The Life Style in The New Millennium

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Master21

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2004.01.13
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「ひさしぶりですね」
早苗と仁志夫婦がやっている食堂に
ひょっこり現れたのは、県会議員富田銀三さんでした。
選挙が終わって1ヶ月、晴れて当選を果たした
銀三さんにとって、仁志の作るカツ丼は
一生忘れられないモノになりました。

1ヶ月前の選挙は大変な激戦でした。
3人のうち2人が当選します。
落ちるのは一人だけ。
立候補した3人は、3人とも現職でした。
議員の世界でもリストラの嵐が吹き荒れ、
この町の選出の議員は3人から2人に減ったのでした。
「この選挙に勝ったら、引退する」
もう68歳の銀三さんにとっては
最後の選挙でした。
親の代から、ずっと守り通した地盤を
渡したくない。その一心で頑張りました。
カツ丼は縁起担ぎでした。
事務所のスタッフは10日間の
選挙期間中は、朝昼晩とかつ丼で通しました。
そのカツ丼が早苗と仁志の店のカツ丼だったのです。
「毎日、カツ丼ばっかりも大変だろうなあ」
と思いながら、早苗も仁志もせっせと出前しました。
結果は、惜しくも落選。
絶対に投票してくれると予想していた団体が
他の候補に投票していた為の敗北でした。
選挙が終わってからの銀三さんは、誰の目にも
明らかなほど老け込みました。
「兄弟で一番できの悪かった三男坊の俺が、
戦死した二人の兄貴の代わりにオヤジの
あとを継いで30年。ああ・・・
兄ちゃん怒るだろうなあ・・・
オヤジも悲しむだろうなあ・・・」
真面目なだけが取り柄の人で、
派手な活動ができない銀三さんでしたが、
町のために骨身を削った30年でした。
銀三さんの功績は町のことを考える人なら
皆知っていました。
「あんな立派な人が落ちるんなら、
やっぱり日本の政治もおわりだなあ」
仁志は早苗にしみじみ語ったものでした。

そんな割り切れないことも日にち薬で
忘れさられるものです。
早苗も仁志も、選挙のことをすっかり忘れてしまった
1ヶ月後の事でした。
トップ当選した人の買収工作が明らかとなり、
銀三さんの繰り上げ当選が決まりました。
内輪だけのささやかな万歳でした。
「これで、なんとか兄貴たちもオヤジも
勘弁してくれる」
銀三さんがホッと胸をなで下ろした瞬間でした。
その翌日でした銀三さんが、
早苗と仁志の店を一人で訪れたのは
閉店前で、酒を飲んでいる客の多い時間に
いつものスーツ姿ではなくて普段着で店に
入ってきたので、最初は分からなかった早苗が
「あれ、先生・・おめでとうございます」
と言うと銀三さんが
「カツ丼もらえますか」
とポツリと言いました。
「お待たせしました」
と仁志が作ったアツアツのカツ丼を
「はい、先生・・・カツ丼です」
早苗は銀三さんの前に置きました。
しかし、銀三さんはテーブルに置かれたカツ丼をただただ
眺めるばかりで、いっこうに手をつけようとしませんでした。
気になった早苗が「冷めますよ」と言いながら側によると
「このカツ丼が勝たせてくれたような気がしまして
・・・恐れ多くて食べられません」
銀三さんは、そう言いながら
テーブルの下で小さく手を合わせていました。






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Last updated  2015.08.29 10:34:14
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