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■女性の平均寿命が90歳を超える? 「平成19年版 高齢社会白書」(内閣府)の「高齢化の現状」によると、2006年10月1日現在の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は20.08%と、国民の5人に1人が高齢者ですが、今後も高齢化率は上昇を続け、2055年には40.5%に達し、国民の2.5人に1人が65歳以上の高齢者となると推計されています。また、2005年では男性78.56年、女性85.52年の平均寿命は今後も延び続け、2055年にはなんと男性83.67年、女性90.34年になると見込まれ、「我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会となる」としています。 国民の40%が高齢者って、どのような社会なのでしょうか・・・。女性の平均寿命が90歳を超えるとなると、今後、セカンドライフのライフプランを考える際は100歳くらいまでを想定する必要がありそうです。個人的には65歳前後での引退は早すぎると思いますが、もし65歳で引退すると仮定すると、その後30年前後の時間をどう過ごすのか。マネープランだけでなく、生きがいや健康・介護を含めてトータルに考えることが必要だと思います。■介護の現状と準備について 介護についてのデータを見てみると、高齢者の要介護者数は急速に増加しており、介護保険制度における要介護者又は要支援者と認定された者のうち、65歳以上の者の数は、2005年度末で高齢者人口の16.6%(417.5万人)です。今後、長生きするほど介護が必要になる確率も高まり、さらに要介護者数は増加していくと予想されます。 一方で、核家族化が進み、65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割で、そのうち高齢者の単独世帯(22.0%)と夫婦のみの世帯(29.2%)で過半数を占め、その数は増加傾向が続いています。 最近、身近なところで介護問題に直面し、家族の健康や介護についていろいろと考えさせられる毎日です。 介護は、身近に介護問題を抱えてみないと実感できない問題だと思います。そして、たぶんどんなに準備していたとしてもスムーズにいく場合の方が少ないと思われますが、やはりそれなりの準備をしておけば容易だったと思うことも少なくありません。 例えば、お金の管理を頼まれて始めて、親がキャッシュカードを利用していないことを知るといったようなことです。小さな事のようですが、委任状や本人確認が必要だったり、発行の手続きをしたりと、いざという時に想像以上に不便で手間がかかります。 離れて暮らす場合の介護問題について、感じたことなどを思いつくままに挙げてみました。・離れて暮らしている家族の健康の変化には気付き難いため注意が必要。・地域での介護に関する情報や相談窓口(市区町村、地域包括支援センター、社会福祉協議会など)を知っておくと便利。・要介護認定や介護環境を整えるなど、介護サービスを利用するまでには時間がかかる場合もある。(介護老人福祉施設は慢性的順番待ち状態のようです)・高齢者には契約や支払いなど、事務手続きが難しい場合もある。・子どもが現役世代の場合は介護のために使える絶対的な時間が足らないため、サポートできる人は多い方がよい。■利用したい制度など さて、将来自分の判断能力が衰えた場合や万が一の場合に備える方法として、法的拘束力のある「成年後見人制度」や「遺言状」などの活用が考えられますが、もっと気楽に自分の思いを伝える手段として「エンディングノート」と呼ばれるノートを利用する方法もあります。(こちらは法的拘束力はありません。) 「エンディングノート」とは、自分の思いや希望、伝えておきたいことなどを記録しておくノートのことで、最近は様々なものが市販されています。家族への思い、資産の一覧や相続について、病気や介護が必要になった場合の希望や費用についてなど、身の回りのことを整理して記録しておくことができます。(資産の一覧や加入している保険などを記録しておくことは年齢に関係なく準備しておくと便利です。) 充実したセカンドライフに、安心できる年金・医療・介護などの制度は不可欠です。「世界のどの国も経験したことのない高齢社会」を前にして、持続可能な社会保障制度の整備を望むとともに、それぞれがライフプランを考え準備することが大切だと思います。 まずは年末年始、家族でゆっくりと話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵『Infoseek マネーのFINANCIAL TIPS』は、本回を持ちまして連載を終了することになりましたのでお知らせいたします。長らくのご愛読、誠にありがとうございました。
2007年11月29日
今は利上げを見送っている日銀だが、今の超低金利がいつまでも続くとは思えない。いずれ、金利は上昇するだろう。 預貯金で余裕資金を運用している人には朗報の金利上昇だが、お金を借りている人にとってはあまりうれしい話ではない。特に住宅ローンのように、大きな借入をしている人にとっては、なおのことだ。 ところで、いよいよ公定歩合をはじめとする政策金利の引き上げが近いということになると、にわかに色めき立つのがマンション販売業者の連中。こんなセールストークで近づいてくる。 「金利が上がる前に、今の低いローンで持ち家を手に入れませんか?」。金利引き上げ前の駆け込み需要を狙って、マンション業者は何とか家を買わせようと必死になる。一方、買う側も「金利が上がる前の今なら、何とか家賃並みの支払いで夢の持ち家が買える」などと考える。確かにセールスしやすい。 でも、買う側は十分に注意した方が良い。本当に今、駆け込みでマンションを買うのが得策なのかどうか。特に、業界用語でいう「青田売り」物件に手を出す場合は、慎重に状況を見極める必要がある。 青田売り物件とは、マンションが完成する前に購入の契約を結ぶ方法のこと。ところが、大規模マンション開発物件ともなると、完成までに1年半とか2年という期間がかかる。青田売りで購入契約を結んだ時に、当然、将来の住宅ローン返済計画について、マンション販売業者の担当者と打ち合わせをするが、実際に融資が実行されるのは、マンションの引き渡しが終わってからだ。つまり、1年半から2年のタイムラグがあるということだ。 このタイムラグが、ローン負担を大きく変える恐れがある。たとえば2005年7月時点のフラット35に適用されている平均金利は2.630%。これが、2年後の2007年9月時点では、3.125%まで上昇した。契約を結んだ時点の住宅ローン金利は2.630%だったのに、物件の引き渡しが終わり、いよいよ住宅ローンを返済していかなければという時になって、0.5%も金利水準が上昇していたら、当然、返済計画は大幅な修正を余儀なくされてしまう。 そればかりではない。恐らく、青田売りのマンションを購入する場合、多くの人は契約を締結した時点で、物件価格の10%程度の内金を入れるはずだ。仮に4000万円の物件であれば400万円。決して少ない額ではない。 もちろん、多少負担は重くなるにしても、ローンが実行されれば問題はない。しかし、実際にお金を貸す銀行側が、金利が上昇したところで審査を行い、「この顧客は金利負担が重くなると返済が困難になる」などと判断したら、ローンが実行されなくなる恐れがある。そうなったら、よりローン金利の高いところで、何が何でも住宅ローンを組むか、もしくは諦めるかのいずれかを選択しなければならない。 前者であれば、間違いなく月々の返済負担は重くなる。また後者であれば、マンションの売買契約をキャンセルすることになるが、その際は、最初に払い込んだ内金が返済されなくなる場合もある。そうなったら、さんざ大騒ぎして家を買う決心をしたにも関わらず、結局は内金だけをマンション業者に持っていかれてしまうだけという、悲惨な結果が待っている。 少なくとも、昨今のように金利上昇圧力が強まりそうな段階では、大きな額のローンは組まない方が無難だろう。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年11月22日
■流れは変わらない サブプライム問題を発端とする金融収縮・金融不安に対する対応、即ち中央銀行による流動性の供給や利下げ、あるいは利上げ見送りといった金融政策がマーケットを激変させています。市場の変化に応じて、今でも流動性の供給は行われており、これが結果として資金の偏在をもたらしています。金融収縮に対する中央銀行の動きが始めて表面化したのは8月上旬ですが、その時点を境にいろいろな商品で大きな価格変動が起こっています。 サブプライム関連の影響が住宅・金融分野にとどまらず、実体経済全般へと波及していくという悲観シナリオをベースに、米国を中心に株価下落・金利低下が進んでいます。インフレ懸念もあるだけに株価はさえず、一方で債券市場ではFRBによる追加利下げを織り込む形で金利は低下しています。 8月を起点により価格変動に弾みがついたのは商品相場とドルの動きです。ドルは対ユーロでの安値更新に象徴されるように貿易加重平均の実効レートで過去最低を更新中です。景気減速とインフレ懸念との狭間でドルの信認は揺らいでおり、ドル安の流れは続きそうです。商品相場の総合的な指標であるCRB指数は8月安値から3カ月で20%上昇しています。原油は100ドルに迫り、金は27年ぶりの高値、穀物相場も長年の保ち合いを上放れるという状況です。言うまでもなく背景には豊富な流動性があると思われます。 欧米では銀行間取引で資金繰りがタイトになる一方で、供給された流動性が商品市場や質への逃避で債券市場に流入するというように金融市場の動揺が資金の偏在をもたらしています。来年春頃までは信用不安は治まらず、グローバルに株価低迷、金利低下、商品相場高にドル安という流れが続くのかも知れません。■置いてきぼりの日本株 今年年初の我が国の市場見通しでは戦後最長の景気拡大を背景に金利は緩やかながらも上昇し、企業収益の好調もあり株価も堅調な足取りをたどるというのがコンセンサスでした。ところが11月第2週には東証株価指数が前年6月の安値を下回り、10年国債も昨年1月以来の1.50%割れとなりました。この株価低迷・金利低下という現象からは再びデフレ経済に舞い戻ってしまったという印象さえ浮かび上がります。 特に株価はサブプライム問題が深刻化する前から日本株だけが置いてきぼりという状況であり、主要国の中で日本株だけが年間パフォーマンスがマイナスという厳しさです。サブプライム問題に隠れてはいますが、我が国固有の株価低迷要因があると考えざるを得ません。消費者物価のマイナスが継続していることに象徴されるようにデフレから脱却できずにいる実体経済に問題があると思われます。雇用者報酬が増えず、結果として個人消費は低迷したままです。外需依存で景気は何とか持ちこたえていますが、内需の低迷が株価の頭を抑えていることになります。 ただ株価水準としては十分に魅力的な水準まで下落してきており、賃金が先か、物価が先かはわかりませんが、どちらも緩やかに上昇し、デフレからの脱却が明確になれば、日本株の出番もあると思われます。株価が上昇する局面で、株主でいるかどうかがパフォーマンスを決めることになります。足元の株価水準では買いに分があると思われますが。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年11月15日
10月末から11月中旬ぐらいまでは、日本の上場企業の大多数が9月の中間決算の結果を発表するシーズンです。半年間の営業成績といっしょに、一年間の売上と利益の予想もあわせて発表することが多いので、個人投資家にとっても保有銘柄の営業成績をチェックし通期の業績を見通す上でとても重要な時期になります。■決算発表報道の形式 個人投資家は、決算の結果は新聞で知ることが多いでしょう。新聞の中間決算発表を伝える記事のエッセンスは以下のようなものになります。 増収増益の場合であるならば、前年の中間期と比べてどのくらい売上が伸びたか(増収率)、営業利益や経常利益がどのくらい伸びたか(増益率)を報じます。会社が中間期の営業成績について予想(ガイドライン)を発表していた場合は、それを上回ったかどうかがコメントされ、その背景となった個別企業ごとの事情が説明されます。 例えば「A社は、前年同期の中間決算に比べて、○億円(×%)の増収を達成し、△億円(□%)の営業増益を達成し、当初の会社計画を上回った(同程度、下回った)。その背景は・・・・・・・・・・」という文章になります。■株価の反応 通常の感覚からいうと、増収増益決算を発表して会社の当初ガイドラインを上回れば、その会社の株式は上がると考えるのが常識です。しかし個人投資家の方は、このニュースのあと期待してパソコン画面に向かっても、株価がほとんど反応しないことにがっかりした経験をお持ちなのではないでしょうか。 情報の発達した今日の市場では、情報への株価の反応を理解するためには、もうワンクッション必要になります。■織込み済み情報:コンセンサスの形成 その理由は、増収増益決算が、会社が発表し新聞報道される以前に、証券アナリストたちの分析によってすでに常識となっていることが多いことにあります。 企業側は社内のIR(インベスターズ・リレーション)部署を通じ、頻繁に証券会社のアナリストや機関投資家サイドのアナリストに、均質化された情報を流しますので、決算発表の前までにはその内容は予想がついてしまっていることが多いのです。そうなると、期待通りの内容が発表されても株価は反応しないのです。 企業のIRと証券会社および投資家サイドのアナリストが形成する、期待の合意のようなものは、コンセンサス(世論)と呼ばれますが、株価が動くためには、このコンセンサスを上回る増収増益が必要であるということになります。■精密業界の3社の株価 ここで、コンセンサス通りの増収増益とコンセンサス以上の増収増益の株価へのインパクトを体験するために、精密業界を代表する3社、キヤノン(7751 10/25発表)、リコー(7752 10/25発表)、コニカミノルタホールディングス(4902 11/1発表)の決算発表に伴う値動きを見てみましょう。ともにカメラ製造から発展した、複写機などを主力とする製造業ですが、この3社ともに、この9月の中間決算(キヤノンは第3四半期)は、増収増益の好決算を発表しています。ただ、キヤノンとリコーは事前のアナリストによるコンセンサス通りでしたが、コニカミノルタはコンセンサスをもかなり上回るものを発表したという点で異なりました。株価チャートでは、キヤノンとリコーの株価は決算にはあまり反応せず、コニカミノルタの株価は、相場の下がる中、逆行高を演じていることが見て取れます。■個人投資家がどうコンセンサスを判断するか 個人投資家にとって、新聞で増収増益と発表されても、それがそのまま株価上昇につながる、良いニュースであるとは限らないことを理解するのは重要なことです。それを判断するためには、コンセンサスのありどころを知る必要があります。個人投資家がコンセンサスのありどころを知るのは、機関投資家と異なり若干困難をともないますが、新聞記事の中には、上記のコメントのほかには、決算内容がコンセンサスより上か下かを述べたコメントが付いているケースもありますので、そちらも注目すべきです。 また、使っている証券会社がアナリストを持っている場合は、アナリストの直近の業績予測に比べてみるといった手間をかけることで判断できるでしょう。複数の証券会社のアナリスト予想をチェックできれば万全となります。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年11月08日
企業年金の未払いに思う・「制度を理解するための情報提供を」公的年金の加入記録問題に続き、企業年金連合会(旧・厚生年金基金連合会)でも124万人(受給資格者の約3割)に総額1544億円の未払いがあることが発表されました。未払いになっている件数の内訳をみると、147万7000件(転職を繰り返したケースもあり、一人当たり1.2件、124万人分)のうち、転職などで勤務先の企業年金を脱退したことによるものが140万9000件、解散によるものが6万8000件となっています。実は私も転職のため厚生年金基金を途中で脱退した者のひとりです。私の場合はまだ年金が受け取れる年齢になっていないため今回の124万人には入っていませんが、将来、年金受給時に請求をしなかった場合は仲間入りの可能性もあるわけです。私の手元には厚生年金基金連合会(現在の企業年金連合会)から届いた「年金支給義務継承通知書」があります。数年勤めた会社を退職した後に郵便で届いたものです。そこには、厚生年金基金に加入していた期間や将来支払われる年金額、年金番号などが記載され、年金の支給が始まる時には連合会に年金の請求をするようにとの案内があります。そして「住所や氏名を変更したとき・・・年金請求の際訂正しますので、それまでは届出の必要はありません」と書かれています。(ただし、現在発行されている「年金の引継ぎのお知らせ(年金支給義務継承通知書)」にはこのような記載はないようです。)住所変更も名前の変更も届けなくていいのですから、年金開始時に連合会から届くはずの通知(裁定請求書)が届かないケースは多いことでしょう。むしろ請求のない年金が約3割にとどまっていることの方が不思議に思えます。私の友人にも、転職、結婚や出産による退職により厚生年金基金を途中で脱退した女性たちがたくさんいます。彼女たちに聞いてみると、連合会からのハガキが届いたことは覚えているものの、保管している人は少数。「年金制度についての知識がなく、何の通知か分からなかった」「年金が支給される時には自動的に受け取れるものだと思っていた」「よく分からないけれど、とりあえず保管しておいた」などの声が聞かれました。また「年金額が1万円にも満たない額だったので気に留めなかった」という声もありました。企業年金連合会の発表による、未払いになっている人の状況を見てみると、やはり加入期間が5年未満の人が92.2%と圧倒的に多く、金額では年金額1万円未満が63.4%、1~2万円未満が13.6%となっています。サラリーマンやOLの場合、社会保障制度や税金などの身近なお金のことを会社まかせにしてきたという現状があります。在職中は会社のサポートもあり問題ないのですが、退職や転職の際突然、様々な書類が押し寄せてきてわけが分からないまま手続きするということも少なくありません。(会社の担当者も退職する者にはそれほど親切でない場合もあるようです)企業年金に限らず年金や医療などの社会保障制度は、とても身近で私たちの生活を守る大切な制度であるにもかかわらず、その内容を理解している人は少ないような気がします。もちろん自分のことですから私たち自身で興味を持って調べる必要もありますが、暮らしの中の基本的な知識として、少なくとも、知らなかったという理由で不利になるようなことがないように、制度を理解するための積極的な情報提供が必要だと思います。例えば、社会へ出る前の高校生や会社の新入社員研修などで、社会保障などの身近な制度について伝えるのもひとつの方法ではないでしょうか。企業年金連合会では、社会保険庁や市区町村へも協力を求め、住所情報の把握に努めるとしています。皆さんの周囲にも短期間で転職や退職された方がおられると思います。厚生年金基金に加入されていた場合は企業年金連合会に確認してみて下さい。連合会の年金に時効はありません。1万円未満の年金だとしても、不意の収入は嬉しいものです。エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵
2007年11月01日
「長期保有するほど手数料がゼロになるのでおトクです」。 こんなセールストークで商品を勧めてくるファンドがあります。「クラスB受益証券」というのが、その正体。投資信託のコストは、購入時に「購入手数料」を支払い、ファンドを保有している期間中は「信託財産留保額」と呼ばれるコストを、保有日数に応じて負担しています。さらに、ファンドによっては「解約手数料」を徴収するケースもありますが、これは少数派。解約手数料を取っているファンドといえば、おそらく長期公社債投信くらいのものでしょう。 さて、最近は投資信託の手数料体系も多様化し、なかには購入手数料を取っている既存のファンドでさえ、取扱い金融機関がネット証券会社になると、購入手数料を無料にするノーロード化が進んでいたりもします。投資信託のコストのうち、購入手数料については、保有期間を長期化することによって、1年あたりのコスト負担率を低減させることができますが、かからなければそれに越したことはありません。ネット証券会社を中心に進んでいる既存ファンドのノーロード化は、それなりに評価できるものと思います。 ところで、同じように購入手数料がかからないファンドの一種に、「クラスB受益証券」というものがあるのをご存知でしょうか。このタイプは、国内投資信託よりも外国籍投資信託に多く見られるもので、購入手数料はかからないものの、ファンドの保有期間に応じて解約手数料を取るというものです。それも保有期間が短いほど、解約手数料の負担が重くなるという料率設定がなされているため、長期保有するほどトクになるというセールストークがまかり通っています。 はたして、それは本当なのでしょうか。たとえば、あるクラスB受益証券の手数料を見ると、購入手数料は無料ですが、解約手数料については、1年未満で解約すると4.0%、1年以上2年未満で3.5%、2年以上3年未満で3.0%、4年未満で2.5%、そして4年以上保有すると、解約手数料も無料ということになっています。確かに、この条件だけを見れば、冒頭にも書いたように、「長期保有するほど手数料がゼロになるのでおトク」というセールストークにも頷けます。 でも、問題は「販売管理報酬」という項目にあります。外国投資信託のコスト内訳を見ると、運用会社が受け取る「管理・投資運用報酬」と、受託銀行が受け取る「保管・管理事務代行報酬」は、購入手数料を取るクラスA受益証券も、このクラスB受益証券も同率ですが、なぜか販売金融機関が受け取る報酬については、「代行・販売報酬」に加えて、「販売管理報酬」が別途0.64%も計上されているのです。ちなみに、代行・販売報酬について、クラスB受益証券はクラスA受益証券よりも、0.2%程度低めに設定されていますが、それでも、「代行・販売報酬」と「販売管理報酬」を合わせたコスト負担率は、クラスB受益証券の方が年間0.44%も割高になります。 もし、このファンドを5年間保有すれば、クラスA受益証券とクラスB受益証券のコスト負担の差は2.2%にも達します。10年間保有すれば4.4%です。これならば、いくら長期保有することで解約手数料がゼロになったとしても、何の意味もありません。最初から、クラスA受益証券を購入した方が、少なくともトータルで見たコスト負担ではおトクということになります。 クラスB受益証券については、まったくもって投資家のためにはならない商品と断言しても良いでしょう。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年10月26日
