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二人の関係 17(番外編)
~~*《番外編・ 蜜月の二人》
――― 義母、来襲!!
色々と有ったのだが、今は二人してやはり幸せな日々を過ごしている。
多忙な勤務の関係で、ゆっくりと二人で過ごせる時間は、なかなか取れないけれど、顔も見れない、声も聞けない日々とはおさらばで、帰れば相手の顔が見れ姿が見れる。運が悪くても寝顔が見れて、相手の温もりを感じて床につけるのだから、少し前のことを思えば今の日々は天国で、まさしくラヴィアンローズ・・・・・薔薇色の人生だ!
そんな日々の合間に、エドワードが公休ロイが午後出勤、な~んてラッキィーな日が有れば、それはもう熱い前夜が繰り広げられたりで、翌朝はどちらも惰眠を貪る結果になってしまうのは、これはもう仕方がない結果なのだ。
今朝はまさしくそんな日で、普段なら出勤して留守宅のここも、主達はすやすやと幸せな遅寝を楽しんでいた。
――― 危機がそこまで近づいているのも知らずに・・・・・。
一人の女性が家の玄関に立ったのは、普通なら昼食の準備にかかろうと云う時間だった。
伸ばした手がノブに触れるが、当然回わって開きはしない。その女性は別段気にすることもなく、用意した鍵で開けると中へさっさと入って行く。静まり返った室内を通り過ぎながら中を窺う。そのどこにも主が居ないと判ると、その女性は慣れた者の足取りで置くの部屋へと進んで行く。
―― カチャリ
と音を鳴らして開いた先は、まだカーテンも締め切られていて、室内は薄暗いまま。女性はざっと室内に視線を巡らすと、奥に鎮座している大きなベッドの、決して独りでは無いだろうこんもりとしたシーツの山に肩を竦めて溜息を1つ吐いた。
そして・・・・・。
「いつまでぐ~たら寝てるんだい!
お天と様はもうとっくにあがり切ってんだよ!!」
遠慮も気遣いも一切無い大音声で、ベッドの住人に叫んだのだった。
「・・・!?」「なっ!なんだ!?」
ガバッとシーツを蹴飛ばす勢いで揃って起きた二人は、状況把握に出遅れる幸せ惚け中。
「ロイ坊、偉く出世したもんだね。世間の皆様が懸命に仕事に精出している時に、ごろごろとベッドの住人かい?」
バックからシガーを1本取り出すと、その女性は一服して紫煙を上げつつ入り口で仁王立ちして話し掛けてくる。
「あ、あなたは!?」
驚愕しているロイの横では、固まったままのエドワードがその女性とロイとを代わる代わる見ながら、どんどん表情を硬くしていく。
――― ロイ坊・・・?
迫力のある女性の登場に、エドワードの思考は散りにちぢれる。
(な、なんだよ? ってか、何で部屋に?? この二人・・・・・)
知らない間柄ではなさそうな様子と云い、ロイの慌てぶりと云い。
過去、派手な醜聞の絶えなかった相手だとは判っていたが、こんな風に女性に押しかけられる現場の立場になれば、気分は最低最悪な下降コースまっしぐらだ。
「あんた・・・・・」
剣呑なエドワードの呟きに、隣のロイの肩が跳ねる。
「エ、エドワードっ」
「―― 一体、どういう了見だぁ? 俺を家に入れておきながら・・・・・。
他にも鍵を渡してるってのはっっ!!」
ぐっと握りこまれた拳に、ロイが大慌てで両の手のひらを胸元で振る。
「ご、誤解だっ!!」
「誤解も六階も・・・・・この家には無いんだよっっっ!」
綺麗なクリーンヒットが入った瞬間。
「始めましてだね。そのベッドに撃沈した甲斐性なしの養母、クリスマスさ」
「―――・・・え?」
エドワードが女性の挨拶に驚いている横では、腹を押さえながら苦悶しているロイが、苦しそうな声で「言おうとしたのに・・・」と恨めしげな声を上げている。
とにかく服を着れば?のアドバイスをしてくれたロイの養母と名乗る女性は、事後真っ最中の二人を見ても全く動じる様子が無い。
先にリビングに行ってるよ、と声を掛けて去った後には呆然となったままのエドワードと、目尻に浮かんだ涙を拭いているロイが残された。
「ど、どうして言っといてくれないんだよっ!」
あたふたと散らばってるパジャマを蹴散らし、クローゼットから服を取り出して身につけるエドワードの抗議の声に、「言う間もくれなかったじゃないか」と小さな呟きを吐きながら、ロイは取り合えず落ちたパジャマを着て、二人して部屋をダッシュで出る。
リビングかと走りこんだ先には件の女性は居らず、気配はキッチンからだ。
二人揃って覗いて見れば、女性は慣れた様子でキッチンで立ち働いている。
