ジョナサンズ・ウェイク

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ふるほん文庫やさんの奇跡(谷口雅男)

ふるほん文庫やさんの奇跡

かつて神戸には須磨書房という本屋さんがあり、学生時代は用があってもなくても学校の帰り道に立ち寄っていた。その甲斐あってか、本の背表紙を眺めるだけで、その本が面白いかどうかを見分けられるという特技が身についた。ある日、背中からオーラを発している本があり、手にとってみた。立ち読みをして、5分間頁をめくり続けることになれば「確保」、そして15分続けば「買い」である。しかし30分読み続けてもとまらず、結局1時間以上かけて立ち読みで済ませてしまった。その本が「ふるほん文庫やさんの奇跡」という谷口雅男氏の半自伝的波乱万丈物語なのである。

日本一のセールスマンから転がり落ちて、地獄の日々を送った谷口さん。彼は、体を壊し一年間の入院生活を強いられるのだが、そんな彼を救ったのは「文庫本」たちであった。一日に一冊読むことを心がけた彼は、1年後の退院日までに365冊の本を読んだ。そこで彼は、自分を救ってくれた恩人である文庫本に感謝すべく「世界一の文庫専門店」を設立する一大決心をする。なんと今まで日本で発行されたすべての文庫本を蒐集し、すべての文庫を愛する人たちにそれを提供しようという夢物語だ。一日千円以下の生活費で7年の準備期間を経て、とうとう九州の小倉で「文庫やさん」を開くことになった。蔵書40万冊を個人で集めたのだから、その規模の凄さといえば何とやら。さらにその後の意欲的な活動がこれまたスゴイ。何がすごいって、その続きは本書よりお楽しみください。

ところで、この本を立ち読みして以来、ずっと心の片隅で気にかけていた「ふるほん文庫やさん」へ、大学の夏休みを利用して行ってきたのは6年前の事だったか。店内に足を踏み入れた瞬間、まず耳に入り込んできたのが「アイ・リメンバー・クリフォード」。大好きなジャズのスタンダードナンバー。このときぼくは、ぼくが店へ来たのではなく、店がぼくを呼んでいたのだという事に気づく。飛ぶように店内をまわり数十冊の文庫を集めて、レジへ。そして、神戸から来たことを話すと店員さんが、店長=谷口さんを呼んできてくれた。「よくきたね。」多忙ななか貴重な時間を割いていただき、コーヒーを飲みながら3時間も談話をすることになった。そのときの話とメッセージ付きの本書は、至上の宝物である。それを眺めては、当時のぼくの冷めやらぬ読書熱をますます助長してくれたものだ。


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