今が生死

今が生死

2020.07.08
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カテゴリ: 健康
富山県神通川流域の婦中町周辺の主として中高年婦人に多発した全身が痛くていてもたってもいられない奇病、業病の原因を突き止めた荻野昇医師の根性、苦闘には頭が下がる。
荻野は終戦直後戦地から帰ってきて地元の荻野病院の跡を継いだが、全身が痛がる患者が多数受診し、しかもその痛がり様が尋常ではなく、何とかして原因を突き止めて治してやろうと思った。細菌やウイルスが原因なのかを調べたりリュウマチ関連の病気なのか色々しらべたが、ななかか原因は分からなった。神通川の流域だけに病人がいるのでその川の水が原因かも知れないと思い水を調べてみたが今まで有害として分かっている成分は検出されなかったし特別な細菌や寄生虫も見つからなかった。上流に亜鉛を採掘精製する神岡鉱業があるのでそこからの廃液中の成分の可能性も考えたが調べる方法はなかった。その時岡山大学の小林純教授が興味を持ち水を調べてくれることになり、一般成分の他にカドミウムが多数含まれていることが分かった。そこでイタイイタイ病は神岡鉱業の廃液に含まれているカドミウムが原因の可能性があると小林教授と連名で学会で発表した。大きな反響はあったが著明な学者からは動物実験がなされていないとかカドミウムの作用機序が不明確などと批判され、神岡鉱業に恩恵を受けている人たちや富山県および地元の人達から冷たい目で見られ、富山県では研究班を作って原因は鉱業廃液ではないという結論を出すように研究がすすめられた。地元の人達までもが荻野のその考えに反対し非難するのには応えた。失望して落胆しお酒に溺れて精気のない生活をしていた。その頃奥さんが病気で亡くなった。「神岡鉱業を犯人にして地元の人を不幸にするような研究ばかりしていて奥さんを顧みなかった罰だ」などと陰口をたたかれるのが一番つらかった。実際自分も原因追及のために一生懸命になりすぎて妻に対する配慮が欠けていたのだと思い自責の念に駆られた。しかしここで失望落胆し誹謗中傷に負けて中座してしまったら何にもならない。公害を明らかにすることが妻に報いる唯一の道だと決意しそれ以来酒は一滴も飲まないことに決め研究を再開する決意をした。その頃学会で発表したデーターがアメリカで認められ研究助成金1000万円頂けることになった。日本の学会では非難され相手にされていなかったのでアメリカの援助はうれしかった。助成金で動物実験室を再度建て直して動物実験を繰り返した。慢性疾患は動物実験しても何年か経過をみなければ結果が出ないので苦労したが小林教授のお力添えなどで、遂にカドミウムが病変を起こすことを突き止めた。そして何と言っても国会議員の力が大きかった。参議院議員矢追秀彦が或る時荻野病院を訪ねてきてあまりに痛がる患者さんの様子に胸を打たれ、このままうやむやにはしないと決意して東京に帰った。矢追の口添えで患者3人が園田厚生大臣に面会し園田大臣も国会で取り上げると約束し、昭和43年5月8日我が国最初の公害認定となった。その後神岡鉱業側が控訴して裁判になり、相手はバックに三井財閥がついている強敵だが、以前非難中傷した住民達が味方になり手弁当で裁判を戦い、住民側が勝利し、患者に補償金を支払って貰い汚染土交換工事も行って貰うことになった。荻野昇は鼻から天下の大財閥三井財閥を敵として戦うつもりは毛頭なかった。痛みで苦しんでいる患者を救いたい一念であり、二度とこのような苦しみの患者さんが生じないように願って活動してきた結果であり、この結果に満足したことと思う。亡くなった奥さんも報われたのではなかろうか。





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Last updated  2020.07.08 17:39:17
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