Selfishly

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SFT Pa1-2「遠距離恋愛の始まり」


スローライフt(third) 


             P1-2「遠距離恋愛の始まり」


「どういう事だよ! 東方に行かなくていいって!」

「言葉どうりだ。 君は、ここに残って学生を続けなさい。
 私があちらに行っている間に、優秀な君なら卒業できている筈だ。
 なに心配はいらない。住居はこのままにしておくし、
 私もこまめに戻ってくる。

 君は何も心配しないで、ここで私の不在を守っていてくれ」

エドワードは驚いたようにロイを凝視する。
これが、片時も離れなかった同一人物の言葉だろうか。
ここ最近は、冷戦中でベットは別になったままだが、
エドワードと寝ているときには、深夜に目を覚ますと
エドワードが傍にいる事を確認しなくては、
おちおちと寝れない男で、今も、寝たのを見計って
部屋まで確認に来ているのだ。
気配を上手く隠しているので、エドワードには気づかれてないと
思っているのだろうが、野生児並みのエドワードの感覚を
甘く見すぎている。

「・・・あんたは、大丈夫なのかよ」

そこまでしているロイが、大丈夫なわけはないのだ。
余程の無理をしていかなければ、耐え切れないだろう。
そう思って告げられた言葉を、ロイは嬉しそうに聞き違いする。

「拗ねてるのかい?
 私も当然寂しいよ・・・、だが、君の為だと思えば
 我慢できるのも嬉しいからね」

拗ねていると思っている恋人を優しく抱き寄せながら、
少しだけ強がりの本音を伝える。
ここ暫くは、抱きしめるのも、口づけするのも、
怒っているエドワードは許してくれなかった。
久しぶりに抱きしめれた身体に喜びながら、
この後を強請るような言葉を続ける。

「東方には明後日には出なくてはいけないんだ。
 寂しさを埋めるためにも、今日は一緒に寝てくれるね?」

切実さを交えた願いに、渋々ながらも頷き返すエドワードに
ロイは嬉しそうに、気が変わらぬうちにと
部屋に引っ張り込んでいく。

久しぶりなのと、これからは、更に近くに居れない寂しさを抱えながら、
ロイは時間も忘れて、愛しく大切な恋人との時間に溺れる。
自分は忘れないという自信がある。
エドワードにも同様に、自分を忘れないでいて欲しい。
本当は離れたくなど、絶対にない。
出来れば、1日中傍に縛り付けておきたい位だ。
少年から青年期に差し掛かっているエドワードは、日毎眩しいくらい
美しくなっていく。
連れ立って歩いている時にも、今では半分位は、エドワードに視線がいっている。
妙齢の女性からだけでなく、男性からの感嘆と興味津々な視線も多く、
外に出るたびに、どれだけロイが、ハラハラさせられている事か。
だからこそ、離れるなど考えられない事ではあるが、
エドワードは生半可な事では意思を変えない。
連れて行けば、必ずや事件にも軍にも首を突っ込んでくるだろう。
そんな危険な真似をさせるなら、寂しくとも、辛くとも
遠くに離しておく方がいい。
・・・それに、自分が耐えれるかは、余り自信はないのだが。
まぁ、もう暫くすれば、入隊への道が無い事に、
希望を断念せざる得ないと思ってくれた頃になるだろう。
その頃なら、東方の医大に編入してもらうのもいい。
いや、ぜひ、そうしてもらおう・・・。

自分の下で、艶やかに華開く姿に、ロイはそんな勝手な決意をする。
とても、この恋人なしでは生きてはいけないと・・・。



それからの、出発までの時間も、余り機嫌の芳しくないエドワードだったが、
ロイの為に、細々とした準備を整えてくれ、ロイが触れる事も
拒否はせずに、好きなようにさせていた。
出発の当日の朝。

「なぁ、もう1回だけ聞く。
 俺を入隊させてくれないか?」

どうして、これから気の重い出発の朝に、
更に不愉快になる話を聞かされなくてはならないのだ。
ここは、暫く離れ離れになる二人同士、別れを惜しんで、
甘い時間を過ごすとこではないのだろうか・・・。

そんな事を考えながら、ロイは大きな嘆息を付く。

「駄目だ。 この件は、もう何度も言ったはずだ。
 君が軍に入れる可能性は無い。
 もし余りに拘るようなら、軍属も解くようにもするが?」

ロイの返答にも、眉を寄せるが、それ以上は言っては来ない。
それを返事と受け取り、ロイは抱きしめようと腕を伸ばすが、
エドワードは、それを振り切っり、さっさと玄関に向かっていく。
その様子に、聞こえよがしなため息を吐き出すと、
ロイも仕方なさそうに従っていく。
『早く諦めてはくれないかな』と祈りながら・・・。



