第八章~若公達“The Young Noblemen”



 アカデミーを出た後一度だけ振り返り学舎を見上げ、再びふらふらと第一市街に向かって歩いくラーズの後ろ姿を眺めていた4人でしたが・・・、

ケディ:や~ん・・・、何かこっちまで切なくなっちゃうわ~ン(・_・、)

ノアロー:仕方ないさ・・・、厳正なる審査の結果なんだから・・・。

ダルヒム:・・・(‐_‐;)

ケディ:何だか可哀想~。

テオ:確かに後味は良くないけど・・・、大丈夫!彼はあれで結構根性座って
   るんだ。ダテにぶっとい眉毛してないぞ!

ケディ:やだ、眉毛なんて関係あるの?

テオ:あるんだ!(きっぱり)

ケディ・ノアロー:ふ~ん・・・。

ダルヒム・・・(‐_‐;)

3人はまじまじとテオの顔を覗き込み、よく解らないながらも何となく頷いてしまいました。

テオ:ん・・・? б(・・) 

3人が思わず目を逸らしたとき、ケディの視界の隅に“ドドドドドドドドド!!!!”と砂埃を巻き上げながら突進して来るラーズの姿が映りました。

ケディ:あら・・・。

テオ:おお!?まさに「捲土重来」だね~。

 階下の方から“ドンドンドンドン!!!!”とけたたましい足音が響いて来ました。もの凄い形相で再び教場に姿を現したラーズはダルヒムに顎をしゃくって“隣室へ来い”と合図しています。

 刃傷沙汰になってはいかんと間に割って入ろうとしたテオを“ジロッ!”と睨み付け、ダルヒムを連れ出して行きました。

テオ:ねっ?そう簡単にへこたれる性格じゃないんだよ。

ノアロー・ケディ:・・・(O.O;)(o。o;)

テオ:おっといけない!ダルヒムのムドラは武具タイプじゃないんだ・・・こ
   うしちゃいられない。

 テオは、もし逆上したラーズが光の矢をぶっ放しそうになったら飛び込むつもりで隣室の扉に張り付きました。2人もそれに続きます。

 普段は横一文字の眉毛が、今日は珍しく10時10分になっているラーズは・・・。

ラーズ:ダルヒム先輩!あんたに聞きたいことがある!

ダルヒム:何?

ラーズ:先輩は観星官になって何がしたいの?目的は何?

ダルヒム:元老院の解体!

ダルヒムは眉一つ動かすことなく、サラリと言ってのけました。

ラーズ:えええええええええええええ~~~~~~~~!!!!!(〇◇〇;)

ダルヒム:何だよ、その反応・・・ (-_-;)この国がだんだん退廃的に
     なっていく元凶は元老院さ。そこで先頭切って腐敗臭をまき散らし
     ているのは父上だ。俺は叔父上(カディール)の様な高潔な人こそ
     国家の中枢にいるべきだと思うんだ。そういう人が入ってこない様
     に根回ししてきたのも父上の鼻薬で腑抜けになった元老達だ。ああ
     いう組織はもう要らないよ。

ラーズ:・・・はぁ・・・。(¨;)

ダルヒム:昔は退役した老サリエスが若い国王やサリエス達の相談窓口として
     しっかり機能してたみたいだけど、第2市街が出来た頃からなんだ
     ってさ・・・、利権漁りに血道を上げるようになったのって。もう
     いいかな?

ラーズ:あっ!(O.O;)あともう一つ・・・、ネグリトやダスユの人達をどう思
    う?

ダルヒム:えっ?・・・そうだねぇ、俺はあの人達と接したことがないからよ
     く解らないけど・・・、スニータ叔母様は大好きだよ。あれだけ父
     上に酷いことされてるのに、俺や母上には恨み言一つ言ったことが
     ないんだ。それに君は彼らの村で育ったんだってな。

ラーズ:そうだよ。

ダルヒム:この街の人だったらネグリトの子を引き取って育てる・・・なんて
     しないだろ?でもあの人達は、自分達を虐げている連中の子どもか
     もしれないのにちゃんと育ててくれたんだから、きっとおおらかで
     心の温かい人達なんだろうな。

ラーズ:じゃあ3年前の始業式でなんであんなこと言ったの?

ダルヒム:3年前・・・?ああ、あれか。「偉大なるアムリアの叡智をもって、
     諸国・諸民族の頂点に君臨するイエルカの鳳雛たるべき我等は・・・」
     ってヤツね。そんなこと気にしてたのか・・・あははは。

ラーズ:可笑しくないよっ!あの人達はけっして僕たちの下僕なんかじゃない
    よ!

ダルヒム:いや、ごめんごめん・・・、そういう意味じゃなかったんだ。「ル
     ーテシア世界の盟主として尊敬されたかったら、まず自分達の襟を
     糺そう」って意味だったんだ。

ラーズ:・・・(◎-◎;)

ダルヒム:いやね、当時の1等修道士さしおいて2等修道士の僕が在校生代表
     に選ばれちゃったものだから母上がハッスルしちゃってさ~・・・、
     「他のみんなが目を回すくらいやたら小難しい言葉を使って貴方の
     秀才ぶりを見せつけちゃいなさい」って添削までされちゃってさ
     ~・・・。あれは自分でも恥ずかしかった・・・んっ!?

 ダルヒムが言い終わる前にラーズはダルヒムの手をしっかりと握って「シグル先生とテオ先生のこと・・・宜しく」と言って走り去ってしまいました。

ダルヒム:何なんだ・・・?

