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act 6 「前準備」
act6「前準備」
明るい日差しが差し込んでくる。
日の光に催促されるように、エドワードは目をパチリと開ける。
「・・あっ・れ?」
キョロキョロと部屋を見回すが、近頃見慣れてきた自分の部屋だ。
起き上がり、しばらくの間、昨夜の行動を考えてみる。
『確か昨日は、二人で話してて・・・』
思い出し始めると、妙に気恥ずかしい気持ちになってくる。
自分達の過去の話を打ち明けて、その後、ロイに錬金術の教えを乞うたのだが、
エドワードの予想外のロイの優しさに、思わず縋ってしまった自分がいて・・・。
覚醒した頭で思い出し始めると、思わず頬が紅潮してきて、
見る人がいなくて幸の、百面相を繰り返す。
「はぁー・・・」
気持ちを切り替えるように、深いため息を付きながら
ベットから起き上がって、時間を確認すると、
いつもの起きる時間よりは、ややまだ早い時刻だ。
眠ったのが早かったせいか、その分早く目が覚めたようだ。
「う~っん!!」
大きく伸びをすると、何だか、身体も気持ち的にも軽くなっている自分に気づく。
「よし!!」
エドワードは身支度を終えると、気合を入れて朝の準備に取り掛かる為に、
部屋を出ていく。
ガチャガチャと言う食器が触れ合うには、やや煩すぎる音とと、
ぶつくさと不満げな声が届いてくる。
エドワードは、訝しげに首を傾げながら、
キッチンに向かう足を早めた。
リビングから続いているキッチンに入っていくと、
そこには奮闘しているロイの姿があり、エドワードは驚いたように立ち止まる。
「・・・どうしたんだよ?」
誰へとも無く呟かれた言葉に、ロイが気づいて振り返る。
「あぁ、おはよう。 よく眠れたかい?」
普段同様の挨拶を返してくる相手を、エドワードはまじまじと見る。
白いシャツを袖まくりして、コンロの前で立っている姿は
見慣れないだけに、妙な気分だが、まぁ、様にはなっている。
「一体、どうしたんだよ?」
今度は、きちんと相手への呼びかけとして、聞いてみる。
「いやまぁ、いつも君にばかりしてもらっているだろ?
たまには、自分でもしなくてはなと思ったんだが・・・」
そう言いながら、手に持つフライパンに、情け無さそうな視線を落とす。
多分・・・、目玉焼きを作ろうとしていたのだろうが、
フライパンの中には、固まった白身と生焼けの黄身がぐちゃぐちゃに構成されていた。
「・・・なかなか、ひっくり返すのだけでも、難しいもんだな」
嘆息しながら、とても食欲を誘うとは言えなくなった代物を、
仕方無さそうに、ゴミ受けに捨てようとする。
「ちょ、ちょっと待て! 大丈夫だから捨てるなよ、勿体無いだろう」
ロイの動きを静止するような叫び声を上げて、近づいたロイの手から
フライパンを取り上げる。
「いや、しかし・・・」言いよどむロイに、
「誰でも最初はこんなもんだよ。 俺だって、始めの頃は何度も焦がしたしな」
そう言いながら、フライパンの中身をボールに移すと、
調味料を加えながら、細かく砕いて混ぜ合わせる。
「こんな風になったのは、サンドイッチの具在にすれば
十分、食べれるぜ」
そう言うと、手際よくパンに挟んで調理していく。
「なるほどな・・・」
感心したように呟くロイに苦笑しながら、綺麗になったフライパンを、
再度、弱火にかける。
「卵は、高温すぎると、すぐに焦げちまうから、
まずは、熱したフライパンに油を引いて、中火くらいで片面を焼くんだ。
片面が固まってきたら、フライ返しでひっくり返してやる。
まぁ、こん時に黄身が破れる事はあるけど、
どうせ、すぐ固まるから問題ないし」
説明しながら慣れた手つきで、綺麗にひっくり返して焼き上げる。
「ほい、出来上がり」
ほらなと言う風に、皿に乗せ変えた目玉焼きを見せてやる。
