4月2日(火)
詩集「バタフライ効果」(34)
発行:二○一八年十一月三十日
発行所:ルネッサンス・アイ
発売元:白順社
仮想現実
「飛ビ交ウ蛍ニ
アナタノ魂ヲ探シニ来ラレテハ如何デスカ」
長いこと忘れていた人の心に
ロボットが呼びかけている
地球創成時
闇に一条の光が走ると
靄の中から水面が現れてきた
やがてそれは二つに分離し
水の引けた所には黒々とした陸地が浮かんだ
鳥が飛び魚が泳ぎ
草木が生え獣が生まれ
ヤハウエは
その一つ一つに名前を与えた
後から生まれた
暗く混迷を続ける子孫も
神に倣って
目にする物に一つ一つ名前を与えた
呼び出すことで
所有することが叶った時代
川を海を山を
そして目に見えない物にも気付いて
苦心の末 名前を付けた
後の人は
体験もイメージもない
それらの名前を
ただ繰り返し借りればよかった
透き透るクラゲのようにふやけてしまった言葉が
ガラスの世界を押し広げている
急速に広がる世界
拡散する宇宙のように
あるいは分裂するカエルの卵のように
至る所人工知能は 蔓延 り
人間は高層ビルの小さな一室で
美しい快楽に浸る
「オハヨウ ゴザイマス
穏ヤカナ ヨイ朝デスネ」
人同士の素朴な交歓を忘れている心に
今日もロボットが語り掛ける
(完結)
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