日経平均株価は8月安値から2カ月弱で1,900円強、13%弱の戻りを達成しました。商いが盛り上がらない中での株価上昇は、下げ過ぎた(と思われる)株価が自律的に戻っただけ、という評価が妥当だと思われます。この戻りによって、株価が上昇トレンドに復したと判断するのは時期尚早だと思われます。上値を追う力が戻るにはもう少し時間が必要なのかも知れません。足元の東京市場は、(1)外国人に過度に依存していること、(2)市場エネルギーが盛り上がりに欠けること、(3)循環的には下降モメンタムが価格を支配する局面から脱していないこと、等から脆弱性を有しており、少なくとも年内は株価の頭が重い展開が想定されます。■東京市場はエマージング国型・・・外国人に過度に依存 委託売買代金(3市場)に占める外国人投資家のシェアは、2003~05年の間は平均で46%台と比較的安定していましたが、昨年には過半を越え、今年に入ってからは60%を上回り、過去最高の水準にまで拡大してきています。特に相場が波乱商状を示した8月には65.7%、9月には64.6%と異常なまでの高まりを見せました。外国人の売買比率が高いということは、外国人が月間ベースで市場2番目の大幅な売り越しを記録した8月に相場が急落したように、株価は外国人の動向次第ということになってしまいます。外国人に過度に依存する市場構造は、エマージング国型といっても過言ではなく、脆弱な市場と考えられなくもありません。 このような外国人偏重型の市場となってしまった要因の一つは、国内の個人投資家の市場でのプレゼンスの低下にあると思われます。2003年に相場が反転してからの個人投資家は外国人と共に車の両輪となって、東京市場を牽引してきましたが、2006年1月のライブドアショックを契機とした新興市場の崩れから、徐々に力をそがれ、個人のシェアは2005年の38.0%をピークに2006年32.4%、今年に入ってからは26.5%と過去5年では最低の水準まで低下してきています。多様な相場観を持ち、市場に厚みを加える重要な役割を果たす個人投資家の勢いのなさが、グローバルで見ても最も低迷している東京市場の弱さの主因であると考えられます。■委託売買代金(3市場)に占める外国人・個人のシェア(%) 外国人個人2003年46.127.42004年47.931.82005年45.1382006年54.232.42007年60.326.5(注)2007年は1~9月実績■上値を追うには不足気味の市場エネルギー、年明けを待ちたい 安値を記録した8月17日以後、直近までの東証一部の一日平均の売買代金は2.5兆円と、年初から9月までの同平均売買代金3兆833億円と比較しても、盛り上がりに欠けることは明らかです。株価が17,000円の大台を固め、18,000円から年初来高値を目指すには、足元のエネルギーでは力不足の感は否めません。市場活況の一つの目安とされる売買代金3兆円が上値を追うための必要条件であり、それには国内投資家特に個人投資家の復活が不可欠だと思われます。 株価の数カ月単位での循環を説明するのに有用な100日移動平均線は、現在も低下中です。この100日線が低下中の場面では、株価の頭が重たいというのが経験則です。現在の株価水準を前提に考えると、100日線が底入れするのは来年の年初ということになります。重石が取れて、株価の足取りが軽くなる可能性が出てくるのは、早くても年明け以降ということになると考えます。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年10月18日
数年前から子どもの金銭教育に携わる機会があり、その一環として、毎年夏休みに小学生とその父兄を対象とした「親子マネー講座」のお手伝いをしています。クイズやゲームを通して、お金やおこづかいについて親子で話し合ったり考えたりするきっかけになれば…という思いから企画しているものですが、子ども相手だけに毎年新しい発見の連続です。3年目の今年は昨年好評だった「おこづかいゲーム」をバージョンアップさせての開催でしたがその様子をご紹介したいと思います。■おこづかいゲームの概略(小学校4~6年生用) 夏休みの1カ月(8/1~8/31と仮定)の間に、あらかじめ決められた1,000円のおこづかいを上手に使うことを考えるゲーム。 毎日起こるイベントに、お金を使うか使わないかを自分で決断し、おこづかいは「おこづかい帳」で管理する。 “お金を必要とするイベント”の中には、文房具など必ず買わなければいけないイベントと、自分で使うか使わないかを選択できるイベントを準備。 1カ月終了時点でおこづかい帳をもとに、何にお金を使ったのか、文房具や予定されていた出費にきちんと対応できたかなどをみていく。■子供たちの悩む声が多かったイベント・「お母さんのお誕生日なのでお花をプレゼントしようと思います。(お母さんの好きな花はバラの花です)バラの花…300円、チューリップの花…200円」 バラの花を買ってあげたいけどちょっと高い。ある女の子はお母さんの顔を見ながら「チューリップでもいい?」と聞いていました。使う使わないを自分で選択できるイベントですが、みんなどちらかの花を買うことにしていたようです。・「世界の恵まれない子どもたちのための募金をしていました。募金の金額は自由です。」 募金したいけれど残高も気になる。どうしよう、いくらにしよう、といった声が聞こえてきました。・「遠くに住む叔父さんからプレゼントが送られてきたので、お礼のハガキを送ることにしました。ハガキ代…80円」 ハガキを買わない息子に、「えっ!? お前はお礼状も出さないのか?」と聞くお父さんの声が聞こえてきました。男の子の答えは「電話するよ」でした。・「ノートがなくなったので買いました。どちらか選んで買いましょう。 1冊…100円、2冊セット…150円」 このイベントは2回発生するように準備しておいたところ、2回目のイベント発生時に「2冊買っておけばよかった」と叫ぶ声があがりました。 イベントが読み上げられる度に子どもたちの様々な声があがり、会場は盛り上がりました。大人を対象としたマネー講座に比べるとその準備は大変ですが、たくさんの発見があり本当に新鮮です。ゲーム終了後には父兄の方から、「おこづかいを始めてみようと思う」などの声も聞かれました。 子どもには個人差があり、それぞれのご家庭で環境や考え方も違いますから“おこづかいはこうすればいい”といった絶対はありませんが、たとえば、・おこづかいで買うものをはっきりさせた上で金額を決める・買うものに文房具などの必要経費も含める(子どもの成長に伴い、必要経費の枠を広げてみる)・おこづかいが足らなくなっても補填しない・渡したままにせず、おこづかい帳を利用して「お金の使い方」について一緒に話し合う など、いくつかルールを決めておくことで、計画的な使い方や物を大切にすること、自分でお金を管理することなど、おこづかいから学べることは多いと思います。 「もらったお金をすぐに使ってしまう」場合などは週単位で渡すなど、その子どもに合わせて考えることも必要でしょう。ご家庭でおこづかいについて話し合い、まずはルール作りから始めてみてはいかがでしょうか。「知るぽると(金融広報中央委員会)」のホームページでは、子どもの金銭教育に関する情報なども紹介されています。ご参考まで。エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵
2007年10月11日
「金融商品取引法」の施行で、証券会社や銀行等は対応におおわらわとなっているといわれます。 金融商品取引法(金商法)は、株式や債券、投資信託はもとより為替先物取引、デリバティブ預金、変額年金保険など投資性のある幅広い金融商品を対象として、その販売・勧誘、投資運用、管理サービスなどに関する法律となるよう、現行の証券取引法を抜本的に改正したものです。法律は去年6月に成立していましたが、細かい規則などを整備して、この9月30日から施行されました。この金商法の施行によって投資信託の販売はどう変わるでしょうか、主な注目点を見てみましょう。 まず、金融商品の販売を行う証券会社や金融機関等は、顧客に対して今まで以上に十分な商品内容の説明を行うことが義務づけられました。投資信託などの広告や目論見書では、リスクと手数料について詳しい情報提供が求められます。とりわけリスクについて、従来は投資信託への投資は投資元本を割り込むリスクがありますと説明すればよかったのですが、今後は、そのリスクがどのようにして発生するのかという仕組みについても説明しなければなりません。また、手数料については、「手数料、報酬その他いかなる名称によるかを問わず顧客が支払うべき対価」と定義され、その合計額か上限額または計算方法を示すこととされました。投資信託の場合は、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額、監査報酬、組入証券の売買手数料などあらゆる経費の開示が行われることになり、投資コストの全容の把握が容易になるでしょう。 さらに、顧客への目論見書の交付に関しては、上記のリスク情報や手数料の詳細その他顧客の判断に影響する重要な事項について、「顧客の知識、経験、財産の状況および契約締結の目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法・程度による説明をすること」が求められています。これは、説明義務を尽くしたかどうかの判断基準として「適合性の原則」が適用されることを意味しています。 適合性の原則とは、金融商品の売買にあたって金融商品取引業者は、顧客の知識、経験、財産の状況および契約締結の目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないという考え方を言います。証券取引法時代から、適合性の原則は販売会社が遵守しなければならない最も基本的なルールですが、金商法では適合性の原則の要件として、「金融商品取引契約を締結する目的」が追加されました。この要件に追加により、たとえば投資信託の知識があり資産も十分にもっていても、元本の安全性を目的にしている顧客にハイリスクハイリターンの商品を勧めることは適合性の原則に反することになります。 金商法は、また、証券会社や金融機関の販売勧誘ルールを強化しています。その中で注目される新しいルールは、個人顧客について「顧客に迷惑を覚えさせるような時間に電話・訪問により勧誘する行為」の禁止です。これは当初の規則案では、抵当証券・商品ファンド・金融先物取引に限定されていましたが、最終的なルールでは金融商品取引全般を対象とするとされました。 投資信託はいま、証券会社、銀行等金融機関それに郵便局も加わって熾烈な販売競争を繰り広げていますが、中には、顧客の意向に沿わないファンドを勧めたり、十分な説明をしないで販売しているケースもあると聞きます。金商法は投資家保護の徹底を図ることを目指して上記のようにルール強化を図っていますが、投資家としても、投資は自己責任であることをよく認識して、自分で十分理解できるまで説明を求めるという態度が必要です。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年10月04日
これまでに何回か、バイオテクノロジー企業のIPOについてお伝えしました。赤字の企業に対して、何故これほどの高株価がつくのかという素朴な疑問について考えるためでした。 8月末、東証マザーズに新たなバイオ銘柄として、(株)ジーエヌアイ(2160)が上場されました。ここでついた株価は、バイオ銘柄全体の株価と今後のIPOについて大きな意味があると思われます。■価格の動き 公募価格は一株90円と仮条件(110円~90円)の下限で決まったのですが、初値は80円となり公募価格を11.1%下回りました。初値の時価総額は約57億円となり、これは3月に大証ヘラクレスに上場したバイオ銘柄、(株)免疫生物研究所(4570)の初値の騰落率-9.1%、初値時価総額62億円をさらに下回る低調な結果でした。8月30日にジャスダックに新規上場された、とんかつチェーンのアークランドサービス(株)(3085)の初値時価総額は47億円でしたから、ほとんど同じレベルの時価総額がついたことになります。■かつてなら数百億円の評価 免疫生物研究所は、バイオ企業とはいっても半分以上は試薬のメーカーであり、純粋に新薬開発を行う創薬バイオではありませんでしたので、低い評価もやむをえない事情がありました。今回のジーエヌアイはほぼ創薬型のビジネスモデルでしたので、現時点は大きな赤字を計上していても、将来の成長を期待して、かつてなら数百億円レベルの高い初値時価総額がついてもおかしくはないケースでした。 この時価総額は、バイオ銘柄の新規上場バブルが完全に消え去ったことを意味しているように思われます。■主幹事証券の変化 IPOに関しては、売出価格の指導から、売出しのセールス・IR活動まで、価格決定に大きな力を振るうのが引受主幹事証券会社です。今回のジーエヌアイの引受主幹事証券が、IPO業界で一番の実績を誇る業界リーダーである野村證券であることは注目に値します。 野村證券は2002年にアンジェスMG(株)(4563)の公開の主幹事証券をつとめ、バイオ銘柄IPOブームに火をつける役割を果たした証券会社です。野村證券のアナリストは、現時点で大赤字の会社であっても、なぜ高い株価が可能であるかについて非常にレベルの高いレポートを発表して、高株価の理屈付けも行いました。 その野村證券が今回低株価に甘んじたことは、火をつけた業界リーダー自らによる、バブル収束宣言です。■新たな可能性 バブルが弾けたことは、悪いことばかりではありません。まず、今回のIPOは低株価であっても実施されたということに、積極的な意味が見出せます。ほとんど例外なく研究資金の調達に苦しみ、存亡の危機に瀕していたバイオ企業にとっては、低株価にせよ上場の道が閉ざされるよりは、よほど好ましい結果でしょう。 未上場の間に莫大なキャピタルゲインを期待して投資した、創業者や投資家を失望させることにはなりますが、資金調達さえできればさらに研究を続け、成長を達成する可能性を保持することが出来ます。 IPO以降に投資する投資家にとっても、朗報と言えます。かつてのように、何とかして公募価格で手に入れれば、初値で売って確実に大もうけという馬鹿げた戦略は通用しなくなりますが、IPO時につく株価はリスクを反映した適切なものである可能性が高くなります。例えば、IPO後に業績が好転することを予想して買えば、思惑があたったときには大きく儲けることが出来るでしょう。つまり、バイオ銘柄も普通の株式となったということです。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年09月27日
7月の国内投資信託純資産残高は78兆9,921億円で、前月末に比べて2兆9,846億円の減少になった。純資産残高が前月比でマイナスに転じたのは、1年ぶりのことだ。 そろそろ投資信託の人気のピークアウトということだろうか。ただ、投資信託の純資産残高を見る場合、解約による増減なのか、それとも運用損益による増減なのかということを、区別して考える必要がある。 ちょっと単純化した説明で恐縮だが、投資信託の純資産残高とは、そのファンドが保有している全資産の合計額のこと。ファンドに新規資金が入ってきて、それで株式や債券などの有価証券を購入する。つまり純資産残高は、資金の流出入によって増減するだけでなく、組入有価証券の値動きによっても増減するのだ。 したがって、もし純資産残高が減少したとしても、それは解約によって目減りしたものなのか、それとも組入有価証券の値下がりによって減少したものなのかということを、見極めなければならない。 では、7月の純資産残高減少は、何を一番の理由としていたのか。結論から言えば、組入有価証券の値下がりによるものが大きかったようだ。投資信託協会が発表している「投信概況」によると、全体の減少額である2兆9,846億円のうち、株式型投資信託が2兆6,791億円の減少、公社債型投資信託が3,350億円の減少、MMFが295億円の増加。勘の良い読者であれば、もうお気づきかと思うが、要は株式型投資信託で発生した純資産残高の減少が、全体に響いた。さらに、株式型投資信託の純資産残高の減少額を細かく見ると、設定額から解約額と償還額を差し引いた、純粋な資金流出入では798億円の資金純増(!)となっている。 つまり、7月の純資産残高減少は、株式型投資信託に組み入れられている有価証券の値下がりによってもたらされたものなのだ。ちなみに、運用によって生じた損失額は2兆7,590億円。この数字を見る限り、7月の純資産残高減少は、投資信託の人気がピークアウトしたからではないと考えられる。 問題は8月だ。17日に株価やドルが大幅に下落した。投資信託の基準価額も、なかなかきつい下げになっている。これを受けて、ファンドの保有者が狼狽の解約を出したかどうか。 この点については、新興国株ファンドやREITファンドの多くは、解約にともなう資金流出が増えているのに対し、バランス型や外債型のファンドには、それほど目だった解約が生じなかった。実際、8月の株式投資信託は差し引き1兆5435億円の資金純増となった。 つまり、新興国株ファンドやREITファンドには、それだけ短期性の資金が入っていると考えられる。だから、目先の下げ局面で解約が増加する。 しかし、よく考えてみると、これはおかしな話だ。特に新興国株ファンドなどは、長期的な資金で購入するべきものだろう。ところが本来、新興国株ファンドに向かうべき長期性の資金が、外債ファンドに流入している。 そもそも外債ファンドなどというものは、さしみのツマのような存在だ。それが、いつの間にかさしみそのものになっているところに、今の日本の投資信託事情の貧しさがあるような気がしてならない。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年09月20日
前稿で「年内はボックス相場?」とリポートしましたが、株価の低迷は長期化しそうな様相を呈してきました。米国経済の減速は明確になりつつあり、米国景気の敏感株である日本株にもその影響は波及してくるものと思われます。東証株価指数(TOPIX)は前年同月の株価水準を1ヵ月前から下回ってきています。このことは相場の傾向線を示す52週(1年)移動平均線が下向きに転じたことを意味します。テクニカル的には2003年春にスタートした上昇相場は、7月高値で終止符を打ったと判断せざるを得ないと思われます。投資家の立場からみれば、相場の局面は「押し目買い」局面から、「戻り売り」局面に転じたことになります。短期的には「突っ込み買い」の「戻り売り」ということになりますが、長期的には踊り場からの脱却が想定されるマクロ景気、企業収益の堅調持続などからは日経平均株価での15,000円台は平均PERで16倍台、平均配当利回りも10年国債並みの1.5%ということで「買い」に分があると思われます。■気になる8月の投資主体別動向 ~外国人の「売り越し」は一過性?個人の復活は?~ 8月の投資主体別の売買動向(3市場・売買代金ベース)を単純化すると、外国人投資家の「売り」に対して、国内勢の「買い」という図式でした。国内のすべての投資主体が揃って買い越すということも珍しいことですが、それ以上に注目しなければならないのは外国人投資家の「売り越し」です。2003年春に相場が反転してから、外国人投資家が月間ベースで売り越したのは今までに3回しかなく、そのいずれもが株価が前年同月との比較で50%超の上昇を示した直後に起こっています。即ち株価が過熱気味に値上がりした時にだけ、外国人は日本株を売っていたことになります。 ところが今回は売り越し額が1兆332億円と、月次としては20年前のブラックマンデー時(1987年10月)に次ぐ高水準である上に、株価水準(TOPIX)が前年同月比でわずか+0.3%とほとんど上昇していない中での売り越しであっただけに気になります。日本株を買い越すのが常態化していた外国人の投資姿勢に変化が起こりつつあるのか、8月は信用収縮の混乱による一過性のものであったのか、当面その動向から目が離せません。 もう一つ気になるのは個人投資家の市場でのプレゼンスの低下です。8月の月間の委託売買代金シェアは外国人が65.7%と過去最高を記録したのに対し、個人は22.0%と2003年4月以来の低水準に落ち込みました。株価が上昇に転じてからは最低の水準であり、足元で個人投資家が主導的な役割を果たしている新興市場の株価が年初来の安値を更新していることと考え合わせると、個人の復活にも厳しいものがあります。外国人の継続的な買いに多様な価値観を持つ個人投資家が市場に厚みを持たせることによって株価が堅調に推移してきただけに、今後の外国人・個人の動向には注目が集まります。外国人投資家に過度に依存する市場は決して健全なものではないだけに、特に個人の復活に期待したいところです。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年09月13日
