倶楽部貴船

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お菊人形 -9-





「もうすぐだ!」
土手が少し広くなったところで妙ちゃは立ち止まり
フーフーフーと大きく息をはいた。
「ふうん、こんなとこに、いいフチがあるんだ」
お菊は、すぐ横に続く山への道を見ながら、川の音に耳を澄ました。
「あれ、川の音、あんまり聞こえんなあ」
「うん、この下は、深いフチ。そっちはダメっておとうちゃが言っとった」
もう何度か通ったらしく、足元の土は固くなっていて
お菊が思ったほど苦労をせずに木立を抜けて、大西川まで降りることができた。
「ヘェー、すごーい!」
お菊は思わず大きな声を出した。
両岸から深い木立で囲まれていて、その中にぽっかりと
まるい形にフチができていた。
川底が見えるくらいの深さで、さらさらとした砂が水の中で光っているのが見える。
小さな魚も静かに泳いでいる。
「いいとこだら?」
妙ちゃは、ぐっと胸をそらしてお菊を見上げた。
「うん、すごーく、いいとこ。入ってみるか」
お菊と妙ちゃは、着物を枝にかけると
魚を驚かさないように、端からそっと水に入った。
「つっめたーい」
妙ちゃが水面をたたいた。
「妙ちゃ、しっ!ほれ、見てみ。魚がびっくりしとる」
「うん」
二人は、フチのまん中まで行ってみた。
深さはちょうど腰くらいで、まるで二人の背に合わせたみたいだった。
お菊は、身体の力をぬいて、ふんわりと浮いてみた。
ふわふわと浮いたまま川下へ流されていき
大きな石のところまで、静かで、あったかくて、夢をみているような気分だった。
「妙ちゃ、おもしろいに。やってみ。
お腹を下にすると魚になったみたいだし、上を見て流れて行くと
舟になったみたいだに」
お菊は水遊びに夢中になった。
妙ちゃも何度も浮いては流されていたが、そのうち川岸の銀砂で遊び始めた。
山を作ったり、道を掘ってつなげてみて
「菊ちゃ、来て、来て、すごい山ができた。
この道でつながってるんだぞうー」
妙ちゃの声にお菊も水から上がると、銀砂で遊び始めた。
冷えた背中に、太陽がやさしく光を投げかけてくれて、気持ちがいい。
木々の葉が、ほどよい木陰をめぐって二人を包み込んだ。
「気持ちがいいなあ」
とお菊が言うと、妙ちゃが
「おもしろいなあ」
と返事をして、思わず二人で笑い出した。
その時、
頭の上の木がざわっと音を立てて揺れて、小石がパラパラと落ちてきた。
お菊と妙ちゃが顔を見合わせた時、
「誰か先に来とるぞ!」
という声がして、一人、二人、三人と小学生の男の子が姿を現した。

─9─

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