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今日、心温まるエピソードがあった。三階建のマンションから外に出ると狭い一方通行の通りに出る。通りを隔てて線路が走っている。これが僕の住んでいる場所。いつもの調子で、対向車が来る方向に歩いていた。背後から自転車に乗ったおっちゃんが追い越してきた。視界の先に映ったのは路上駐車した車と、肩を並べたゴミ袋だった。しかも、空きスペースの中央に放置されているゴミ袋、なぜ? 捨てた本人にしかわからない。あるいは強い風に吹っ飛ばされたかもしれない。ただ、完全に道は塞がっていた。運悪く、路上駐車した車を避けるように進もうと現れた車は徐行し、やがて停車した。運転手はゴミ袋を跨げるかを考えていたのだろう。そんな中、自転車のおっちゃんはペダルから左足を離し、ゴミ袋をキックしてどかした。車の運転手は頭を下げ、通り過ぎて行った。たぶん、その運転手は当分の間、理不尽な理由でクラクションを鳴らすことはないだろう。仮に、運転中人が変わるタイプだったら、少しは穏やかになったかもしれない。人の優しさに触れるのはいいっす!
2009年09月16日
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■前書きまた、ふと思いついた作品。オール読物向けの原稿は進まず、スランプですね(^^; 都内のレコードショップを駆け回り、最後の望みである場所へ辿りついた。化粧の取れかかったSAYAKAが見つけたCDは、数秒の差でトシヤの手に収まった。 放心している間に、八枚重ね持っていたCDの会計が済んだ。 人込みに溶け込もうとした時、SAYAKAは背中に“待って”と声をかけた。「知り合い、だっけ?」 調った濃い眉が上向いたトシヤは、惚けたふりして記憶を呼び戻していた。「違うの、あたしにはあなたの持っているものが必要なの」 放たれる息が荒い。今にもCDの収まった手提げ袋に飛び付きそうだった。「わけがわからないんだけど……」「歩きながら聞いて」 解けた靴紐を結ぶぐらいの間、立ち止まっただけで歩道に渋滞が出来た。 肩を並べて歩くわけには行かず、トシヤはカニに近い姿勢で歩く羽目になった。「で、話って?」「今日、あなたが買ったゴンヤのCDを持っていなくちゃいけないの。お願だから譲って」 修道女のように手を組み、目を細めてまで懇願してきたSAYAKAに対し、唸るだけだった。「他にも買っているみたいだし、ゴンヤは次の機会に聞くってわけにはいかない?」 トシヤはスクランブル交差点で立ち止まり、首を回した。「このCDは貴重なんだよ。レコード盤が壊れちゃって、やっと手に入れたんだから」 俺のフェイバリットソングが何曲も入っているんだと得意気に言っているのを軽く無視したSAYAKAは、「どうしても無理なの?」 と念を押した。信号が青になり、横断歩道を渡るのではなく、脇道に進んだ。人込みが嘘のように緩和された。 声のボリューム調整まで気が回らなかった。執拗な態度は女泣かせの男として映った。「条件が二つある、それをクリアすれば、譲ってあげるよ」「本当に?」 SAYAKAの目に輝きが蘇った。「本当だ。一つは、部屋でCDを聞かせてくれ。もう一つはなんでひっしこいてゴンヤが聞きたいのか。君みたいな女の子が好んで聴く音楽ではないと思うんだけど」 プラスティックケースにひっついている帯びにはワールド音楽の最高峰と記載されているが、少なくとも都内界隈ではマイナーだった。「わかった。どっちもOKだから。何で必要なのかなんだけど」 そう言うと、携帯電話を開いた。着信はない。「今日は彼氏の誕生日でね。彼氏がお勧めで買ってきてくれたCDで、イベントがあると必ず聞いているの。でも、朝になかったから探してて、布団の下にもぐりこんでいて、踏んじゃったの」 ハンドバックを手繰り寄せ、半月板となったCDを見せた。「ないと怒られるってことか」「割れたなんて絶対に言えない……」 レーザー感知する裏面に反射した太陽光がトシヤの頬を掠める。「じゃあ、一時間だけここで待っていてくれ。急いでCDやいてくるから」「待てないよ。あたしも行くから」「話聞いたら彼氏泣くぞ」「ちゃんと説明すればわかってくれるんだから」「でも、説明は出来ないんだろ?」「イジワル、早く案内して!」 気迫になすがままとなったトシヤは、明治通りを進み、原宿の路地に入った。個人経営をしているアパレル店の連なりを通り過ぎ、スプレーでポップアートを表現した壁画を持つ建物の近く。 立地条件が良かっただけで、トシヤの暮らすワンルームのアパートは老朽化していた。錆びた階段で二階へ上がり、表札の文字がすべて消えた場所が玄関、ドアを開け、むさい空気が凝縮された状態で外に逃げて来た。家具全体に埃がかっていてくすんで見える。灰皿には、炭酸の抜けた発泡酒に吸殻が浮いている。