Angel

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全て | 日々の日記 | 小説
September 5, 2009
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カテゴリ: 日々の日記
「椿ちゃん...。」

優兄様は、呆れていた。





 食事が終わって、暫くしてから、頭首の部屋を訪ねた。

「...失礼します。」

「座りなさい!」

言われたとおり、頭首の前に座った。

「...お話って、何でしょうか?」

「先日の見合いの件だが、君が滅茶苦茶にしたようだが、東条家は、諦める気はないだろ。ところで、君は今後、どうするつもりだ?」

「...私は、東条家に嫁ぐつもりはありません。母とも何らかの因縁にあるような話は伺いましたが、私は自分の意思を変えるつもりはありません。私は、辰之介様の傍にずっといたいです!たとえ、誰に反対されても、彼が望んでくれるなら、傍にいたい。」

この意思だけは変えたくなかった。私の頭の中で、辰之介様との思い出が、頭の中を駆け巡っていた。彼が私を呼ぶ声が響き渡り、涙を流していた。



 「...あっ、ごめんなさい...ただ、私をずっと想ってくれている彼が大事なんです!」

きっと許されない。だけど、私の全ては辰之介様だけだった。

「...私は、頭首としては、認めるわけにはいかない。反対したら、二人で駆け落ちでもするのかね?」

意地悪な質問

「そんなことをしても、ダメでしょう。」

そう言った。


私の解答に、ちょっと驚いた様子だった。

「それは、戦う前から逃げるのと同じです。辰之介様の叔父様からは、相応しくないと言われております。努力しても、まだ報われない。この報われないに未来があるのかと考えるだけで、逃げ出したかった。辰之介様は、いずれ、九条家の将来を背負って立つお方です。私が身を引くなら、今が引き際ですが、私は諦められないんです。辰之介様の叔父様に簡単に認めて貰えないなら、認めて貰えるまで努力します。」

「しかし、時間がないだろ。彼の父も私と同じ頃、跡目を継いだ。この年くらいに...彼も跡目を継ぐのはそう遠くない話だと思うが...」

「それでも、私は彼の傍にいます。彼が望んでくれるなら...」

暫く、沈黙は続いた。伯父様は何を仰いたいのか解らない。



 「...桃の若い頃にそっくりだ。司以外、要らないと言って、家を捨てた。」

「お母様にそっくり?似てないですよ!」

私の記憶の中の母の優しい記憶なんてなかった。

「あいつは、不器用だから...娘を手放すことで、君の幸せを掴ませようとした。今だって、私に手紙をよこした。君を絶対に東条家だけには、嫁がないで欲しいと...」

その言葉に目が丸くなるほど驚いた。



なんて返して良いか困っていると

「...旦那様。お茶をお持ちしました。」

「ありがとう。」

中に入って来て、伯母様はお茶を出してくれた。

「...あの、伯父様は母のことは、嫌っているわけでは...」

「ぷ...。」

伯母様は、トンチンカンな質問に、噴いていた。

「...ごめんなさい。和宏様は、表に出さないけど、桃様のことをとても可愛がっていらっしゃるわ。だけど、自由な司様に桃様を取られたのが、未だに納得いかないのよ!和秋様の様に表に感情をあまりお出しにならないだけで...」

「奈緒!下がりなさい!」

伯父様は、冷たい声で言うから、伯母様は少し悲しそうな顔をし、出て行った。

「...伯父様!今の言い方は少しキツいと思います。」

「君は、目上の人間に対する態度がなっていない。もう少し気を付けなさい。」

あからさまに、苛々しているのが、分かるので、退出を申し出た。しかし、話が終わっていないと、席に戻され掛けたが、それを振り切り、出て行った。





 廊下を出て、暫くすると誰かが泣いているのが、聞こえた。

もしや、この家にも幽霊がと思いつつ、音を立てないように、そっと近付くとそこにいたのは

「...伯母様?!大丈夫ですか?」



「...あっ、椿ちゃん!ごめんなさい!私たら、こんな所で、メソメソと...」

伯母様が泣いていた。廊下は、冷えるので、私の部屋に連れてきて、話すことにした。





 「...私、こうやって親と寝てみたかったんです!」

布団を2枚敷き、寝そべりながら話す。

「...そう。貴女のお母さん達は、結構照れ屋なのよ!...私にはね、もう一人娘がいるの、名前は、奈緒子。内緒だよ!奈緒子は、実家にいて、寂しい思いをさせているから逢いたくなっちゃうわ...」

