今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2017.10.06
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カテゴリ: 短歌


平成二十九年四月号歌評(同人誌「賀茂短歌」より)
        後藤瑞義(人徳)

原 明男

老いたれば健忘症は人の常けふも命と向き合ひてゆく

(評)「老いたれば健忘症は人の常」とご自分の最近の物忘れに対して、つぶやいているのでしょうか。これは、特別な思いではなくむしろ誰しもが抱く思いでしょう。この歌の特殊なのは、下の句です。「けふも命と向き合ひてゆく」、この飛躍がやはり特殊だと思います。作者には持病があり定期的に検査されています、その命と今日も向き合っていらっしゃるのではないでしょうか。それこそ作者が常に心に留めていることなのでしょう。



渡辺つぎ

立ち座るそのたび膝腰もの申す百と六年使いつづけて

(評)膝と腰を擬人化しています。「もの申す」がそれです。それは多分、「痛い、痛い」ということではないでしょうか。もちろんそれは、膝や腰が言っているのではなく、作者ご本人の言葉であるわけです。「無理もないなあ、百と六年使い続けているんだから…」、それはある意味では、膝腰に対する労わりの心であり、感謝の心でもあるように感じました。

鈴木菊江

つなぐ手と手が仲なかに離れざるきさらぎなかば春はのんびり

(評)「きさらぎ」を新暦2月で解釈してよいのか、旧暦の2月で解釈するのかでは、季節が一か月ぐらいずれが生じます。どちらにしましても、「春はのんびり」の気分は伝わるでしょう。それにしましても、「つなぐ手と手が仲なかに離れざる」という譬喩はすばらしいと思いました。ようするに、冬と春が手と手をつないでいて、なかなか離れない、なかなか温かくならないということでしょう。ですから、「春はのんびり」なのです。

                                 黒田幸子

これからは野菜作りも楽しげに詠う貴女の歌に会えない

(評)妻後藤早苗が一月末に突然亡くなりました。短歌と野菜作りがなにより好きな妻でした。その妻に対する挽歌でしょう。感情を抑え事実をそのまま伝えるようにして成功をしていると思います。

                                藤井美智子

夫の逝き五 ( たび ) の春を咲きほこる共に求めし桜の苗木

(評)まず、ご主人が亡くなられて五年が過ぎたようです。それを「夫の逝き五度の春」とさりげなく歌っています。そして、今桜が満開になっているようです。その桜は亡きご主人と苗木を求めた記念すべき桜であったのです。春が巡るたびに桜は咲きそれとともに、亡きご主人を思い出すのです。それは、懐かしくもありご主人の亡くなったことを思い出させる切ないものでもあるのでしょう。

                                小池美恵子

一本のワインを夕餉に夫とあく元気だった頃たった二年前

(評)「一本のワインを夕餉に夫とあく」というのは、正確には「一本のワインを夕餉に夫とあけし」と過去形にすべきところでしょう。ただ、ありありとその光景が現在形で浮ぶ感じなのかもしれません。それは、今の作者にとって「たった二年前」のことだと書いています。この二年間の作者の闘病生活は大変苦しいものだったと承知しています。いま小康状態を保っているのでしょう。「たった二年」という表現のなかに、その苦しみを乗り越えた感じがしたのです。

                              鈴木きみ

喜寿を過ぎ傘寿にむかうこの命ありがたきこと神のまにまに

(評)七十七歳の喜寿を迎えた作者、八十歳の傘寿に向ってまた歩き出したのでしょう。その原動力となるものを、「この命」としているのでしょう。この命、生命、生命力、作者を生かしてくださっているものに対する感謝の念が自然と「ありがたきこと」と言わせたのでしょう。それは、大きな力、神と呼べるようなものを意識したのかもしれません。「神のまにまに」は、何もかも神様にお任せしますといった意味でしょうか。作者は今命の問題をかかえているのかもしれません。そして、自分なりの結論としての「神のまにまに」かもしれません。

                              土屋文恵

如月の寒さも忘る桜花河津の里に豊けさ招く

(評)如月は、旧暦の2月の呼び名です。ですから新暦ですと2月の下旬から4月の上旬になりますが、この歌は新暦の2月として使っているようです。河津桜祭りが2月10日から3月10日まで開催されます。河津桜はこの歌のように、2月の寒さも忘れるほどの濃いピンク色のみごとな早咲きのさくらです。全国ネットで放映され、身動き出来ぬほどの盛況となります。文字通り、下の句「河津の里に豊けさ招く」です。

河津といえば、相撲の一手でもある河津掛け、その手を産み出した河津三郎、その子である曽我兄弟の仇討ちの話、徳川幕府を支えた御三家の祖の生みの親のお万の方、近くは伊豆の踊子が有名です。それに、知る人は知る河津の奇習、鳥精進酒精進(12月18日~23日)があります。貧しさからの正月前の精進のように思うのですが、それが千年以上続いていることに意義があるように思います。「豊けさ招く」からいろいろ想像がふくらみました。








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最終更新日  2017.10.06 21:09:48
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