台所の食器は洗浄されず放置されたままだ。「これでよく臭わないな」 SAYAKAは小さな声で呟いた。チャダン香が染みついている。「ん? 何か言った?」 CDを包装しているビニールを破くのに苦戦しながら問うてきた。「何でもないから、早くして」 やっとの思いでセッティングしたトシヤは、並んで座った。 携帯から着うたが鳴り響いた。「あっ、彼氏だ」 着信表示されている名前をチラッと見たトシヤは思わず仰け反った。その姿でびっくりしたSAYAKAは切りボタンを押してしまった。「あっ! もう、脅かすから」 掛け直そうとしたSAYAKAは、目が左右に泳いでいるトシヤを見て手を止めた。「チョウソカブナオトって……君の彼氏??」「そうだけど、またきた」 ちゃんと出たSAYAKAは、本当にごめんねで挨拶し、これでもかというぐらい謝った。「何それ!」 髪の毛を掻きあげ、そのままキープした。「今日は、会えないってこと?」 声がどんどん小さくなっていく。電話を切る頃には涙声だった。「おい、大丈夫?」「もう、ドタキャンされた」 携帯電話を雑に放った先にはレコードプレーヤーがあった。トシヤは間一髪で右手に触れ、軌道がずれた携帯電話との衝突は免れた。「ふぅ~」「最悪なんだけど」 虚ろな目、半開きの唇をしたSAYAKAは、ベットに身を投げた。埃が舞うと共に、スカートが捲れ、真っ白なふとももの半分までが露わになった。 トシヤは気がつかれないように唾を飲み込み、視線を逸らした。「あのさ」 上半身だけを起こし、頬を膨らました。「な~に~」 気だるいオーラを振りまいた。「君の彼氏って、俺が専門学校時代に仲良かった奴だよ」「んっ、本当に? でも彼氏は大卒なんだけど」「否、しばらく会ってはいなかったけど、間違いないよ。チョウソカブナオトなんて名前滅多に居ないしさ」 そう言って、年齢から特徴まで説明し、二人の情報に不整合な部分はなかった。「信じらんない……学歴、嘘付いていたの」 トシヤは腕を組んだ。「ドタキャンしたのも急な仕事じゃないのかも……」「わからなけどさ、実はゴンヤを進めたのは俺なんだ」「ウソ! だって自分が発掘したアーティストだって言っていたし」「うーん、別に俺はかまわないけど、本当の話だよ」 SAYAKAは何度も彼氏の番号を表示させ、電話するのをためらっていた。「今日は諦めなよ」 男はしつこいと逃げるんだと優しく声をかけ、プレーヤーを見やった。録音完了にはまだ時間がかかった。両手を顔に当て、黙ったままのSAYAKAを凝視していた。「なんなら、泊まっていけば良いよ」 SAYAKAの体は微動した。トシヤは薄ら笑いを浮かべていた。「よかったら、俺達内緒で付き合っちゃうか?」「無理! 無理! 無理」 言葉のリズムに合わせて張り手を食らったトシヤは、いつの間にか玄関の外まで押し出されていた。 部屋の中ではゴンヤの演奏する大地の鳴き声に似た音楽が流れていた。
2009年05月27日
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□前書きふと思いついたテーマでショートショートを書いてみました 短いので日記に載せさせていただきます。===============以下本文=============== 足取りが重かった。 行き付けの飲み屋は目と鼻の先である。座りたいというわけでもない。「今日は忙しかったですね」 声を掛けて来たのは後輩の斎藤君だった。彼のさわやかさは、どう訓練しても得られない。 先輩思いで、頭が下がる。 わたしの返答を待つ間もなく、美人二人組みの受付嬢が駆け寄って、合流した。黄色い声援がモノクロの空気を彩る。排気ガスの匂いが仄かな香水に変わった。 面接の基準は一般教養と美貌である、なんて人事部の人間が言っていた。二人も充分招致の上で、自分たちの持ち味を存分に使っている女性達だ。女として生まれてきたことを楽しんでいる。 雑談しているのはわたしとは違うわたしのようだった。 遅れて到着した部長、課長を交えて、「それでは、今後の発展を祝いまして」 乾杯した。 インテリアデザイン、社員数の都合上まだ有限会社であるベンチャー企業が新たな組織図になった祝い、わたしは主任に昇格した。 部長、課長は低年齢層に負けじとテンションが高かった。「おっ!」 だの、「よっ!」 だの、大声を挙げ、場の空気を盛り上げている。 今はバラバラになってしまったのだが、二年前に一つのプロジェクトを組んだ縁があり、このメンバーで騒ぐ機会が多かった。 誰一人とっても輝いている存在だなと常日頃思っていて、集まる場ではより際立った。いずれは、有名な企業とさせる大きな夢を抱えた精鋭達である。 それに引き替え、わたしはプログラマ以外なにもできないし、いつ別れても可笑しくない綱渡り状態の妻がいるし、浮ついた話もないし、明るい方でもないし、夢も持っていない。 