「本当に宜しいので?」

ホークアイの言葉で、回想に浸っていたロイが気づく。

「何がかね?」

勿論、何かはわかっている。
エドワードの入隊を拒否したのも、今回の東方に連れて行かない事も
この副官は、難色を示していたのだから。

「エドワード君は意思の強い人間です。
 彼は、自分が思うとうりに道を切り開く、力も才覚もあります。
 後から後悔するような事態に陥らないためには、
 拒否するよりは、引き受けて上げるほうが、良いと思いますが」

ロイは、最近癖になっている嘆息を吐き出す。

「解っている。 だからこそ、切り離しておく方がいいんだ。
 彼は頭の良い子だ。 自分から気づいてくれれば、
 他の道も考えてくれるさ。
 何も軍に入る事ばかりだけが、私の手助けになるわけじゃない。
 彼ならきっと、それ以外の方法も考えてくれる」

自分としては、別に軍に入らなくても、日常で彼が傍に居てくれるだけで
十分満たされるのだ。 その事を、エドワードは考えなさ過ぎる。
彼さえ諦めてくれれば、直ぐにでも東方に呼び寄せる事が出来る。
彼ならきっと、それに気づいてくれる筈だ。
出来れば、早めに気づいて欲しいが・・・。

これからのエドワード不在の日々を思うと、
懐かしい想いがする東方も、エドワードとの記憶が多すぎて
少しばかり、憂鬱になってくる。
今日何度目になるかわからないため息を、車中の皆が付いていた。




「ほっほっほっ。 それで、わしの所へ来たと言うわけじゃ」

愉快そうな笑い声を上げる相手に、エドワードは素直に頷く。

「しかしのぉー、マスタング君の言う事は尤もだと思うが?
 何も好き好んでこの世界に飛び込む事はないじゃろ?

 闘う者がいれば、守られる者も必要じゃて。
 それでも、と願うのかな?
 彼の希望を無視してまで?」

温和な口調に流されそうだが、言ってくる事は厳しい。
エドワードが動いているのも、ただの自己満足の為と言われればそのとうりだ。
だけど、と思う。
唯の自己満足の為だけであっても、
人は成そうとする時に、動かなくては何も変えれない。
変えた後に、山ほどの後悔を背負うことになるかも知れない。
が、それは行動した者だけに得れる経験だと言う事を
若くしてエドワードは知っている。

「俺は俺の為だけの事しか、考えてないのかも知れません。
 でも、最初はそうであっても、必ず、あいつに返せるように
 なってみせます」

確固たる意思を見せてくる言葉の強さに、
総統は、視線を細める。

「・・・軍は奇麗事ばかりではいかないぞ。
 仲間内の足の引っ張り合いや、蹴落としも日常茶飯事。
 人を守る代わりに、人の命を奪う事も
 躊躇わずにせねばならん。 
 躊躇えば、自分の命が無くなるからのぉ。
 そうなれば、マスタング君に恨まれるのは、わしじゃ」

怖い怖いと身を震わせる真似をする、相手の茶化す態度にもめげずに、

「それは軍ばかりじゃない。
 世間も、別に常に奇麗事ばかりじゃないのは、同じだ。
 兄弟で醜い争いを繰り広げてる奴らも、
 僅かな小銭の為に、人を殺す奴もいる。
 人道にも、倫理に触れる事も、平然として
 のうのうと生きてる奴もいる。 
 でも、どんなに僅かな力しか無くとも、
 そんな事を減らしたいと思って行動すれば、
 ちょっとは・・・少なくとも、悪くはならないはずだ。

 俺には社会を変えれるだけの力はない。
 でも、あいつなら、もしかすれば、そんな社会を変えていけるかも知れない。
 俺はそれに賭けたいと思う。
 だから、その為に、どうしても必要なら・・・俺は自分の命を守る為に
 力を使う」

躊躇わずに人の命を奪う・・・そこまでの覚悟をして。
そう訴えるエドワードの姿に、総統は真意を問う様に
視線を強める。

若すぎる錬金術師は、幼い頃から世間では名を鳴らしていた。
が、それはヒーローに祭り上げられて、いい気になっての行動ではなく、
社会の実情を、哀しいほどに見てきたからこその正義心なのだろう。
総統は眩しい気持ちで、この真っ直ぐな青年を見つめる。
『マスタング君が、手放さんわけだ』