平成19年10月1日から日本郵政公社が民営化され、持株会社(「日本郵政株式会社」)と4事業会社(「郵便事業株式会社」、「株式会社ゆうちょ銀行」、「株式会社かんぽ生命保険」、「郵便局株式会社」)に分社化されます。民営化されたからといって郵便局がなくなるわけではなく、これまで同様に郵便・貯金・保険のサービスが利用できますが、民営化に伴いサービスの内容や手数料(料金)が一部変更されます。 日本郵政公社・2006年ディスクロージャー誌(郵便貯金2006)によると、平成17年度の通常貯金の口座数は115,946千口座、全国のATM設置台数は26,297台(平成18年3月末)となっています。郵便局は全国どこにでもあり、口座を保有する人の数が圧倒的に多いため、送金・決済に利用しやすいという利点があります。「送金機能付総合通帳」(「ぱるる」)間の送金であれば、手数料も安いことから、インターネットオークションなどでの商品代金の受渡しに広く利用されているようです。 そこで、気になる民営化前と民営化後の送金手数料の変化と、銀行で同様のサービスを利用した場合の手数料との比較をしてみました。注意)民営化前と民営化後の手数料の詳細については「ゆうちょ銀行が提供する商品・サービス及び料金の詳細」をご確認下さい。銀行の手数料は「三菱東京UFJ銀行」(2007年7月末現在)のものですが、金融機関によって違いがありますのでご注意下さい。また、現金や自分の口座にあるお金を他の人(あるいは法人)の口座へ送金することを、銀行では「振込」、郵便局では現金の場合は「払込み」、口座からの場合は「振替」と呼ばれていますが、ややこしくなってしまうので、ここではすべて「送金」と表現しました。■窓口を利用して、現金を受取人の口座へ送金する場合(電信)の手数料 日本郵政公社(ゆうちょ口座へ)~1万円210~10万円340~100万円600 ゆうちょ銀行(ゆうちょ口座へ)銀行(三菱東京UFJ銀行) 同一銀行他店あて他行あて3万円未満5253156303万円以上735525840 窓口を利用して現金を送金する場合の手数料ですが、民営化後は印紙税が課されることから、料金区分がこれまでの3区分から銀行と同じ3万円未満と3万円以上の2区分に変わり、料金も銀行の手数料並みに変わります。送金する金額によっては手数料が倍以上になってしまう場合もあります。■自分の口座から受取人の口座へ送金する場合の手数料(個人の場合) 日本郵政公社ゆうちょ銀行ゆうちょ口座間提携金融機関口座あてゆうちょ口座間提携金融機関口座あて窓口140290140290ATM12027010/1~1年間無料270パソコン・携帯110-110- 銀行(三菱東京UFJ銀行)同一銀行他店あて他行あて3万円未満3156303万円以上5258403万円未満無料2623万円以上無料4203万円未満無料2103万円以上無料315一方、口座から口座へ送金する場合の手数料は民営化後も料金の変更はなく、ATM利用の場合は「民営化記念キャンペーン」として2007年10月1日~2008年9月30日までの1年間は無料となっています。(無料キャンペーン終了後の料金については、今後の利用状況を見極めながら検討される予定。)ゆうちょ口座と他の銀行口座間での送金(郵便局では「相互送金」と呼ばれています)は、現在提携金融機関のみに限られていますが、今後、ゆうちょ銀行の全国銀行データ通信システム(全銀システム)への加入如何によっては手数料変更の可能性も考えられます。 民営化を前に、すでに一部の地方銀行ではATM手数料を無料化するなどの動きがあり、今後、顧客獲得競争は激化すると予想されます。民営化の影響が、利用者にとってのより良いサービスに繋がることを期待したいと思います。 なお、積立郵便貯金、住宅積立郵便貯金、教育積立郵便貯金など、ゆうちょ銀行が取り扱う商品やサービスの中には、民営化に伴い取り扱いが終了するものがあります。政府保証の扱いなども含め、一度ご確認下さい。エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵
2007年09月06日
東京工業品取引所が、7月17日から金ミニ取引(『金現金決済先物取引』というのが正式名称です)をスタートさせました。標準取引と呼ばれる既存の金先物取引は、最低取引単位が1枚(1キログラム)ですが、金ミニ取引ではその10分の1、100グラム単位での取引が可能になります。 もちろん、いくら「ミニ」とはいえ、先物取引ですから、取引を始めるに際しては、一定額の証拠金を納めなければなりません。7月12日時点で見ると、標準取引に必要な取引本証拠金の額は9万円。これに対して、金ミニ取引の場合は、1万2,000円で済みます。それだけ少額での投資が可能になるため、将来的に金ミニ取引が拡大していくことを、東京工業品取引所も期待しているのでしょう。 でも、ほぼ同じ時期に、大阪証券取引所が、金ETFの上場を発表しました。ご存知のように、ETFとはインデックス型の上場投資信託のことで、金ETFは、国内金価格に連動して取引価格が形成される投資信託のことです。最低投資口数は10口単位ということですから、約2万6,000円程度で取引できるはずです。 さて、金ミニ取引と金ETF。両者とも金の小口取引をするためのツールですが、どちらが有利なのでしょうか。 それぞれ、機能は異なりますから、一概に比較することは難しいのですが、これから金投資を始めようと考えている人には、迷わず金ETFをお勧めします。 その理由は、金ETFの方が価格変動リスクを小さく抑えられるということです。いくらミニ取引とはいえ、金ミニ取引は立派な先物取引です。レバレッジがかかっています。取引本証拠金が1万2,000円で、100グラムから取引できるということは、1万2,000円の元手で、26万円相当の金を取引していることになります。つまり、レバレッジの倍率は20倍超にも達します。恐らく、先物取引の経験がない方は、イメージがつきにくいかと思いますが、かなりのリスクだと考えて良いと思います。 これに対して金ETFであれば、もちろん株式の信用取引を活用することによって、レバレッジをかけることができますが、現物で取引していれば、レバレッジとは無縁です。あくまでも、国内金価格の値動きに連動する形で、リターンとリスクが規定されます。 両者を取り扱っている窓口についても、金ETFの方が利便性は高いでしょう。何しろ株式と同じ扱いになりますから、金ETFは証券会社であれば、どこでも窓口になります。しかし、金ミニ取引を扱っているのは商品先物会社。やはり、まだまだ商品先物会社は、一般的な個人からすれば、なかなか足を踏み入れにくい世界です。 原油価格が上昇トレンドに乗り、世界的にインフレリスクが強まるなか、金はインフレリスクをヘッジする一手段として、これからも注目される可能性があります。そして、金の投資手段は、先物取引や現物取引のみならず、ここで紹介したような金ETFも登場したことによって、ますます取引手段の多様化が進んでいくでしょう。 大証上場の金ETFは、金現物との交換が認められていませんが、インフレリスクをヘッジすることが最大の目的であれば、現物を引き出せるかどうかは二の次です。現時点で、金投資を利便性の観点から比較すれば、やはり金ETFへと軍配が上がるのではないでしょうか。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年08月30日
■サブプライム問題は対応可能 サブプライムローン関連を震源とする株価下落は信用収縮を懸念して、想定以上のものとなりました。証券化された商品の内容、所在がよく分からない上に、実体経済への影響も不明であることから、不安が増幅された形になったものと思われます。8月13日現在で高値からの下落率が、震源地の米国株はニューヨークダウが5.5%、SP500が6.4%に対して、ドイツダックス指数7.8%、日経平均株価8.0%と日欧の株価下落の方が大きかったのも不思議な気がします。 バブル崩壊後のわが国の対応のまずさを教訓に、金融問題に関しては世界の中央銀行は早い段階で手を打つのがよいことは十分に認識しています。それが今回の欧米中銀による迅速な流動性の供給につながったものと考えられます。サブプライム問題は、インフレの高進がなければという条件はつきますが、「流動性の供給」と「利下げ」によって政策的に解決可能な問題です。これらの政策で住宅価格の下落や金利上昇に歯止めがかかれば、住宅需要の復調ともあいまって、懸念は消えることになります。先進国の中央銀行が問題を共有し、既に行動を開始した以上、サブプライム問題をきっかけとする市場の混乱は落ち着く方向に向かっていると考えてもよいと思われます。■好調なファンダメンタルズが株価を下支え サブプライム問題に加えて、国内的にも内需、特に個人消費に勢いがないとか、自民党の大敗に伴う政策停滞懸念など、不透明材料がないわけではありませんが、ファンダメンタルズは順調です。設備投資は今年度も堅調に推移しており、設備投資主導型の景気が簡単に腰折れすることはないと思われます。企業収益も第1四半期の決算は予想を大幅に上回り、年度を通しても好調な海外景気を取り込むことによって、7~8%の売上高の伸びが見込まれ、この高い増収率を背景に二桁増益が確実視されます。足元の株価下落で日本株の割安感が強まったと思われます。■株価の展開予想・・・基調は崩れていないが、循環的には年内は保ち合い相場? 日経平均の1年移動平均は17,070円を通過中で、前年同期の株価水準を勘案すれば、上昇継続中です。その意味では上昇基調が崩れたとまで悲観的には考えなくてもよいと思われます。ただ2003年春に株価が反転してからの下落場面では1年移動平均からマイナス3%乖離が許容範囲で、今回に当てはめれば16,500円が下値限界ということになります。 足元中期の移動平均線、例えば13週線、100日線、26週線等はすべて下向きに転じています。この株価の下落の勢いは無視することができません。下降モメンタムが価格を支配する循環に入ってしまった以上、株価の上値は抑えられ、上値を追う力は弱められます。最近では同様の局面が2004年7月から12月、2006年の5月から10月に見られました。この2回の例では100日線が底入れするまでは100日線が株価の頭を抑えました(現在100日線は17,600円台で下降中)。少なくとも年内はボックス相場から抜け出せないと思われます。 年内はボックス相場を想定した上での効率的な運用が望まれます。最も魅力的な投資対象の一つは今回の下落場面でマーケットニュートラル型ファンドの巻き戻しで大きく売られた割安株ということになると思われます。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年08月23日
130/30ファンドと呼ばれるタイプのファンドが、いま、欧米で最先端を行くファンドとして注目されています。このファンドは「ロング・ショート・ファンド」の一種ですが、これまでのロング・ショート・ファンドとは違ったメカニズムをもっています。 運用資産100億円のファンドがあるとしましょう。130/30ファンドは、まず100億円で値上りが期待できる銘柄を現物で買い付けます。同時に、値下がりが大きそうな銘柄を30億円分空売りします。そして空売りで得た代金30億円でもって、値上りが期待できる銘柄を更に現物で30億円買い付けます。その結果、運用ポートフォリオの構成は、現物買い株式(ロングポジション)130億円、空売り株式(ショートポジション)30億円となります。これが、130/30ファンドといわれる所以です。投資家の立場から見ると、100億円で160億円(130+30)の投資運用を行っているということも出来ます。 なぜ、このような運用手法をとるのでしょうか。今までのロング・ショート・ファンドは空売り代金を再び現物買いに利用するということはしていません。100億円の株式を現物で買い、他方、30億円の空売りをすれば、実質的な株式組入れは70億円相当ということになり、株式組入れ比率は70%と低くなります。このため、従来のロング・ショート・ファンドは相場上昇期に弱いといわれます。一方、130/30ファンドでは株式現物買い130億円、空売り30億円ですから、ネットの株式投資額は100億円相当、株式組入れ比率は100%となり、相場上昇をフルに取り込むことができます。その上に、割安な銘柄を買い割高な銘柄を空売りすることによって、相場の上昇期には買付け銘柄で、下降期には空売り銘柄で、市場平均を上回る収益(アルファ)の獲得が期待できるというわけです。 因みに、なぜロングとショートの比率が130/30でなければならないか。理論的な根拠はないようですが、米国の投信法の規定で150/50が限度であることとリスク・リターン面の考慮から、130/30が妥当な比率となったようです。 このように130/30ファンドはロングポジションとショートポジションの巧みな組合わせによって、収益増大のチャンスが広がると言えますが、その反面、当然ながらリスクも大きくなります。それだけに、ファンドのパフォーマンスの良し悪しはファンドマネジャーの手腕にかかってきます。通常のロングオンリー(現物株買いのみ)のファンドだったら、ファンドマネジャーは魅力ある買付け銘柄だけを探せばよく、魅力のない銘柄は対象にする必要はありません。ところが130/30ファンドは、値下がりが予想される銘柄を空売りして収益を得ようとするわけですから、魅力のない銘柄も調査しなければなりません。買い銘柄売り銘柄の両面で有望な銘柄を発掘しアルファを獲得する、まさにアクティブ運用の極致といえるでしょう。また、ファンドマネジャーは空売りのノウハウにも精通していることが求められますし、株式の借入れや受渡しなど空売りをスムーズに行うためのプロセスも構築しなければなりません。 130/30ファンドは、これまでは年金基金など機関投資家の資金運用に利用されてきたといわれます。一般投資家向けの130/30ファンドは、まだ米国でも昨年から数ファンドが設定されただけですが、今年は急速に増加するだろうと予想されています。 日本の投信でも、ロング・ショート型のファンドは既に10数本存在しています。しかし、いずれも売建てと買建ての金額をほぼ同額とするマーケット・ニュートラル戦略(株式市場全体の変動に左右されない運用を目指す)をとるファンドで、130/30タイプのファンドはありません。しかし、今後、ハイリスク・ハイリターンのファンドへの需要が高まるにつれ、新しいタイプのアクティブ運用ファンドとして導入されるでしょう。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年08月16日
新興市場は、6月に入ってからは比較的堅調な動きを示ましたが、7月はその上げた分をだいぶ戻してしまいました。IPO銘柄の初値も、公募価格割れが続出していた一時のひどい状態は脱し、比較的好調な初値がついているようです。ただ、市場の公開審査が厳しくなっている情勢をうけて、公開銘柄数は昨年度よりはだいぶ減りそうな情勢です。それでも年間百数十社の公開が見込まれて、これだけの数のベンチャー企業が成功企業の仲間入りをすることになります。 ここで、IPO予備軍であるベンチャー企業の様子を見てみましょう■経営者はどんな人半導体など高度なハイテク製造業に多いのが技術者出身の社長です。大企業で先端的な技術を身に付けますが、大企業は今、選択と集中の時代ですから、自分の技術の生かしどころがなくなり、ベンチャー企業を起こすことになります。出身企業から出資などの好条件を引き出しつつ起業する場合(スピンオフ)もありますが、それと成功とはあまり関係がないようです。 バイオ企業で多いのが、いわゆる大学発ベンチャーです。一時期、民営化路線の流れに乗り、産学共同ということが盛んに言われたとき、大学の技術で一番起業化しやすかったのが創薬バイオでした。阪大と東大のベンチャー企業(森下教授のアンジェスMG,中村教授のオンコセラピー・サイエンス)が競うように公開を果たし、創業者が莫大なキャピタルゲインを手にすると、雨後の竹の子のように大学発のバイオベンチャーが起業され、教授の数だけベンチャー企業があると揶揄されるような状態が出現しました。この場合、技術の元は大学の先生ですから、退職しない場合、社長は他所から専門の経営者を連れてくることになります。 バイオや半導体の経営者・創業者のほとんどは、高学歴な専門家ですが、ベンチャー企業の経営者がすべてこのような人たちで占められている訳ではありません。IT系ベンチャーの社長は、技術のバックグラウンドという意味では専門家ではなく、どちらかというと営業センスで勝負するタイプが多いようです。例をあげると、ライブドアのホリエモンでしょうか。大学は文科系学部出身の人も多く、中退や中には高卒の社長もちらほら見受けられます。 ベンチャー企業でも外食産業やサービス業の経営者は、参入に必要なハードルが低いこともあり、出身や学歴は実に様々なタイプがいます。概して業態開発に冴えを見せるタイプと、店舗管理が得意なタイプに分かれますが、IPOまでこぎつけるまでには、その両者の資質が必要となり、バランスに苦労するようです。■IPO前の経営課題ベンチャー企業が当初の事業計画通り公開を果たすことは皆無といってよいでしょう。例外なく売上や利益の進捗は遅れていきますので、これを何とか修正しつつIPOまで持っていくのが経営者の腕です。 バイオ企業やハイテク製造業の場合は、研究開発が遅れることがほとんどで、その間に資金が枯渇するのが早いか、売上利益の実現が早いかという、ぎりぎりの勝負になります。 先に紹介した阪大や東大発のバイオ企業も、公開を果たした今も本格的な売上はまだ上がっていないのですが、いち早く公開したので公開時に研究資金も調達できています。 ところが最近、新興市場は態度を硬化させ、売上がはっきり見えていないと公開させてくれませんので、IPO候補のバイオ企業は資金枯渇による資金繰り倒産の危機に常に晒されていることになります。 外食やサービスなどのローテク企業でも、一般的に営業基盤が脆弱で売上も不安定です。一方で、成長するためには人件費などの経費もかかりますし、また急激な売上増加で運転資金が急増する場合もあります。営業一筋の“たたき上げ”社長の場合など、資金管理がおろそかになり、売上は伸びているのに金が続かなくなり、資金繰り倒産するといったケースもよく見られます。 人的資源の薄さはベンチャー企業の泣き所です。上記の資金繰り倒産も、財務部長がしっかりしていれば防げたのにと思われる事例も多く見受けられます。 技術の強い社長で、技術開発は上手くいって良い製品をつくるのですが、営業組織のマンパワーが不足で、売上計上に結びつけられないこともあります。また、社長がスーパーマン的になんでもやり過ぎ、ナンバー2にあたる人間が育たずに、いざという時に社長一人で、難関を乗り越えられないケースもあります。■内部統制の構築が負担に 最近のトピックス的な課題は内部統制です。新興市場であっても公開企業には、内部統制の強化が求められます。そのために、IPO予備軍には、会計監査だけでなく日本版SOX法の対応のために、監査法人やコンサルタントへの支払いだけでも年間20百万円以上の費用がかかってくるといわれます。 典型的には、売上10億円、利益1億円といた収益状況で、上場申請をする会社にとって、この20百万円の負担はかなり厳しいものになっています。 監査費用が原因で、公開を断念する企業がでるという、笑えない状況が出現するかも知れません。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年08月09日
為替レートが大きく動いている。米ドルの対円レートは、直近で3月6日につけた1ドル=115円22銭を底に、6月25日には1ドル=124円までドル高が進行。このように、マーケットが大きく動くと、改めて注目を集めるのが、外貨建て金融商品だ。 なかでも、最もホットなのが外国為替保証金取引(FX)。最近では、FX業者間でも顧客獲得のための競争が激化しており、各社、さまざまなサービスを打ち出してきている。なかでも注目されるのが、取引コストの引き下げとレバレッジ倍率の上昇に係わる競争だ。 従来、外貨建金融商品といえば、外貨預金が個人向けとしては最も手軽だったが、ネックは取引コストの高さだった。米ドルの場合、1ドルにつき往復で2円の為替手数料が取られる。仮に1ドル=124円だとすれば、そのコスト負担率は1.6%にもなる。これでは、いくら外貨預金が円建て預金に比べて金利が高いといっても、コスト負担分で相殺されてしまう。 ところが、FXはそもそも為替手数料が、高くとも往復で10銭程度。非常に低廉なコスト負担で外貨を取引できることから、個人の人気を集めてきた。 最近では、FXの顧客獲得競争が激化したため、FX会社のなかには為替手数料をゼロ円にしているところも少なくない。為替手数料をゼロ円にして、どうやってFX会社は儲けるのかという疑問も出てきそうだが、FXは基本的に外貨の売りと買いの2本値を提示しており、この差(スプレッド)がFX会社の収入になる。そのため、為替手数料をゼロ円にしても経営が成り立つというカラクリがある。 もちろん、為替手数料をゼロ円にする代わり、スプレッドが大きいようであれば、何のメリットもないが、スプレッドが常識的な範囲で、かつ為替手数料がゼロ円というFX会社であれば、それは利用者にとって望ましいともいえる。 一方、FX会社は為替手数料の引き下げとともに、レバレッジの最大倍率を引き上げることも、顧客利便の一環として考えているフシがある。なかには最大200倍ものレバレッジをかけられるFX会社もある。 レバレッジ200倍とは、具体的にどういうことか。仮に保証金として10万円を預けた場合、最大で2000万円相当の外貨を売買できるということだ。仮に1ドル=124円で米ドルを買った場合、1ドル=123円38銭まで円高ドル安が進むと、保証金全額が吹き飛ぶ計算になる。実際には、保証金が全額吹き飛ぶ前に、ロスカットによる取引停止が行われるだろうから、全くの一文無しになることはないと思われるが、それでも、これだけのリスクがあることは理解しておいた方が良い。 少額資金でしか運用できない人でも、大きなリターンを得るチャンスがあるということで、より高いレバレッジを求める声があるのも事実だ。FX会社間の競争が激化しているだけに、いずれ300倍、400倍というレバレッジを設定できるFX会社も登場するかもしれない。しかし、これだけのレバレッジをかけて、きちっと利益を積み重ねられる投資家というのは、ごく一握りの人たちだ。 往々にして、「為替手数料ゼロ円!最大レバレッジ200倍!!」などと、広告にうたうFX会社もあるが、こうした数字情報にはあまり踊らされない方が良い。少なくとも、為替手数料ゼロ円は歓迎したいところだが、レバレッジの高さを競われても、利用者にとっては無暗に高いリスクを負わされることになりかねない。自分の身の丈にあったリスクを取って、運用するようにしよう。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年08月02日