面白くなくても、取りあえず笑っているだけの存在だった。 金のために働いているというのはこういうことだと思う。 この道を選んだのは、ブームだったからで、要はまわりに流されたのだ。 他にやりたいこともないし、加えて不況である。 夢を追うんだと格好付け、辞めるメリットは何もない。 パワハラだの、セクハラだの、用語規制だの、嫌われたくないだの、怒らせないだの、発言には随分とナーバスにならざる負えない社会風潮になってきた。 彼らはアルコールが入っても、それらの枠範囲内で最良の言葉を選んでいた。 否、彼らには当たり前のマナーなので、関係ないのだ。 余裕さえ感じさせられるし、人に対して蔑まなくとも楽しむ術を知っている。 悩みで場の空気を壊すぐらいなら、無理して盛りあがろうと出来るのだ。 場の空気からすると、二次会はカラオケになるようだった。朝まで遊び切るパターンである。わたしの年齢以上になると、これが出来る機会は格段に下がってくる。 故に、あの事、が気になって、まったく酔わないなんてことは絶対告白は出来ない。ドン引きどころか、週明け、まともな会話をしてくれるのかもわからなくなる。「俺、この会社辞めたいっす」 そう、ちょうどこんな感じは最悪で、ありえないのであって、って え?? 確かわたしの耳に聞こえてきたような……「聞いているんですか?」 斎藤君は浅黒い真面目な顔で訴えていた。 わたしにではなく、部長にだ。 場が、凍りついた。 どんな仲好サークルにも匹敵するであろう平和な飲み会である。とっさのフォローができるはずもなかった。 珍妙だったのは、斎藤君の発言が、集まったメンバーに秘められた心の泥を流すフラグとなったことだった。待ってました! と言わんばかりである。「実は、私もなんだよ」「部長も! ですか!」 課長が目を見開けば、受付美女二人も賛同してきた。上司の悪口から始まって、さっき以上に盛り上がっているのだ。 こいつらありえない、 この会社ヤバい、 やり切れなくなったわたしは、ウィスキーをボトルオーダーして、ストレートでグイグイ空けていった。 つうか、マジウケるんだけど、 今まで積み上げきたものはどうすんだYO! YO! 楽しくなってきたわたしも真面目ぶるのは止めた。「皆の話って、聞かれていたらチョー、ヤバいんじゃねえ?!」 ふざけて言ってみた。否、自身の仮面を剥いだだけだった。 その日は、ずっと清々しかった。 週明け、見事に省かれていた。 きっちりとした体裁がのある会社。目立たないわたしだけに、表面的にはわかりづらい省きだった。 左遷された友人は、右も左もわからない土地で読書好きですと自己紹介し、シュールレアリズム文学マニアであることを溢し、一か月もの間、変人扱いされたらしいが省かれてはいない。むしろ彼の持ち味として定着させていた。 わたしの場合、あの事、そう、調子にノッて若者ぶったのがいけなかった。 突発的に襲ってくるピーターパンシンドロームがある。憧れなのかもしれないし、単にモノマネをしたいだけなのかもしれない。先週の飲み会で乗り気じゃなかったのは、あの事がしたくてうずうすしていたからだ。 すっかり参ってしまったころに、課長がこっそり教えてくれた。「恐らく、君の言葉に腹を立てているわけじゃないと思うんだ」 本当に気の毒だったねと付け加える。 そこにいるのはいつもの課長、調和を乱すぐらいならわたしを省いていることも見て見ぬふりをしていたので驚いた。――では、どうしてでしょうか? 「似合わない、からだと思う」――似合わない。「三十後半の男が若者チックにしていたら、似合わない。受付嬢二人からすれば、キモいらしい」――これから、どうするべきでしょうか?「いつもの君に戻るんだ。ゲロゲロ、ナウい、チャンねー、よっこいしょ、てな言葉を使いこなす君にね」 わたしにはパソコンオタク歴が長い。コミュニケーションを断った時期、得た言葉の数々を改めて聞くと、顔が熱くなってきた。――絶対条件でしょうか?「社長命令だ」 部長が社長へ報告し、ドロップダウンしたというのだ。受付嬢二人はわたし達のやりとりを見て、何やらしゃべっている。「わかりました」 季節が五度変わった時、わたしは出世街道を爆進した。頂点に立てば、あの事をやり放題であっても文句は言われない。というか、ベンチャー企業を立ち上げた。 客と打ち合わせの時も、たまにあの事をした。その後は決まってすっきりした気持ちになる。 危うい経営だがなんとか五年持ちこたえ、高卒の部下も入社した。「社長、この書類どうしますか?」 わたしに質問してきたのは息子だった。社員は息子のみ、でも充実していた。「机の上にでも置いてってくれ」 今までにない分厚い書類は、倒産に関する書類であった。 チョーヤバいんだけど……
2009年05月21日
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