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一平の読み声騒動

ハエ(オイカワ)
昨年涼平が釣ってきたもの。水槽に入れて飼っています

一平の読み声騒動


 一平が小学校2年生、浩平が幼稚園の年中組で5歳、涼平が2歳の時のことです。
 小学校になると学校から宿題が出されて、毎日妻からせかされながらやっていました。浩平はそれがいやで学校には行きたくないと言っておりました。
 学校の宿題の中に、「読み声」がありました。自分で読むところを決めて、親の前で読まなければなりません。

 我が家はともに仕事をしていますので、家事は手分けしてやっています。その日は夕食の後、ぼくが皿洗いの当番でした。ぼくが台所にいると、一平がやってきて「お父さん、ぼくはこんなお父さんがいてよかった。」と言うのです。そばにいた嫁さんに対しても同じ事を言っていました。「お父さんもそう言ってもらって嬉しいよ」と応えました。

 洗いものが終わると、待ち構えていた下の息子たちが一斉に飛びつき始めます。その最中でした、一平が「お父さん読み声するから聴いて」と言うのです。こちらはその余裕がありませんので、「後にしない」と言いました。すると「エー読まんでいいとじゃね」というので、少し強い調子で「もう読まんでもいい」と言ってしまいました。

 嫁さんは台所で朝ごはんの米を洗ったりしていました。しばらくすると、その横でシクシクなく声がするのです。彼女がわけを訊くと「お父さんが本を読まんでもいいち言うた」と泣いています。泣き声を聞いたら、こちらも『あんなに強く言わんでもよかった』と後悔しました。すると今まで一緒に遊んでいた浩平がワアワア声を上げて泣き始めました。そのわけを訊くと「お兄ちゃんが本を読んでくれん。兄ちゃんの本読みが聞きたい」と言うのです。

 涼平もおとなしくなってしまい、二人の鳴き声が部屋に響いていました。ぼくは素直に謝ることができませんでした。原因はこちらにあるのです。宿題ができないのですから。一平をなだめて何とか読ませるのに1時間ほどかかりました。

 ぼくが謝ったのは翌朝でした。布団のなかにいる彼に「昨日はごめんね。いつも人に優しくするようにと言うけれども、自分の子どもにはできていなかった」と言いました。すると元気に応えてくれました。

 この事件を自分なりに考えてみました。一平は弟たちばかり相手をしている父にかまって欲しい、という思いで言ったのだと思います。それが叶えられず悲しかったのでしょう。

 浩平の涙は意外でした。浩平はこれまで兄ちゃんの読み声を静かに聴くことはありません。いつもその間は涼平とふざけているのですから。浩平は、兄ちゃんの読み声が聴けなくて悲しかったのではなく、兄ちゃんが悲しむのがつらかったようなのです。それが本当の優しさかもしれません。「優しい」という字は悲しい人のそばに立つ、と書きます。




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