Selfishly

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素直になれなくて act2


『 素直になれなくて 2 』


~ だから、少しだけ思ってみた。

 もし、俺が 素直に笑い返せたら、
 もし、素直に「ありがとう」が言えたのなら

 そして、本の少しだけ勇気を出して傍に歩めたら

 俺とあいつの関係は、少しは近くなるのかも知れないって ~




*****


ロイは、エドワードのこの状態を知られるのは拙いだろうと
ハイヤーを呼んで、家まで戻る。
エドワードには、鳴かないでじっとしているようにと注意をすると、
聞き分けるはずがないと思った予想に反して、
エドワードは大人しく抱かれたままの姿勢でいた。

「さて、着いたよ。
 少し離れてくれないか?」

ロイは鍵を開けるために 抱きかかえていたエドワードを地面に降ろす。
ネコなら4つ足で立つのだろうかと思っていたところ、
きちんと2本足で立つ所をみると、
習慣行動は人間の部分もあるようだ。

物珍しそうにキョロキョロとするエドワードに
落ち着くようにと頭を撫でると、ぴたりと動きを止めて
素直に撫でられている。

ロイは、そんな些細な事にも 思わず感慨深い気持ちになる。
この子供の髪は、滅多に見ない極上の金髪で
しかも、手触りが絹糸のごとくサラサラで滑らかだ。
以前、部下達が 彼らが居ないときにエドワードの髪を
褒めていたのを聞いた事があった。
その時には、自分には絶対に触れさせてはもらえないだろうと
思っていたが、今は こうして、今日何度目かも数え切れない程触れている。
思わず そのまま撫でていそうな自分に叱咤して
鍵を開けて家に入る。

ロイが入っても、見慣れぬ場所に警戒をしているのか
窺いながらも立ち尽くしているエドワードに
ロイは 手を引いて入れてやる。

「ほら、大丈夫だ。
 ここがこれからしばらくの間の
 君の家だよ。」

理解できるのだろうかと思いながらも
説明をしてやる。

エドワードは まるで、お邪魔しますと言うかのように
一声鳴声を上げると、扉をくぐって入ってくる。

そんなエドワードの様子に、ロイは可笑しそうに笑う。

「君は、ネコの方が素直な態度だな。」

入るときはあれだけ遠慮深さを見せたのに
入ってしまえば、さすが エドワードらしく
ロイの案内も無しに ズカズカと上がりこんでは部屋を探索始める。

こうやって見ている様子では、なんら 別に人間と変わりない行動をしている。
ロイは、思わず 自分が担がれているような気がしないでもない。
そう思って閃いた考えを実行に移してみる。

「鋼の。
 ほら、こちらにおいで。」

ロイが名を呼んで手招きすると、エドワードは 構ってもらえるのかと
嬉しそうにやってくる。
嬉しそうな表情に、期待に満ちた瞳は クルクルと光を反射し
一瞬足りと同じ情景を写さない。

「ほら、ここの部屋は 君のお気に入りじゃないか?」

手を引いて案内した部屋は、ロイが使う書庫だ。
部屋一杯に置かれた背高の本棚の中には
ぎっしりと詰まっている本が、所狭しと並び
並びきれないもの、新しく頼んだものだろう背表紙も綺麗な本が
机や周辺に積まれている。

ロイは エドワードに渡そうと思っていた文献を机から取り出すと
ほらと目の前に差し出す。
エドワードは、覗き込むように本に顔を近づけ、
動物らしく 匂いを嗅ぐ様な仕草を見せるが、
古い本の 埃っぽい匂いがお気に召さなかったのか
顔を顰めて そっぽを向く。

そして、余り自分の興味を引かなかった部屋には振り返る事もせず
さっさと扉から出て、次の探索に出かけてしまった。

一人残された部屋で、ロイは 自分の疑いが思い違いだった事を知る。
あのエドワードの事だ、この部屋に来て目の色を変えないで居られるはずがない。
しかも、あれほど 待ち望んでいた文献を目にしても、
嫌がる素振りしかないとは・・・。

