島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

セルフィッシュルームメイトの巻



この家の半ば持ち主であるポーラがとりあえずは管理人となってルームメイトの面接に当たったが、初めの印象はフレンドリーで、特に問題はなかったし、また、みな同じ世代だったので、いい感じで生活をスタートした。

初めのころは、ルームメイトをよく知るために、キッチンやリビングルームでなるべく会話をして相手の考え方や、どうやったらうまくやっていけるかなどを観察していた。まずは一番重要であるポーラとよく話すようにしていたが、彼女の話し方から、とてもプライドが高く、しかも自分は何でも知っていて、彼女の意見は100%正しいから、みな他の人はそれに従っていくべきというのが見え隠れしていた。彼女のやり方は、あからさまに何かを押し付けるというわけでなく、話の中で私がちらりとでも困った状況にあるといったのを聞けば、一応、あなたはどう思うか知らないけど、私だったらこうするけどといってさりげなくアドバイスをする。それで終わるんならまだしも、そうねといって半分聞き流していると必ず、もっと突っ込んできて、最終的には自分のアドバイスを押し付けるのであった。そんな彼女の性格に嫌気がさしてきたので数ヶ月で彼女とはあまり深い話をしないようになっていった。

彼女は初対面でフレンドリーであるが実はとても冷たい奴だった。ある日ジャックが私に会いに来たが、ベルを鳴らしても誰も出てこないので、ドアに書置きをして帰っていった。実はそのときに私は自分の部屋にいて、ベルが聞こえなかった。それから一時間ほど後にまた来たときにすでに帰っている私に、さっき来たんだけど、誰も出なかったからねというので、“え?ポーラがずーっとその時リビングルームにいたんだけど?”とソファーで本を読んでいる彼女のほうを見ると、“ああ、今日は誰も私に会いに来る人がいないから、無視したのよ”と平然とのたまうのだった。これにはジャックもブチ切れて、外に出た途端、”なんだあの女は!いくら自分の客でなくたって、玄関に一番近くにいるなら出てもイイだろっ!”といってそれ以降、彼女に顔を合わせても社交辞令でニコリとすることすらしないほど、ポーラのことを嫌うようになっていった。

ポーラはマリアンほどではないが、整頓することが嫌いらしく、自分の部屋はもちろんのこと、共有場所のリビングルームまでにも私物が溢れ返っていた。彼女の立場はほぼ大家であったためそれを注意する人は誰もいなかったので、私が入居した時から更に物はどんどん増えていき、豚小屋化していった。今回は、マリアンと一緒に住んでいた時と違って、こんな人のために手伝うのもあほらしいと諦めて、一人部屋に篭って滅多にリビングルームでくつろぐことはなかった。

数ヶ月して、彼女はボーイフレンドと一緒にサンフランシスコに引っ越すことになった。この時点では他のルームメイトもポーラの傲慢で身勝手な性格に嫌気がさしていたので、私たちは皆、手と手を取り合って喜んだ。早速ルームメイト募集の記事を新聞に掲載するとすぐに反応があり、面接が始まった。するとポーラはもう出て行く身であるくせに、この人はちょっとこうだからとか、あの人はここがどうだからと、聞いてもないのに意見を述べて、ルームメイト選びに口出しをしてくるのだった。これに関しては、はっきり言って辞退してもらうように言うと、つまはじきにされたのが気に入らずに、今まで以上に傲慢に振舞うようになった。

新しいルームメイトも見つかって、ポーラが引っ越す一週間ほど前になったころに、荷造りをする彼女がなにやらぶつぶつ言っていた。“もう、会社辞めるってなったらいろんな同僚が、使いもしないガラクタをくれるんだから、荷物になって仕方ないわ!”それをきいていたイングリットと私は目が点になって顔を見合わせていた。その‘ガラクタ’には多分私が彼女の耐熱皿を割ってしまったお詫びに買ってプレゼントした結構高かった陶器の鍋が入っていたに違いないと思うととても腹が立った。

そして忘れもしない私たちルームメイトを全員爆発させる事件が起こった。ポーラは猫を三匹飼っていた。その中にはとても年を取ったメス猫がいて、彼女を置いていくつもりだという。そこで自分でも猫を飼っているイングリットに、“ねえ、ポーラからあの猫を面倒見てくれるように頼まれた?”と尋ねるとそんなのぜんぜん聞いてないという。私と彼女はまさかポーラが頼みもせずに勝手にその猫を置いていく気でいるのか心配になって問いただすと、“ええ、そうよ。この子はもうおばあちゃんだし、生まれたときからこの家に住んでいるから新しいところに行っても馴染めないと思うから置いて行くわ。”としっらっと言うのだ。そこで、私が“どうゆうこと、それ?餌や、便の始末だって毎日のことだからそんなの毎日する暇ないよ!それに第一病気になったらどうするのよ?”と言うと、“そんなの簡単よ、これをこうしてあれをこうして...”と猫の世話の説明を始め、“それと病気になったらXXという医者が彼女のことよく知っているわ。もちろんその費用は私が持つし。”横にいて黙って聞いているイングリットもだんだん険しい顔になり、私もこの傲慢な態度に発狂し、今まで溜まっていたすべての怒りを全てぶつけて言ってやった。“大体そういったことを私たちに頼みもしないで、置いていったら誰かが自動的にやってくれると思ってんのか?病院に連れて行くにも誰かが学校やバイトを休んだりしていかなきゃいけないんだぞ。我儘もいい加減にしろ!お前に動物を飼う権利はない!!”そう言われて返す言葉もない奴は、”それじゃいいわよ!彼女も連れて行くから!”とぶっすとしてドアをばたんと閉めて、自分の部屋に篭り、普段、理性ある知的な女性を演じようとしている彼女は本来の子供のような姿を露呈するのであった。

ポーラが引っ越した後に入ってきたエリザベスはとてもいい人で、きれい好きであったので、私たちルームメイトは全員でリビングルームを整理して、ポーラがいたときのそれが同じものであると見分けがつかないほど美しいものになり、四人は何の問題もなく仲良く暮らしていくのであった。めでたしめでたし...


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