「全く・・・。上手いもんだな」
感じ入るように、返事を返してくる相手に、
エドワードは照れたように、ぶっきらぼうに返事を返す。
「そんな事ない。 慣れれば、これくらい誰でも出来る。
で、これは?」
コーヒーのドリップの周囲に、大量に粉を含んだお湯が溢れている。
ポットの中には、残った少量のコーヒーがある状態だった。
エドワードの言うそれに、ロイが渋面を作って、言い訳を返してくる。
「いや、コーヒーを入れようとしたんだが、
インスタントのコーヒーも何だと思って、いつも君が淹れてくれるのを
見よう見まねで・・・」
で、失敗した結果と言うわけなのだろう。
エドワードは頷きながら、周辺をまずは綺麗にして、
冷め始めたお湯を沸かし直し始める。
「これ、粉はどれ位入れたんだ?」
ドリップの中に残っている粉を見て、聞いてみる。
「それも良くわからなかったんで、二人分だから2杯位かと」
語尾を弱くして、意気消沈しているロイに、
エドワードは、慰めるように笑いかけると
再度、ドリップの準備を始める。
「紅茶だと、人数分とポットの分って言って、
茶葉をもう1杯余分に入れて作るんだけど、
コーヒーは、まぁ好みだな。
薄いのがいい時は、ロイの入れた分量でいいだろうし、
もう少し、濃い目にしたいなら足せばいい。
俺がいつも作ってるのは、大体このポットなら
4杯分が朝で、夜は5杯分にしてる。
で、お湯を注ぐときは、まずは、ゆっくり1周させるように
湯をまんべんなく注いで、その後は、最初の分が落ち終わるまで
しばらく待つんだ。
その方が、濃さも味も、しっかりするしな」
そう説明しながら、次のお湯を注いで落としていく。
すると、周囲にはコーヒーの良い香りが立ち上っていく。
「ほい、出来上がり。
んー、でも、この量じゃちょっと足らないかな?」
食卓に並ぶ料理を見て、エドワードが思案する。
ロイにコーヒーを勧めると、自分は冷蔵庫を覗いて、目当ての食材を取り出し、
追加の料理に取り掛かる。
見かけと違って、良く食べるエドワードは、朝からしっかりと食事をする。
最近はロイもつられて食べるようにはなったが、
やはり、10代の少年とは比べ物にならない。
程なくして、たっぷりと具在が挟まれたホットサンドと
フルーツ盛りだくさんなヨーグルトが並べられて、
二人して、食事を始める。
食べながら、ロイが手間をかけた詫びを告げてくる。
「すまない。 たまには代わってと思ったんだが、
余計に手間を増やしただけのようで・・・」
済まなさそうに語られる言葉に、エドワードが笑みを浮かべながら首を横に振る。
「何で? 美味しいよ、これ」
崩れた玉子焼きを挟んだサンドイッチを示しながら、
エドワードが、嬉しそうに頬張る。
その様子に、ロイもホッと力を抜いて、食事を続ける。
こっそりと、『今度は、失敗しないで作ってみせる』と念じながら。
時間の余裕が有ったため、ゆっくりと朝食を取り終えると、
エドワードが片づけをしている間に、ロイは身支度を整えてやってくる。
「エドワード、これを読み終わらせておいてくれ」
そう言いながら、机の上に置かれた物は、
1冊づつが、かなりの厚さになる本達だった。
「・・・これって、気体の?」
本の表紙を見て、弾かれたように顔を上げるエドワードに、
ロイは頷いて答える。
「ああ、君に教えるにあたって、基礎から始めていたのでは
時間がかかりすぎるだろ?
君なら、ある程度読み進めれると思うから、読んで理解できない点は
私に聞いてくれ。 理解の進み具合で、どこから始めるかを決めようと思う」
「わかった・・・、サンキュー」
この気持ちを、どう現したら良いのだろう・・・。
エドワードは、自分の中に込み上げてくる思いを、上手く言葉に出来ずに、
ただただ、神妙に礼を告げる。
「で、どれくらいで読みきれるかな?