『これは、かなり重症だな・・・。』
立ち尽くして途方にくれた気分を抱えていたロイの耳に
大きな 騒音が飛び込んできた。

「鋼の、何をやらかしてるんだ!」

慌てて、音のした部屋に飛び込んでみると、
キッチンでは、冷蔵庫に顔を突っ込み
手当たり次第に物色をしているエドワードの姿が見える。

手に掴んでは、好みに合わなかった物は放り出すので、
周辺には 散らかった瓶やら、缶やら食べ物が散乱している。

「こらっ! 止めなさい。

 お腹が空いてるなら、すぐに用意するから
 少しは落ち着きなさい。」

冷蔵庫に張り付いているエドワードを引き剥がそうとするが、
先ほどまでの素直な態度とは打って変わって、
強情にも離れようとしない。

扉を掴んだ手を離させようと、掴むと

「ッツ!」

行動を邪魔されたエドワードが、怒ってロイの手を噛む。

それまで、出来るだけ平静に対応してこようとしたロイも
本来、こんな事に巻き込まれて湧き上がっていた
抑えていた感情が爆発する。

「はが・・・、エドワード!
 いい加減にしろ!!」

ピシャリと噛み付いている頬を叩くと、
エドワードが、驚いたようにロイを見る。

「君は・・・。
 駄目だと言っただろう。
 どうして言ってる事を聞かないんだ!

 いつも、どれだけ言っても君は聞こうとしない。
 少しは素直になって、人の話を聞かないか!」

一気に捲くし立てて、はぁはぁと荒い息をついで睨んでいるロイに
エドワードは、呆然としていた表情から
次第に意識をはっきりと戻していく。

そして・・・、今度はロイの方が驚く事になる。

エドワードは、意識を戻していく毎に
哀しそうな表情を浮かべて、見る見るうちに 目を潤ませていく。
そして、握っていた扉から 手を離すと、手は力なく垂れ、
悄然と項垂れてしまう。

少しきつくやり過ぎたかと、ロイは 気を取り直して
エドワードを宥めようと、話しかけようとしてギョッとする。

項垂れて下を向いているエドワードの肩が小刻みに震えたかと
思うと、ポタポタと雫がキッチンの床に落ちていく。

『まさか、泣いてるなんて事は・・・。』

あの鋼のが、泣くなんて事は ロイにしてみれば
晴天の霹靂以外の何物でもない。
彼は、どれだけ辛くとも、痛くとも、涙を見せるような
少なくとも ロイに、そんな弱みを見せるような事は
知り合って今まで、1度としてなかった。
ロイは慌てて、エドワードの肩に手を置いて声をかける。

「鋼の、どうしたんだ。
 叩かれた所が痛かったのか?」

そんなに力を入れたわけではないが、
もしかしたら、叩いた瞬間に 口に怪我をしたのかも知れない。

ロイは、もう片方の手で エドワードの顎を掴んで顔を上げさせる。
そして、思わず 添えた手に力が入る程、エドワードのその表情に
魅せられる。

次から次へと透明な雫を流す瞳は、透明な湖畔の小波のように揺れて
頼りなげな風情を見せ、
小ぶりな形の良い唇は、何か言いたげに震えている。
叩いてしまった頬は、少し紅くなっており
それがさらに痛々しそうで哀れを誘う。

こんなエドワードを見たこともない。
いつも、元気なやんちゃ坊主な面か、
ふてぶてしい横柄な態度。
大人に嘗められないようにと、常に牽制を張っている強気な彼か
ロイは、エドワードの そんな1面しか知らなかった。

『こんな・・・、こんな表情もするとは。』

可哀相と思う気持ちとも、たんなる単純な驚きでもなく
今のエドワードは、何故だか ロイの中を妙に掻き乱すものがある。

「・・・鋼の、エドワード・・・」

躊躇いがちに呼んだ名前が、妙に掠れているようなのは
気にしないでいよう・・・そう自分を納得させながら、
零れる涙を拭きとってやろうとする。

と、キッと大きな目を吊り上げるようにして
エドワードがロイを睨み返す。

そこには、いつも見かける強気な彼を見つけて
ロイは、内心 ホッとすると、
叩いた謝罪をしながら、頬に触れようとしたが、
エドワードが 抗議のように、フギャーと威嚇して
キッチンから飛び出して行く。