そして、彼を軍に入れるのを嫌がる気持ちも、同時に理解できた。
これほど綺麗ものを、汚濁の中に入れる事はない。
が、彼は花で例えれば、薔薇やリリーやカトレア等の園芸で作られ、
整えられた環境で咲く花ではなく、
汚泥の中からでも、真っ直ぐと頭を上げて、自分の存在を知らしめる
蓮の花なのだ。
だからこそ、こうまで気高く、高貴に匂い立つのだろう。
『これは、勝負あったな・・・マスタング君』



「わかった、君の入隊を許可しよう」

待ち望んだ答えだと言うのに、エドワードは聞いた直ぐには
理解が示せなかった。
ロイ贔屓の人物と聞いてもいたから、
ロイの願いを無下にはしないのだろうが、
駄目もとで、来てみたのだが。

「えっ・・・? 本当に・・・?」

そんなエドワードの反応に、可笑しそうにからかってくる。

「なんじゃ、決心は嘘だったのかね?
 まぁ、別にわしはどっちでも、構わんが?」

その言葉に、相手の気が変わらぬうちにと、
焦りながら、お礼の言葉を伝える。

「あ、ありがとうございます!!
 俺・・・、いえ、私は、閣下に忠誠を誓って、
 軍の為、民衆の為に、力の限り頑張らせて頂きます!」

確か何かの式典の際に聞いた事の有る口上を告げる。

「いやいや、そんなに無理を言わなくてもいい。
 君は君の支持する者の為に頑張ればいいさ。
 人間正直が1番じゃ」

と、とても軍のトップとは思えない言葉を告げて、
楽しそうに笑い声を上げる。

「はっ?はぁ・・・」

まぁ、エドワードにしても、確かにその方が楽だが・・・。

「ただし、条件が2つある」

好々爺然していても、やはり軍の高官。
抜け目ない視線が、楽しそうに閃いている。

「はい、聞かせて頂きます」

エドワードも、緊張した面持ちで話を待つ。
何にでも代価は必要だ。 ロイの援護をする者が、
ロイの意思に反した事をしようと言うのだ、
それにはそれ相応の条件が付いて、当たり前だろう。
承りますと答えなかったのは、予防線だ。
いくら入隊させてくれるからと言って、ロイの障害になるような事は
引き受けるわけにはいかない。

エドワードの模範的な回答にも、面白そうに頷いている。

「では、まずは1つは、君は入隊したら、士官学校に入学してもらおうか」

余りに意外な言葉に、思わず鸚鵡返しに聞き返してしまう。

「士官学校!?」

「そうじゃ、な~に、別に入学から卒業まで居ろと言ってるわけじゃない。
 今からだと、後期になるから、半年ほどじゃな。
 もともと、士官学校に入らずとも、君は入隊すれば少佐からスタートじゃ。
 が、それ以外のものも必要じゃろう」

「それ以外のもの?」

改めていた口調が、相手のペースで元に戻っているのにも気づかずに、
エドワードには珍しく、相手の話に惹きこまれている。

「マスタング君の力になりたいと思う気持ち、大いに結構じゃ。
 じゃが、どうやって力になるつもりじゃ?
 入隊して、彼の下で働くと言っても、新人の君では
 面倒を見てもらうだけで終わる事もあるだろうて」

思わぬ指摘に、自分の考えの粗を知らされ、唖然とする。

「軍属の時ならば、得意な分野の任務の振り分けだけで
 済むが、正式な軍人ともなれば、得手不得手は言っておれん。
 それに、どれだけ彼の下で成果を上げていても、
 彼の対応できる範囲は限られている。
 そうなれば、君が助けに入ったからと言っても
 飛躍的には広がらんのじゃないかな?」

ますます、的を得てる言葉に、エドワードは言葉も出ない。
入隊して、軍属の時のように働いていればとしか考えていなかった彼にしてみれば、
得意な分野を振り分けてくれていた事に、思いも及ばなかった。
いや・・・、わかってはいたが、さして違いはないと思って、
少しばかり思い上がっていたのかも、知れない。

「君には、君の手足が必要じゃよ」

「俺の手足?」

「そう、彼には彼が見つけてきた者たちがいる。
 だからこそ、彼は信じて待つ事も、彼らが信じて着いて行ける事も
 できるのじゃ。
 一人の人間が成せることは、たいして無い。
 が、仲間と成すことには無限の可能性があるんじゃないのかのぉ」