私の知らない奈緒子ちゃんの話題で持ちきりになった。





 夜が明けて、フッと隣を見れば、伯母様の姿はなく、布団が畳まれ、その上に手紙があった。

「...伯母様?!」

手紙を読み、部屋を飛び出していた。






 「...あっ!お爺様!」

お爺様と逢い、伯母様の手紙と行方を眩ました話をした。

「...奈緒さんが...」

「私、伯母様を迎えに行きます!どうか許可を...」

私は、自分のせいじゃないかと思っていた。

「...その前に、周辺を捜索してからじゃ...」

お爺様は、屋敷の者達に、家の中、その周辺の捜索を命じた。




 「...伯父様!伯母様がいなくなっちゃった!どうしましょう?」




伯父様にも、知らせに行くのだが、彼の一言に耳を疑った。

「放っておきなさい!自分の意思で決めたのなら、仕方がないことだ!」

「伯父様...?!伯母様は...伯母様は、伯父様のことを...」

伯母様のことを考えると涙が止め止めなく溢れていた。

「くだらない。そんなことより、早く稽古の支度を......」

「パーン」

良い音がした。近くにいた者達の驚きの声がした。



「「椿(様)?!」」



「...伯父様の馬鹿!!伯母様は、昨日の夜、泣いてたんだから!...伯父様なんて......伯父様なんて、大嫌い!!」

皆、あんぐりとしながら、驚いていた。

「...椿?!お前何てことを...」

和久様は、恐れていた。伯父様は、叩かれた頬を押さえながら、何かを口にしようとした。しかし、それとは違う声がした。

「...椿。すぐに出掛ける支度をしなさい!」

「父上、何事ですか!!」

お爺様が私に告げ、伯父様が私より先に突っ込んだ。

「...和樹さん!私は許しませんよ!北条家に嫁いだ嫁が、自らの意思で家を空け、実家に戻るなんて、前代未聞です!そんな嫁、放って置けば良いじゃないですか?」

「ならん!いくら、咲さんでも、その決定権はない!椿、奈緒さんを迎えに行くぞ!」


「貴方はいつも、私に相談しないで、独断で...」

何だか不味い雰囲気になってきた。

「...伯母様は、実家に帰ったんですか?もしかして...奈緒子ちゃんに逢いに?」

その名を呟くと、和久様以外はどうして知っているんだと言う様に驚いていた。

「...伯父様。伯母様を迎えに行かないんですか?」

黙りこくってしまった。

「奈緒子ちゃんの名をどこで知ったんじゃ?」

お爺様の問いに、私は昨日の晩に聞いたと答えた。和久様は、誰だか気になる様子だが、答えずにいた。

「...行かないんですね!分かりました。伯父様の伯母様の想いなんて、その程度なんて...見損ないました。お爺様、行きましょう!」

私はそう促し、急いで身支度を整え、馬車に乗り込もうとしていた。




 「...お父様!私もご一緒しても宜しいでしょうか?」

そこに現れたのは和秋伯父様。

「...伯父様?!どうして、ここに?」

「お義姉さんに逢いに行くんでしょ?兄さんが行かないなら、代わりに行って、奪うだけだから。」

お茶目な感じで仰っているが、本気に聞こえるから怖い。

「馬鹿なことを言ってないで、乗るなら乗りなさい!」

お爺様は、軽く流し、馬車に乗るように促した。先行き不安。



 ー奈緒様視点




 まだ、雪が溶けない故郷に続く道。生まれ育ち、私を今も優しく包んでくれる故郷が恋しい。

私の大切な娘。貴女に逢いに行きます。



 「...お嬢さん!着きましたよ!ここで、宜しいですか?」

「あっ。はい。ありがとうございます。」

故郷への入り口に辿り着き、この地に再び足を下ろした。馬車は、再び、来た道を戻って行く。



