NEW桃太郎 第二話

ももたろう
第ニ話 犬山ポチ登場の巻



 皆さんも赤城山に眠っているという徳川家の財宝の話は聞いたことがあるでしょう。それは国家予算の何倍という凄まじいものですが、そんなに大きな額ではなくとも、世界には同じようなお宝伝説がどんなところにもあるものです。

 そんな伝説を信じ世界中を旅し続ける男がいました。その男の名は、トレジャーハンター、犬山ポチ。オス、7才、柴犬。

 今日、彼は新たなお宝を求め、日本のとある田舎の農村を訪れていた。

「ここか・・・予想通り、ひどい田舎だ。しかし、このにおいは確かにお宝のにおい。私の予想は間違っていなかったか」

 彼はそう言うと村じゅうを歩き回り、一軒のひなびた農家の前で立ち止まった。

「風水で行くと、おそらく、この家の周りのどこか・・・よし、しばらくこの家でやっかいになるか」

 その家に住んでいたのは貧しい老夫婦だった。ポチがしばらくやっかいになりたいと言うと、理由も聞かずに快く承知するほどの気の良さであった。その日、夕食を食べながらポチは、はなさかじいさんの話をした。気のいい老夫婦はそんな話は信じていない様だったが、ポチの話には熱心に耳を傾けていた。そこで、ポチはこの気のいい老夫婦を使ってお宝発掘できないものかと考えた。

「ところで、おじいさん、私の調査によれば、この辺りにお宝が眠っているようなんですが、聞いたことはありませんかねぇ」

「さあーのう。わしは、わしのおやじの代からここには住んでいるがのう、そんな話は聞いたことがないのう」

「手がかりはなしか・・・とすると、やっかいだなあ・・・そうだ、もしよければ、おじいさんたちに手を貸して欲しいんですが・・・」

 老夫婦は一瞬顔を見合わせたが、笑顔でこう答えた。

「ええ、いいですよ、私たちにできることなら」

「そうですか。ありがたい。では早速明日から・・・」

 翌日、ポチの起床とともに作業は始まった。

 作業といってもただ穴を掘るだけ。犬の指示で老夫婦は来る日も来る日も穴を掘り続けることとなった。

 三日目、穴の深さは5メートルに達していただろうか、もうハシゴなしでは昇り降りできないほどになっていた。

「うーん、どうやら、ここじゃないようだ。ほかを掘るか」

 とポチが言い出した。老夫婦は一瞬、嫌そうな顔をしたものの、ポチの指示どおり別の穴に取りかかった。

 そんなこんなで老夫婦はポチの指示どおりに既に三十七ケ所も穴を掘った頃、ついにおじいさんのほうがこう言った。

「旅のお方、もう我々はくたびれはてました。いいかげんあきらめましょう」

 見ると、老夫婦はポチが来た時より一回り小さく見える程やつれ果てていた。

「仕方ありません。もう潮時ですかね。ここが最後のポイントだったのですが・・・お二人はもう休んでいて下さい。あとは私が一人で納得いくまでやりますから」

 そういうとポチは、老夫婦と入れ代わりに穴の中に入り、掘り始めた。

 ところが、老夫婦がひと休みし始めたとき、穴の中のほうで声がした。

「あったぞ!出たぞ、出たぞ!」

 それはポチの歓喜の叫びだった。老夫婦が覗き込むと穴の底一面に金銀財宝がまばゆいばかりの光を放っていた。

「ほう、こりゃたまげた」

 おじいさんはため息まじりにそういった。実際のところ、老夫婦はお宝までもう数センチのところまで掘り進んでいたのだ。あと少し弱音を吐くのが遅かったら今頃は自分たちがあのお宝を発見していたのだろう。そう考えるとおじいさんは無意識のうちに入れ歯をギリギリと歯ぎしりしていた。

「わたしらは惜しいとこまでいっていたんですなぁ」

 そういうおばあさんのほうはプルプル震えていた。

「あららっ、お二人は休んでいていいんですよ」

 のぞきこむ二人に気づき、ポチがそう言った。しかし、その時一瞬だがポチは見逃さなかった。老夫婦が鬼のような形相をしてこちらをのぞき込んでいたことに・・・

「おお、そうでしたな・・・でも、お宝を運び出すくらい手伝ってもいいですよ。なあ、ばあさん」

「ええ、それくらいならお安いご用ですよ」

 ポチは、さっきと言ってることが違うじゃないか。と、思ったが、先程の二人の表情を思い出すと、その言葉は出てこなかった。

 そして、お宝は無事運び出された。最後なんかまだあるかも、と言いながらおばあさんはもっと深く掘ろうとしていたが、おじいさんに止められて止めていた。自分がいなくなったらきっとおじいさんも掘るのだろうとポチは思ったが、この充実感の前ではそんなセリフは言うほうが野暮ってモンだった。

 その晩はごちそうだった。腹一杯食ってポチは、この後どうするのだ。というおじいさんの問いにこう答える。

「鬼が島というところに、もっとすごいお宝があるらしいんです。それを探しに・・・」

 老夫婦は一応ずっといてもいいのだよと言ってはいたのだが、ポチはそれを丁重に断ると明日も早いのでと言って席を外した。

 翌朝二人が目を覚ましてみると、すでにポチの姿はなく、お宝はすべてあなた方のものです。大変お世話になりました。という書き置きだけが残されていた。

 それを見て老夫婦たちは、いい人だったのう。と、大層喜んだそうな。



つづく



次回、第三話  キジ村キジ次登場の巻。 果たして、桃太郎は出てくるのだろうか?


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