないまま結婚式当日まできてしまった男。家族に「頼りない新郎」と揶揄されている男性の謎の言動に気づいてしまった新婦の甥。ある企みを胸に秘めた一卵性双生児の片方の結婚式。何かとトラブルメーカ-の新婦。彼等の結婚式が、大安吉日のほぼ同時刻に行われます。それぞれの当事者だけでは会場の全体像が見えないので、本作ではクレーマーの結婚式を担当する女性が登場。式場側の事情や人間関係を補足する一方で、それぞれのイベントの時間感覚「このイベントは、他家のトラブルがこうなっている時に起こったのか」などの、全体像を見るのに役立ちます。各章のトップもなかなか凝っていて、クスリと笑わせます。 辻村作品を読んでいる方には、嬉しいサプライズも用意されていますので、ぜひ最後までお読みください。読み終わった貴方は、「私もこんな結婚式をやりたい!」と思う…はず。【送料無料】本日は大安なり価格:1,680円(税込、送料別)
November 20, 2011
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みなさん、こんばんは。今日も辻村深月さんの作品を紹介します。5月に『オーダーメイド殺人クラブ』を上梓した辻村さんが8月に別冊文芸春秋で連載した『水底フェスタ』を8月に出版。忙しい一年ですね。水底フェスタ辻村深月文藝春秋 表紙に書かれているのは、青く深い湖を斜めに切り裂く赤。イヤフォーンが入っているので、“赤”のイメージは音楽だろう。普段は誰も近寄らないようなダム湖と、睦ツ代ロックフェスティバルというイベントでいっとき華やかになる、正反対の貌を持つ、小説の舞台・睦ツ代という村を象徴しているようだ。 そしてまた、主人公の高校生・広海の心象風景を投影した絵にも見える。村長の息子で絵に描いたような優等生の広海は、ダム湖の前で出会った村出身の芸能人・織場由貴美とロックフェスで出会ったことで、変わりなく続くと思われていた日常を、思いっきりかき回されてしまう。まるで、青い深い湖に、異質のものが投じられたかのように。 フェスの時は「びっくりするほどヘンな顔」としか思わなかった広海だが、次に彼女が泣いている姿を見た時の感想は、「織場由貴美は美しかった。この世のものとは思えないほど、現実感がなかった」と述べられている。彼女が変わったわけではない、彼が変わったのだ。そう、彼は生れて初めての恋に落ちたのだ。 映画や小説で何度でもモチーフに使われてきた少年と年上女性との恋。恋愛が主題であれば、障害にもめげずに愛を貫く姿がメインとなるが、あいにくこちらはミステリーと広海の成長がメイン。あっけなく二人は結ばれて胡散臭いことを言う由貴美に引きずられるうちに、広海が今までとは違った目で家族や村を見つめるようになる面に後半重点が置かれている。辻村作品には珍しい性描写が多く登場するが、男性読者からは、「女性作家だからここまで書けた」という評価もあるようだ。経験のない広海があっけなく陥落するので、由貴美のファム・ファタールぶりが存分に発揮できたとは言い難いが、やはり彼女は広海に、一生消えない傷を残してゆく。ラストはオープンエンディングで、読者それぞれが広海の未来に思いを馳せられる。ネットでの書評が好悪相半ばするものとなっているのは、辻村さん自身が吉川英治文学新人賞を受賞して思うところがあり、ファンの予想を裏切ろうとする兆しが、本書に垣間見られるのだろうか。【送料無料】水底フェスタ楽天ブックス新登場!「ラサーナ 美髪5日間お試しセット」価格:1,050円(税込、送料込)
October 7, 2011
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みなさん、こんばんは。今はあまりに沢山の賞が登場してどれがどれやらわからなくなってますが、昔ミステリー作家の登竜門に江戸川乱歩賞というのがありました。その賞の候補に何度かあがりながら受賞できず、ようやくこの作品で受賞した作家、森雅裕さんの作品を紹介します。モーツァルトは子守唄を歌わない森雅裕1781年、ウィーンで作曲家モーツァルトが死ぬ。1809年6月、作曲家ベートーヴェンは訪れた楽譜屋で、モーツァルトの娘と噂されるシレーネと出会う。彼女は、自分の父が作曲した子守唄を、モーツァルトの作品として出版した楽譜屋に、抗議しに来ていた。ところが楽譜屋が火事になり、死体だけがベートーベンが練習を行っている劇場に現れる。更に魔笛作家の行方不明など不審な出来事が連続して起こり、さしもの偏屈作曲家・ベートーヴェンも、「モーツァルトの死の謎」に関して、無関心を決め込むわけにはいかなくなるのだが。 ちょうど映画『アマデウス』の公開時期とかぶったために、候補に挙がった際に、「インスパイアされたのでは?」という意見もあったが、第31回江戸川乱歩賞を受賞。確かに、ある一点において共通要素はあるけれど、「そこだけで亜流だの何だの言われたら、作品は何も書けなくなってしまうぞ!」とちょっと憤慨。とまれ、この作品が世に出てくれた事にひたすら感謝。 森作品にはつきものの突っ張り美女と共に、愛すべき楽聖・ベートーヴェンが「面倒臭いことは嫌いなんだ。」といいつつも、ノセ上手のチェルニーにノセられて、正義感ともちまえの探究心で、事件の真相に迫ってゆく物語は、テンポが良く、文章に余計な技巧も凝らしてないので読みやすい。 ストレ−トに書けば、この設定ってボギ−&バコールのハードボイルド探偵物語なんだけど、「ああ言えばこう言う」のチェルニー&ベートーヴェン師弟会話で、その二枚目を微妙に崩して二枚目半になっている。