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初めて読んだ星新一の作品集なので思い出深いです.(新潮文庫版)「シンデレラ王妃の幸福な人生」王子様と結ばれ,お城に入ってからのヒロインの第二の人生.民衆の嫉妬,夫の浮気,息子の性癖と,つぎつぎとふりかかる苦労を払わにゃならぬシンデレラ.若さ, 純真さを失う一方で,女として年相応の責務を果たし,たくましく生きる.お城に来てからの人生,これでよかったのかしらと,ふいに疑念にかられた彼女を,魔法の鏡がやさしくさとす.女の人生と幸福をシニカルかつポヂチブに描いた素敵な寓話.言っておきますが,中高生が文化祭でよくやるパロディものとは訳が違いますよ. 軽いけど,深いんです.「ある夜の物語」クリスマスイブをひとりですごす寂しい青年のもとに現れたサンタクロース.藁しべ長者のような,O. ヘンリ「賢者の贈り物」のような物語.これも訳して海外に紹介したい作品.子供に読ませたい星新一ショートショート・ランキング暫定一位.うがちすぎかもしれませんが,星新一がサンタクロースに扮し,これまで作中に登場させてきたキャラクターの悲哀をねぎらってまわる,そういう話かもしれないと思いました.「ふしぎなネコ」陰謀をたくらむ秘密結社のアジトに紛れ込んだふしぎなネコ一匹.この子がするりと部屋に立ち寄っただけで,悪人たちが恐慌におちいり,世界は危機を脱した.場面一転,じつはこの噺,よくある「博士の発明シリーズ」であったことが明かされる.この仕掛け,めちゃくちゃよくできてます.星新一全作品中でも最高の出来じゃないですかね.しかもネコを使ったことで,とってもかわいい仕上がりになってます.すごい技巧を使ったのに,そうと感じさせないかわいさ.星さん,粋だねえ.(解説 新井素子)この人の文,あらためて上手いと感じました.かわいらしいし,笑えるし,節度もあって,大好きな文章です.好きな解説ナンバーワンですね.二位は都筑道夫,三位は筒井康隆.本来の意味での解説になってないんですが,他の解説も似たり寄ったりなので,かまわないでしょう.最初によんだ作品集がこれでした.この解説を読んで,ぼくも星新一の本あつめよう,と思ったのだろうか.(BGM: Hot Stuff/ Donna Summer; C.D.G./ Paris Match; Rain/ The Beatles; 御祭騒ぎ; 夢のあと/ 東京事変)**重松清「疾走」をついに立読みで最後まで読んでしまいました.登場人物がとても多く,主人公の少年は,じつに多くの人間に思いをはせ,他人の目を通して故郷や家族や自分や少女や自分を苦しめた人間を位置付けようとしていました.とても複雑な話で,暴力と金とセックスのどぎつい描写と,それに押しつぶされ振り回される少年の姿がそこにあるけれど,この物語は悲劇を描くことが目的なのではないことは確かです.少年は疲れきって,ときたま投げやりになっているように見えながら,虚無におちいっているように見えながら,結局最後まで彼は周りの人間たちについて考えることをやめなかった.どこかで切り捨てて,楽に生きる道や,安易に死ぬ道を選べたけれど,自分が戻るべきところに戻り,会うべき人に会い,けじめをつけることに意外とこだわった.この話は,みかけほど殺伐とした話じゃないように思えてきた.作者はちゃんと読者に届けるべきものに配慮していると思う.それについて考えてみたい,読みなおしたい,そう思わせるまっとうな作品だと思う.最後の章にはそういう品性が感じられた.この作品を平積みにして,おすすめのコメントつきカードをつけてくれた,札幌弘栄堂書店パセオ店の方に感謝します.目にとまったのは貴方のおかげです.でも,買うかどうかはお約束できません.やはりお金は貴重ですから,もすこし熟考します.
2005.02.08
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この週末のNHKスペシャルでは,土曜にナイジェリア,日曜にモザンビークについてのドキュメントが放映されました.英国で開催されたサミットでアフリカの貧困解消がとりあげられたため,その時宜を捉えたテーマだったのでしょう.私は子供の頃から世界地図を見るのが好きで,とくにアフリカの部分は面白かった.自分たちの世界と接点があまりにも少ないけど,その分想像力を羽ばたかせられたのだと思います.小学校低学年のころには,国名と首都名,各国の位置関係はほとんど覚えていました.今回のドキュメントで取材されたのは,石油利権にむらがるさまざまな勢力とか,内戦で傷つきながらも生活を立て直そうとしている人々の姿でした.アフリカと言うとどうしても深刻な話題に終始したり,政治や経済といった大局的な話題のアウトラインをなぞっているうちに時間切れになります.でもこの番組の面白かった所は,対立する立場の人々のインタビューが丁寧に行われている点でした.そうすると,どうしても様々なディーテールが目に入ります.その人の服装とか,インタビュー場所の屋内風景とか,喋り方,目の輝き.戸外であれば,その土地の風景,家族や家畜の姿.わたしはこういうディーテールがいちいち面白くてしかたないのです.ともすれば,そこで語られたり解説されたこと以上に多くの情報が,そこに映されていると思います.そこで生活している人々の誇りとか幸せとかは,彼らの衣食住のあれこれと関わっているはずです.そういう細かい所に興味を持ったり,疑問を持ったりしながら見ることは,政治や経済についてひとかどの意見を持つ以前に,とても重要なことだと思うのです.