短歌鑑賞(石川啄木の一首)(歌誌「賀茂短歌」用下書き)
旅七日 かへり 来 ぬればわが 窓 の赤きインクの 染 みもなつかし
「一握の砂」 石川啄木
石川啄木については、歌集「悲しき玩具」を一首目より順にシリーズ
で鑑賞しています。今回はそれとは別に歌集「一握の砂」よりちょっと気
になった歌がありまして、鑑賞してみました。
気になったというか、昔読み飛ばしていた歌が、最近読み直してみて
心に残ったのでした。
まず、一週間留守にして帰って来た啄木です。その旅がいかなる旅で
あったかは分かりませんが、かなり長い旅だったと思います。旅は日常
の雑事を忘れ、気分転換になります。多分啄木も苦しい日常を忘れ、い
わば命の洗濯が出来た一週間ではなかったでしょうか。しかし、旅から
帰った時に大部分の人が感じることだと思うのですが、「やっぱりわが家
が一番」といった気持、啄木でさえそれを感じたのでしょう。この短歌の内
容は、それに尽きるように思いました。それを「赤いインクの染み」に焦点
を当てたところがやはり啄木は凄いと思ったのでした。
啄木が、朝日新聞社の校正係の仕事をしていたことが知られています。
仕事を家に持ち帰ったのでしょうか。それとも、短歌の添削かもしれませ
ん。薄暗い室内を避け明るい窓の近くに行ったのでしょう。そこで、ついう
っかり赤いインクをこぼしてしまったのです。それが、「窓の赤きインクの染
み」ということだと想像しました。
そのインクの染みは、啄木の汚点であると同時に啄木にとってわが家の
証しでもあるわけです。「窓の赤きインクの染みもなつかし」が実感として心
に響きました。それにしましても、「赤いインクの染み」という具象によってわ
が家の懐かしさを表現した啄木の着眼点に脱帽しました。
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