6月、住民税の負担について実感された方が多いのではないでしょうか。国(所得税)から地方(住民税)への税源移譲に伴い、6月から大半の世帯で住民税が引き上げられたため、県や市町村へ「なぜこんなに高いのか」「間違いではないのか」などの問い合わせが殺到したようです。 今回の税源移譲で、住民税は3段階の税率から一律10%(最低税率5%→10%)に変わり、ほとんどの世帯で6月から住民税が上がっているものの、所得税は4段階の税率を6段階(最低税率10%→5%)へ細分化され、すでに1月から税額が下がっているため所得税と住民税とを合わせた税負担は基本的にはありません。しかし、不況対策として続けられてきた定率減税が廃止されたため、負担増を実感された方が多いと思われます。(詳しくは財務省「平成19年から所得税が変わります(税源移譲の実施、定率減税の廃止)」へ) さて私の周囲では、パートで働く主婦の方たちから「税金がかからない範囲内で働いているのに、住民税の請求がきた」という話が多く聞かれました。パート収入など所得にかかる税金には所得税と住民税があり、両者にはいろいろと違いがあるのですが、ここのところを誤解されている方が少なくないようです。所得税と住民税の違いをいくつか挙げてみました。■課税対象所得の違い 所得税はその年の所得に課税されますが、住民税は前年の所得に課税されます。新入社員など前年の所得がない方の場合、就職した年の給与から引き落としされる住民税がゼロなのはそのためです。住民税は1年遅れで課税され、翌年の6月以降に収めることになります。■所得控除の違い 所得税に比べ、住民税の控除額は若干少なめです。たとえば一般の扶養控除額は、所得税は38万円、住民税は33万円と控除額に差があるため、住民税の課税所得は所得税のそれよりも多くなってしまいます。しかし今回の税源移譲では、このような負担増を調整するために「調整控除」が設けられ、所得控除額の差によって税額が増えないように調整されています。■住宅ローン控除の有無 基本的に住民税については「住宅ローン控除」による税額還付がありません。そのため、昨年までにすでに控除を受けている平成11年から18年までの入居者の場合、今回の税源移譲に伴い所得税額が減少することによって、住宅ローン控除が所得税から控除しきれなくなる場合には、申請により、その分を翌年度の住民税で減額する措置が設けられています。 また、平成19年、20年中に住宅を購入して新たに住宅ローン控除を受ける場合は、税源移譲に伴い中低所得者層の減税額を確保するため、現行(10年)の制度に加え特例(15年)が創設され、選択制になっています。詳しくは財務省の「住宅ローン減税制度の概要」をご覧下さい。■非課税になる範囲の違いパートで働く主婦の場合をみてみましょう。(東京23区。給与収入のみ。控除対象配偶者、扶養親族がいない場合と仮定。)所得税は103万円以下(給与所得控除65万円+基礎控除38万円)、住民税は100万円以下(住民税については市区町村により違いあり)であれば税金がかからないことになります。ただし住民税には均等割と所得割があり、市区町村によっては均等割と所得割で非課税になる所得の範囲が違う場合があるので注意が必要です。(ちなみに私の住む市では均等割は96万5000円以下、所得割は100万円以下の場合は非課税となっています。)お住まいの市区町村のホームページや役所で確認してみてください。これまで所得税の影に隠れ比較的目立たない存在の住民税でしたが、これからは住民税の負担を実感するとともに、その使われ方(対価として受ける地域サービスや財政など)についても関心を持って注視したいものです。年金や税金など身近なお金に関しては、シンプルで誰にでも解りやすい制度であって欲しいですね。エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵
2007年07月27日
■日本株を買い続ける外国人 外国人投資家の日本株買いが続いています。6月も1兆1,456億円の買い越しと今年度に入ってから3ヶ月連続で1兆円を超える買い越しとなっています。3ヶ月合計の買い越し額は3兆8,891億円に達しています。月間1兆円超の買い越し額は世界連鎖株安に見舞われた3月を除くと昨年12月から続いており、常態化しつつあるといってもいいほどです。 日本株が底入れ、反転に転じた2003年4月以降の4年3ヶ月(51ヶ月)で月間ベースで外国人が日本株を売り越したのは、わずかに3回(2004年5月、2006年5・6月)しかなく、それらは株価が前年同月比で50%を超える上昇を示した直後にだけ起こっています。株価が過熱気味に上昇し、利食いを優先した時以外は外国人は高い確率 (48/51=94%)で日本株を買い続けていることになります。ファンダメンタルズを重視し、理論派で通る外国人が日本株を「買い」と決めている以上は日本株に割安感を感じていることになります。■円資産は魅力的 インフレ調整後の実質為替レートを輸出ウエィトで加重平均した実質実効円レートは5月に94.9まで低下しています。この指数は1973年3月を100としたものであり、その水準を下回っていることになります。1973年3月というのは日本円が2月に変動相場制入りした翌月のことであり、足元の円が如何に割安であるかを如実に示すものと言えます。外国人の目から見るならば、円資産が如何に割安に放置されているかであり、グローバルに見てもその出遅れ感は魅力的に移ると思われます。実質実効円レートは2000年以降ほぼ一貫して低下してきており、外国人が日本株を買い続ける一つの要因になっていると考えられます。■変動率の低下は先高の証し 日経平均株価の日々の変動幅(高値―安値)は最近100円に達しない日も多く、1ヶ月平均では100円強です。終値平均との対比での変動率はわずかに0.56%で、この変動率は05年8月以来、1年11ヶ月ぶりの低さです。株価の変動率は市場参加者の不安感を表すものと考えられます。変動率が高いということは、それだけ不透明感が増していることですし、変動率が低いということであれば、相場の行方に対する投資家の懸念が弱まっていることを示します。盛り上がらない商いの下での堅調な株価はある意味では投資家の株価先高観が強い様子を示唆していることになります。 最近で株価が最も小動きであったのは2005年8月上旬ですが、それ以降年末から翌年春にかけての商いを伴った株高は記憶に新しいところです。先高期待が膨らみます。月末の参議院選挙の結果は気になりますが、同じ時期に主力企業の第1四半期の決算発表が予定されています。想定以上の円安もあり、上方修正期待が現実のものになれば株高期待に弾みがつくことも考えられます。外国人に加えて個人の市場参加により、細り気味の商いがどの程度膨らむかがポイントになると思われます。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年07月19日
市場指数に連動することを目指すインデックス運用は、今日では年金基金や投資信託の最も主要な運用手法となっています。その対象となるインデックスの構築方法について、いま、米国でホットな論争が火花を散らしています。 従来、年金基金や投資信託で採用されているインデックスの多くは、米国のS&P500指数にしても日本の東証株価指数にしても、株式市場での時価総額に応じて構成銘柄のウエイトを決める「時価総額ウエイトインデックス」です。ところが、最近、それとは異なったコンセプトにもとづいて構築された指数が開発され、年金や投信の運用者の間で注目を集めているのです。 「ファンダメンタルインデックス」と呼ばれるインデックスがそれで、開発したのは米国の著名な投資理論家であるロバート・アーノット氏です。このインデックスは、時価総額は用いず、企業の売上、株主資本、キャッシュフロー、配当の4つのファクターを用いて対象となる個別銘柄のウエイトを算出し、その上位100とか1000銘柄で指数を構成します。 このような考え方に至ったのは、従来の時価総額ウエイトインデックスをベンチマークとしてインデックスファンドを運用すると、1999年のITバブルのような局面でも、株価が高騰し、時価総額が大きくなった銘柄を買い続けなければならず、その後、バブルが崩壊するとポートフォリオが大きなダメージを受けるという苦い経験をしたからだと言われます。時価総額ウエイトインデックスはオーバーバリュー(割高)銘柄にウエイトがかかりすぎる、という反省から生まれたのがファンダメンタルインデックスなのです。そこで、株価以外の財務指標によって指数を構成すれば、市場参加者のセンチメントに左右されることなく企業の本質的株式価値を反映するでしょうから、長期的な運用にふさわしいベンチマークになると主張しています。 これに対し、伝統的な時価総額ウエイトインデックス擁護派からは、ファンダメンタルインデックスは、配当などファンダメンタル面で優位な大型のバリュー株のウエイトが高くなりすぎる傾向があるとの批判が出ています。また、ファンダメンタルインデックスをベンチマークとしたインデックスファンドでは、ファンダメンタル・ファクターに変化が出ると個々の銘柄のインデックスウエイトが変わるから、それに合わせてポートフォリオ組入銘柄の売買を行わなくてはならず、売買コストがかさみ、パフォーマンスに影響すると懸念しています。時価総額ベースのインデックスなら、ある銘柄の株価が上昇しインデックス構成ウエイトが大きくなっても、ポートフォリオ中のその銘柄の構成比率も同じように大きくなるから売買の必要はないと言うわけです。更に、ファンダメンタルインデックスによる運用は、パッシブ運用と言えるかどうか、クオンツ(計量モデル)によるアクティブ運用ではないかとの声も聞かれます。 ファンダメンタルインデックスによる運用がパッシブかアクティブかの論争はあるにせよ、そのコンセプトは既に内外の年金基金や投資信託の運用に採り入れられています。米国の投信では、ファンダメンタルインデックスをベンチマークとした株価指数連動型上場投資信託(ETF)がいくつも設定されています。日本の投信でも、野村アセットが、ファンダメンタルインデックスのコンセプトを用いた運用手法の日本株ファンドを最近設定しています。ただし、野村ではこのファンドをインデックスファンドの範疇に含めていません。 いずれにせよ、これまで単一思考だったインデックス運用の世界に新しいコンセプトが導入されたことは、投資家にとっても資産運用の選択肢が広がるものと歓迎されます。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年07月12日
社会保険庁による年金の加入記録問題が次々と明らかになっています。年金にまつわる問題としては、分かり難い制度の問題、共済年金と厚生年金、働く女性と専業主婦などの不公平感の問題、年金財政と世代間格差の問題、そして年金加入記録管理の問題と、改革すべき問題は山積みで、年金に対する不信感が高まっているようです。とは言うものの、金融広報委員会の「家計の金融資産に関する世論調査(2006年)」によると「老後における生活資金源」を「公的年金」と回答した割合は約74.5%(主に家計を支えている方の年齢が60歳以上を対象として、3項目以内で複数回答)となっており、年金は老後の生活を支えるおおきな柱となっていることも事実です。 年金加入記録の間違いは、受け取る年金額が減ってしまうことや本来受け取れるべき年金が受け取れなくなってしまう恐れもありますから、自分の加入記録を確認しておくことが大切になります。 年金加入記録の間違いが起こるケースとして、転職経験者、数年の勤務後に結婚して国民年金に加入した主婦、転居を繰り返した人、同姓同名が多い人や名前の読み仮名の間違いが考えられる人などが挙げられるようです。(実は私も転職経験、結婚後の国民年金、度重なる転居と間違いが起こりやすいケースに複数該当するため確認してみた一人です。結果、私の場合は加入記録に間違いはありませんでしたが、転職の合間の国民年金未納期間を確認することができました。)加入記録に不安のある方はぜひ確認をしてみて下さい。 年金加入記録を確認する方法としては、(1)社会保険事務所の窓口で確認する方法(2)電話「ねんきんダイヤル」「ねんきんあんしんダイヤル」で相談する方法(3)インターネットの「年金個人情報提供サービス」を利用する方法(4)「ねんきん定期便」など社会保険庁からの通知で確認する方法などがあります。詳しくは社会保険庁のホームページをご確認下さい。 インターネットを利用できる方であれば、(3)のインターネットの「年金個人情報提供サービス」を利用する方法が便利です。これは、インターネットで年金加入記録の提供について申し込むと、後日郵送で届くユーザーIDとパスワードを利用して、年金加入記録を確認することができるというものです。一度ユーザーIDとパスワードを取得すれば、インターネットを利用することでいつでも確認することができます。申し込みには基礎年金番号が必要になりますから、年金手帳を会社などに預けている方は基礎年金番号を確認しておきましょう。 さて、インターネットによる「年金個人情報提供サービス」では、会社名や加入制度、資格取得日と資格喪失日、加入期間などこれまでの加入履歴に加え、標準報酬月額・標準賞与額(保険料や年金を計算する基になる額)も確認することができます。 この標準報酬月額・標準賞与額を参考に、同じく社会保険庁のホームページにある「年金額簡易試算」を利用して将来の年金額を簡易試算してみることも可能です。あくまでも簡易試算ですから試算された年金額はおおよその目安であり、制度改正などによって変わりますが、ライフプランを立てる際の参考にはなると思います。(なお、共済年金・各種年金基金は対象外となっていますのでご注意下さい。) 試算の方法は、これまでの加入状況を入力した後今後60歳までの加入予定を入力して試算します。退職や再就職・転職などを考えている方は、今後の加入予定の部分を働き方や収入を様々に仮定して、将来受け取る年金の変化を試算することもできます。 加入記録の確認と合わせて、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。(エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵)
2007年07月05日
J-REITの価格動向を示すベンチマークに、東証REIT指数がある。3月末時点をベースに見ると、過去1年間の配当金込みで約50%もの値上がりになった。まだ日本国内全体には波及していないが、一部地域における地価高騰が、J-REITの価格上昇要因になっている。 そして、J-REITの価格上昇の裏側にあるのが、J-REITを組み入れて運用されているREITファンドだ。特にここ2~3年で新規設定が急増。現在では20本近いファンドが、新規設定・運用されている。 REITファンドには、おもに東証上場のREITに投資するタイプと、海外のREITに投資するタイプとに分かれる。もちろん、東証REIT市場の価格形成に強い影響を与えるのは、これらのうち前者のタイプだ。この純資産残高を合計すると、昨年3月末が3,291億6,800万円。これに対して、今年3月末が6,201億1,000万円へと増加した。 果たして、それが東証REIT市場の価格形成に、どの程度の影響を与えているのか。これは、東証REIT市場の時価総額を見れば、一目瞭然だ。3月末時点における東証REIT市場の時価総額は、上場銘柄数40銘柄の合計額で6兆3,014億200万円。これに対して、J-REITファンドの純資産残高合計額は、20ファンドで6,201億1,000万円。これは、東証REIT市場の時価総額に対して、約10%を占めていることになる。 まさに投資信託と、その投資先マーケットの価格形成との間に、ある種の好循環が生まれている。つまり、「ファンドが買われる→マーケットに資金流入→マーケットの価格上昇→ファンドの運用実績向上→さらにファンドが買われる」という流れが、上手く働いている。もちろん、J-REITファンドを通じての資金流入が、東証REIT市場の活性化のすべてなどというつもりはないが、少なくとも一因になっているのは事実だろう。 ただ、ひとつ注意しなければならないのは、好循環はいつ悪循環に変わってもおかしく無いということだ。たとえば、何らかの拍子で東証REIT市場の暴落が生じたとしよう。当然、上場不動産投資信託の市場価格は、大幅に下落することになる。当然、その市場に投資するタイプのファンドは、基準価額が大幅に下落し、再び長い冬に突入する恐れが非常に高い。 もちろん、基準価額が下落するだけであれば、まだ問題は小さくで済むが、実際には、ここに「解約」という問題が絡んでくる。解約に対応するためには、ファンドに組み入れられている銘柄の一部を売却して、解約代金を作らなければならない。 新規設定が相次ぎ、かつ短期間のうちに多額の資金が集まっている状況は、確かに好循環ではあるが、一方で、今の東証REIT市場の好調さは、かなり脆弱な基盤の上に成り立っていると考えることができそうだ。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年06月28日
■低迷する新興市場 6月に入りTOPIXや日経平均は高値圏にあり、新興市場もつられて多少持ち直していますが、高値更新とは程遠い底値圏での反発程度にとどまり、低迷から脱する兆しは見られません。 原因はさまざま言われていますが、一つは新興企業の発表する決算業績の数字に関する、いくつかの不祥事や下方修正が相継いだあと、信頼感がすっかり地に落ちてしまったことがあげられます。企業の発表する業績の数字が信頼できないのでは、だれも投資する人はいなくなるのは当然です。■ミクシィの業績と株価 もう一つ、低迷の原因としてあげられるのは、IPO時の株価が高すぎ、それが剥げ落ちる効果が続いていることです。昨年9月のこのブログで、新興市場のバブル的な価格のつき方を解説する意味でミクシィ(東証マザーズ 2121)をとりあげました。昨年の9月のIPO時に初値上昇率で90.32%、時価総額2,079億円のたたき出したSNS(ソシアルネットワークサービス)の雄です。この銘柄を材料に、公開時の株価がその後どうなったかを見てみましょう。■業績は絶好調・良好な開示姿勢 07/3期でIPO後初の決算を迎えることになる業績はどうでしょう。決算発表はまだですが、決算短信は出ていますのでチェックしてみます。それによると、決算は絶好調で、売上も利益も公開時の予想を上回っています。会員数が順調に拡大し、広告の売上も好調です。 前のブログで指摘した公開で得た資金の使途ですが、その多くが待機資金として一時的に国債投資にまわされたとの記載があります。投資機会が企業内になかったということで、一面失望させられますが、やみくもな企業買収、設備投資・人員拡大には使われず、既存事業を計画にのっとり着々と進めたということで、誠実・堅実な投資・経営スタンスが感じられます。開示資料も、誠実な記述で信頼感があります。■しかし株価は半分、割安感はまだ出ず株価チャートを見てみると、IPO後からほぼコンスタントに株価は下げ続け、07/5に入って、初値のほぼ半分になりました。好業績、会計不信とは無縁な健全決算・誠実な開示姿勢、堅実な経営とそろっているのに、なぜ株価は半分になるのでしょうか。 これは、IPO時につけた株価300万円が高過ぎることにつきるのではないでしょうか。現在の株価160万円は、07/3期の利益でもPERで110倍もあります。08/3期で利益が倍増しても、PERは55倍とまだ割高です。さらに利益倍増を達成してPER27.5倍でやっとなんとか、成長株にしては割安かなという水準に達します。■高すぎた期待 現在のミクシィの会員数はすでに1,000万人程ですので、既存ビジネスでここから倍増を2回繰り返し4,000万にもっていくという形で利益を積み上げるのは、日本の人口を考えるとさすがに非現実的です。この会社は、早晩別個のビジネスモデルを作らなければなりません。 IPO時の株価は300万円の株価は、その倍のスピードの営業展開を望んでいたことになりますので、今となって思えばいかに過大な期待をかけていたかを思い知らされます。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年06月21日