ナイジェリアでは,油田地帯に住みながらその経済的恩恵を受けられない住民と,前の軍事政権で横行した賄賂を撲滅するための改革に着手する現政権,そして欧米や日本による石油利権への介入,などが取材されていました.各勢力間の利害対立は複雑で予断を許さないものの,落としどころを探り合う段階まで来ているように見えました.ある長老は初めて白人が油田を発見したときの様子を,川のほとりで身振りを交えて話していました.ニジェール川の本流が無数の巨大な船で埋め尽くされたこと,欧米人に夢見るような語り口で説得されたものの,与えられた権利は微々たるもので失望させられたこと.ラストシーンでは,ニジェール川デルタ地帯の航空写真が映されました.それは蛇行する無数の川を示しており,その地形をつくった悠久の年月とともに,そこに住み着いた何十万の人々の人生と生活のあれこれが,そこにすべて収まってしまっているのかと思うと不思議な気持ちを覚えました.モザンビークの元少年兵は,俯いて草をむしりながら,東北の人みたいに抑揚のとぼしいイントネーションで,歌うように話していました.自分がどうやってさらわれ,訓練をさせられ,どうやって村を襲ったか.かつて少年兵として戦ったひとりの青年は,内戦が終わった後,たったひとりでその日暮らしをしており,ある日溺死体でみつかりました.別の青年は町で働いていましたが,給料が滞ったのを機に農村にもどりました.今は雇われて牛追いの仕事をし,その農場で生まれる子牛を一頭もらう権利をもらいました.その牛はすでに妊娠しており,来年頭には産まれるそうです.牛を増やしていけば,人に雇われずに,自分で土地を耕して収入を得る道がひらけます.いまの彼には妻と子供がいます.張り付いたような笑顔で内戦を語っていた彼の笑顔は,牛の話になると,柔らかい自然な笑顔になり,声のトーンも少し明るくなっていました.少年兵にさせられる前の幼いころ,彼の家は牛を飼って暮らしていたそうです.私の知っていたモザンビークは,その国の形と,呪文みたいな都市名がほぼすべてでした.でも今回の放映を見て,冷戦時代の世界情勢と,カメラに映されたディーテールがない交ぜになって,頭の隅に居場所を得たように感じます.それはたとえば,3人の青年たちの声と表情,肌の色,荒れ地に生える植物,牛の姿形,牛を追う男たちのかけ声と,町に溢れる明るい色の服装と,行商の荷物.フリー百科事典 Wikipedia:ナイジェリアモザンビーク
2005.07.24
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誠に勝手ながら,8月30日から9月12日まで更新を休ませていただきます。ちょっと出かけて参ります。打ち上げ花火(手ブレ)
2006.08.28
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【ウランバートル>小さな街>草原のゲル>ベースキャンプ】車2台に約10名(モンゴル,ドイツ,ロシア,日本)が乗り,ウランバートルから北へ250km,山岳地帯のベースキャンプへ向けて出発.あっというまに市街地をぬけて荒野となる.郊外の飯屋で肉うどん(うまかった)と塩味のミルクティーをいただき,料金所(検問?)を通ってしばらくすると,舗装道路がなくなる.何時間かして小さな街に着くと,何故かモンゴル人のおばあちゃんや子供たちが同乗し,車内の人口密度は極限に達す.市場で買出しし,1時間ほどダベり,給油を済ませたときドイツ人が言うには,「This is the last civilization」.電線がなくなり,くすんだ緑と茶色の丘と岩山がひたすらつづく,遊牧民の世界に移行していく.干し草を運ぶトラック(これはcivilization).牛と馬と羊とヤギ.ハヤブサとトビとハゲタカとワタリガラスとツル.植物はほとんど実っており,花はごくわずか. Urticaceae sp.さらに何時間かすると,観光ガイドで見るような遊牧民のゲルのそばに停車した.プロジェクト関係者の家族らしく,雑談しお茶やパンをいただく.犬の頭を撫でたりしつつ,しばし時間をつぶす.先はまだ長いみたい. 外には無数のバッタ.大きいやつが飛ぶと,後ろ翅の鮮やかな紅色が目に入る.見慣れぬ灌木を触っていたら突然手がひりひり痛み,イラクサ科であると判った.花の終ったノミノフスマのような植物に,金箔を貼ったような蝶の蛹と,青い小さなハムシをみた. unknown speciesゲルの近くで放し飼いの2頭のヤギが,岩塩の塊をべろべろ舐めていた.何百メートル先の丘の裾野に,もぞもぞと動く塊が見えたかと思うと,あっというまに羊の形をなして目の前に押し寄せ,埃をたててベエベエと波打つ. 出発直前一頭のヤギが足を縛られ,車内の人の足下に無造作に転がされた.数日後の僕らのごちそう.出発ドナドナ.前の車の後部ドアが空いて,誰かの荷物が道路に落ちた.拾った.発車した.日が暮れてきた.車が人生のように険しい坂道を上っていくにつれて草原は消え,森の中を縫う,くねくねガタゴトの隘路となり,かつて橋だったものにタイヤをとられたり,数度のおしっこタイムがあったり,疲労で全員無口になったあと,真夜中のベースキャンプに到着した.吐く息は白いけど,頭上には夏の大三角が見えた.たくさんの人とあわただしく挨拶をかわしながら,食堂で肉うどんをいただいた.一見ログハウスにみえる掘建て小屋の,外気より2度ほど温かい約3畳の板の間に,日本人3人が寝袋で転がった.カーペット・暖房・毛布なし,ろうそくあり.トイレ(薮)・風呂(川)はアウトドア.しかしやがてこの厚待遇を感謝するようになるのでありました.
2006.08.31
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