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憲法改正が「違憲」になるとき
ヤニヴ・ロズナイ著 山元一、横大道聡 監訳
世界旅行気分を味わえる豊富な具体例
東京都立大学教授 木村 草太 評
本書は憲法改正の限界を扱う。まず注意が必要なのは、「革命の限界」と「憲法改正規定による正当化の限界」の区別だ。前者は事実の問題で、後者は規範の問題だ。しかし、文字にすると両方とも「改憲の限界」問題となるため、混同されやすい。
国民の多くが「これが憲法だ」と思っていたものが、敗戦や市民の蜂起をきっかけに別の憲法に置き換わる、との事実が生じることを「革命」と呼ぶ。革命がどこまで可能なのかは、社会的事実による。国民が幸福に暮らし、統治機構が信頼を獲得している子にでは、革命は起きにくい。逆に、横暴な独裁国家では、革命が起きやすい。これが事実としての「革命の限界」の問題だが、本書の主題はここにはない。
多くの憲法には改正手続きが定められており、この手続きを踏んだ憲法改正は、「元の憲法自身がそれを認めた」という理由で正当化される。もっとも、既存憲法の基本原理や構造を破壊することは、その憲法自身による正当化はできず、革命として扱われる。例えば、人権の永久保障を掲げる憲法を根拠に、人権を無視した改憲を正当化するのは無理だ。これが、本書の主題たる「憲法改正規定による正当化の限界」だ。
一般に、憲法改正規定に基づく改正には限界がある。ドイツ連邦共和国基本法のように、改正禁止事項の明文で規定する場合もあれば、改正規定の明文がないものの、憲法の基本原理や基本構造の改正は許されないとの考えが広く共有されている場合もある。本書は明文の改正禁止規定、不文かつ憲法内在的な改正禁止、自然を卯や国際法による改正禁止を紹介する(第Ⅰ部)。
では、憲法の改正禁止はいかなる理論に基づくのか。著者によれば、人民には一次的憲法制定権力がある。これは既存憲法を無視しうる、憲法制定の原始的権力と考えるべきだ。他方、憲法上の憲法改正手続きは、その一部が委任されたもので、憲法により制限される。憲法改定手続きが議会内の決議に留まる場合には、人民との距離は遠いので、改正限界も大きくなる。逆に、国民投票など、人民の権力を直に発動するような手続きを踏む場合には、憲法改正手続きの性質は人民の憲法制定権力に近づくので、限界は小さくなる(第Ⅱ部)。
憲法改正禁止に関する裁判的統制も、この観点から説明される。つまり、憲法改正手続きは、人民の一次的憲法制定権力とは異なり、人民から委任された範囲での改正しか許されない。そこで、委任範囲の確定が、裁判の重要な機能となる(第Ⅲ部)
憲法改定の性質を論じる議論はスケールが大きくなりがちだが、本書は対象をほどよく限定しており、論理も常識的だ。もちろん、それを物足りないと感じる人もいるだろう。しかし、明快な理論は問題の適切な切り分けの賜物だ。また、著者の驚異的な好奇心のおかげで、豊富な具体例にふれられ、政界旅行気分を味わえる。憲法について考えるときに、ぜひ一読していだきたい。
◇
ヤニヴ・ロズナイ 1980 年生まれ。テルアビブ(イスラエル)生まれ。ヘルツリーヤ学際センター・ロースクール准教授。憲法・比較憲法・国際法等を担当。
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