■家計に「運用」の成果 どうやら「運用」の成果が家計に流入し始めたようです。 90年代から続いた長期にわたる金利低下の影響による利子収入の減少から、家計の利子・配当の財産所得の受け取りは91年度をピークに一貫して低下傾向にありましたが、ここ3年緩やかながらも増加に転じてきています。利子・配当の収入計は03年度の8.3兆円を底に04年度9.5兆円、05年度10.5兆円、06年度12.3兆円と順調に拡大してきています。利上げの影響もあり、利子収入の減少に06年度で歯止めがかかった一方で、著しく増えているのが配当所得です。企業の株主還元重視の姿勢の高まりから配当は増加傾向にあり、投信等を含めた配当収入は過去5年間で4倍と著増しており、06年度では9.2兆円と利子収入の3倍強にまで膨らみ、過去最高を記録しています。企業収益が配当という形で家計に波及し、結果として家計を潤しています。資金シフトは始まったばかりであり、家計の金融資産に占める現預金のウェイトの50%割れ(昨年12月末50.5%)等の象徴的な出来事で、「貯蓄」から「投資」への流れはより鮮明になるものと思われます。■日本株に出遅れ感 時価総額ベースの株価指数である東証株価指数(TOPIX)とNY市場のS&P500の単純比較をしてみます。2001年から2005年までの5年間のTOPIXとS&P500のそれぞれの平均値は、TOPIXが1,096.72、S&P500が1,097.94であり、TOPIX÷S&P500=0.999と、全くといっていいほど同水準でした。実はこの5年というのは、わが国の消費者物価がマイナスであった期間です。グローバルに見ても一国の消費者物価が長期間マイナスを続けるというのは異常であり、稀なことです。稀な経済状態にあったこの期間においてもTOPIXとS&P500の株価水準が同水準であったことに注目すべきだと思います。普通の状態に戻れば、と期待は膨らみます。 わが国の消費者物価(旧基準)がプラスの領域に入ったのは2005年秋からです。この時期以降、日米株価の相対水準の居所は大きく変わっています。05年11月から07年5月までのTOPIX÷S&P500の平均値は1.227まで上がっています。しかも昨年4月7日にTOPIXが高値をつけたときには、その数値は1.377まで跳ね上がっています。4月、5月と年初来高値を更新し続けたS&P500にTOPIXが割り負けし、相対株価は低下中ですが、根底には、わが国の消費者物価が再びマイナスになったことも響いているのかもしれません。消費者物価がプラスになるという明確な見通しを持てる頃には、足元で米国株に出遅れていた日本株の巻き返しが期待できると思われます。個人投資家の国内株回帰が必要条件になるとは思いますが。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年06月14日
投資信託もヘッジファンドも、投資家から資金を集め、それを証券や金融商品などに投資して投資収益を投資家に還元するという仕組みに変わりはありません。しかし、投資信託とヘッジファンドとでは、次のような相異があります。(1)投資信託の設定や運用は投資信託法の適用を受けますが、ヘッジファンドは投信法の適用を受けません。このため運用上の制約は投信よりも格段に緩くなっています。(2)投信は市場平均を上回る相対的な投資収益の獲得を目指しますが、ヘッジファンドは、市場の上昇・下降にかかわりなく絶対的な投資収益の獲得を目指します。(3)投信は借入金を行なって投資することが出来ませんが、ヘッジファンドは、大幅な借入金を働かせて(レバレッジを効かせて)大きなリスクをとる投資を行ない、収益の増大を図るという、ハイリスク・ハイリターンの投資をすることができます。(4)投信の運用会社は、運用資産に対する一定率の運用報酬をもらうだけですが、ヘッジファンドの運用者は、それに加えて運用収益の一定割合(通常20%)の成功報酬を徴収します。(5)投資信託は主として流動性の高い上場有価証券や金融商品に投資しますが、ヘッジファンドは未公開株や流動性の乏しい投資物件にも積極的に投資します。(6)投資信託は、投資家が換金したいときは即座に時価で解約できますが、ヘッジファンドでは、解約できる時期が決まっていたり解約に時間がかかるなど、換金に制約があります。このことが上記(5)の投資対象の相異ともなっているのです。(7)投資信託は投信法その他の規則で運用報告書や月報など運用状況が克明にディスクローズされていますが、ヘッジファンドは公のディスクロージャーはほとんどなされていません。これはヘッジファンドが特定の投資家を対象とした私募ファンド形態をとっているからです。(8)投資信託は、通常1万円から購入することが出来ますが、ヘッジファンドの購入単位は、通常100万円あるいはそれ以上の高額としています。金融機関や事業法人など機関投資家を主な顧客層とし、個人投資家は富裕層をターゲットにしています。 以上のように、ヘッジファンドは一般の個人投資家にはとっつきにくい投資商品ですが、最近ではヘッジファンドを小口化して一般個人投資家にも購入しやすくする動きが出てきています。「ファンド・オブ・ヘッジファンズ」という投資信託です。ヘッジファンドの投資戦略には、株式ロング・ショート、株式マーケットニュートラル、債券アービトラージ、グローバルマクロ、イベント・ドリブン、それらの戦略を複合したマルチストラテジーなどがありますが、そうしたいろいろな戦略をとるヘッジファンドに分散投資する投資信託です。 しかし、日本では国内投信でファンド・オブ・ヘッジファンズを設定することは出来ません。このため、現在日本で販売されているファンド・オブ・ヘッジファンズは外国籍のファンドです。ただ、日本の投信でも、ヘッジファンドの運用戦略をとっているファンドが十数本あります。それらのほとんどは、株式市場の上下変動の影響を排除して絶対リターンの獲得を狙うマーケットニュートラル型のファンドです。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年06月07日
損害保険会社に続き、生命保険各社の保険金不払いが問題になっています。各社の調査はまだ終わっておらず不払いの件数や金額は今後さらに増える可能性があるようですが、4/13に各社が公表している調査結果(各社のホームページで確認することができます)から、不払いの具体的事例として目立ったものを取り上げてみました。■手術給付金の支払い漏れ 保険金を請求する場合は医師の診断書を提出が求められますが、その診断書の手術欄以外の経過欄などへ記載された内容の見落としによる支払い漏れなど■三大疾病特約などの特定疾病保険金の未払い 入院給付金請求の診断書に記載された病名から、三大疾病など特定疾病保険金の支払要件に該当すると判断できるにも関わらず、請求案内などを怠り支払っていなかった■入院給付金の支払い漏れ 診断書の入院期間欄以外に記載された情報の見落としや誤読、入力ミスによる支払い漏れ。また、死亡前の入院給付金の支払い漏れなど■通院給付金の支払い漏れ 通院特約が付加された契約だが、契約者から通院給付金の請求が無いために通院給付金を支払っていなかったケースや、診断書の通院欄の記載を見落としてしまったケース■保険金・給付金以外の支払い漏れ 保険料の支払いをやめた契約者への失効返戻金や解約返戻金、保険金の支払いが遅れた場合の遅延利息の支払い漏れ 「不払い」はその原因により、(a)保険金の請求をしているが、告知義務違反や免責事項などを不当に適用され支払いを拒否されることによる「不払い」、(b)請求がないために支払われていない「未払い」、(c) 請求はあるものの複数の保障についての請求がないために支払われていない「支払い漏れ」、(d)生保の事務的ミスなどによる「誤払い」や「支払い漏れ」、に分けることができると思います。 今回の不払いの原因は (c)と(d) によるもので、保険契約者側からすれば、とりあえず診断書を提出して保険金や給付金の請求をしているのですから、よもやもらい忘れ(生保からすると支払い漏れ)があるなどとは思わないケースが多いようです。これらは請求の際に提出される診断書のチェックや、加入者への請求漏れの確認や案内をすることで防ぐことができたものと思われ、とても残念です。「保険金の支払い」を軽視してきた保険会社の姿勢が見えます。 さて私たち契約者が保険金の不払いを避けるためには、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。 一番大切なことは、自分がどんな保険に加入しているのか、保険内容を把握しておくことです。ひとつの保険でも「主契約」に「特約」を付加することで様々な保障が付いている場合があります。加入している「特約」の内容についても確認しておきましょう。保険契約の内容については、保険証券や毎年送られてくる「ご契約内容のお知らせ」などに記載されています。複数の保障が組み合わさった複雑な保険契約で解り難い場合は、保険会社に問い合わせるなどしてしっかり確認しておきましょう。 一般的な生命保険の基礎知識については、生命保険文化センターのホームページでも調べることができます。 仮に月1万円の保険料を30年払うとしたら360万円。一度に支払うことが少ないため気付きませんが、保険は意外と高い買い物です。勧められるまま安易に加入してしまうことなく、納得できるまで説明を求め、信頼できる会社・営業担当者とお付き合いしたいものです。 現在、生命保険会社では追加支払いの可能性のある契約者に向けて、確認や手続きの案内を通知しているようですが、該当する可能性のある方は今一度確認してみて下さい。疑問があれば、各社、問い合わせ専用のフリーダイヤルが準備されているようですから問い合わせてみましょう。 (社)生命保険協会 、生保各社のホームページでは、調査結果と共にチェック体制強化など支払いの際のルール整備や社員教育、契約者への説明や情報提供の充実、わかりやすい商品への見直しなど、再発防止に向けた取り組みも発表されています。契約者の立場に立ったシステム作りが待たれます。(エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー 西川育恵)
2007年05月31日
過日、ある雑誌の特集で、海外ETFの取材を行なった。あまり話題に上らないので、まだそれほど知られてはいないが、実は日本の証券会社は、海外の証券取引所に上場されているETFを結構扱っていたりする。 個人的には、もし海外の株式市場に投資するのであれば、個別銘柄の一本釣りを行うよりも、海外ETFで運用した方が、無難ではないかと思っている。確かに、株価インデックスに連動するETFを購入するよりも、個別銘柄を買った方が、見通しが当たった時のリターンは大きい。しかし、問題は個別銘柄を一本釣りできるだけの情報が取れるかどうかということだ。もちろん、かつてに比べれば、米国株や欧州株、中国株に関連する投資情報は、非常に増えている。会社四季報の中国株版も登場しているくらいだ。 ただ、銘柄を選ぶ際の判断材料は、何も業績や財務諸表といったデータだけではない。その国に住んでいる人の生活様式、ビジネス慣習などから得られる情報も多いはずだ。ちょっと古い話題で恐縮だが、たとえば日本の駐車場ビジネスが伸びるかも知れないといった発想は、日本の道路交通法が改正されるという、極めてローカルな情報を把握していない限り、生まれてこない。これは恐らく、外国株投資にも当てはまることだろう。少なくとも日本でしか生活したことのない人にとって、たとえば中国人の生活様式、ビジネス慣習といった点も含めて、これから伸びるであろう企業の株式に投資することは、非常に難しい行為になる。 そうであれば、最初から株価インデックスに連動するETFを買った方が、当たりはずれが少ないということになる。その意味で、海外市場に投資するのであれば、ETFをはじめとするインデックス型のファンドを買っておくのが無難だと考える。 しかも海外ETFであれば、個別銘柄と同じように、ザラ場で取引することが可能だ。日本の証券取引所に上場されているETFに比べて、やや機動力には劣るが、それでも、自由に売買できるという安心感はある。 その意味でも、海外市場に投資するのであれば、海外ETFをお勧めしたいところなのだが、残念なことに、それを扱っている証券会社が、あまり積極的にこの手の商品をアピールしようとしない。ETFは他の投資信託に比べてコストが割安であり、投資家にとっては有利なのだが、それは販売する側の立場から見ると、「売ってもあまり儲からない」ということになる。 雑誌の取材に際して、海外ETFを扱っている証券会社の多くに、電話で確認取材を行った。自分の証券会社で、何の海外ETFを扱っているのか知らないところもあった。ましてや、管理報酬などのコストを聞こうにも、なかなか正確な数字が出てこない。これでは、海外ETFが優れた商品でありながら、なかなか日本の個人投資家に浸透しない理由もよくわかる。 最近は雑誌などを通じて、徐々に海外ETFが注目を集めているのも事実だ。こうした記事を読んで、自分も海外ETFに投資してみようと考えている人もいるだろう。ただ、その際は、きちっと商品説明ができる証券会社を選ぶこと。ロクに商品説明もできない販売担当者が出てくるような証券会社では、取引するべきではないだろう。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年05月24日
日本株をとりまく投資環境にはいくつか象徴的な動きが見られます。第一には顕著な「名目値」の回復です。わが国の株式市場では、デフレで資産が目減りすることを前提に株価は形成されてきました。足元は結果として下がりすぎた価格が是正される方向にあるわけであり、株価の先行きについて、不安は少ないと考えられます。■象徴的な動き・2007年度には経済成長率で特殊要因を除けば、14年ぶりに名実逆転の解消が見込まれます。・戦後最長の景気回復下で、好景気で低金利という状況が明確になります。1年前に閣内で名目成長率と長期金利とどちらが高くあるべきかという議論がありましたが、2007年度にはわが国においても、あたかも成長国経済のように名目成長率が10年債金利を上回ることになります。これは2003年からの米国でも見られた現象です。米国では住宅がバブル的な様相を呈しましたが、わが国でも資産価格にプラスに働くものと思われます。・本邦企業は好調な世界経済、とりわけアジアのダイナミズムを取り込む形で高成長を続けています。このことは2004年以降の企業の売上高の伸びに現れており、ここ3年、企業の売上高は名目GDPの伸び率を5~6%上回っています。名目GDPの伸び率2%台、売上高成長率7~8%ということになれば、二桁の利益成長は当然ということになります。 長らく水面下、もしくはゼロ近傍にあった名目値がはっきりと成長を遂げるということは、デフレからの明確な脱却であり、資産価値にもポジティブに作用するものと思われます。 加えて、1991年以来下降を続けてきたわが国の投資循環が、2002年を底に拡大を続けていることです。投資主導型の景気拡大には持続性があり、長期的な株価上昇につながるという経験則もあります。 そして、日米の成長率逆転です。IMFの公表数字によれば2007年の実質成長率では、わが国が1991年以来16年ぶりに米国を上回ります。ここ1ヶ月ほどの間に相次いで起こったS&Pによる日本国債の格付け引き上げや、ムーディーズの三大銀行グループの格上げも同様に象徴的な動きといえます。 堅調な海外経済の恩恵を受け、実効為替レートの低下という更なる追い風もあり、海外部門の収益を柱に業績好調が続くと思われます。現段階で2007年度の公表見通しは相変わらず保守的で、前年度比横ばいが見込まれています。 年度というくくりで見れば、今年度も過去4年と同じように慎重な収益見通しを映す形で、4~6月期が安値である可能性が強いと思われます。今年度も第1四半期に株を買った投資家が報われると思われますが、短絡に過ぎるでしょうか。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年05月17日
3月29日、JASDAQ証券取引所は、8月から新たな市場を創設することを発表しました。この市場は「将来性あるテクノロジー開発やビジネスモデル展開を行う成長の可能性を有する企業を支援」するものとされ、「イノベーションの創出、新産業の創造に貢献」すると謳われています。東証マザーズ、大証ヘラクレスの兄弟分として、ベンチャー企業に公開の場を提供する新興市場に、新たな一員が加わろうとしています。 このところTOPIXや日経平均は底堅い動きを見せているのに比べると、新興市場の株価は不振を極めています。4月23日には、マザーズ株式指数は開始来の安値を付けたようなひどい状態ですが、ここで新しい市場を創設する理由のひとつには、先に何回もこのコラムで取り上げたように、このところ公開が困難になってきた、バイオ企業に代表される技術先行型企業の公開に道を開くことだと言われています。この市場は、ベンチャー企業を公開させるために、いくつかの新しい試みが導入される予定です。【リスク開示の試み:マイルストーン明示の義務付け】 この新市場では、分かりにくいハイテク技術を投資家に説明するために、開示にマイルストーンを表示することが謳われています。 マイルストーンというのは、最近ビジネスの現場でよく使われる言葉で、原義は「道標(みちしるべ)」ということです。道にマイルごとに石を置いて、旅程がどこまで進んだかを示すことから来ています。創薬ベンチャーなどの例では、ある薬の開発がどこまで進むかといった状況を具体的な目標(マイルストトーン)として定め、その達成状況によって開発資金などが支払われたりするマイルストーン契約などがその例となります。 投資家に対する開示に使うとしたら、「公開後2年以内に創薬候補物質に対する臨床試験を完了することを計画している」といった経営コミットをマイルストーンとして提示することになります。投資家としては、2年後の臨床試験が開始されるかどうかを注視していれば良いわけです。 ただ、JASDAQ市場でマイルストーンが開示されたとしても、それを金科玉条のように硬直的なものと捉えると、それは行き過ぎでしょう。リスクの高いビジネスなので、ビジネスモデルの変更は毎月のように起こり、仮にマイルストーンが達成できなかったとしても、びっくりすることではありません。具体的な開示も非常にデリケートな問題となりますが、投資家もリスクの高い投資対象企業から開示された情報の取り扱いに慣れる必要があります。【技術評価アドバイザリー・コミッティーの設置】 新JASDAQ市場のもう一つの目玉として、取引所に設置されたアドバイザリー・コミッティー(アドバイス委員会とでも訳すのでしょうか)が、「中立の観点から」ビジネスモデルの基礎となる技術を評価し開示をすることになっています。委員には技術評価に詳しい有識者を任命するとのことです。 この仕組みに関しては、うまくワークするか、大いに疑問とするところです。半導体やバイオの世界では、教授や博士の数だけベンチャー企業が成り立つと言われる中で、学閥や学会での序列を超えて、公正な評価が行えると考えるのは幻想に過ぎないでしょう。結局、表面的な審査でお茶を濁すだけに終わるのではないでしょうか。【リスク開示の具体化に期待】 新JASDAQ市場には、それだけで新興市場の低迷を打開するほどの力はなさそうに見えます。しかし、リスクの開示の方法についての工夫がなされるようです。どのような銘柄が上場されるのかという興味とともに、実際にどのようなマイルストーンが開示されるかなどにも注目していきたいと思います。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年05月10日
日本郵政公社は、このほど郵便局で販売している投資信託のリストに、6月から新たにターゲットイヤー型の「野村資産設計ファンド」(仮称)を追加すると発表しました。 ターゲットイヤー型ファンドとは、2010年、2020年、2030年など長期の運用目標期限(ターゲットイヤー)付きのバランスファンドで、各ファンドは設定からターゲットイヤーまでの運用期間の経過に伴って、自動的に株式の組入れ比率を引下げ債券の組入れ比率を増加させて、積極運用から安定運用に移行していくという仕組みのファンドです。 退職後に備えた年金資金を積み立てようとする場合、年齢の若いときはリスクがあっても積極的な運用で資産を大きく増やしたいと考えるでしょうが、高年齢になるにつれ、リスクの少ない安定的な運用を望むようになるでしょう。そうした投資家の年齢やライフサイクルに対応したファンドがターゲットイヤー型ファンドです。 たとえば、現在45歳の投資家は、2020年期限のターゲットイヤー型ファンドを購入しておけばよいでしょう。ファンドは、現在は株式中心の積極運用ですが年月の経過と共に次第に債券投資のウエイトを高め、2020年近くになるとほとんど債券中心の安定運用に移行します。投資家は、積極運用から安定運用への資産配分の変更を自分で行う必要はなく、すべてファンドに任せておけばよいのです。このため、ターゲットイヤー型ファンドは、投資運用の初心者や、資産配分を自分で行う時間的な余裕がない投資家に向いた投資信託といわれています。 こうした特徴があるターゲットイヤー型ファンドの購入に当たっては、次の点に留意が必要です。 一つは、ターゲットイヤーが同年のファンドでもリスク度に差があることに注意することです。たとえば、同じ2020年期限のファンドでも、投信会社によって株式や債券への当初の資産配分、運用期間の経過に伴う資産配分比率の変更度合い、ターゲットイヤー到達時の資産構成が異なります。 二つ目に、ターゲットイヤー型ファンドはファンド・オブ・ファンズ形態をとっていますが、組入れる株式ファンドや債券ファンドがインデックスファンドなのかアクティブ運用ファンドなのかをチェックすることです。当然ながら、アクティブファンドの方がリスク度は高くなります。もちろん期待リターンも高いでしょうが。 三つ目は、ターゲットイヤー到達後ファンドの資金はどうなるのか。現金で償還されてしまうのか、引き続き運用されるのか。運用されるのならどんな対象で運用されるのか。株式は全く入らないのか、それともある程度株式も組入れた安定型の運用になるのか。この点のチェックは、退職後のインフレリスクや長生きリスクを考慮した資産運用計画を立てる上で重要なポイントです。 四つ目として、自分が既に保有している投信との投資内容の重複に注意することです。日本のこれまでのターゲットイヤー型ファンドは基本的にはバランス型です。運用の初期は株式投資中心といっても株式100%ではなく、債券その他安定運用部分も含まれます。そしてターゲットイヤー近くになると株式運用比率は非常に低くなります。このため、既にバランスファンドや債券ファンドの保有ウエイトが高い場合に、ターゲットイヤー型ファンドを加えると、資産全体の運用として、コンサーバティブ(安定的)になりすぎる可能性があります。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年04月26日