ロイは、どこに行くのかと慌てて追いかけると
隣のリビングのソファーの影に丸くなって、
こちらを窺うエドワードを見つける。

ロイはやれやれと思いながら、
エドワードに声をかけてみる。

「鋼の、すまない。
 もう、痛くないか?」

そう声をかけて近づこうとすると、
「フッー!」と背を丸くして威嚇してくる。

そんなエドワードの様子に、ロイは 仕方無さそうにため息をつき
隣のキッチンに戻っていく。

しばらくすると、隣からは良い匂いが漂ってくる。
エドワードは ヒクヒクと鼻を鳴らしながら
ソワソワとあたりの様子を窺っている。

ロイが 手に即席の料理を持って部屋に現れると
ロイの動きに従って、エドワードの目線も着いていくように動く。
そんな様子に、口の端に笑みを浮かべながら
エドワードに近いテーブルの端に皿を置いてやる。

「ほら、お腹がすいてるのだろ?

 私は 今から一旦司令部に戻らないいけないから
 これを食べて待ってなさい。

 ちゃんと、大人しく待ってたら
 帰りにご馳走を買ってくるからね。」

そう言いながら、エドワードが じっとしているかは
はなはだ不安を抱えながら、リビングを出る。

ロイが玄関まで来ると、エドワードが 扉から顔を出して窺っているのが
気配でわかった。
機嫌を損ねたままで出かけるのは、後ろ髪が引かれる思いだが
かと言って、外出から随分と時間がたっている。
これ以上は、捜索隊が出されるのも時間の問題だ。
仕方ないと割り切って、扉に手をかけると、
いきなり近づいてきた気配に驚く間もなく、
後ろから抱きつかれる。

「ニャァー、ニャァー、ナ~ン」と鳴き付いてくる声は
行かないでくれと言ってる様に聞こえる。

ロイは エドワードの様子に驚きもしたが、
必至に縋ってくる彼を宥めるように
抱きつかれた手を優しく撫でて外させると
くるりと向きを変えて、縋ってくるエドワードを
抱きしめて背中を叩いてあやしてやる。

「大丈夫、すぐに戻ってくるから
 少しだけ待っててくれないか?」

ロイの優しい気配がわかったのか
うずめていた顔を上げて、必至に鳴声を上げて訴えてくる。
ロイは、なんだか くすぐったいような気持ちで
そんなエドワードの頬を優しく撫でてやる。

「すまない、寂しいだろうが
 少しだけ、我慢してくれるかな。」

頬を撫でられる手に、エドワードは気まずげに目をやり
そして、自分の噛んだ跡に丁寧に舌を這わす。

「・・・!」

驚きとは別に、突然湧き上がった感覚に
ロイは 思わず息を詰める。

そんなロイの様子には気づかずに
エドワードは ひとしきり噛み跡を嘗めると
ロイを見ながら、反省の気持ちの窺える声を上げる。

その声に、はっと気を取り戻したロイが
大丈夫と言う様に、頭を撫でてから
そっと、エドワードから身体を離す。

エドワードも、ちゃんと待っている気なのか
今度は 引き止めずに、じっとロイを見ながら立ち尽くしている。

ポツンと悄然と立ち尽くす姿が、余りにも哀れで
ロイは、さっと上着を脱ぐと

「ほら、これを私の代わりに置いとくからね。」と

語りながら、エドワードの肩にかけてやる。

エドワードはかけられたコートに顔を埋めると
ロイの香りを吸い込む。
そして、うっとりとした嬉しそうな表情でロイを見上げる。

その仕草にも、ロイは ドキリとした、自分の持った感情に
何故だか後ろめたい気持ちになって、
振り切るように扉から出て行った。
扉が締め切られる前に、エドワードが小さく啼いた声が
ロイと聞こえたような気がした。





****************************************************


~ だから、少しだけ勇気が欲しかった。

 為れるモノに変われるなんて都合のいいことが

 もしあるなら、少しだけ、ちょっとの時間でいいから

 アイツに替わってみたかっただけなんだ。

 そう、本の少しでいい 

    束の間の夢の出来事のように  ~




*****

ロイは帰宅を急いでいた。

エドワードが脱走するとは、今は思わないが
寂しがっているだろう事は間違いない。

悄然と項垂れていた姿が目に焼きついて、
早く戻らなければと気が急く。

休み時間にしては長い不在を、優秀な副官に冷たい目で諭されたが、
戻ってからのロイの仕事振りに帳消しにしてくれたようだ。

定時をやや過ぎる頃に、本日必要な書類の処理を終えたロイが
帰宅の希望を告げたときにも、機嫌よくとまではいかないが
「お疲れ様でした。」の労いと共に送り出してはくれた。

