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じんさん0219 @ Re[1]:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) 大悟の妹☆さん >“大悟”ですけどねー(  ̄▽…
大悟の妹☆@ Re:(σ・∀・)σゲッツ!!(07/14) “大悟”ですけどねー(  ̄▽ ̄)
じんさん0219 @ Re:日本代表残念でしたね(o>Д<)o(06/15) プー&832さん 覚えとりますよ。 プーさん…
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じんさん0219 @ Re[1]:たどりついた...民間防衛。(02/07) たあくん1977さん >どうもです。 > >こ…
2007年01月06日
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佐野主馬が、夜道を駆けて江戸へ着き、
「.....只今立ち返ってござりまする」

起き出したばかりの玄関で、大声で帰着を告げたのは、江戸を発って十四日目のことであった。

それを聞くと、真っ先に起き出したばかりの弥三が駆け出し、宗矩、おさめ、七郎と、みんな眼の色変えて式台の前に立った。

「ご苦労だった。早かったの」
「はい。七郎さまがお待ちかねと存じ、宙を飛んで参りましたので」

しかし、どこにもおりんの姿はない。主馬とそして、また江戸行きを許された服部丑之助(はっとりうしのすけ)が、昂(たか)ぶった表情で手に小さな虫籠(むしかご)を捧げて立っている。

「母上は.....母上は、どうしたのじゃ主馬!?」

すると主馬は、丑之助の手から虫籠を受け取って、それにうやうやしく叩頭(こうとう)してから宗矩の手に渡した。

「これが、奥さまでござりまする。では、われらは内玄関にて足洗(すすぎ)を頂きまする」

宗矩は虫籠を受け取ると、これをちょっと額につけて、それから中の数を数えた。

「やれやれ、もはや、桂林院(けいりんいん)は、鈴虫になっておったか」

おさめも弥三も顔見合わせて息をのんだ。

宗矩は虫籠を捧げてくるりと踵(くびす)をめぐらした。弥三夫婦にも七郎にも有無を言わさず居間に戻って、その虫籠を机の上に載せて一礼した。

七郎は眼を光らせてこれに続く。

「七郎、この十二匹の鈴虫の中に母者がいる。父はこれよりすぐさま登城せねばならぬゆえ、心して仕えなければ相成らぬぞ」

「あの、この十二匹の虫の中に.....!?」

「そうじゃ。母者がおる。よう見てみよ。こなたならば見分けがつこう。弥三来いッ」

それはさすがのおさめも一言半句もさしはさむ余地のないほど鮮やかな手順であった。

そこへ主馬が丑之助を連れてやって来た。

「七郎さま、この者は服部丑之助と申しまする。この者がずっと道中、桂林院さまのお給仕をして来ました。ご機嫌のとりようも十分心得ておりますゆえ、ようお聞き取りのうえ、ご孝養、十分に願いまする」

きちんと両手を突いて挨拶して、
「おさめどの、国許よりの言伝(ことづて)がござる」

これもまた、おさめを促してさっさとその場を外してゆく。

七郎は籠を睨(にら)んでまず唸(うな)った。と、とたんに室内へ持ち込まれたので、リ、リリーンと一声、鈴虫は美しい声で鳴いた。

「丑之助!」
「はい」

「その方、この籠の中のものを、な、何と思うぞッ」
「鈴虫でござりまする」

丑之助は爽やかな声で答えて、
「七郎さまは、鈴虫は、初めてですか」

七郎ははげしく舌打ちした。

「わしの訊いているのは、人間が、虫になるものかと言うことだ」
「存じませぬ」

丑之助はこだわりなく首を振った。

「私はまだ、未熟者にて、人間が虫に変わるところを見たことがござりませぬ」

「黙れッ!さっき主馬は、この中に、母上もおると申したであろうがッ」

「はい。それは確かに.....それゆえ丑之助はそのつもりで、真剣に給仕いたして来ました。万一にも粗相(そそう)のないように、これからも、七郎さまともどもお仕え申すつもりでございます」

そういうと、携(たずさ)えて来た包みを開いて、中から取り出した二品を、食い付くような眼をしている七郎の前に並べた。

一品は胡瓜(きゅうり)、一品は乾きかけた饅頭の皮。

「これは、いずれもご生前より母上さまの大好物と承(うけたまわ)りましたが、さようでございましょうか」

「そ.....それはそうだ。だが.....?」

「それは何より。道中は、日夜絶やさぬように差し上げて参りました。むろん調達はこれからもこの丑之助がいたします。しかし差し上げるのはご孝養のため、七郎さまお手ずからなされて頂きとう存じます」

どうやらこれで宗矩の考えはハッキリした。彼はついに竹千代教育の手始めに、まずわが子に対して真剣勝負を挑みだしたのだ。

それこそが、おりんの短かった生涯の至誠に答える道と悟って、十分に試案を練ったうえのことに違いない。

そういえば、丑之助の言葉も態度も、すでに慎重に計算された軌道の上を走っている。

「若は、何としても、大和からお母上を連れて参れと仰せられましたそうで」

「言っては、悪いともうすのかッ」

「いいえ。若の懇望(こんもう)とあれば、やむを得ないと、あのように.....はい。それゆえ、ご孝養に欠くところがござりませぬよう」

七郎は何度も舌打ちを繰り返した。母が本当に鈴虫になったのだろうか?

(.....もし、これが欺(だま)されたのであったら.....)

そう思うだけで、全身が燃え立つような怒りになる。

それを丑之助は、不思議な誠実さで見守りながら煽(あお)って来る。

「国許の留守居役の仰せられるには、万一手落ちもあらば一大事ゆえ、丑之助も江戸に残り、当分若のお側にあって共々鈴虫にお仕えせよと、きびしく申し付けられて参りました。これからずっと不寝番を続けまする」

「なに、不寝番を!?」

「はい、大切な奥方さまのご化身、もし寝こけてネズミなどに取られまいては、それこそ申し訳が立ちませぬ。いや、若は、夜のお食事さえお手ずから差し上げて下されば、お寝(やす)みなされてもよいので.....はい。それではご不孝とお叱りもござりますまい。しかし丑之助は、決して夜は眠りませぬ」

「........」

「それに、せっかく江戸へ出ることゆえ、昼は若のお稽古のお相手をせよと、これは柳生喜七郎さまから厳しく命じられて参りました。丑之助の太刀筋は荒いそうにござりまするが、なにとぞそれもお許し下さりまするようまずもって」

聞いているうちに、七郎はキリキリと歯がみをはじめた。丑之助はわざとその方は見ようとしない。

「ところで七郎さま。この十二匹の鈴虫のうち、どれがお母上か、あなた様にはおわかりでございましょうか。失礼があってはなりませぬゆえ、伺(うかが)いおきとう存じまするが」

「な.....なにッ!?」

「お父上が仰せられましたな。七郎にはわかるであろうと」

「おお、わ.....わ.....わからいでかッ。だが、そ、その方などに、聞かせてやらぬわッ」

と、またしても籠の中では長く透きとおった鈴虫の声であった。

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参考 山岡荘八・柳生宗矩第3巻/人間曼荼羅・いのちの本質より

つづく

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*この書き込みは営利目的としておりません。
個人的かつ純粋に一人でも多くの方に購読していただきたく
参考・ご紹介させていただきました。m(__)mペコリ





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Last updated  2007年01月06日 11時42分13秒
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