The Life Style in The New Millennium

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Master21

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2003.12.03
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トオルは、大変なカーマニアでした。
中学生の頃から、暇さえあれば鈴鹿サーキット
に行ってカートに乗ったりしていました。
F1のことなら何でも知っていました。
セナを異常なくらい尊敬していて、
ライバルのプロストのことを少しでも
評価することを言うと目つきが変わって
恐いくらい批判してくる、そんなヤツでした。
トオルは高校生くらいになると本気で
「レーサーになりたい」
と友達や両親に言うようになりました。
「乱視になるから、絶対に電車の中では本を読まない」
とか
「高速スピードに耐えるため、首を鍛える」
と言って首たて伏せを100回毎日必ずやっていました。
体重にも、非常に気をつかって、1日3回は
体重計に乗って記録に付けたり、ダイエットに
大変な関心を持っていました。
そんな彼ですから、高校3年生の夏休みには
普通自動車の免許を、そして、
高校卒してすぐにB級ライセンスを取っていました。
お父さんがJRの職員でしたので、推薦でJRに
就職が決まり操車場で構内係として働きながら
A級ライセンスを目指すとのことで
通勤にも休日にも本田のプレリュードを
颯爽と乗り回していました。
友人たちから見れば、もしレーサーになれなくても安心な
職場にいるし、うらやましいほど順調な彼でした。

そんなトオルですが、24歳くらいの時だった
と思います。魔が差したのかもしれません。
合コンで知り合った女性と深い仲になって
彼女が妊娠してしまったのです。その上、
彼女が高校生でしたので、少し問題がおきました。
「うちの娘、どうしてくれるんや」
彼女のお父さんが、トオルの家や会社に怒鳴り込んで来ました。
今まで、特に苦労なく生きてきたトオルは、
かなり追いつめられてしまいました。
信用のある職場に勤めているから
なおさら辛かったかもしれません。
当然、トオルには弁解の余地はなく、
彼女は在学中のまま、結婚し卒業式を
待たずに赤ちゃんを産みました。
こうなると、生活の重みが肩にズシッと
来たのか、ストレスから逃れるために
酒ばかり飲む日が続きました。体重も
58キロだったのが80キロになり、いつしか
レーサーになる夢のことなんか、どっかに置き忘れた
ただのオッさんになってしまいました。

30を過ぎて、数人の部下もいる主任になったトオルに
数年前、あるニュースが飛び込んできました。
「セナが死んだ!?」
F1の申し子とも呼ばれた名レーサーのセナが、
レース中の事故で亡くなったのです。
テレビのF1番組も見なくなっていたトオルが知ったのは
事務所で若い社員が読んでいたスポーツ新聞でした。
「おい、久しぶりに鈴鹿に来ないか・・・・・」
スポーツ新聞の元気な頃の笑顔のセナは、
そう呼びかけている、そんな気がしたトオルは
奥さんと小学生を連れて久しぶりに鈴鹿にやってきました。
この5年で車はスポーツタイプのプレリュードではなく
ファミリータイプのアコードに変わっていました。

妻子連れでも鈴鹿サーキットに来れば、
不思議とトオルの心は弾みました。
昔の彼と同じようにレーサーを目指す若者が
たくさんいるからです。
コースを見ればマシーン音が響くからです。
「今日のあなた、ちょっとステキよ」
「そうか?」
「私が好きになったのは、今日のアナタかもね。
時々来ましょうよ。コブ付きで良かったら・・・」
「言われなくて連れてくるよ・・・」
トオルは久しぶりに青春していました。






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Last updated  2015.08.29 11:00:29
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