なかなか、残務処理の終わらないハボックを置いて
ロイはさっさと帰宅の途についた。
帰りにエドワードへのお土産も忘れない。
どんな忙しいときでも、よく回る頭なのだ。

暗い家を見上げると、少しだけ不安が湧いてくる。
まさかと思う気持ちが、鍵を開ける指が焦りで上手く動かない。
自分が何故、こんな不安を抱えねばならないのか
いまいち、ロイにも良くわからなかった。

もしエドワードがあの状態で脱走でもしていれば、
確かにロイの風評にも、やや波風は立つだろうが
所詮は 子供の起こした事だ。
そこまで、深刻に困る事はないことなのだ。
それが、仕事もそこそこに切り上げて、ご機嫌伺い宜しく
土産物まで持ち帰って・・・我ながら、馬鹿らしい事をしているとは
思っている。

そう、頭では そう判っても、割り切ってもいるのに
何故か、自分の感情だけがコントロールできない。
猫化したエドワードが懐いてくれるようになってからと言うもの、
ロイは、自分でもわからない心の動きに戸惑う事ばかりだ。

やっと開いた扉を勢いよく開けると、
暗闇に光る二つの灯りがロイを見据えてくる。
ロイが身構える間もなく、その光は ロイへ突進していき
力任せに飛びついてくる。

「エ、エドワード!!」

ギュッとしがみついてくる物体を認識したと同時に、
ロイは崩してバランスのまま、ドスンと座り込む。

「イタタタ・・・。」

二人分の体重を支えきれなかったのはロイのせいではない。
多分に、エドワードの思わぬ襲撃によるものだ。

「君ね・・・、迎えはもう少しお手柔らかに頼むよ。」

痛みのために涙目になりながら、ロイは飛びついたまま離れないようにと
しがみついているエドワードの頭を撫でてやる。

ギュッとしがみ付いていたエドワードが、
ロイの呼びかけに答えたように顔を上げ、
ミュゥーと弱弱しく鳴声を上げて見上げてくる。

寂しかったのだと身体全身で訴えてくるエドワードの様子に
ロイは、思わず込み上げてくる愛おしさで微笑み返す。

「そうか、そんなに寂しかったのかい?

 すまない事をしたね。
 大丈夫、もう帰ってきたからね。」

軍のメンバーが聞いたら、大佐はどこか異常でもと思われかねない
優しい甘い口調で、エドワードを宥める言葉を紡ぐ。

ロイの言葉を理解したのか、エドワードは嬉しそうに微笑むと
それを伝えようとしてか、小さな唇を寄せて ロイの顔を舐め始める。

「おっ、おい エドワード。」

急な接近のせいで、ロイが慌てるが ネコ化しているエドワードは
お構いなしでロイの顔中を一心に舐めては親愛の情を示す。

「くすぐったいよエドワード、ほら 少し離れて。」

ロイは両脇からエドワードを挟みこむと
少しだけ、自分との距離を開ける。

そうされると身動きの取れなくなったエドワードが
不満顔で唇を窄めてくる。

ロイは思わず その唇に視線が惹きつけられていく。
今までロイの顔を嘗め回していた唇は、
唾液の為、赤く妖しく塗れ光っている。
窄められた口は、まるでキスを強請るように見えて、
ロイは、吸い寄せられるように自然と顔を寄せていく。

エドワードは、そんなロイの状態にも構うことなく
近づいてくるロイに嬉しそうな笑みを見せる。
その笑みが合図のように、ロイは 小さなエドワードの唇に
己の唇を少しだけ重ねる。
羽のように軽く重ねられた口付けは、
ロイが正気に戻ることで、続きが始まる事もなく離れていく。

「私は何を一体馬鹿な事を・・・。」

深い自嘲のため息を吐きながらエドワードを伺うと、
キョトンとした表情を見せながら、首を傾げている。
まるで、『何故、止めたのか?』と不思議がっているようにも見える。

