The Life Style in The New Millennium

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Master21

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2005.10.24
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失恋記念日

「ああ、寝坊しちゃった」

真澄は、フルスピードで駅まで走った。

ゼーゼー胸が痛くなるほど、力走したかいあって、いつもの電車に何とか間に合った。

「ラッキー」

と思ったのも、束の間、ギューギュー詰めの電車の中で、真澄のすぐ横のオッ
サンは、シェーバー(電気ひげそり機)をカバンの中から取り出すと、ビーン
ビーンジャリジャりとやりだしたのである。

「家で剃ってこいよ、オッサン。今日はついてないな」

と真澄は思った。

やっとのことで、電車を降りると、真澄の肩を馴れ馴れしく叩く男アリ。

「よお、おはよう」

同じ会社のうだつの上がらないベテラン営業マンだ。真澄は、その手を払いのけ、

「気軽に触らないで」

「何、怒ってんの。でも、怒った顔も可愛いよ」

「誉めてるんだか…」

「誉めてるに決まってるじゃん」

いつものように、冗談を言い合っていると、前を歩いている家族連れに真澄は
目を止めた。大きなケースを押している様子を見ると海外にでも行くのだろう
か。

その家族連れの男性は、真澄が少しだけ付き合った人だった。とは言って
も、女友達の紹介でつきあい始めたのだが、一度も手を握ることもなく、すぐ
に別れた。

簡単に言えば、グッと来るものがなかったのだ。

彼は乗り気だったようで、

「11月11日のことは一生忘れないよ。今日は、俺の失恋記念日だな」

と言ってガッカリしていた。

彼と彼の妻らしき人の間には5才くらいの女の子が挟まれて歩いていた。

幸せそうな家族。

妙に気になる。

もしかしたら、あの女の場所は自分の場所だったかもしれない。

真澄は、彼を紹介してくれた女友達との会話を思い出した。

あれは、彼に交際を断った日の電話だった。

…真澄、彼と別れたんだって?…

「合わないみたいだし」

…そうね、彼もそう思ってたみたいよ…

「ウソ、ガッカリしてたわよ」

…彼、やさしいから。上手にふられたのよ。彼、来月、結婚するのよ…

「ええ!」

…彼の奥さんになる人も、私の友達なの。真澄ほど美人じゃないけど、家庭的
な子…

開いた口がふさがらない真澄だった。

真澄は学生時代からマドンナ的存在だったから、男をふるのには慣れていた。

プライドも持っているつもりだ。

そんな自分と付き合っていながら、他の女とも付き合うだなんて、
何が「俺の失恋記念日」だろうか。

今、思い出しても腑が煮えくりかえる真澄だった。

そんな因縁の家族を視界から見送った真澄の目に、駅の日付表示版が入った。

11月11日。

「結局、今日は私の失恋記念日なのね」

そう漏らした真澄に、

「おい、何の記念日だって?我が部のお局様よ」

と、さっきの営業マンが言った。









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Last updated  2015.08.23 07:23:16
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