NEW桃太郎 第一話

ももたろう

さるかに戦記外伝

NEW桃太郎




さく utty


このお話についての注意:まず最初に言っておくけど、このお話の時代観とか世界観とかはまったくいいかげんになっているので、時代や、実在の人物などについての疑問などは抱かないようにお願いしたい。まあ、一風変わったおとぎ話としてお楽しみいただければ幸いです。では、以上のことをふまえて、お話をどうぞ。



第一話 桃太郎登場の巻



 あるところに最低の夫婦がいました。

 二人の間に子供はなく、夫婦の仲が壊れるのも時間の問題だと思われました。

 今日も、夫は、山へしば刈りに行くと言って、パチンコや、雀荘に通っていました。妻のほうは、そんな夫に愛想をつかし、テレクラで知り合った別の若い男のところに入り浸ってました。

 そして、妻とその男の間には太郎という隠し子がいました。



桃太郎少年の母親の日記より-



 私はつくづく男運のない女です。父もそう、夫もそう、あの男もそう、息子までもが・・・私の周りにいる男は必ず私を不幸にするのです。そう思うと・・・やっぱりあの時・・・。



 父は酒を飲んで暴れるだけの男でした。私は、母の涙を見て育ちました。それなのに、惚れた男はギャンブル狂い。家に帰ってくるのは金がなくなった時だけ・・・いつからか私はテレクラで知り合った別の若い男の家に出入りするようになっていました。

 私と彼には十五の年の差がありました。そのため、最初の頃はちょっとした遊びのつもりでつきあい始めたんです。彼のほうもそんなつもりだったと思います。しかし、いつしか私は彼にハマっていったのです。気がつくと私にはそんな年の差なんて関係ありませんでした。彼は私にとてもやさしくしてくれて、もうあんな家に帰りたくなくなるほどでした。やがて、私と彼の間には子供ができました。彼は産むことには反対だったのですが、夫との間に子供はなく、私は嬉しさのあまり彼の反対を押し切ってその子を産んでしまったのです。今にしてみればバカなことをしたと思います。しかし、私には見えていなかった・・・私は忘れていた・・・楽しい日々の中に・・・彼が、ずっと、本気でつきあっていたのではなかったという現実を・・・

 ある日、いつものように彼の家を訪れると、そこには彼の姿はなく、代わりに一通の手紙と、生まれたばかりの太郎だけが残されていました。手紙は読まずに捨てました。内容はわかっていたので・・・それは、いつかこんな日が来ることに薄々気づいていたからかもしれません。そして、私は長い夢から覚めたんだと思い込むことにしました。

 太郎については捨てることも、殺すこともついにはできず、仕方なくあの家へ連れて帰りました。もちろん、夫には隠せる訳もなく、そのガキはどうしたんだ。と、妊娠中何度も見ていたはずなのにもかかわらず聞くので、川で流れてきた大きな桃を拾ったらこの子が出てきたと言うと、おそらく、私とあの人の間にできた子だということを察していたのか、じゃあその桃はどうした。と聞くので、この子が食べてしまいました。と答えると、そんな訳ないだろ。と、一応言ったものの、お前が拾ってきたモンだ、お前一人で育てるんだぞ。と言い残し、夫はまたパチンコに行ってしまいました。

 以来、私と、その子のどん底生活は始まったのです。

 子供の名前は太郎から桃太郎に変わりました。桃太郎の名はたまにしか帰ってこない夫がつけたものです。太郎の名はあの人がつけたものですから、皮肉と言えば皮肉なものですが、桃太郎と言う名を呼ぶことであの人のことを思い出さないだけよかったかもしれません。

 私はパートを始めました。稼いだ分は夫が次々とギャンブルにつぎ込んでしまうので、働けど、働けど、暮らしは楽にならず、桃太郎の面倒も見てやれず、よくこんなに大きく育ったものだと思いました。

 しかし、そんな子がまともに育つ訳はなく、体は大きいもののやることなすことめちゃくちゃで、近所の人からの苦情、警察からの呼び出しなんて日常茶飯事でした。

 そんなときよく思ったものです。あのとき、ひと思いに殺しておけばよかったと・・・



保護観察官の桃太郎少年に関する報告より-



「俺は桃太郎。剣(つるぎ)桃太郎。俺の欲しいものは金だ。愛なんていらねぇ、クソくらえだ」

 この少年の口癖はこうだった。

 剣桃太郎と言うのは偽名である。何となくかっこいいからと言って名乗っているという。

 父親への暴力、万引き、窃盗、器物破損など、補導歴、逮捕歴は数知れず。もちろんブラックリストの筆頭にあげられていた。



-中略-





 ただ、母親への暴力はなかった。問題を起こすことで迷惑をかけることはあったものの、直接母親に危害を加えることだけはなかった。精神分析医が言うには母親への愛情の裏返しではないだろうか、ということだった。だが、いずれにしてもこの少年については観察の継続が必要であると思われる。



 こうして、ゆがんだ性格を持った少年、桃太郎は生まれた。

 果たして、彼はこのあとどのように育ってゆくのだろうか。果たして、彼は何のために反抗をくり返すのであろうか。果たして、彼は鬼退治という、いいことを本当にやってくれるのであろうか・・・疑問と、不安を抱かせながらも、この物語は幕を開けるのであった。



つづく



次回、第二話  犬山ポチ登場の巻。 乞う御期待!


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