「マダム、来られるなら来ると、連絡の1つくらい・・・」
背後からロイがそうぼやくと、女性はキッチンの椅子を顎で二人に座るように指し示す。
「はん。紹介も無くあんたが家に人を引っ張り込んで、暮らしているって云うじゃないか。なら一応養母として、不肖の息子がどれだけ自堕落に暮らしているのかと確認に来るのは当たり前さ。
ほら出来たよ、食べな」
慣れた手つきで並べた皿に料理を盛っていく。
「自堕落って・・・、今日は偶々です! いつもは二人とも、ちゃんと出勤していますよ」
「当たり前だろ。そんなのは自慢にもならないだろうが」
自分用にはコーヒーだけ炒れ、二人の向かいに腰を下ろす。
「エドワード、こちらマダムクリスマス。私はマダムと呼んでるが、養母だ。
でマダム、こっちが恋人のエドワード」
「は、始めましてっっ」
とにかく挨拶は必要だろうと、ややぎこちない仕草で頭を下げる。
「ふん・・・・・」
エドワードの挨拶にもマダムは鷹揚な様子で頷き、じっとエドワードを無遠慮に眺めてくる。
特に会話に花が咲くことも無く、偶にロイとマダムがポツリポツリと言葉を交わし、やや気詰まりな朝食兼昼食の時間を終える。
エドワードは味のしないままの食事を胃に押し込むと、片付けくらいはと食器を纏め始める。
キッチンでエドワードが皿を洗っている間に、ロイはマダムを連れてリビングへと移った。
「・・・一体、突然どうしたんですかっ?」
特にロイの私生活を気に掛けるような事など、今まで無かったマダムの突然の行動に、ロイも訝しく思う。
「別に。―― あんたが暮らすまでして気に入った相手が、どんな相手かとちょっと興味が湧いただけさ。ロイ坊、あんた・・・・・相変わらず面食いだねぇ」
半場呆れ半場感心したようなマダムの呟きに、ロイは苦笑を浮かべた。
「・・・エドワードは見た目だけの人間じゃ有りませんよ」
「はん! そんなの当然だろうが。そんな程度の相手なら、とっとと家から叩き出してるさ」
言い方は悪いが、彼女なりにエドワードのことを認めてくれたようだ。
「ま・・・、大切にしてやりな」
「・・・・・ええ、勿論」
自然と浮かぶ微笑を抑えることなく、ロイは気負い無い気持ちを返した。
和やかな空気が流れているリビングとは反対に、キッチンに居るエドワードは気が気じゃない。親との初対面の場面から最悪で、しかも家で暮らしている恋人は、世間の云うカップルとは少々違う。
何せ同姓なのだから・・・・・。
エドワードが悶々としている間に、どうやらロイのお迎えが到着したらしい。
玄関のチャイムと馴染みのメンバーの呼び声に、物思いから覚めさせられたエドワードは、話し声がしていたリビングへと顔を出す。
「ロイ・・・・・、迎えのハボック大尉が来たぜ?」
「もうそんな時間か!? 判った、着替える時間だけもらってくれ」
「判った」
着替えにと立ち上がったロイに短く返事を返すと、エドワードは玄関に足早に向かう。正直、リビングで養母と二人にされても、何を話せば良いのかも判らない・・・。
ハボックと挨拶を交わし、次の非番に飲みに行かないかと誘われ了承していると、着替えの終わったロイがマダムに挨拶して廊下を歩いてくる。
「じゃあ、私はもう出るが・・・・・、マダムのことを頼む」
「あ・・・・・うん」
いまいち気が引けているエドワードに、ロイは「大丈夫、彼女は良い人だよ」と告げながら、困惑気味のエドワードの頬にキスを贈る。
その間はハボックは心得たもんで、くるりと二人に背を向けて待機している。
「行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい」
言葉があっさりと交わされる中、視線は言葉の淡白さを補ってお釣りがくるほど、かなり熱さ高めの濃い目だ。
そんな目でじっと見ないで欲しいと困りながらも、その視線を解けないでいる。
「・・・エドワード、君からは?」
ぼぉ~と眺めているエドワードに、ロイはそんなお強請りを言いつつ顔を少し近づける。
「ばっ!? ・・・・・馬鹿言ってないで、さっさと行って来い!」
「馬鹿とは酷い。昨夜は何度も君からもしてくれたじゃないか・・・」
口の端を上げ、瞳には愉しそうな彩を浮かべている。
きっと半分はからかいで、半分は本音が混じっている言動だろう。
意味深に言われた言葉に顔を赤くして戸惑っているエドワードに、ロイの背後で様子を窺っていたハボックが腕時計を指差して「早く」と、縋る様な仕草でエドワードに伝えてくる。