その間、良ければ会社には出勤しなくても構わないが?」
ロイの問いかけに、エドワードは本を1冊取り上げ、
中をパラパラと繰って確認をする。
そして、しばらく思案する様子を見せると、
「読むだけなら、3日あれば終われると思う。
ただ、理解しながらとなると1週間は時間が欲しいな」
と、ロイを見上げながら、きっぱりと返答する。
その返答に、驚いたのはロイの方だった。
いくら基礎を集めた書物ばかりとはいえ、内容は繋がっていって、
どんどんと高度になっていく。
少なく見積もっても1ヶ月、普通に考えるなら3ヶ月はいるかと考えていた。
「それだけで?」
ロイの驚いての呟きには気づかずに、エドワードは既に書物の検分に
かかりながら、心ここに在らずの返答を返す。
「・・・うん、多分大丈夫だと思う。
無理っぽかったら、また言うし」
目線は本から外さずに答えるエドワードを、ロイは呆れたように眺め、
苦笑する。
「わかった。 だが、夜更かしをしたり、徹夜するのは駄目だぞ。
きちんとした生活をしながらと、約束すること」
そう、念を押すロイの言葉に、エドワードは本に向けいてた視線を
ロイに戻して、少々、不満そうな表情を浮かべる。
「それが約束できないなら、期限は延ばす事にしてもらうが?」
「・・・わかった、約束する」
不承不承、嘆息しながらも頷いたエドワードに、ロイは満足そうに笑って、
宜しいと鷹揚に返事を返した。
その後、休んでもいいと言うロイの言葉に、「そんなに手間かかる仕事じゃないから」と
メンバーが聞いていたら、嘆きそうなセリフを言って、一緒に出社する。
いつもより気合が入っている為か、昼前には振り分けられた仕事を終え、
帰宅を告げてくる。
「じゃあ、俺は先に帰らして貰うな」
「ああ、余り根を詰めすぎないような」
そのロイの返事に、曖昧な笑みを浮かべて部屋を出ていく。
扉に手をかけたエドワードの後姿に、ふと気づいたように
ロイが、呼び止める。
「エドワード、今日からしばらくは、食事は届けさすんで、
必ず食べるように、私も済ませてから帰るから」
ロイに言われた言葉の内容が理解できなかったのか、
怪訝そうに目線を向けてくる。
「集中しすぎると、自分の分は忘れるだろ?」
自分の行動パターンを見透かされているようなロイの言葉に、
エドワードは、笑って返すしかない。
「ごめん、気使わせて」
「お互い様さ」
何でもない事のように返事を返して、
ロイは、手を振って見送ってやる。
エドワードのそれからの3日間の行動は、リビングのソファーに座り込んで
時間まで本に没頭していた。
本を読んでいる時の彼が、帰宅したロイに気づかない事は当然で、
頃合の時間に、ロイが本を取り上げる事で、就寝の時間を知らせる。
取り上げたら、さぞかし不満を伝えてくるだろうと予想していたのに反して、
拍子抜ける位、順従にロイの言うとうりにする。
・・・そして、心底驚いていたのは、取り上げる本が、毎回違っていた事だ。
早く戻ってこれた時など、帰った時と、取り上げる時の本が代わっている時もあり、
心底、この子供の才には驚かされ、感心させられる。
3日後には、書庫に籠もり始めて、ロイが止めるまで
色々な参考資料を紐解いては、理解の度合いを深くしているようだった。
エドワードが決めた期日の朝。
いつもの朝食の席で、エドワードがいくつかの気体に関する質問をしてくる。
書物の中からの質問ではなかったので、学んでる分野の探究心で聞いてくるのかと
答えていくうちに、そうではないことが解ってきた。
エドワードは、書物の中から得た知識を、すでに発展させ、応用に至っている。
その中で、調べてもわからなかった事を、どうやら聞いてきているようだった。
「君は・・・、読み終えたんだな」
感嘆の吐息を付きながら、ロイが確認をする。
「うん。 基礎は多分大丈夫だと思う。
読んでる中で、浮かんでくる事の中のうち、
今聞いた事は、調べてもわかんなくてさ。
でも、今のでわかったから大丈夫だ」
そう明るく笑う子供を、ロイは茫然と見るしかない。
ロイとて並でない才能の持ち主だったからこそ、
後からの発現した才であっても、今の自分があるのだが・・・、
しかし、これほどのものは。
強いて言えば、ロイは優等生で、エドワードは天才と言うべきか。
凡人が長年をかけて積み上げていくものも、彼にかかれば一晩の閃きで
飛び越していく。
「エドワード・・・、それも『扉』の関係なのか?」
異常に早すぎる理解力に、扉の影響があるのかと問うロイに、
エドワードは、考える間もなく首を横にふる。
「いいや、関係ない。
大体、扉の中にあるもんは『情報』だけで、
それを知っても、使いこなせるかとか、理解できるかは
自分にかかってるからな。
俺が知ってる中でも、全然、わからなかった事も、言葉もあったぜ」
気負う事無く語られる言葉には、真実が表されれいる。
となると、やはり彼は、あらゆる意味で特別だと言う事だ。
ロイは、羨ましく思うよりも、哀しくなる気持ちで、
目の前の子供を見返す。
早熟すぎた才は、何も本人の為になるだけではないのだ。
彼が払った代償を考えると、簡単に良かったとは思えない。
救われるとすれば、エドワードがそれでも、前向きに生きていこうとしている事だ。
ロイは、今宵から教え始める事の内容を、大きく組み替えて
エドワードに教えていく事を考えていく。
もちろん、安全性を加えて教える事も忘れずに。
「あとがき」
長くなりそうな予感に(確信に?)、サイトでのシリーズ化を致しました。
これが御礼分にいると、他のモノを全然、御礼分にかけないんで。(笑)
また、お付き合い宜しくお願いいたします。
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