後藤瑞義(人徳)
子に迷ふ 雉 なるらん荒畑に沈む夕日を幾く声も呼ぶ
原 明男
(評)「子に迷う雉(きぎす)なるらん」、「子に」の助詞「に」にはいろいろな使い方がありますが、この場合は原因、機縁を示す意味にとりました。つまり、「子のために迷う」といった感じです。「迷う」は、あっちこっち探し回る、つまり子がいなくなってあっちこっち探し回る親雉を想像しました。「荒畑に沈む夕日を幾く声も呼ぶ」、荒れた畑は、休耕地でしょうか、現代の一つの社会現象を感じます。夕日、一日が終わろうとしています、何か心がせかされる感じ、せっぱつまった感じがします。何回も雉が鳴いている声がする。それをふと作者は子を探しているんだろうと思ったのです。そこに作者のその時の心の在りようが垣間見えるように思ったのです。雉の鳴く声を、子を探しているんだろうと思った作
者の心持を思ったのです。
あら草も虫の声生みそよ風の涼しかりけりころびて気づく
鈴木菊江
(評)「ころびて気づく」、この発見がこの一首を作ったのでしょう。やはり、短歌は発見が大切です。マイナスをプラスに変える作者の心がすばらしいと思いました。もしころばなかったら、あら草と虫の声はばらばらの関係のないものであったでしょう。またあら草の葉先をかすかにゆするそよ風の涼しさも発見できなかったでしょう。それにしましても、ころばないようくれぐれもお気を付けください。
四世代揃う盆なり晝餉にはそうめんおむすび高だかと盛る
黒田幸子
(評)普段はお一人で暮らしている作者。お盆ということで、息子さん、それに作者にとってのお孫さんが子供を連れて帰省したのでしょう。「四世代揃う盆なり」がそれです。お盆であれば、目に見えない亡きご主人やその他のご先祖様も来ていらっしゃっているかもしれません。シーンとした一人の家が沸き上がるようなにぎわいとなりました。折しも昼の食事の時間、「そうめんおむすび高だかと盛る」に作者の気持ちも盛り上がっている感じがします。
盆用意息らの帰省までなすことのすべてを終える甲子園も雨
藤井美智子
(評)「盆用意息らの帰省までなすことのすべてを終える」とこともなげに作者は書いておりますが、その準備にお墓の掃除はもちろん、仏壇の盆飾りとかその他いろいろ考えられます。それをお一人で成し遂げてた。折しも雨となって外出もできない。ゆっくり高校野球でも見ようかとテレビをつけると、甲子園も雨が降っていて、野球は中止、やれやれといった思いでしょうか。
探し物減らすと身辺整理して記憶整理が追いつかず居る
小池美恵子
(評)誰しも共通だと思われることに、年とともに探し物が多くなることです。つまり、置いた場所を忘れてしまうのがその原因と思われます。「探し物減らすと身辺整理」ということは、必ずしも物を減らすということではないでしょう。身辺整理は物の置き場を、メガネはここ、なにはここときちんと決めたのでしょう。そうすれば必要な時にすぐ見つけることが出来ます。しかし、何がどこにあるか置き場所を決めたその置き場所を覚えることがなかなか追いつかないで結局探し回っているといった、本人は真剣そのものですが、何となくユーモラスな感じがします。しかし、そう言っている自分も他人事ではないのです。
聞こえくる「ピーチャンピー」と海千鳥気遣う親鳥心知らるる
鈴木きみ
(評)明治以降、短歌革新が叫ばれ、写生の重要性、瞬間を歌うこと、緊迫性であったり衝迫性であったりそうしたものを重要視しました。「聞こえくる」は、倒置的です、『「ピーチャンピー」と聞こえくる』ということでしょう。「ピーちゃんピー(ちゃん)」とも読めます。ともかく子のおぼつかないのを親鳥が気遣っているように見えたのでしょう。作者も母親として経験があるので「この親鳥の心がよく分かる」と思ったのでしょう。参考は写生を重視しました。両者をくらべますと作者の歌の特色がよく分かると思います。
参考:「ピーチャンピー」子を気遣うか海千鳥鋭き声の風に聞こゆる
全身の汗線開き流れ落つ真夏日の畑木陰欲しかり
土屋文恵
(評)「全身の汗線開き流れ落つ」と細かい描写をしています。作者が今働いている真夏日の畑がいかに過酷な環境かを表現しています。そして、結句の「木陰欲しかり」を強調する役割をしています。「木陰欲しかり」はまさに心底からの作者の思いでしょう。夏の日射しのなかを歩いているときなど、木陰があるとほっとしてしばしその下で休みます。ただそれはたまたま木陰があったので休んだわけで、木陰を求めてそこに行ったわけでわありません。しかし、作者は木陰の有難さをはっきりと心に思い浮かべたことでしょう。そして、あるいは初めて木陰をこころの底から求めたことでしょう。
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