「さぁ、君の待望の食事だよ。」

座ったまま食料の入った袋を差し出せば、
エドワードが 今までの懐きぶりが嘘のように
さっさと離れて、袋を漁る事に興味を移す。

『これはネコなんだ。鋼のではない。』

ロイは、そう強く念じる事で 自分の行動に慰めを与える。

その夜、一人と一匹の不可思議な組み合わせは、
一つのベットで、互いの温もりを分け合って短い一時の
幸せな夢を見た。





*************************************************



体温で、程よく温まったシーツに包まれ、
心地よいまどろみに意識を委ねている。

こうした穏やかな目覚めを感じるのは久しぶりだ。
ロイは、起床を促す身体の覚醒と 惰眠を貪ろうとする意識との間で
うっとりとそんな感覚を楽しんでいた。

もともとは、軍人らしく寝起きは良いほうで
起きる時には一瞬だ。
今日のように、ゆったりと寝起きを楽しむ事は稀でもある。

サリサリと喉元を温かい物が舐めあげてくる。

『昨日は、誰と寝てたんだろう・・・。』

ぼんやりとした頭で、そんな事を考え
無意識に腕を、自分に擦り寄る身体に回す。

華奢すぎるような身体に手を回すと
すっぽりと収まる感覚が良い。
背中を撫でるように動かせば、
相手も喜んでいるのか、頬を摺り寄せてくるのを感じる。

寄り添う気配が あまりに心地よくて、
起きてしまうのが惜しい。
もう少し、このまどろみに浸っていようと伝えるように
相手の頭に手をやって撫でる。
余程、上質の髪の持ち主なのだろう、
触れた髪がさらさらと滑る。
そんな感触も楽しみながら、ゆったりとしたまどろみに戻って行こうとする。

が、相手も そうはさせじと 今度は顔中に触れるだけのキスを降らしてくる。

そんな 積極的な相手に、唇に笑みを浮かべて
ロイは 観念したように、目を開ける。

「・・・!」
目を開けた途端に 飛び込んできた相手の顔を真近に
ロイの心臓は、一瞬 停止する。
硬直するロイを他所に、ネコ化したエドワードは
昨日 ロイがしたキスが気に入ったのだろう、
親愛の情を伝える為に、せっせとキスを降り散らせる。

止まった心臓は動き出すと、今度は 急速に心音を上げて打ち鳴らす。
覚醒し、フル回転をし始めた頭の中で
昨日の出来事を大急ぎで整理する、

今の状況を理解すると、
「はぁ~。」と大きなため息を吐き出し、
目の前の相手(?)に朝の挨拶をしてやる。

「おはよう、エドワード。

 どうした? お腹が空いたか?」

そう言いながら、キスを降らす相手の頬を両手で挟んで
ロイも額におはようのキスを返してやる。

「ニャ~ン。」
嬉しそうに笑って、ロイが添えた手の平に頬を押し付けてくる。
それに よしよしと撫で返してやり、
エドワードを抱きかかえたまま起き上がる。



「ほら、エドワード
 危ないから離れてなさい!」

クルクルと、回る洗濯機に 身を乗り出して中を覗こうとするエドワードに
ロイは、はらはらしながら注意をする。

ネコは水嫌いと聞いていたような気もするが、
ネコ化したエドワードは、やはり元が人間のせいか
特に嫌がる事もなく入浴を楽しんでいた。
特に 泡が出来るのが気に入ったのか
昨日の入浴中も、バスタブの中の泡で一心に遊んでいた。