がっちり両肩を掴んで覗き込んでいるロイは、エドワードが返すまでは粘る気満々の様子だ。暫しの逡巡の後、腹を括って頬に素早くキスをおくる。
「こ、これで良いだろ? さっさと行って来い!」
首まで羞恥で真っ赤に染め上げたエドワードの照れた反応に、ロイは目を細めて嬉しそうな顔をして見つめている。
「ありがとう。最高の気分で仕事に行けそうだ」
「よ、良かったな」
ロイの言葉にホッとした瞬間。
「これはぜひともお礼がしたい」
その言葉に疑問も了解も抗議もする暇も隙も無く。気づけば肩を掴む手に平に力が入り、目を閉じる間も無く口付けられていた。
「・・・・!?」
驚いているエドワードの視線の端では、ハボックが諦めたように肩を竦め。
「気が済んだら、車に来て下さいよ」
そう言い残してその場を去って行った。
きっとバカップルとは付き合いきれん、そう思っていることだろう。
行ってきますの挨拶にしては、やたらと濃い口付けをされ、ロイが出勤する気になって去る時には、エドワードの足はやや覚束無くなっていた。
酔ったような足取りで家に入ると、置かれている見慣れない靴に現状を思い出す。
「や、やばいっ」
寝起きに今にと褒められたことはしないで、印象を下げてばかりいるのではないだろうか。
慌てて部屋に戻ると、相変わらずマダムは悠々と寛いでいた。
「あのボンクラはもう行ったのかい?」
「は、はい。すみません、ほったらかしで・・・」
恐縮するエドワードに、マダムは大きな手の平をひらひらと振ってみせる。
「構うことは無いよ。勝手に押しかけたんだ、あんたが気にすることは無いさ」
一見横柄な態度の後ろには、他人への気遣いが宿っている。そんな彼女の態度に、エドワードはロイの育ての親なんだと感じた。彼もエドワードに気づかれ負担を掛けることの無いようにしながらも、常に気遣いをしてくれていた。それは今も変わらない。いや、OPENにはなったが根底は変わらないと云うべきか。
目の前の女性はエドワードの母とは感じが全然違うが、母同様の深い愛情をロイに注いでいるのが伝わってくる。
――― 良かったよな、良い人に巡り合えてて。
本当の両親は幼い頃に亡くなっているのだけは聞いていた。その後親戚筋の元へ引き取られた事も。辛くないわけではない過去だが、不幸ではなかったのは、今のロイを見て、この女性を見れば解る。
そんな事を考えながら目の前の女性を見ていたから、自然と微笑んでいたらしい。マダムがはっとなったようにエドワードを見て、笑い返してきた。
「・・・・・あの子は良い相手を選んだようだね。
エドワードさん、あの子の事を宜しくお願いするよ」
そう告げて深々と頭を下げるマダムに、エドワードも驚いて頭を上げてくれるようにと言った。
「―― あの子は器用には生きられない性分だ。何かと苦労を背負い込むばかりで、きっとあんたにも苦労や嫌な思いをさせることも多いだろう。随分、『この子は独りで生きて、独りで死んでいくんじゃないか』と気を揉まされもしたが、・・・・・神様はちゃんと居るんだねぇ。
闇ばかり歩きたがるあの子に、こうして灯火を下さった。
これで迷うこともないだろうさ」
薄っすらと浮かぶ目尻の端を拭うマダムに、エドワードは自分の方こそ彼に光を再び貰えたんだと強く想う。
その後すっかり意気投合した二人は、ロイの若かりし頃の話を肴に話が弾み、マダムが店の開店時間だと名残惜しそうに腰を上げる頃には、気心しれる仲になっていた。
日付が変わった頃、ロイが帰宅して来た。
「どうだった、マダムは?」
結果は判っていると云う表情で聞いてくるロイに、エドワードはにっかりと満面の笑みで返してやる。
「あんたの母さんだぜ。悪い奴なわけ無いだろ」
ロイは目を瞠り、破顔してはエドワードを強く抱きしめた。
「それは最高の褒め言葉だな」
自分の大切な人を、愛している人に褒められる。
そしてその逆も。
どちらもこれ以上ないくらい、幸せな気持ちにさせてくれることだと、体一杯に感じたのだった。
後日。
「で、何故また来てるんですか、あなたはっ!」
その後ちょくちょく出入りするようになったマダムに、忍耐切れたロイが不服そうに話す。
「なんだい、可愛い嫁の顔を見に来ちゃ悪いかい!」
悪くは無い、悪くは無いが・・・・・。
どうして二人揃う貴重な時間を狙ってやって来るのだ、この人はっ!
「エドワードは貴方の息子の嫁じゃなくて、私の恋人です!」
思わず自分の権利を主張するロイが居たとか・・・・・。
仲良きことは幸いなり。
おわり
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