真新しいスーツ姿の新社会人を目にする季節。希望にあふれ輝いてみえる彼らを見ると、こちらまで新鮮な気持ちになってきます。会社に限らず、新しい風が周囲に与える影響は少なくありませんね。 さて、社会に出て始めての給与を手にした時のことを覚えていますか? 私の場合、残念ながら手にしたのは「給与明細」でしたが、アルバイトで得たお金とは違う感動を覚えたのを思い出します。 「平成18年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」(厚生労働省より昨年12月発表)によると、18年度の初任給は大卒196,300円、高専・短大卒168,000円、高卒154,400円。今春新しい生活をスタートさせた新社会人の皆さんも、15~20万円前後のお金を毎月自分の責任で管理することになります。「いつのまにか全部使ってしまっていた」「カードを使いすぎてしまった」なんてことにならないように、今回は社会人としてお金を上手に管理するポイントをまとめてみました。■目標を持つこと お金は自分の希望や夢を実現させるためにあります。社会人になってやってみたいことや欲しいものなどいろいろな夢があると思いますが、考えているだけではなかなか実現しません。将来(5年後10年後くらい先)の自分がどうありたいのかを考え、目標を立ててみましょう。 例えば、車を買うために5年後までに100万円貯める、一人暮らしをするための資金を3年後までに50万円貯めるなど何でもいいのです。(1)何のために、(2)いつまでに、(3)いくら貯める、という目標を目的別に立ててみましょう。複数の目標がある場合は優先順位も考えます。目標を立てることによって、夢の実現のためには何をしたらいいのかはっきりします。夢の実現という目標があればこそ、何かを我慢して貯蓄することができるのだと思います。■毎月のお金の管理は予算を立てて 月のお金を上手に管理するポイントは予算を立てること。貯蓄上手な人とそうでない人の差はここにあります。 毎月の手取り収入を、(1)生活費(生活に最低限必要なお金)、(2)貯めるお金、(3)自由に使えるお金、の順に3つに分けて予算を立ててみましょう。 (1)の生活費は、住居費(家賃など)、水道光熱費、交通・通信費(携帯やインターネットの通信費、交通費)、食費などの日常生活に最低限必要なお金(親と同居なら家に入れるお金)です。まずは1ヶ月の生活にいくらかかるのか把握することが大切です。ここで気をつけたいのが携帯電話の通信費と食費。長電話や外食、どちらも使いすぎると大きな出費になってしまいますが、上手に使えば節約できる支出です。予算が立て難い場合は自由に使えるお金の中で管理してもいいでしょう。 (2)の貯めるお金は、使った残りを貯めるのではなく、毎月一定額を貯蓄するようにしましょう。貯蓄に手間がかかるようだと長続きしませんから、給与天引きや自動積立を利用して、知らない間にお金が貯まるシステムを作っておくと便利です。ただし、社会人生活をスタートさせたばかりの1年目はスーツや身の回りの必需品を揃えるなどの出費が予想されますから、しばらくは無理をせず様子をみて貯蓄額を考えるといいでしょう。 そして残ったお金が(3)自由に使えるお金ということになります。■クレジットカードの使い方 便利なクレジットカードですが、利用には自己管理が必要です。利用するのは1回払いだけにしましょう。翌月1回で払えないものは払えるようになってから購入するのが鉄則。「クレジットカードの利用=借金」ですから、分割払いやリボ払い、キャッシングなど、利息のつかない1回払い以外の利用には多額の利息を払うことになってしまいますから要注意。 お金については、知らないで損をしてしまうことも少なくありません。金融商品や保険、税金や社会保障制度など、自分の生活に身近な問題については、ある程度理解しておくことが大切です。 環境や考え方はそれぞれ違います。自分なりのお金との上手な付き合い方が身に付けば将来きっと役立つことでしょう。(エフピー・パートナーズ/ライフプランアドバイザー:西川育恵)
2007年04月19日
■株式の実質利回りは高い 自社株買いと配当の目的はともに株主価値の向上であり、投資家にとってはどちらも意味がある、重要な数字です。配当と自社株買いを合わせた利回りは、株式と債券の相対的価値を見極める有効な手段になり、合計利回りが国債の利回りを上回るということになれば債券に比し、株式の資産としての魅力が高いということになります。 東証1部全銘柄の予想平均配当利回りは1.2%程度であると見込まれます。前年度実績見込みでは自社株買い額は配当総額を1割強上回っていると推定され、配当と合計した利回りは2.5%程度になるものと思われます。足元の10年債利回り(1.7%)との利回り差は0.8%になります。同様に米国の利回り差を求めてみると、自社株買いと配当の合計利回りが5.0%であるのに対し、10年債利回りが4.7%であることからその利回り差は0.3%ということになります。日米の比較ではわが国の株式の、債券との比較での相対的な利回りは米国を大きく上回っていることになります。日本株を積極的に売る理由は見当たらないということになります。■「失望売り」は買い 新年度相場がスタートしました。2003年春に相場が反転してから、平均株価で各年度の安値を記録した月を列挙してみると、2003年は4月、04年5月、05年5月、06年6月と4年続けて、すべて年度の第1四半期です。第1四半期に安値が集中している理由の一つは上場企業の翌年3月期の収益見通しが保守的あるいは慎重に過ぎることによるものと考えられます。期初に慎重な見通しを公表することが常態化してきているだけに今年も学習効果なく、「失望売り」という形で同様のことが起こるのかもしれません。■市場エネルギーは十分 年初から3月末までの東証1部の一日平均の売買代金は3兆2,386億円に達しています。この市場エネルギーをベースに売買代金(年換算)を時価総額で除した売買代金回転率で相場の活況度合いを測ってみると年1.46回転と1960年の1.26回転を上回り戦後最高の水準にあります。 エネルギー面からは株価を押し上げる力に問題はなく、株価の先高期待は大きいということになります。2007年度も企業収益が市場コンセンサス通り6年連続の増益を確保するということになれば、旺盛な自社株買いによる株式需給の改善もあり、堅調な株価展開が予想されます。株価の方向性が「上」ということであれば、押し目は「買い」というスタンスに分があることになります。日本株はまだ下がりすぎた価格が是正される過程にあることを肝に銘じたいと思います。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年04月12日
3月から4月にかけて新規設定される投資信託の内容を見ると、これまで主流だった外債ファンドが影を潜める一方、エマージング市場に投資するファンドが増えてきている。 米投資銀行のゴールドマンサックスが提唱しているBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やネクスト・イレブン(バングラディッシュ、エジプト、インドネシア、イラン、韓国、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、トルコ、ベトナム)や、BRICs経済研究所が提唱しているVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)など、日本や欧米先進諸国に比べて高い経済成長が期待されるエマージング諸国だが、これらの国々に投資するファンドを購入する際は、資金の流出入に十分な注意が必要だ。 2月末、中国の金融引き締め観測から中国株が下落。それを受けて、他のエマージング諸国でも株価が下落しているが、それを受けて、この手のマーケットに投資しているファンドの基準価額が下落している。たとえばインド株ファンドの草分けともいうべきピーシーエーアセットマネジメントが運用する「PCAインド株式オープン」の基準価額は、ピーク時からわずか40日あまりで、1口あたり3000円近くも下落した。 こうなると、一時的なブームに乗じてこの手のファンドを購入していた投資家が、狼狽の解約を出してくる恐れがある。実際、3月に入ってからのデイリーの資金流出入を推計すると、エマージング市場に投資する多くのファンドから、解約による資金流出が生じている。 投資信託は、解約が生じると、運用面にさまざまな支障が生じてくる。解約資金を作るために、ポートフォリオに組み入れた銘柄を売却しなければならないが、エマージング市場のように流動性の低いマーケットでは、ファンドの解約が株価の下落に拍車をかける恐れが生じてしまう。また、株価が安値をつけたところで新たに株式を組み入れ、平均の買い付け単価を引き下げようとしても、資金が入って来ない限りは、それもままならない。解約が続く限り、ファンドの運用成績がジリ貧をたどる恐れがある。 したがって、マーケットの崩れたところを狙って、これからエマージングファンドを購入しようと考えている人は、まず、自分が買おうと思っているファンドが、資金流出の状況にあるのかどうかを、きちっと見極める必要がある。 そのためには、基準価額の騰落率と、純資産残高の増減率を比べてみることだ。基準価額とは、1口あたりの純資産残高なので、追加設定や解約によって受益権口数に変化がなければ、基本的に両者の数値は一致するはずだ。 もちろん、追加型のファンドは、日々、追加設定や解約があるため、両者の数値が一致することはない。 そして、資金流出が生じているファンドは、一定期間中における基準価額の上昇率に比べ、純資産残高の増加率が低かったり、あるいは基準価額の下落率よりも純資産残高の減少率の方が大きかったりする。 最近は、インターネットからも、個別ファンドの基準価額や純資産残高を時系列で入手できるので、そのデータをエクセルなどに落とし、自分で計算してみよう。もちろん、資金流出と思われるファンドについては、資金状況が安定するまで様子を見た方が無難であるのは、言うまでもない。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年04月05日
■2年ぶりのバイオ銘柄IPO 3月2日に「免疫生物研究所」(コード4570)が大証のヘラクレスに新規公開されました。2005年3月のエフェクター細胞研究所(コード4567 名古屋セントレックス)以来、実に2年ぶりのバイオテクノロジー銘柄のIPOとなりました。 当の企業はもちろん、ベンチャーキャピタルなどの出資者、幹事証券会社など・・・特に公開を目指す他のバイオ企業・・・が固唾を呑んで株価ボードを見守るなか、10,000円で初値がつきました。公募価格は11,000円でしたので、初値はこれを10%ほど下回ったことになります。この結果は、関係者の願いを大きく裏切るものでした。 低く値を付けたからには、その後の株価は堅調に推移することも期待されましたが、この期待も打ち砕かれました。このレポートを書いている時点では、株価は7,000円を下回っています。■会社の概要 今回の「免疫生物研究所」の公開は、バイオの公開が中断する以前の公開とは、大きく様相を異にします。以前のバイオ銘柄は、ほぼ例外なく公開時に大赤字の状態で、その後に薬の開発が進み、権利を製薬会社に売却することにより収益が爆発的に伸びることを前提とした公開でした。ところが今回の会社は、2006年3月期の決算においてすでに黒字を達成しています。2007年3月の決算も増収・増益の見込みです。 これは、大証が公開審査を厳格にして、確実なキャッシュフローの見込める会社しか公開させないように、窓口を絞った政策が反映されたものです。(このあたりの事情は、昨年4月20日のこのコラムを参照) この会社のIPO時のキャッチフレーズは「抗体作成技術を強みに成長を続けるバイオ企業」ですが、地味な試薬部門と将来の収益の爆発を期待する創薬部門を持っています。現時点で会社のキャッシュフローに貢献しているのは、薬品開発のプロセスのなかで極めて地味な研究用の試薬部門です。硬いビジネスですが、将来の爆発的な売り上げの伸びは見込めません。 得意の抗体技術を活かした創薬部門も持っていますが、この部門が成功するとしても相当先になり、開発に失敗するリスクも相当大きいと見ざるを得ないでしょう。■バリュエーションが示唆するもの 引受幹事証券会社のアナリストは、この会社の2008年3月期のEPS(一株あたり利益)を200円ほどと予想していますので、公開初値の株価のPERは50倍程度となります。また、現時点の株価を7,000円とするとPERは35倍となりますので、いずれにせよ新興市場に公開したての会社としては普通のレベルのバリュエーションが付いたことになります。現時点の営業キャッシュフローのベースに対して、至極穏当な株価と言うことです。 しかしこれは、逆に言うと現時点のキャッシュフローに貢献しない創薬部門には市場の評価が殆ど得られていないことを意味します。 これは、現時点でキャッシュフローの目処の立っていない創薬型バイオベンチャーにとってはショッキングな結果です。かつてのように、将来の不確実性の高い期待だけで高株価によるIPOを達成し、開発資金を手に入れるというモデルが完全に過去のものになったことを示唆するからです。■バイオ業界・投資家・株式市場にとっての意味 2年の中断の後の久々のバイオ銘柄の公開でしたが、IPOを希望している多くの創薬型のバイオ企業にとってはかえって危機感を深める結果になりました。当面のキャッシュフローを稼げる部門がない場合、創薬で稼げるようになるまで、IPOに頼らず自前で開発資金を調達しなければならないからです。 バイオ創薬のこの段階のリスクには、公開市場は資金を供給しないということが明確になり、今後資金繰りに窮する企業も出てくることでしょう。業界の再編も避けられず、日本のバイオ業界にとっては危機的な状況です。 このような、一連の動きによって、公開市場は確かに安全な銘柄で占められこととなり、一般投資家にとっては喜ぶべきことです。しかし、一方で公開市場がリスクマネーを供給する範囲を狭く限定してしまったことで、バイオの開発リスクに賭けたい投資は排除されますので、投資機会の提供という意味では問題は残ります。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年03月29日
3月に入り、暖かい日が多くなってきました。この春から、新しく何か(習い事・勉強・運動etc)をはじめようと考えている方も多いのではないでしょうか。物事をはじめるにあたって、一番大切なのは「自分の気持ち」だと思います。「気持ち」を「やる気」に置き換えてもよいかもしれません。ライフプランの作成を推奨していますが、人生がいつもプラン通りにいくわけではありません。すべてが順調に整ってスタート!は理想ですが、なかなかそうはいかないのが現実です。 本当はもう少し先だと思っていたけど、「今、どうしても○○したい」という経験はありませんか? あなただったらどうしますか? 人生のこのタイミングで「どうしてもやらなければいけない」、と自分が思う(感じる)とき、そして、そのためなら多少の無理をしてでも、覚悟を決めて頑張る気持ちがあるとき、ぜひチャレンジするべきだと思います。(もちろん、最低ラインの生活は死守できることが前提ですが) ライフプラン相談では、あまり資金に余裕がないと思われるときでも、本人の意志が強く、努力を厭わない覚悟がある場合は、実行に移しても良い方向へ進むように感じます。例えば、「子どもが小学校へ行くまでに、ぜひ住宅を購入したい。節約をしながら、私も働いて収入を増やします。」と奥様が凛とした態度でお話しされるときなど、もうこのご家庭での思いは確固たるものになっていると強く感じます。 それではここで、イザというときに役に立つ融資(商品)をご紹介したいと思います。【財形貯蓄】・・・財形制度を導入している企業の従業員が利用できる給料から天引きで積み立て。種類は次の3種類で、税制や貸付の特典がある。・一般財形:目的は自由。旅行・結婚など使い道はいろいろ、不意の出費の備えにも。・財形住宅:55歳未満で、住宅の購入や増改築を目的に5年以上積み立て。残高550万円までは利息に税金がかからない。・財形年金:55歳未満で、年金を目的に5年以上積み立て。残高550万円(保険等の商品は払込額385万円)までは利息に税金がかからない。なお、受け取り期間も税金がかからない点は他の年金商品より魅力的。・財形を1年以上積み立て、残高50万円以上の場合に、教育融資(残高の5倍、最高450万円まで)を受けることができる。また、勤務先の制度によっては住宅融資(残高の10倍、最高4000万円まで)が利用できる。将来を見据えて、計画的に利用したい。【生命保険・損害保険の契約者貸付】・・・掛け捨てでない貯蓄性の高い保険(養老保険・終身保険・積立型商品など)に加入している場合、解約返戻金の範囲内で契約者貸付を利用することができる。融資額や利率は契約により異なる。【都道府県社会福祉協議会・生活福祉資金貸付】・・・他から融資を受けることが難しい低所得世帯・高齢者世帯・失業者世帯などが、資金の貸付を受けることができる。修学資金、療養・介護資金は無利子。 何かあったときに備えて、自分はどこでどのような融資が利用できるのか、知っておくことは大切です。お住まいの自治体や所属する組織にも、低利の融資制度がないか確認してみてください。今はインターネットで情報を収集し、比較することも容易ですから手間を惜しまないこと。そして、自分で解決できない問題が起こった場合は、公共・民間を問わず無料相談や消費生活センターなどを通して専門家に相談しましょう。 最後に自分の思いを行動に移し、目標や夢の実現に邁進される皆様に心からエールをおくりたいと思います。長期にわたりご愛読いただき、ありがとうございました。(エフピー・パートナーズ/ライフプラン・コーディネーター 竹腰朋子)※竹腰朋子氏のコラムは本コラムが最終回となります。 長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
2007年03月22日
市場に変動はつきものですが、1週間で8.6%という2月末以降の平均株価の調整は、それにしても急激なものでした。確かに、事前に米国GDPの大幅下方修正や前FRB議長の景気後退発言など市場心理を冷やす材料はありましたが、好パフォーマンスを誇ってきた上海株を震源とする揺れが米国で増幅され、それに円キャリートレードの巻き戻し観測も加わり、世界的な揺らぎに繋がりました。スピード感を持った株価の下げは短期間で終わる、というのが経験則です。現時点では実体経済への影響は明確ではなく、世界経済が変調をきたしているという状況証拠も見当たらないだけに、株価下落は一過性だと見るのが自然だと思われます。 昨年5~6月の調整とは異なり、今回は債券市場の崩れ・金利の上昇を伴っていないだけに、株価の上昇基調が継続する中での短期の調整、という理解で良いと思われます。1日の売買代金3兆円時代の到来は、大相場の再来を予感させるものです。■個人の現物勘定が大幅に買い越し 株価が大きく下落した2月の最終週に、個人の現物取引は1,973億円と昨年11月の安値の週以来の大幅な買い越しとなりました。個人(現物)は売り越すのが常ですが、下げの最終局面、あるいは安値を付ける時に、必ずといっていいほど個人(現物)は買い出動しています。個人の現物取引が買い越した時、もしくはその直後に、安値を付けることが多いというデータもあります。ある意味では、底入れを示唆する状況証拠であり、今回も経験則は生きているのかも知れません。■市場エネルギーの凄さ 今年に入ってから3月上旬までの45営業日の一日平均の売買代金は、3兆1,227億円という凄さです。2005年9月に売買代金が2兆円時代に到達してから、わずか1年3ヵ月で3兆円時代を迎えたことになります。現在のエネルギーをベースに年間の売買代金を算出すると、765兆円になります。売買代金(年換算)を時価総額で除した売買代金回転率で、市場の活況度合いを測ってみると、138.1%と戦後最高の水準であり、バブル期にもなかった盛り上がりです。足下は名実ともに史上最高の活況相場ということになります。エネルギー面からは、株価の先高期待は大きいということになります。■恒例になった? 慎重な企業収益見通し 2006年度決算は、現時点の予想は上方修正され、結果としては二桁増益になると想定されます。問題は2007年度の収益見通しです。2005年度も2006年度も期初の予想は実績比横ばいでした。結果としては二桁増益を達成したと思われますが、当初、収益を低めに公表するというのは恒例になってしまったようです。年度の初めから途中までは業績を慎重に発表するということが経営者の“習性”になっており、年度後半になって上方“修正”というのがパターン化してしまったようです。慎重な業績見通しが災いして、株価の年間安値を2005年は5月、2006年は6月と、年度の第1四半期に記録する結果になっています。2007年度も期初の見通しが慎重なものであることは不変だと思われますが、今年もここ2年と同じような株価形成になる懸念があります。もしそうなら、4~6月に株価が下落したタイミングは絶好の買い場と思われますが・・・。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年03月15日