「エドワード、これはバスバブルじゃないんだ。
 汚れるから、触っちゃ駄目だよ。」

そうロイが言い聞かせるように話して、
近くにあった椅子に座らせると、

「ニャ~ア」と素直に返事を返して大人しく座って
回る洗濯機を見ている。

よしよしと頭を撫でてやり、洗濯の続きをと思ったところに
電話の呼び音が鳴り響いてくる。

その場を離れないエドワードに、少々 不安な気もしたが
鳴り続ける呼び出しを これ以上待たせるわけにもいかない。

「エドワード、 いいかい。
 ここに座って待ってるんだよ。

 動かないようにね。」

「ニャウ、ニャウ」

返事のつもりなのだろう、
コクコクと頷きながら、鳴声を返してくる。
その姿も可愛くて、思わず微笑が浮かべながら
煩く鳴り続ける電話へと急ぐ。

「はい、マスタングですが。」

『あっ、大佐っすか~。』

「・・・なんだ、お前か」

電話の相手がハボックだとわかると、
ロイはガックリと肩を落とす。

『なんだは、ないっしょ。』

ロイの対応など慣れたもので、気にした風でもなく
豪快に笑って返してくる。

「で、一体なんだ。」

まさか、呼び出しかと嫌な予感を浮かべる。

『いやぁ~、休みん時にすみません。

 この前の事件の報告書なんすっけどね、
 今日が締め切りだったんですよ。
 で、大佐のサインがいるんですけど。

 俺、後1時間位したら 街の査察に出るんで
 そん時に大佐の家に寄るんで、サイン頂けますか?』

「ああ、わかっ・・・。」

肯定の返事を返そうと思って、ふとエドワードの事が頭に浮かぶ。
今のエドワードの状態は、現在 ロイしか知らない。
プライドの高い彼の事だ。
元に戻った時に知っている人間は、少なければ少ないほど
良いに決まっている。

『大佐?』

返事を言いかけて黙ってしまったロイの様子に
ハボックが 伺ってくる。

「いや、そうだな どこかこの近くで、」

待ち合わせようと続けようとした時に
エドワードを残してきた方から激しい水音が聞こえてきた。

「しまった!」

『えっ! どうしたんすか?』

ロイの慌てた声音に、ハボックもサッと緊張をする。

「いや、何でもない!
 わかったサインをするから、持ってきてくれ。」

それだけ言い捨てると、ロイは受話器を投げるように置いて
急いでエドワードのところに戻っていく。

「エドワード! 何をしてるんだい!

