2003/04/15
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カテゴリ: 国内小説感想
 内田百間の書いた酒に関する随筆を集めたアンソロジー「タンタルス」をぱらぱらと読みまた本書に戻ると、そこには女の尻と反吐と悪罵に満ちた喧しい場所で酒を飲む場面があり、ふと今読んでいるのはなんだったかとフラフラした。断片、断面、切れ切れの人物、時間、へどもど、ゲロ、チンコマンコ、女、男、女、男、女、性病、娼婦、出来損ないの芸術家だらけのパリでだらけた生活を送るユダヤ人贔屓のアメリカ人が吐き出す文章の群。面白いか? 面白くないか? 正直うんざりか? それほどでもないか? 半々。露悪的描写の後幻視的になると次第に何を見ているか何故読んでいるかが分からなくなり、しょっちゅう他の本に手を伸ばした。しかし詩のアンソロジーははずれ物で偽物ばかり、昔の中国の偉い人について書かれた本は半分まで費やしてようやく「これまでのこの人に書かれた文献はそれほど信用出来ないものばかり」などとのたまいやがり、柴田翔は文章が薄かった。


 ではこれは何だ? これは小説ではない。これは罵倒であり、讒謗であり、人格の毀損だ。言葉の普通の意味で、これは小説ではない。そうだ、これは引きのばされた侮辱、「芸術」の面に吐きかけた唾のかたまり、神、人間、運命、時間、愛、美・・・・・何でもいい、とにかくそういったものを蹴とばし拒絶することだ。ぼくは諸君のために歌おうとしている。すこしは調子がはずれるかもしれないが、とにかく歌うつもりだ。諸君が泣きごとを言っているひまに、ぼくは歌う。諸君のきたならしい死骸の上で踊ってやる


 ブコウスキーが誉めてたような。いや間違いなく誉めてるだろう。どうしようもないくらい影響は受けているだろう。次に読むかとセリーヌ『夜の果ての旅』を部屋をへちゃむくれにしようやく探し出したが、栞が抜け落ち、以前読んだところが何処までだったか分からず、元に戻した。ヘンリー・ミラー、ヘンリー・チナスキー、関連のないはずはない。似ているのではなく同じ人間が少し時代が違う場所に居ただけだとさえ思える。この場合前と後ろはあまり問題にならない。


 マダムは洗滌器のそばに立って、さかんにいきまき、唾を吐きちらした。女たちも、手にタオルを持ったまま、そこにつっ立っている。ぼくたち五人は、そこにつっ立って洗滌器を眺めた。水のなかに、ごつい黄いろのやつが二つ、ぽかりと浮いているのだ。マダムが、かがみこんで、その上にタオルをかけた。「ひどいわ! ひどいわ!」と、彼女がぐちった。「こんなことって、あたしゃ、はじめてだよ。豚だよ、ほんとに! きたない子豚だよ!」


 不思議なもので、この場面に行き当たるまで、先日読んだ「スカトロジア」の中にこの後の文章が引用されていたことをすっかり忘れていた。どうして今自分がこの作品を選んだのかがどうも腑に落ちなかったのだが、129ページ目でようやくそのことに気付いた。読んだだけでなく引用までしている。呆けた頭に偶然と嘘をつく、わざとらしい忘却だ。それこそ藤枝静男『老友』をここで持ちだして、フランスに寄生する人間のことを書いたことで共通している云々と繋がりだの導きだのと言い出してしまいそうだ。無理やり関係を見出すのは賢くない、読んだ作品に対してそれなりに敬意を払いつつ一つ二つ数えて義理堅い顔を捨て見境もなく思うがままを垂れ流す・・・それが誠実な関係だ。そうして出てくるのは妙にテンションが上がるそれを頭の中では自制させつつキーボードは淀みなく速く打てる・・・という結果だけだ。作品に関して思うところはそう多くはないが、自分には似合わない喧噪が乗り移る、あるいは一時的に乗り移った振りをしてみる。それでどうする? 夜に走るか? 石でも投げるか? 空が飛べる振りでもするか? どこへ? どうして? どうやって?
 書く内にとっくに沈静している気分にも気付いている。一時の気持ちはそれなりに確かなものだった。「あのときはそう思った」。残り100ページの長かった事。これは適当な箇所を開き好きな時に適当に読み適当に熱くなるのにいい本だ。
 同時に私はこの作品を一生愛するかもしれないとも思い始めているから厄介だ。


新潮文庫





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Last updated  2005/02/05 12:57:49 AM
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