 様子を伺っていたテオ達はとっさに壁に張り付いて身を隠しました。そしてラーズが走り去ったのを見届けると。

テオ:ね?あれで結構骨太なのさ・・・。

と2人に向き直ってにっこりと微笑みました。

 ラーズは「何だよ!そういうことなら早く言えよ~!」と呟きながら天文台の下層にあるシグルの執務室に向かいました。

 つまらない誤解をしてしまった自分が恥ずかしくもあり、最悪の予想が杞憂に終わったこともあって口許には笑いの形が浮かんでしまいます。

ラーズ:(はぁ~・・・、人って腹割って話してみないと解んないもんだなぁ
    ~。でも、これで安心してユートムへ行ける・・・。胸張ってサジに
    なれるや・・・。)

 そして執務室の前に立って、扉をノックしようとした時、中から、

ケットC:まあ、俺達はこの稼業が長いからいいとしてあんた大丈夫なのか?
     道中には野盗やら海賊やらがうじゃうじゃいるぜ。それにルーテシ
     アの王様は与党海賊だ。道理や常識が通用しない相手かも知れない
     ぜ。身重のカミさん置いて行く覚悟はあるのかい?

シグル:私は国王の使いとして親書を届けに行くんだ。戦争をしに行くわけじ
    ゃないさ。・・・しかし、いざという時の覚悟なら出来ているさ。そ
    れに私には・・・、

 そこまで聞いた時、ラーズは思わず扉を“バ~~~~ン!!”と開け放って執務室に飛び込んでしまいました。

シグル:何だ、ラーズか・・・、どうした血相変えて?

ラーズ:危険な任務なんですか?命に関わる様な危ない仕事なんですか?

ケットC:坊や、悪いが大人が仕事の話をしてんだからよ、出てってくんな。

ラーズ:坊やじゃない!今日から“識者・ラーズ”だ!

ケットC:ほぉ、その若さで識者サマかい?そいつは流石だね。だが、邪魔な
     ことに替わりはねえ!

 ケットCはそう言うと短く指笛を吹きました。

ラーズは頭上に殺気を感じて身を翻しましたが、喉元と腹に同時に短剣を突きつけられ観念しました。自分を一瞬で追いつめた相手は、自分と同年代かちょっと上くらいの少女でした。

ケットC:ほお、あんたスクーダ(弓使い)か?その年でムドラまで具現化で
     きるとはね・・・。ミアキス!お前も短剣をしまえ。どうだい先生、
     この坊やは使えるんじゃないか?

 ミアキスはラーズに突きつけていた短剣を腰の左右に下げたハードレザー製のホルダーにしまいました。ラーズはミアキスに一瞥をくれるとケットを睨み付け、

ラーズ:坊やじゃないっていってるだろ!凸(▼▼メ)

 と噛みつきました。ケットは苦笑して、「おうおう悪かったよ。識者サマだったな」と答えました。

シグル:親書を届けるだけだからそんなに危険という訳ではないさ。

ラーズ:だって今、海賊がどうとか覚悟がどうとか言ってたじゃないですか。

シグル:確かに途中にそういう危険な所もあるけど、回避できるルートを探し
    て行くから大丈夫だよ。

ラーズ:だったら僕も連れてって下さい!きっとお役に立ちますから!

ミアキス:やめときなよ~、あたいに秒殺されるところだったんだよ。足手ま
     といだってば。

ラーズ:見くびるなよ。ちょっと油断してただけだ。これでも僕は戦鬼帝国の
    海兵を捕縛したんだからな。

ミアキス:うそ!?・・・あんな緩慢な身のこなしで?冗談でしょ?

ラーズ:・・・!(;-_-メ)

ケットC:そうだよな~、1対1の白兵戦には向かないよな。でも使い様によ
     ってはスクーダってのは物影や遠距離からの狙撃には使えるんだぜ。
     連れてってやんなよ。

シグル:いや、人員の最終選考は陛下と元老達が詰めているところで私の一存
    では・・・。

ケットC:あ、そうかい?そういうことらしいぜラーズ先生。諦めなよ。

ラーズ:でしたら陛下に進達していただけないでしょうか?

シグル:解った・・・、御願いしてみよう。ところでさっき「今日から識者だ」
    って言ってたね?すると・・・昇級かい?まさか・・・。

ラーズ:はい、セージに昇級しました。・・・でも戴帽式が済んだらサジとし
    てユートムに行くことになります。

シグル:そうか・・・、テオ先生は私の意を汲んで下さったか・・・。

ラーズ:え?意を汲む?

シグル:あ、いやいや・・・、充分セージの資質はあるからって言っておいた
    んだよ。・・・うん(;^_^A

ラーズ:観星官にはなれませんでしたが・・・。

シグル(ギクッ!!(〇o〇;))・・・そ・・・そうか、それは残念だったね。

ラーズ:でも・・・。

シグル:ん?(ギクッ!!(〇o〇;)ギクッ!!(〇o〇;))

ラーズ:今は晴れ晴れとした気分なんです。ちょっと心配してたことが取り越
    し苦労だったみたいで・・・。だから胸を張ってユートムに行けそう
    です。

シグル:(ズキッ!(◎-◎;))

ラーズ:それまでちょっとお暇をいただけそうですから・・・、ねっ?お供に
    加われる様に・・・、どうか御願いします。

シグル:はは・・・ははははは・・・。うん、まあ・・・ね。

 このやりとりを見ていたミアキスは、「ねぇ、何か変じゃない?さっきまであんなに“切れ者”って感じだった先生がしどろもどろだよ。何なのあの子?」
とケットを肘で小突きながら言いました。

ケットC:さあ・・・、識者サマだろ?

イエルカに新たに2人の若公達が誕生したのは聖暦1209年4月13日正午のことでした。

つづく


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