 なっ!」

扉を開けたロイは、いきなり水をぶっかけられ呆然と中を見る。

中では、椅子の上に立ち上がり、
洗面器を練成したのか、 手桶で金魚すくいよろしく
エドワードが 大喜びで洗濯物を掬い上げようとしている。

「ミャウゥー、ミャイ、ミャイ!」

洗濯機の中で回る衣服は、濡れて重くなっている為、
簡単には上がって来ない。
掬うのに失敗すると、大量の洗濯水だけが 勢い良く飛び出してくる。

その水音に、呆然と我を忘れて惨状を傍観していたロイも
はっと気を取り戻す。

「や、やめなさい、エドワード!」

ロイは 取りあえず、掬い上げるのに熱中しているエドワードを
洗濯機から引き離そうと、水と泡でビチョビチョになっている部屋に
足を踏み込んで行く。

「こらっ、それを離して!」

手に持った桶を取り上げようとするが、
機械鎧の手はビクともしない。

ロイは仕方ないとばかりに、身体ごと抱きかかえて
離そうとするが、
どうやら、獲物に狙いを定めたらしいエドワードは
さらに深く屈んでは、桶で素早く掬い上げる。

引っ張り上げる反動で、エドワードの立っていた椅子がゆれ
抱き上げようとしていたロイ共々、洗濯水でびしょ濡れの床に
倒れこむ。

「わぁー!」

「ニャ? ニャッ ニャッ ニャアー」

ドスンと音と共に倒れ込むと、ロイは そのまま床に寝転がる事になり
咄嗟に庇ったエドワードがロイの上に座り込む。

「・・・全く君は・・・。」

はぁ~とため息を付いて見上げた先では
エドワードが戦利品を嬉しそうに持ち上げて見せてくる。

ボトボトと音が聞こえてきそうに水を滴らせているのは
ロイのシャツだろう。

「ニャニャニャ、ナォ。」

満面の笑顔で、自慢げにロイに戦利品を差し出す。
獲物を、忠誠を誓った主人に献上する気なのだろう、
誇らしげな表情を見せている。

ロイは寝転がったまま、首だけ上げて
ボトボトと胸元に滴り落ちる水を感じながらも、
『褒めて・褒めて』と目で訴えてくるエドワードの表情に
観念をした。

手を上げて、エドワードの頭を撫でてやり

「よしよし、頑張ったな。
 ありがとう。」

苦笑を浮かべながら、エドワードが差し出す
ずぶぬれのシャツを貰ってやる。

「ニャ~ン!!」

嬉しそうな鳴声を一声上げて、
エドワードは満足そうな顔で、撫でてくれるロイの手に
気持ち良さそうに目を閉じた。


「ほら、エドワード。
 ここなら、思いっきり泡で遊んで良いからね。」

ロイは、ずぶ濡れのエドワードを連れて
とにかく、泡だらけの自分達を洗い流そうとバスに入る。

浴槽にお湯と、泡が出る入浴剤を入れてやり
中にエドワードを入れてやると、
エドワードは大喜びで、泡を作って遊んでいる。

その様子にホッとしながら、自分もシャワーを浴びて
洗濯水の汚れを落としていく。

程なく、エドワードが作る泡は浴槽に溜まって行くと、
エドワードが ロイに呼びかけを始める。

「ナァ~、ナァ~、ナァ~」

「ああ、わかった、わかった。

 もう、入るからちょっと待ってて・・。」

ロイが シャワーを止めて、エドワードが呼ぶ浴槽に入ろうとすると、

『リンゴーン・リンゴーン』と玄関の呼び鈴が鳴る。


「・・・しまった、ハボックが来る事になってたな。」

雫が落ちる髪をかき上げながら、しぶしぶ浴槽から立ち上がる。

「ナ?」

そんなロイの行動に、エドワードが不思議そうな声を出して
伺ってくる。

「すまない。
 すぐ戻ってくるから、しばらく一人で遊んでてくれるか?」

「ナァ~?」

キョトンと首を傾げて見上げてくるエドワードの
頭を撫でてやりながら、
もう1度、ちゃんと中で待ってるようにと念を押してから
バスルームを出て、手早くガウンを着てから
呼び鈴が鳴り続けている玄関へと、急ぎ足で向かう。

一人浴槽に残されたエドワードは、
ロイの動きをずっと目で追い、
閉められた扉と同時に見えなくなった影に

「ナァ~ン・・・。」と
出て行ったロイを呼ぶように,
寂しそうな鳴声を上げる。



「わかった、すぐ開けるから
 そう何度も呼び鈴を鳴らすな!」

鳴り続ける呼び鈴に、苛々しながら怒鳴りつけ
玄関の扉を開ける。

「あっ、お疲れ様っす。

 居ないのかと思いましたよ~。」

余りご機嫌が宜しくなさそうなロイの様子にも
ハボックは、全く いつもと変わらぬ様子で話しかけてくる。

「で、書類は。」

「あっ、これっす。

 一応、中身の確認は頼んます。」

ハボックが差し出した書類を、面倒くさそうに
素早く目を通すと、

「ペン」

「はい、これどうぞ。

 大佐、昼真っから入浴ですか?

 優雅っすね。」

いかにも急ぎで出てきましたと言うばかりの様子を見せるロイに
ハボックは、何の気なしに話しかける。

「入りたくて、入ったわけじゃない。

 ほら、これで良いだろう。」

ロイが ハボックに書類を差し出す。

受け取ったら、すぐにバスルームに戻ろうと思っていたロイは、
差し出した書類を受け取らないハボックの様子に気づくのが遅れる。

「なっ! ・・・アンタ、そんな趣味が・・・。」

口に銜えていたタバコをポロリと落とし、
驚いたように見開いた目は、ロイの後ろを凝視している。

ロイはハボックの、その様子に ギクリとし、
恐る恐る背後を振り返る。

「ナァ~ン・・・。」

ロイ以外の見知らぬ人間に警戒しているのだろう。
扉から、覗くように身体を出して小さな鳴声を上げている。
その様子は、姿も子猫なら愛らしさに微笑を誘う情景だが・・・。

「まさか・・・、そんなに守備範囲が広いとは・・・。

 はっ? まさか、今までの女性遍歴は
 カモフラージュなんすか!?

 けど、大将にまで手を出すなんて・・・。」

呆然とつぶやかれる言葉に、固まっていたロイも
我に返って、言い返す。

「馬鹿者!
 誤解だ!誤解。

 これには、深いわけが・・・。」

妙な誤解をされる前に、説明をしなくてはと
焦るロイが、ハボックを振り返ると
無視されたと思ったエドワードが、
抗議の雄叫びと同時に走り出し、
ロイの背中にタックルをして飛びつく。

「エドワード!」

「わぁー、危ないっすよ!」

勢いをつけて飛びつかれたロイは
そのまま、前方に倒れこみ、
前に立っていたハボックが、突然の事に受け止めきれず
結局、3人はドミノ倒しのように倒れるしかなかった。






























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