団塊の世代の退職期を迎えて老後の資産運用への関心が高まっています。最近の株式市場の力強い上昇を見て、退職金の一部を株式投資信託で運用してみようかと考えている人も多いことでしょう。実際、このところ株式投信の運用成績は好調で、日本株に投資するファンドでは過去5年間の年平均投資収益率(リターン)が10%以上になっているものが多いようです。 年平均リターンが10%であれば、仮に退職金3,000万円をファンドで運用すれば退職金を減らさずに年間300万円の収入が得られる計算になります。しかし、この10%というのは5年間の平均値であって、毎年毎年きちんと10%のリターンが得られるわけではありません。実際のファンドのリターンは、株式市場の動きを反映して年によって大きく変動するからです。 極端な例ですが、ファンドを購入した時点から1年間でファンドの基準価額が30%値下がりし、2年目も続けて20%値下がり、3年目に反騰して20%値上がり、4年目、5年目もそれぞれ30%、50%値上りした場合、5年間を平均すると年利回りは10%と計算されます。このケースで、当初3,000万円を投資して翌年から毎年300万円を引出していくと仮定しましょう。1年後の運用資産残高は2,100万円(3,000万円*(1-0.3))となり、そこから300万円を引出して残りの1,800万円を翌年の投資に当てるという方法を繰り返していくと、5年後の運用資産残高は1,332万円となります。 元本を減らさずに収入が得られるという目算がはずれ、残高は当初投資額の半分以下になってしまいます。このように、年毎にリターンが大きく変動するファンドでは、平均値だけ見ていると思わぬ落とし穴に陥る危険があります。退職後の収入として毎年一定額を引出すような場合には、年毎のリターンの変動が出来るだけ小さく、安定的なリターンで推移するファンドを選ぶことが望ましいといえましょう。 では、どうやってファンドのリターンの変動が大きいか小さいかを見分けたらよいでしょうか。最も良い方法はファンドの「標準偏差」をチェックすることです。標準偏差とは、一定の年月のリターンの平均値から各月のリターンがどれだけかけ離れているか、換言すれば平均値からのバラツキを表したものです。標準偏差の値が大きいほどリターンの変動が大きいことを意味します。例えば、ファンドの平均リターンが10%で標準偏差が4%であるとすると、そのファンドのリターンは6%から14%(10%プラス・マイナス4%)の範囲で変動する公算が強いと予想されます。 平均リターンが15%で標準偏差が25%というファンドの場合は、リターンが最高40%から最低マイナス10%の範囲で大きく変動する可能性が高いといえるのです。実際、小型グロース株ファンドでは、標準偏差が20%、30%というファンドも珍しくありません。一般に、リスク/リターンと言うときの「リスク」とはこの標準偏差のことを指しています。ただ、リスクとリターンは、「ハイリスク/ハイリターン」、「ローリスク/ローリターン」の関係にありますから、標準偏差をチェックする際は、同じような投資方針のファンドと比較するよう留意する必要があります。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年03月08日
外国為替保証金取引(FX)の人気は相変わらずだ。矢野経済研究所の調べによると、2007年3月の見込みで、保証金残高は6677億9600万円にも達する。 FXは外貨の買いだけでなく、売りからも取引することができる。が、大半は外貨の買いポジションといわれている。仮に、10倍のレバレッジで外貨を買っていたとしたら、6兆6770億円もの外貨を買う個人資金が、外国為替市場に流入していることになる。他にも、海外の株式や債券市場に投資する投資信託なども急速に残高を伸ばしているだけに、かなりの金額が、日本から海外に流出している計算になる。 外貨買いのウラにあるのは円売りだ。つまり、個人の外貨投資が活発になるにしたがって、外国為替市場では円売り圧力が一段と強まることになる。安易に構造要因を持ち出すつもりはないが、恐らく、こうした個人の外貨投資が、構造的に為替レートを円高に振れにくくする要因になっているように思える。 外国為替市場には個人投資家だけでなく、プロの投資家も取引に参加している。いや、むしろこれまで、外国為替市場といえばプロの投資家が取引の過半を占めていた。プロの投資家とは、銀行の為替ディーラーや生命保険会社などの機関投資家、あるいはヘッジファンドのファンドマネジャーたちのことを指している。こうしたプロの投資家による丁々発止が繰り広げられているのが、外国為替市場だったのだ。むしろ、ここまで個人投資家の参加が増えてくること自体、これまでになかった話なのである。 プロの投資家と個人投資家とでは、何が違うのだろうか。もちろん、入手できる情報量の違いもあるが、何よりも異なるのは投資スタンスだろう。外国為替市場に参加しているプロの投資家は、円安局面で外貨の買いポジションを積み上げるのは当然だが、円高局面では積極的に外貨を売ってくる。つまり円安であろうと、円高であろうと、相場の方向を当てることでリターンを狙ってくる。そこでは、「外貨を売る」ことに対するアレルギーのようなものはいっさいない。 しかし、個人投資家の場合、為替取引においても外貨を売るということについては、一種のアレルギーがあるようだ。株式投資は買いが基本であるのと同じように、為替取引でも外貨を買うことを基本として考えているフシがある。 トレードにおいて「買いが基本」と考えている個人投資家が、大挙して外国為替市場に参入してくると、恐らく多少、円高が進む場面では、外貨の絶好の押し目買いとばかりに、外貨を買ってくる。こうした個人の投資行動が、外貨にとって非常に強固な買い支え要因になるのは、想像に難くない。 昨今の円安は、その背景に「円キャリートレード」による円売りがあると言われているが、こうした外国為替市場の構造変化によってもたらされている面もあることには、留意しておく必要がありそうだ。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年03月01日
■投資教育の必要性 「貯蓄から投資へ」の掛け声の下、リスクマネーのスムースな供給は、日本経済の至上命題です。銀行や郵便局で投資信託の販売が開始される一方で、税制などが緩和され、個人投資家がリスクをとりやすい状況が政策的に作られています。証券に絡んだリスクの高い商品の種類が増え、以前の銀行の確定利付き商品だけのころと比べると、商品の複雑性も増すばかりです。 普通の消費財、例えば食料品やPCなどを購入するためには、賞味期限表示やスペックの意味するところの理解が必要なように、投資にあたっては投資のリスクの理解が必要になります。商品知識を身につけるための消費者教育(=投資家教育)の必要性が、ますます強く感じられるようになってきました。■販売する側による教育の限界 現状では、一般の個人投資家向けには、銀行、証券や郵政公社などの販売業者が自ら、商品知識の教育にあたることが多いのですが、当然のことながら自らの商品の宣伝も兼ねていますので、商品に対する批判的な視点が養われないことが一番の問題です。その典型的な例は、毎月分配型の投資信託でしょう。投資家にとって明らかに不利だと思われる、この形の投資信託が、販売会社が売りやすいからという理由から隆盛を極めています。投資家の知識不足からくる錯覚を、運用会社や販売会社の販売上の都合に利用されている例です。■学校での投資教育の必要性 ここで、中立的で公的な立場から、特に学校の現場での早期投資教育の必要性は明らかなのですが、現実には学習指導要領の合間をぬって、金融や投資の教育の十分な時間を採るのには困難な状況があるようです。 東京証券取引所などを中心としたNPO連絡協議会が、一昨年の段階で中学校・高等学校に金融教育に関してアンケートをとっています。それによると、9割が金融教育を必要と回答していますが、実際に実施しているのはその半分程度にとどまるようです。実施のための問題点としては、「時間が取れない」、「教員が学ぶ機会がない」、「適切な教材・指導書がない」などがあげられています。■カリキュラム:不確実性をどう教えるか 現場では、経済の授業や消費者教育に絡めて、お金の使い方、クレジットカードの扱い方といった知識やルールのレベルから、複利計算の仕方といった数学の簡単な応用を教えることから始めることになりそうです。 中級以上になると、教えるとき一番苦労しそうなのが、株式の価格変動などにともなう不確実性をどう生徒に伝えるかという問題です。価格にとどまらず、企業やビジネスプロジェクトの収益など、経済の様々な局面に「期待外」のことが起こるという不確実性を理解し、それを取り扱う技を身につけることは、投資教育の根幹です。■株式運用ゲームと適切なサポート 不確実性の具体的な感覚は、教育現場だけで生きてきた先生達には理解が難しいかもしれません。適切な教材とビジネス経験のある人のサポートが必須であると思われます。 東京証券取引所のホームページには、学校向けの株式運用ゲームが教材として提案されています。一定の仮想所持金をもとに、現実の株式売買と同様に、実際の株価に基づいて模擬売買を行い、あらかじめ設定されたゲーム期間終了時の保有株式の時価と所持金残高の多寡により投資成果を競うものです。 このような方法は、米国などの例でもよく行われているようで、たしかに株式市場価格が変動し、期待通りには価格が変動しないということを体感するには最も良い方法だと思います。 ただ、教育の現場だと十分な時間がとれず、短期の株価変動を体験するだけに終わってしまう可能性もあります。短期の結果に一喜一憂するだけであれば、ラスベガスにいってルーレットを楽しむのと、ゲームとしてはほとんど同じことになります。 短期のトレーディングゲームで一番であった生徒に、天才であると思い込ませないように、また最下位であった生徒に、長期であれば儲かる可能性もあることを的確に指摘する必要があります。学校の先生の補佐として、ビジネスや証券投資の経験のある人のサポートが重要なところです。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年02月22日
日経平均株価がほぼ10ヶ月ぶりに昨年高値を更新しました。その原動力となったのは1月に1.5兆円強を買い越した外国人投資家ですが、1月後半から市場でのプレゼンスを高めてきた個人投資家の復活も軽くは扱えないと思われます。2003年春からの相場上昇には個人のシェア増大が大きく貢献しており、相場の先行きを占う場合にも個人の動向から目が離せません。個人には低位株選好という売買特性があり、個人の復活ということであれば、物色の中心も自ずと決まることになります。■意外? 外国人が目立つ時、株価はさえない 昨年の東京市場は4月に高値を記録した後、5月以降年末までボックス圏での推移となりました。この間の投資主体別の委託売買代金シェアを見てみると、外国人が58%と過去最高水準であったのに対し、個人は29%とほぼ半分にとどまっていました。下表からも明らかなように4月までとの対比では新興市場の崩れなどにより、痛手を負った個人の投資意欲が低下、シェアを10ポイント程度下げたのに対し、その分外国人の市場での地位が相対的に浮かび上がった結果でした。海外マネーへの依存度が高いという事実は新興国の市場と同じように高リスク市場と考えられます。これは2004年後半にも見られたことですが、すでに委託売買代金シェアが過半を占めている外国人投資家のシェアが拡大することは国内投資家の萎縮を表し、相場には決してプラスにならないことを意味します。個人の売買代金シェアは昨年11月に24.8%と2003年5月以来3年半ぶりの水準にまで低下した後、30%前後にまで回復してきております。価値観が多岐にわたる個人のシェアが30%台を維持できるということになれば、先行きの株価にもプラスに働くことになると思われます。委託売買代金シェア(3市場) 個人外国人2006年1月41.00%46.40%2月38.10%48.80%3月35.10%51.10%4月37.60%48.00%5月28.20%57.30%6月28.60%58.70%7月29.30%57.50%8月32.40%54.80%9月28.80%58.70%0月29.80%56.70%1月24.80%61.80%2月31.40%55.00%2007年1月29.70%57.10%■個人は低位株を選好する 下表は個人と外国人の昨年の月別(東証一部)の買い付け単価が一株当たり時価に対して、どの水準にあるかを見たものです。個人の平均買い付け単価が時価の60%前後にあるのに対し、外国人の同買い付け単価は時価近傍と大きく異なっております。経済が成熟化してからの株価上昇時には株数ベースの売買回転率が金額ベースの回転率を大きく上回る傾向があります。このことは大相場時には数量商いができるマーケット、即ち低位株指向が強まることになります。昨年の東証一部の一日平均の売買代金は2.6兆円、同売買高は1,926百万株でした。今年株価が上昇するための必要条件は金額で2兆円台後半、株数ベースでは少なくとも20億株台ということになると思われます。低位株指向の個人の復活によって、相場に勢いがつくということになれば、鉄鋼・造船に代表されるような重厚長大型の株が主役を務める可能性が強いと思われます。平均買い付け単価/一株当たり時価(東証1部)個人外国人2006年1月60962月63973月56944月661025月681036月56967月60988月58969月5910010月6510311月6410012月5594(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年02月15日
団塊マネーの取り込みを狙って、銀行では投資信託と預金のセット販売に力を入れている。しかし、その中身をよくよくチェックしてみると、果たして個人にどれだけのメリットがあるのか、疑わしい面があるのも事実だ。 セット商品の一番の特徴は、投資信託と預金を組み合わせることによって、預金の利率が飛躍的にアップするということだ。少なくとも表面的には、かなり大幅アップしたかのように映るだろう。 たとえば、みずほ銀行が扱っている「第二のスタート応援プラン」では、投資信託や外貨定期預金などのリスク資産を500万円以上購入した場合、それと組み合わされる定期預金の利率が年6.0%、リスク資産の購入金額が500万円未満の場合は、年利率が5.0%になる。定期預金の利率は、1年物でも0.25%程度だから、仮に6%が適用されたとしたら、実に24倍にもなる。 こうした高金利には、必ず何かウラがあると考えるのが、資産運用で失敗しないための基本だ。 具体的に、このセット販売の中身を検証してみよう。 まず、上記の利率は3ヶ月物定期預金に適用されるものだ。3ヶ月物定期預金の利率は、通常だと年0.15%なので、年利率で6%というのは非常に有利であるように思える。 ただ、この年6.0%という利率は、あくまでも3ヶ月間で得られる利子を年換算したものだ。そのうえ、当初3ヶ月が経過すると、その後は通常利率に低下してしまう。つまり、年6.0%といっても、単純計算で考えれば、その4分の1のリターンにしかならないのだ。 6.0%の4分の1というと、利率で見ると1.5%程度。これを高いと考えるか、それとも低いと考えるか。これは多分に個人の価値観によって異なると思われるが、少なくとも投資信託を販売したい銀行にとっては、非常に有利な仕組みといえるだろう。 定期預金の利率を、銀行にとってのコストと考えれば、話は非常にわかりやすくなる。銀行から見れば、確かに3ヶ月間で1.5%のコスト負担増にはなるが、一方で投資信託を販売すれば、このコスト分くらいの購入手数料が、銀行に入ってくる。株式型投資信託の場合だと、おおよそ購入金額に対して2%程度の購入手数料がかかってくるので、500万円ずつ定期預金と投資信託を購入した場合の損益は、次のようになる。 まず、定期預金に500万円を預け、年率6%で3ヶ月間運用した場合、税引き後の利息は6万円。一方、500万円の投資信託を購入して、2%の手数料を取られたら、税込みの手数料額は10万5000円になる。 つまり、いくら年6%の利率が得られるとはいっても、わずか3ヶ月間の適用のみでは、投資信託の手数料分もカバーできないのだ。それだけ投資信託の手数料が高いということになるが、せっかくの利息も投資信託の手数料で取られてしまうのでは、利用者にとってほとんどメリットがないと言っても良いだろう。 特に退職金のようなまとまったお金を一度に受け取ってしまうと、それをどうやって運用すれば良いのかで悩んでしまう人も少なくない。 銀行としても、一度にまとまったお金で預けてもらった方が、何かと手間が省けることから、こうしたセット販売を積極的に行なってくるのだろうが、利用する前に、自分で本当に必要なものなのかどうかを考えてみることが大切だ。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年02月08日
最近、新聞や雑誌あるいは講演会などで、投資信託の選び方、ファンドの組合わせ方などという記事や解説が花盛りです。投資信託を選ぶ際には、同じような投資方針のファンド群の中でパフォーマンスが優れているファンド、運用体制がしっかりしているファンド、投資コストの安いファンドを選ぶべきであるなどとして、国内株式ファンドならAファンド、海外の債券に投資するファンドならBファンド、バランス・ファンドならCファンドがベストなどと購入するファンドをアドバイスしている例も多いようです。 しかし、そうしたアドバイスに従って、いざ、実際にA、B、Cファンドを購入しようとすると難しい問題にぶつかります。というのは、A、B、Cファンドがそれぞれ異なった投信会社のファンドで取扱い販売会社も別々であると、一つの販売会社ですべてのファンドを購入することはできません。A、B、Cファンドを購入するには3つの販売会社それぞれに口座を設けて買い付けなければなりません。それではファンドの残高のチェックや運用状況のフォローアップなどの手間も大変ですし、特定口座を利用して税制上の損益通算を行なうときなども口座がバラバラでは不便です。 もっと困るのは、保有しているファンドを売却して他のファンドに乗換える時です。例えば、Aファンドを売却してBファンドに乗換える場合、まずA販売会社でAファンドを売却し、売却代金をA販売会社の口座から取引先銀行口座を経由してB販売会社の口座に移さなければなりません。そしてB販売会社の口座に入金が確認された後に、ようやくBファンドの買付注文を出すことができるわけです。このため、ファンドの乗換えには大変な手間と時間がかかり、乗換えのタイミングを失することにもなりかねません。こうした煩雑さは、ファンドの組合わせをリバランスする時の大きな障害になります。 販売会社によって取扱いファンドが決まっている、これが、投資信託商品が株式と異なる点です。上場会社の株式なら、どの株式でも日本全国どこの証券会社でも買うことも売ることもできます。株式でできて何で投信でできないのか。それは、株式は取引所に上場していますが、投信は上場していないので投信会社と契約した販売会社しか取扱いができないからです。しかも、各販売会社は系列の投信会社のファンド中心に品揃えしているからです。ならば、投信も上場すればよいではないか。その通りです。しかし、一部の投信を除き、現在のほとんどの投信は単一の基準価額で売買されるという仕組みのため、需要供給で価格が決まる取引所上場方式をとることができないのです。 では、投資家はどうやったら一ヶ所でいろいろな投信会社の多数のファンドを購入することができるか。完全な答えにはなりませんが、オンライン専業証券を利用するというのが一つの方法です。SBIイー・トレード証券、カブドットコム証券、マネックス証券、楽天証券(社名五十音順)などオンライン専業証券は多数の投信会社の多彩な投資方針のファンドを、系列にとらわれることなく幅広く取扱っています。しかも、インターネット取引ですから販売手数料を無料にしたり、割り引いたりしているというメリットもあります。これらの証券会社に口座を持てば、一つの口座でいろいろな投信会社のファンドを購入して投信ポートフォリオを作ることができ、その後のフォローアップやリバランスも容易に行なえるでしょう。 米国では、オンライン専業証券会社の中には1,000ファンド、2,000ファンドも取扱うところもあり、「ファンドスーパーマーケット」を展開しています。一ヶ所で一つの口座で多数の投信会社のファンドを売買できる、投信のワンストップ・ショッピングとして投資家の人気を博しています。日本でもオンライン専業証券会社の中からファンドスーパーマーケットを運営する会社が早く出てくることを望みたいものです。(金融アナリスト:新藤正悟)