作者の照れかなぁ。でも、崩したおかげで音楽室や教科書の中で、かしこまっている写真でしか知らないベートーヴェン、チェルニー、シューベルトが、ウィーンの街で、普段は本当にこんな風に喋ったり、怒ったりしてたのかもしれないなぁと思わせてしまう。(ま、さすがに殺人事件には遭遇してなかったろうけど)。そう思ったのは私だけではないらしく、「楽聖がこんな人だったとは」という手紙が多数来たらしい。それだけフィクションをノン・フィクションだと信じさせる人物造形ができていたって事だろう。 最初に読んだのは受賞後すぐ出た単行本だが、購入したのは1988年の文庫版。その理由は、文庫版の本文イラストとカバー装画が魔夜峰央さんだったから。皮肉屋の正義漢チェルニー&ベートーヴェンのキャラクターが魔夜さんの「パタリロ!」にそっくりだから、この組み合わせってまさに天の配剤。墓場にザクザク十字架を突きさしているコンスタンツェやすね毛がしっかり見えている女装姿のベートーヴェンは爆笑もの。【送料無料】モーツァルトは子守唄を歌わない楽天ブックス
September 24, 2011
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みなさん、こんばんは。不思議の国のアリスはご存知ですよね?アリスというタイトルのついた日本のミステリを紹介します。虹の家のアリス加納朋子「虹の家のアリス」「牢の家のアリス」「猫の家のアリス」「幻の家のアリス」 「鏡の家のアリス」「夢の家のアリス」 収録作全6編のタイトルに『家』がついている本作は、家庭がテーマ。 アリスの叔母の家を訪ねた仁木が、育児サークルの嫌がらせ事件を、 一マダムの話から犯人を推理する、文字通りの安楽椅子探偵物語である表題作。 赤ちゃん誘拐事件を、その事件性に鑑み、限定された現場検証と聞き込みを もとに推理力を働かせる「牢の家のアリス」。 アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」をモチーフにした法則性のある事件を 取り扱った「猫の家のアリス」は、講談社文庫創刊30周年記念の 「『ABC』殺人事件」に既に収録済みのもの。 加納さんは、特定のテーマを与えられ、それを既成シリーズに組み込んで ゆけるような、そういう事もできる作家になったのだなぁ。後半3作は仁木とアリスの家をめぐる物語が中心に。 本家アリスは、少なくとも本の中では永遠に同じでいられるが、 現実世界に生きている彼等は、繋がりを持つ家族に何かあれば、変わらずにいられない。 とはいえ、「紺屋の白袴」の諺のごとく、意外に近しい存在、家族と自分には 得意の推理力も鈍りがちになる仁木と亜梨沙。お互いの見えない部分を 指摘しあえる、とってもいい関係。他者の変化を受け入れ、自らも変わろうと する二人が、共に支えあう未来を予感させ、読後感も良い。 毎回本家本元のアリスと絡んだキャラを見つけるのはとっても楽しみでした【送料無料】虹の家のアリス楽天ブックス
August 19, 2011
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みなさん、こんばんは。さて、今日は直木賞候補作品を紹介します。オーダーメイド殺人クラブ辻村深月集英社 最近の自殺死亡率に関する高校生の論文をいくつか読んだ。おおかたは、「自殺を不況のせい」だと断じていながら、「死んだら周りの人たちがどんなに悲しむか考えて留まるべき」だと原則論に終始していた。望ましい解決策としては、「個人の自己責任論に帰することなく、失われてしまった共同体を再構築して、皆で支える」だったのだが、まだ高校生は、本当の厳しい社会に出会っていない。自殺を考えるに至る心情を思いやれないのは、ある程度やむを得ないのだ。 若者は大人の心情を推測できないが、一方で大人はかつての若者だったころの心情を覚えている。懐かしく思う部分もあるが、恥部のように見たくない過去もある。本作は、そんな過去を引きずり出されるような作品であった。 赤毛のアンにほれ込んでいる専業主婦の母と会社員の父と暮らしているヒロイン、杏の視点で描かれる。気の合う友達と連れ立っているアンと、特に親しい友人がいないクラスメートの徳川は、最初全く接点がなかったが、アンが徳川に「自分を殺してくれ」と依頼したことから、親しく話をするようになる。この物騒な申し出の行く末は?という主題が読者を牽引してゆくが、随所に登場するアンのモノローグが、中学生時代を思い出させて何ともイタ痒い。「あんなつまらない生き方はダメだ。私は、あんなことにはならない。しない」と母親を批判するが、だからといってどんな生き方をしたいか、という具体性はない。ただ、特別な存在でありたいという強い想いだけは持っている。「大人でもなく子供でもない」という言葉は、大人の側からすれば、若干の羨ましさをもって語られるが、当人にとっては少しも嬉しくない。むしろ早く「今」を出ていきたくてたまらない。不確かなものに囲まれているより、何か一つのことで、特別な存在になりたい。自己実現と苛立ちの間をゆききしていた杏は、やがて現実によって大人への門をくぐる。思春期を迎えるティーンが主要な読者層と思われるが、かつて思春期を過ごした大人世代も、また別の想いを抱いて読むことができる作品。【送料無料】オーダーメイド殺人クラブ楽天ブックス
July 15, 2011
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