 「あれ?なっちゃん?!なっちゃんじゃねぇか?」

呆然と立ち竦む彼女の前に、キッチリ、軍服を着こなす若い男がいた。

「哲兄様!哲兄様、ご無沙汰しております。」

「やっぱり、奈緒か!君がこんな所にいるはずないと思ったが、夢じゃないんだな。今、着いたところか?」

奈緒は頷いた。

「そうか。じゃあ、荷物、重かろ?持っちょっるよ!貸してみん?」

「哲兄様にそんなこと、させられないわ!」
だけど、哲は、そんなのお構いなしに荷物を運んでくれる。
そんな哲の優しさに、奈緒は心打たれていた。




 それから、数十分後、実家に辿り着いた。古いが立派なお屋敷。その玄関前で、一呼吸入れてから、一緒に屋敷に入った。

「...ただいま。」

「奈緒?!どうしたの?」

突然の帰郷に、母は驚いた。


「...ちょっとね。奈緒子は元気にしてる?」

「ええ...。遠かったでしょ。さぁ、中にお入り、哲ちゃんもご飯良かったら食べていってね。」

母は深くは聞かずに中に入れてくれた。



 皆、突然の帰郷に驚いた。だけど、温かく迎えてくれる。娘の奈緒子は特にそうだった。

「わあ!お母様だ!逢いたかったよ!」

「奈緒子!私もよ!」

ギュッと抱き締める。その度、娘が大きくなったことを実感する。

「...奈緒子。良かったね。奈緒。好きなだけ、居て良いんだからね。何だったら、ずっと、居ても構わないわよ!」

「お義姉さんたら!」

嬉しくて、ちょっぴり涙する。




 「...ご飯よ!奈緒、皆のご飯を装ってくれる?」

今夜の晩ご飯は、母が得意とする煮物や御婆様の漬け物などが並んだ。どれも絶品!




 食事が終わると哲兄様が帰るとのことで、お見送りに来た。

「...なっちゃん。何かあったんか?君が辛いなら、帰って来て良いんだよ!おじさんやおばさんもそう思ってるよ!なんだったら、僕の所においで。僕なら、奈緒子ちゃんも護るよ。」

両手を握られ、困った。

「ありがとう...。私は旦那様を裏切れない。哲兄様の言葉だけで十分よ!」

笑った。


彼は悲しそうに笑い、私を抱き締め、言った。

「...なっちゃんは、それで良いの?鳥籠の中の鳥の様な生活。息が詰まらない?君が傷付くのは見たくないんだ!なっちゃんが誰よりも大事だから...」

抱き締める力は強まり、どうして良いか判らない。

“耳に掛かる吐息、哲兄様じゃないみたいだ。嗚呼、旦那様じゃないのに、私...”

罪悪感が胸を締め付け、一筋の涙が零れ落ちる。

「...ごめん。怖がらせるつもりじゃなかったけど、怖がらせてしまったね。奈緒にいて欲しいのは、嘘じゃないよ...」

離れながら、額に唇を落とし、すぐに離れた。

「...ごめん。それじゃ、お休み。」

彼はそう言い残し、去った。突然のことで、頭の中が整理が付かない上に、腰が抜け、その場に暫く呆然としていた。

「...哲兄様。」

哲兄様の想いに戸惑いを隠せない。




 ー 回想 ー

私と哲兄様こと、篠山哲は、家が隣同士の幼馴染みで、兄の親友でもある。
彼は、士官学校を首席で卒業し、今は、軍の中佐である。仲間思いの優しい人だ。
 私と彼は、昔、家同士が将来を約束した仲だった。私もそう疑わずに信じてきた。私は、彼が初恋の相手で、彼以外に恋するとは予想もしなかった。





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Last updated  September 5, 2009 03:44:08 PM
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