2007年02月01日
民間の医療保険や損害保険では、依然として保険金の未払いが問題になっています。医療保険はかつて外資系保険会社のみ販売できましたが、2001年に国内大手生損保に参入が解禁されました。そのため販売競争は激化しています。また、高齢社会を反映して病気リスクに備えるために、保険契約の傾向も死亡保障から医療保障へと移りつつあります。 医療保険・損害保険ともに商品開発が進むにつれ、特約の数が増し、商品が多様化・複雑化しているのが現状です。 保険金の不払いが起こる理由としては、以下のような問題点が挙げられます。・販売者側の姿勢・契約者側の姿勢・業界の契約者軽視の体質 一番の問題は営業職員や代理店が契約者に保障内容を十分説明していない、また彼ら自身が保障について理解が不十分であること。販売側の知識不足の場合は言語道断ですが、契約獲得のためにわざと説明しない悪質なケースもあるようです。 また、契約者側では告知をきちんとしなかった故にトラブルになる事例が多くみられます。例えば、契約の際に病歴や通院歴を営業職員に口頭で告げただけでは、保険会社に正式に告知したことにはなりません。こういった基本的な知識を契約者自身が知っておくことも大切です。 業界の問題としては、テレビやパンフレットで商品の心地よい特性をうたい、保障内容に誤解を与えかねない点。例えば「だれでも加入できる保険」は「だれでも加入できて、どんなときにでも保険金は支払われる」というイメージが先行しがちです。(ですが当然、支払い日数や対象となる手術などは細かく定められています。) また、商品の詳細を説明した「約款」の分かりづらさも問題です。大変細かい字(虫眼鏡が必要なくらい)で、専門用語が並べられた約款をすべて理解することは一般人には不可能でしょう。その上、保険会社には独自の「社内規定」が存在します。消費者に知らされていないところで、保険金支払いの可否が判断されることには納得がいきません。 消費者が契約や支払いに疑問を持った場合はどう対応すればよいのでしょうか。担当営業職員や支店サイドには聞きづらいという声もあります。それなら、保険会社が設けているカスタマー(お客様サービス)センターに問い合わせてみてください。電話でも気軽に相談することができます。(この場合、保険証券番号や本人確認が必要となることがあります。) それでもまだ満足な回答が得られないなら、消費生活センターや損害保険協会保険相談室でも相談を受け付けています。いざというときの相談窓口を覚えておきましょう。 消費者の保険金トラブル対応策としては、まずは「シンプル」な保障にすることが鉄則。よく分からない特約や不必要な保障がないか一度点検してみてください。分からない場合は、しっかりと担当者や保険会社に説明を求めましょう。「どのようなときに保険金が受け取れるのか?」「どのようなときに受け取れないのか?」をまずは明確にしてください。最近では複雑化した商品から一転、保障内容をシンプルにする保険会社も出てきました。 加入時に保障内容を正しく理解しておくことが、後々のトラブルを防ぎます。保険証券やパンフレット・約款等の資料はきちんと保管しておきましょう。同じ商品でも販売された時期により約款は異なります。 今後は消費者が適切な情報提供を受けて契約できるよう、トラブルにおいて一方的な不利益を被ることがないように「契約者を保護する仕組み」がさらに整備されることを期待します。(エフピー・パートナーズ/ライフプラン・コーディネーター 竹腰朋子)
2007年01月25日
そこそこの経済成長が5年間続いています。企業収益も5年連続で二桁増益で、4年連続の最高益更新が確実視されています。物価上昇率は低く、世界中で一番インフレ懸念のない国といっても過言ではないと思われます。ゼロ金利政策は終わったとはいえ、金融は緩和気味に推移していますし、為替も実質的には円安方向で安定しています。株式を取り巻く環境は申し分のない組み合わせになっていると言っても良いのではないかと思われます。 昨年4月高値まで、日経平均株価は3年で2.3倍の値上がりをした後、6月安値まで20%弱の調整を入れました。足元の株価はこの6月安値を起点とする上昇第2ラウンドの途上にあると考えられます(第1ラウンドは平成15年4月から18年4月)。市場関係者の目はあらゆる角度から上場企業の“企業価値”に注がれています。■長期上昇相場の共通点 株価は企業収益の関数で、企業収益は景気次第ということから、結果として株価は景気の関数ということになります。戦後東証が再開されてから、下記のように我々は7~8年で、日経平均株価が5~6倍になった長期上昇相場を3回経験しています。 これら3回の共通点は、(1)好況局面が長期間持続したこと、(2)その好況が設備投資主導型であったこと、の2点に集約できます。 足元の好況は、期間においては戦後最長であった「いざなぎ景気」を更新したと思われます。その好況を牽引し、元気なのは企業ということになります。名目GDPに占める民間設備投資の割合は2002年の13.3%を底に、2006年(1~9月)では15.6%まで拡大してきています。好調な企業収益と潤沢なフリーキャッシュフローから判断して、この投資主導型の好況は持続するものと予想されます。投資拡大→持続的な景気回復→長期的な株価上昇という図式は今回も生きていると思われます。下記上昇相場の相場展開面での共通点は数ヶ月・20%前後の調整を間に入れて、上昇が前・後半に分かれていることです。 今回も2003年4月安値から2006年4月高値までが上昇第1ラウンド(36ヶ月、2.31倍)であり、2ヶ月で19%下落した後の2006年6月安値が上昇第2ラウンドの起点と考える所以です。【1】 1953~61年の相場・・・上昇率6.20倍・期間8年3ヶ月(神武景気・岩戸景気)【2】 1965~73年の相場・・・上昇率5.25倍・期間7年6ヶ月(いざなぎ景気・列島改造景気)【3】 1982~89年の相場・・・上昇率5.68倍・期間7年3ヶ月(ハイテク景気・バブル景気)■照準は「企業価値」 デフレ下にあったわが国の株式市場においては長い間、保有資産は目減りするのが前提であり、資産に対する評価は過少になるのが普通でした。名目成長率がプラスになり、物価が水面上に浮上した今でも、資産の評価が正当になされているとは考えられません。結果としてPBR(株価純資産倍率)は先進国中最低であり、PBR1倍割れの銘柄が全体の2割を超えているというのも他では見られない現象です。この資産評価の見直しだけでも株価の上昇余地は大きいと思われます。 豊富なキャッシュフローの活用の仕方によって、当該企業の株式市場での評価は決まるものと思われます。設備投資によって成長力を高める方向に動く成長企業、M&Aに活路を見出す企業、自社株買い・増配と株主還元姿勢を明確にする企業等、多くの企業が株価を刺激するような行動を起こすものと思われます。 投資環境に目立った変化がない限りは、今年の株価は下値不安は大きくなく、2007年度利益が市場コンセンサスどおり、10%前後の増益ということであれば、2万円挑戦のシナリオが描けるものと思われます。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2007年01月18日
アクティブ運用を行うファンドの運用成績は、一般的には、日経平均株価や東証株価指数といった株価インデックスをベンチマークとして、それをどの程度、上回ったかによって、その良し悪しが評価される。 こうした対ベンチマークとの相対評価においては、たとえファンドの基準価額が下落していたとしても、ベンチマークの下落率よりも小さく押えられれば、それは評価の対象になる。 ただ、一部から「ファンドの購入者は相対評価を望んでいない。いくら利益が上がってナンボだろう」という声が上がったのも事実だ。もちろん、大勢の個人投資家の資金を預かって運用しているのだから、その程度の意気込みはあった方が良いだろう。でも、株式などの価格変動商品を投資対象にしながら、いつ、どの時点で投資しても、ほぼ確実に一定のリターンが得られることを期待するのは、やめた方が良い。 いつ、どの時点で投資しても、一定のリターン確保を目指すことを「絶対リターン」という。実は、絶対リターンの実現を標榜して運用される投資信託があるのも事実だ。なかでも代表的なものが、売り買い両建てのポートフォリオで運用される「ロング・ショートファンド」あるいは「マーケット・ニュートラルファンド」だ。 たとえば、マーケット・ニュートラルファンドの場合、基本的な売りと買いの比率は50%対50%というように、両者の比率を同じにする。現物株式を組み入れる一方、株価指数先物取引などを売りたてることにより、価格変動リスクをヘッジするというものだ。 基本的に株価の動きは、企業の個別要因だけでなく、マーケット全体の値動きに引きずられる側面もある。株価指数先物取引を、組み入れた現物株式と同比率で売ることの意味は、現物株式がマーケット全体の下落に引きずられて値下がりするリスクを相殺するところにある。つまり、純粋に個別要因を源泉とするリターンのみを取り出す。 このロジックを額面どおりに受け止めれば、いかにも絶対リターンが実現しそうだ。 しかし、実際のリターンはどうかというと、これがなかなか厳しいというのが現実だ。たとえば2006年11月末時点において過去1年間騰落率をチェックすると、日経平均株価が9.42%の上昇だったのに対して、基準価額の騰落率がマイナスになったファンドがかなりの部分を占めている。 ちなみに、日本株を対象にした売り買い両建てファンドは、全部で18本(ただし1年以上の運用実績を持つものを対象にする)あるが、このうち12本がマイナスになっている。なかには、同じ期間中に基準価額が11.1%も値下がりしたファンドもある。 これは結局のところ、ファンドに組み入れられた現物株式の選択に失敗したとしか、言いようが無い。 株価が上昇すれば、確かに株価指数先物取引を売り建てた部分には、損失が生じる。しかし、ポートフォリオに組み入れられた現物株式は、そもそも市場平均よりも高い付加価値が得られるという前提で銘柄選択をしているのだから、両者の投資比率が50%ずつであれば、多少なりともプラスが出るはずだ。それが、11%超もマイナスになったということは、それだけ良い銘柄を選べなかった証左でもある。 両建てで運用している限り、マーケットの上昇局面において、ファンドのパフォーマンスがベンチマークに追いつけないのは仕方がない。しかし、ブルマーケットで、マイナスリターンしか出せないというのでは、お話にならない。 絶対リターンという言葉が独り歩きしているが、実体に目を向ければ、このように厳しい現実があることを、頭に入れておくといいだろう。(金融ジャーナリスト:鈴木雅光)
2007年01月11日
■1月は相場が上昇することが多い? 1月は一年の始まりですが、株式市場にとっても特別な意味を持っています。過去を振り返ってみると、1月は相場が上昇することが多いことが観察されます。戦後の相場をみると、1月のうち7割以上が上昇相場だったようです。この現象は「1月効果」と呼ばれ、日本市場だけではなくアメリカ市場にも発見される不思議な現象です。市場参加者が合理的な投資行動をとるとすると、1月が特に高いような現象が起こるはずがなく、説明が付かないので、経済学上の謎の一つだとされます。■1月は割安指標が効く? 1月はまた、その一年を象徴する月になりやすいともいわれます。どういう意味かというと、もしその年にPBRだとかPERといった指標が注目されるとしたら、一年の初めの月にその効果がでることが多いというものです。特に、ここに上げたような割安指標にそのような傾向が強いほか、小型株のパフォーマンスが相対的に良い場合も、その効果は1月に出ることが多いということもいわれます。 ジンクスまがいの経済学説ですが、このような現象の解明に学者は真面目に取り組んでいて、数年前にはノーベル経済学賞の対象にもなりました。最近は、日本でもこの分野(行動ファイナンス)のやさしい解説書が手に入ります。■昨年の回顧 このような観点から、昨年一年間を振り返ってみます。「1月効果」という意味では、まさにその通りの一年でした。昨年1月の株式相場は、前年からの勢いのまま上昇し、乱高下の後の4月に高値をつけます。その後大きく調整し、年末に再び上昇しています。 投資指標では、昨年1月はPERやPBRといった指標が良く効き、割安株のパフォーマンスが良く、これもセオリー通りでした。しかし、年の後半にはこの指標は効かなくなりました。小型株に関しては1月も含めて、昨年一年を通じてほとんど効果を示しませんでした。 結局、投資のスタイルという点では、年をならしてみるとあまり勝者のはっきりしない年となって終わりました。読者の皆さんの保有している投信のパフォーマンスも、成長株型や割安型にせよ、また小型株型にせよ一概にパッとせず、手数料の少ない分インデクス型のメリットが際立った年だったではないでしょうか。 付け加えると、デイトレードという投資スタイルも、相場の低迷していた局面では、如何ともしがたかったのではないでしょうか。今年の初めまであれだけメディアが持ち上げたにもかかわらず、相場が下がりだすとトレーダー達の武勇伝も聞こえてこなくなったように思われます。 ■1月は一年の縮図 1月は、その後の相場の流れを占う上でも非常に興味深い月となります。このブログの読者の方にも、行動ファイナンスの解説書を片手に、新年1月の相場を楽しまれることをお勧めしたいと思います。(株式アナリスト:杉岡秋美)
2007年01月04日
「100-年齢=株式投資比率」。米国のフィナンシャルプランナーは、投資家の資産運用にこうアドバイスしています。これは、30歳の投資家なら、資産の70%を株式投資に振り向けて積極的に資産の成長を目指し、残りの30%は債券などで安定的な運用をしてリスクの低減を図る、60歳の人は株式への運用を40%に抑え、債券への運用を60%と多くして安定的な収益の確保を図る、という年齢に応じたアセットアロケーションのメドを示したものです。 実際はどうでしょうか。米国の投信協会と証券業協会の共同調査(2005年)によると、米国の投資家の金融資産中に占める株式及び株式投資信託の比率は、35歳から49歳で平均59%、50歳~64歳で54%、65歳以上で41%となっています。フィナンシャルプランナーのほぼアドバイスどおりといえましょう。 では、日本はどうなっているでしょうか。金融広報中央委員会の世論調査(2005年)によると、金融資産中の有価証券の割合は、30代で11.2%、40代9.2%、50代9.0%、60代15.4%、70代で15.1%となっており、米国に較べて株式等の有価証券の保有がきわめて低いことが分かります。その一方で、預貯金・郵便貯金の保有割合が、年代を問わず54%~64%と高水準となっており、預貯金に偏重している実態が浮かび上がります。 米国の人々の資産運用で株式投資比率が高い理由の一つは、将来のインフレリスクに敏感であるためと思われます。仮に、今後30年間で物価が毎年3パーセントずつ上昇を続けたとすると、現在の100万円は30年後には実質41万円の価値しかないことになります。6%の物価上昇なら17万円、10%の場合には5万7千円の購買力しかありません。 こうしたインフレリスクに加えて、最近、もう一つのリスクに注目すべきだといわれています。それは「長生きリスク」です。長生きすることは結構なことで、なんでそれがリスクかと思われるかもしれませんが、今まで想定されていた以上に寿命が長くなれば、今まで以上に長期に亘り、収入の確保が必要になります。しかも、それはインフレに負けない購買力を維持した収入でなければなりません。 日本は世界一の長寿国といわれます。事実、日本人の平均余命の延びは著しいものがあります。1970年当時では、65歳の日本人男性の平均余命は13年、女性は15年でした。それが2005年では、男性が18年、女性が23年に大きく延びています。米国では、男性が13年から16年に、女性が17年から19年に延びただけですから、いかに日本人が長生きになったかが分かるでしょう。 一方で、老後の収入を確保する収入源をみると、65歳以上の人の場合、米国では公的年金への依存度は40%であるのに対し、日本では約70%になっています。逆に米国では資産運用による収入が16%を占めていますが、日本では資産運用収入は5%以下しかありません。日本人は公的年金への依存度が非常に高いのですが、公的年金維持の財政的基盤は脆弱化してきており、自助努力による老後の所得確保が求められてきています。 将来のインフレリスクを考えれば、ゆとりある老後を楽しむには元本確保型の年金だけでは十分とはいえません。しかも日本人は米国人以上に長生きのリスクが高いといえます。そうした観点からすれば、株式や株式投資信託への投資をもっと増やして資産運用による収入増を図ることが必要と思われます。 最近、米国のフィナンシャルプランナーの間では、株式および株式投信への投資配分のメドは、「110-年齢」だと言われ出しています。(金融アナリスト 新藤正悟)
2006年12月28日
今年もあっという間に12月ですね。会社員の方は「年末調整」のシーズンです。この時期、女性からよく聞かれるのは「パートの税金」について。一般に「103万円のカベ」という言葉がよく使われますが、どうして103万円がキーワードになっているのかご存知ですか? 主婦がパートで働く場合、収入が103万円以下なら妻の所得税はかかりません。それは、【給与所得控除-必要経費に相当(65万円)+基礎控除-すべての人に認められる(38万円)】が103万円になるからです。住民税の場合は、収入が100万円以下であれば原則非課税になります。 また夫の立場からみると、妻の収入が103万円以下なら配偶者控除の対象に、103万超141万円未満なら配偶者特別控除(夫の合計所得が1000万円以下)の対象になります。妻自身が税金を支払うのか・配偶者控除の対象かどうか等で家計に残るお金も変わります。ご参考:国税庁HP
2006年12月21日
2007年は緩やかながらも実質円安の修正が進み、政策金利は引き上げられるものの長期金利は上がりにくく、株価が米国ともども堅調に推移する年と位置付けられるのではないかと思われます。■印象ほどは悪くない2006年の株式市場 今年の東京市場を振り返る時、市場関係者の多くは「停滞・低迷」の年と認識されているのではないかと思われます。しかし、視点を変えて年単位で株式市場を見てみると、違った姿が見えてきます。下記は昨年と今年の日経平均株価の年間の高値・安値・平均値等です。 高値 安値 変動幅(変動率) 平均値 上昇率2005年 16,344 10,825 5,518(44.4%) 12,422 11.12006年 17,563 14,218 3,344(20.8%) 16,055 29.2(注)変動率は変動幅/平均値。上昇率は平均値の前年比。2006年は12月8日まで。 昨年が年末に向かって株価が大きく買われたのに対し、今年は株価の上昇が春で終わり、12月まで高値を更新できなかったことが印象の悪さにつながっていると思われます。実は今年は変動率こそ小さかったものの、年間平均の上昇率は30%近く、前年の上昇率を大きく上回っています。しかも4月高値までの1年の上昇率は10年に一度あるかないかというほどの大幅なものでした。今年の高値をつけた4月の月間平均の前年同月比の上昇率は51.2%と大幅なものでした。この月間平均の1年前比が50%を超えるのは滅多に起こることではなく、過去40年をさかのぼっても1972~3年・1987年・2004年の3例しかありません。滅多に起こらないほどの上昇率ということは相場が過熱したことの証でもあり、その後の直近までの保ち合い相場というものは「宴の後」であることを考えれば、ある意味当然なのかもしれません。■注目したい11月第4週(20日~24日)の動き 11月第4週はすべての投資主体が買い越しました。1996年9月に現在の形態での発表になってからでは初めてのことのようです。これは(その時点で)指数先物と現物が逆ざやになっていたことから裁定の解消売りが進み、この自己の裁定解消売りを全員で買ったというシンプルな構図であります。この週は内部指標は「売られ過ぎ」を示唆しており、日経平均株価は15,700円台、TOPIXは1,530ポイント台でした。 ここでの重要なインプリケーションは国内勢全員が買い越したということです。国内勢が大きく買い越しに転じる時こそ、株式市場は大相場になるというのが経験則です(参考までに相場が長期間低迷していた1991年~2002年の間で外国人が売り越したのはわずかに98年と00年の2年だけです。他の年はすべて買い越しです。外国人が買えば相場が上がると考えている人が多いようですが、必ずしもそうではないのです)。もちろん国内勢に外国人が加わるということになれば、鬼に金棒ですが。 わずかに1週間の出来事を象徴的に捉えるのは行き過ぎかもしれませんが、株価の再スタート時のこの動きは先行きを示唆しているものと考えます。今年11月までの実績で国内勢では事業法人(1兆9,250億円)と投資信託(1兆8,496億円)が大きく買い越しています。これらの投資主体は引き続き来年も期待できると考えられ、鍵を握るのは今年株価下落の痛手から市場内でのプレゼンスを大きく落とした個人投資家の復活だろうと思われます。 4月高値からちょうど9ヶ月が経過しました。足元の景気指標は必ずしも良くありませんが、市場コンセンサスどおり来年後半に復調ということを前提にするならば、日経平均株価は来年の早い時期に今年の高値(17,563円)を更新し、19,000円台をトライする年と考えます。(マーケットアナリスト:貴浩志)
2006年12月14日
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