2002/12/13
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 文壇には馴染みがない。野坂昭如の文章には馴染んでいる。色川武大の新人賞受賞パーティーから始まる話に散りばめられている文人、編集者、他多数の著名人、名前だけは知った名、その中に私が読んでいる作家の名前はあまり多くはない。「第三の世代」と呼ばれる作家群、吉行淳之介、丸谷才一、永六輔、三島由起夫。野坂昭如はよく読んでも、野坂昭如が自分の周りによく描くその辺りには私にはあまり馴染みがない。「内向の世代」の人達は後藤明生が少し。65-70年前後の「文壇」。


「アメリカひじき」で妙に自身を抱いたが、かりに候補となって、落ちたら今度はがっくりする、「しんみり、しっとり」私小説、題名は「蛍の川」とし、すぐ伊藤桂一の受賞作「蛍の河」に思い当たり、しかし蛍に執着があった。百科事典をひくと、古語に「火垂る」、火が垂れる、つまり空襲、すぐ「墓」とつづいた。書き始めたのが午前六時、正午近くまで机に向い、ことさらかわいそうな戦災孤児の兄妹、舞台は、空襲後二ヶ月余り過ごしたあたりに設定。実際の妹は一歳四ヶ月、これでは会話ができない。十六年生れということにし、急性腸炎で三日寝つき死んだ、前の妹と同年。あの妹が生きていたらと、はっきり残る面影をしのび、戦時下とはいえ、暮しにゆとりがあって、ぼくは確かにかわいがった。この気持を、まったく異なる飢餓状況下に置きかえた。


 これまでに何度も読んだエピソードが多く出る。「赫奕たる逆光」や「人称代名詞」他なんでもいい。多くの、本当に多くの初期短篇群。それらで書かれたこと、またそれらを書いていた時のこと。野坂昭如を多く読んでいる者には面白い。「火垂るの墓」が映画通りの話ではないことは当たり前のこととしてこの身にある。初期作品を読んだ後に野坂昭如年譜を見て、現実とは大きく違う両親の描き方に、関係のないこちらが時代を超えて心配したものだが、野坂自身そのことは大きく気に病んでいると書いている。人間、外面から内面は計れない。
 4月25日第1刷、7月5日第5刷。随分売れている。

野坂昭如「文壇」(文芸春秋社)





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Last updated  2002/12/13 10:44:02 PM
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