「仲間と成す可能性・・・」

目から鱗が落ちると言う事は、きっと今の自分の状況だ。
幼いときから、兄弟で身体をはって切り抜けてきた自分には、
そういう方向での思考を持ち合わせてはいなかった。

「そうそう。 それに、何も部下だけじゃないぞ。
 友人と言うネットワークも大切じゃ」

「友人?」

「友達じゃあない・・・盟友と言う名の友じゃな」

「盟友・・・」

「士官学校を卒業するものは、ひとかどの人間ばかりじゃ。
 そういう人材と懇意にしておくのは、自分と自分の仲間の
 命綱になることも多い。
 盟友の一人も持てないでは、この先生き残れもしまい。

 まぁ、足を引っ張られる事も多いかもしれんがの。
 どっちにしても、軍の縮小版の社会じゃ。
 そこで、過ごせないようなら、軍ではやってはいけん。
 それこそ、マスタング君の下でなければ、続けられんじゃろう」

要するに、甘やかされた環境は、本来軍の社会とは
かけ離れていると言うわけだろう。

エドワードは、肝に命じる様に、強く頷くと。
宜しくお願いしますと頭を下げる。

「宜しい、君の入隊を許可しよう。
 それと、士官学校の入学手続きもな」

そう話しながら、隣で控えている秘書に、必要な書類を
揃えさせるように伝えている。

『はやっ・・・』
さすが、総統まで上がっている爺さんだ。
やっぱ、並じゃないよな。

「それともう1つ」

相手の行動に驚いていたが、条件はもう1つあった事を思い出す。

「君の軍への配属任命は、わしが一緒に行ってやろう」

これには、先ほどより、エドワードの驚きを奪った。

「俺の配属任命に、大総統が!?」

「まぁ、わしは査察のついでと言う事にでもして。
 こんな楽しい瞬間を、見逃す手はないじゃろう?」

クックックッと笑いをかみ殺している相手には、
さすが、エドワードも少し不安になった。
『こんな爺さんが上で、軍って大丈夫なのかよ』
エドワードの失礼極まりない感想にも、気づかず、関心持たず、
自分の見つけた楽しみに、ウキウキしている総統を見て、
杞憂のため息を吐き出した。



「まだ、戻ってないのか・・・」

ロイは沈鬱なため息を吐き出すと、虚しくコールし続けている受話器を置く。
シンと静まり返った部屋は、家具だけは備え付けの有る、
殺風景な空間だ。
中央と違って、寒さが厳しい地区だから、閑散とした部屋は、
実際的にも、心理的にも寒さが増す。

ここに越してきて、まだ3日としか経っていないと言うのに、
ロイの中では、既にうんざりとしている自分を感じている。
転任してきたばかりだから、本当に寝るためだけに帰っているようなものだが、
こんな有様なら、軍で寝泊りしていた方がマシだ。
が、上司の自分が有事でもないのに泊まり込んでいれば、
部下達も帰りづらくなる。
僅かな時間戻る為に腰を上げ、すぐさま司令部に戻る。
そんな生活も、別に今に始まった事でもないのに、
荒れていく気持ちをどうにも出来ないのは、
戻る所に、誰も・・・いや、エドワードが居てくれないからなのだ。
それに引き続き、いくら連絡しても出てもくれない。
怒っているだろうとは思っていても、こうまで続くと、
ロイは思わず、自分の決定に挫けそうになる。
いざと言うときの為に、エドワードには護衛件監視もつけてあるが、
変わらぬ生活を送っているらしい。

なら、電話は、出たくないと言う意思表示なわけで・・・。
ロイは、軍服を脱ぐのも面倒くさげに、ベットまでの距離で
捨て置いていく。
どうせ、腐るほど支給されているのだ。
毎日着替えても問題も無い。

ベットに座り込むと、ここ最近の必需品、アルコールの瓶に手を伸ばす。
すきっ腹に煽るだけ煽ると、もう何も考えずとも眠りにつける。
エドワードに拒否をされている・・・それがどれだけ堪えるか、
身に染みながら、夢も見ない眠りに付く。




