2003/06/13
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『黄金比の朝』『火宅』『浄徳寺ツアー』『岬』。
 何かにつけ手に取る、ということの少なかった野坂昭如と安部公房の文庫の群を箱入りさせると、まだ読んでない/これから読もうと思う/いつまで経っても「そのうち読むかも」、という本ばかりが一つの本棚の前面を占めてしまった。かつては読む気があったから買ったものであり、それぞれにそれなりの理由があったはずだ。だが今見ると、一部をのぞけばどれも同じ様相を呈してのんべんだらりと本棚の上で惰眠をむさぼっており、こちらに訴えかけてくるものが少なく、二軍暮らしに甘んじている。これが他の部屋にあるならば首位打者も夢ではないのだろう。時には手を出して少し読み始めてみる。だが面白みが見出せずに戻され、何かのきっかけが起こるまで飼い殺しにされ続ける。その上にまた次々と、いくらか優先順位の高いものが降り積もる。「食人国旅行記」「俳句とは何か」「破れた繭」「マレー蘭印紀行」「ガリヴァー旅行記」「中国の怪談(一)」「三人の女・黒つぐみ」「甲賀忍法帖」「神聖喜劇」「城」「贅沢貧乏」「私のチェーホフ」「ビアス短編集」「絵のない絵本」「古典落語」「燃えあがる緑の木」「おくのほそ道」「南方熊楠稚児談義」「孤独な散歩者の夢想」「ガラスの動物園」・・・、・・・、・・・、・・・、いつまでも、いつまでも、いつまでも、いつまでも。
 中上健次を読みたいわけでもない。かといって他に読む気になるものもない。『岬』『枯木灘』を読んだ時の気分のまま『黄金比の朝』は読めた。しかし『火宅』『浄徳寺ツアー』を読んで感じるのは嫌悪感ばかりだ。酔いにまかせ女を殴り部屋を壊す男にも、堕胎を繰り返させた妻が初めて出産する日に旅先で別の女を犯す男にもくそったれという思いしか抱かない。あと十数ページがいつまでも進まなかった。
 一つ躓くとあらゆるものが色褪せる。気に入りの作家の本ばかりを収めた棚は見上げる位置にある。「そのうち読もう」棚は横に長く背後に広がる。間に転がる、ちくま文庫版「宮沢賢治全集」を適当に開けばそれなりの充足感は味わえる。しかしこんなはずではない。読書とはもっと面白いものだったはずだ。刺激的で、味わい深くて、言葉が授けられるような、何ごとにも代え難いもののような・・・「北回帰線」のような「ファウスト」のような「草枕」のような・・・。
 途中で飽きた「死せる魂」と、まだ手をつけていない「怒りの葡萄」が足下に寝ている。そのまんま借りてきた猫のようなこれら借りてきた本は、おそらく読まずに返すだろう。そのくせ、しばらく読書から離れそうな気分だなと思いながら、またすぐ適当な本を読み始めるだろう。その未来はすぐ分かる。読まないことも、面倒だ。

中上健次「岬」(文春文庫)





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Last updated  2003/06/13 02:07:05 AM
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