「少将、荒れてますよね・・・」

「お前なんかまだ良いぜ、俺なんか寝起きに当たるんだぜ。
 もう、最悪~」

軍に保険はあるのかも、最近では真剣に必要性を感じているのだ。

「そうね・・・昔は悪習と化した遅刻も復活したし」

皆の重いため息で、そのうち司令室は埋まりそうだ。

「だから、無理せずに、エドに着いて来てくれって
 頼めば良かったんですよね。
 どっちも、頑固だから・・・」

「でもよ、絶対、このままじゃ済まないぜ。
 少将が音を上げるか、エドの奴が切れて乗り込んでくるのと
 どっちが先だと思う?」

逆境にも喜びを見出せる根性があることは、軍で生き残る才能のようなものだ。
今の言葉に、メンバーがキラリと目を光らせる。

「俺は・・・少将が音を上げるに2000センズ」
「僕は、エドワードさんが切れるのに1000センズです」
「私は、少将に1000センズ」

ノリノリの仲間の様子に、ハボックが不満そうに唇を突き出す。

「お前ら、ケチくさいぜ。 もっと、自分の判断に自信持っていけよな。
 よっしゃー、俺は大将が乗り込んでくるのに 3000センズだ!」

たいした金額ではなさそうだが、一番の高値を提示する。
ハボックの自信の判断の値段が、それが限度だったのだろう・・・。

「えっ~と、後は・・・」

メモに書きとめながら、残る人物にお伺いの視線を投げかける。

「私はどちらとも、無しで。 代わりに、エドワード君の策略勝ちに
 1万センズ賭けます」

「1万・・・!」
さすが中佐・・・男らしい(?)の感嘆のため息が漏れる。

そして、その賭けの勝敗は、以外に早くやってくる事になる。

司令室に鳴り響く電話の呼び出し音に、いち早く出るのは
常に、ホークアイだ。

「はい。 そうですか、わかりました。
 お繋ぎして下さい」

そう答えると、しばらく間が空き、会話が始まる。

「はい、お久しぶりでございます。
 こちらは、変わりなく順調に進んでおります。

 はっ?副官候補ですか?
 はぁ、確かに人では足りているという状態ではありませんが・・・。

 連れて行く? それは、どういう事で?」

冷静なホークアイに珍しく、しどろもどろな対応に、
周りに居た面々が、トラブルの予感に鼻を顰める。

難しい表情で受話器を置くと、周囲に声をかけられる前に立ち上がり、
隣の執務室をノックする。

「入れ」

このところ、常の不機嫌な声に、気にもせずに、中に入っていく。
その様子を、離れた所から眺めていた面々が、好奇心半分以上、
不安半分未満で眺めていた。

「失礼します」

「何だ」

書面から目を離さずに、入ってきた彼女に声をかける。

「今、大総統からお電話がありました」

この答えには、さすがにロイも、軽く目を瞠って驚く。

「それで、こちらの方に、副官候補を連れて行くので
 面倒をみるようにと・・・」

「副官候補・・・? 連れて行く?」

また、何の気まぐれを起こされたのだろう?
ロイの副官には、彼も十分知って、能力を認めている彼女がいる。
その上、更に副官の候補とは?
しかも、冗談でも連れてくる等と・・・。

「はい、聞き間違いかとも思ったのですが、
 繰り返しそうおっしゃられまして」

「・・・で、いつ連れてくると言うんだ?
 その副官候補とやらを」

その答えに、困ったような表情を浮かべ、
困惑のまま答えを告げる。

「はい・・・、すぐに・・・と」

「すぐ?」

二人が戸惑いを浮かべている時に、隣の司令室が俄かに賑やかになる。
煩い、静かにさせる声をかけようとした矢先に、
今度は、水を張ったように静かな沈黙が漂ってきた。

「何をやってるんだ、あっちは?」

「・・・もしかして、もう、着かれたとか・・・」

ホークアイの躊躇いの返答に、

「まさか」とは言ったが、あの総統ならやりかねない。

ガタンと椅子を蹴る勢いで立ち上がり、隣の部屋へと動く前に、
パタンと妙に軽い音で、扉が開けられる。

「やぁ、元気にやってるかな?」

にこにこと、喰えない笑みを浮かべながら、入ってきたのは、

「大総統・・・」

諦めと、驚きの無い混じった表情を浮かべて、呟いた。

「いやぁ、丁度査察でこちらの方に来る都合があっての。
 ついでに、君の部下も連れてきた。
 まぁ、まだ新米だから、おいおい君らが教えてやってくれれば
 いいじゃろう」

「総統・・・。 お心遣いはありがたいのですが、
 そのような話は、全くお伺いしておりませんでしたが?」

「さっき電話したじゃろうが」

全く悪びない相手には、どうやっても太刀打ちは出来ない。
たとえ、足手まといの邪魔者だったとしても、
総統の推薦人となれば、迎えないわけにもいかないし・・・。
ロイと副官は、素早く目配せをすると、
双方とも、深いため息を心中で吐き出しながらも
表面は、にこやかに対応する。

「大総統、どうぞ、こちらにおかけ下さい。
 すぐに、お茶の用意もさせて頂きますので」

ロイのその言葉に、ホークアイが足を動かそうとして、
驚いたように扉の外を見つめる。
ロイからは、死角で見えない位置に立っているのは・・・。
口に指を立てて、シッーとジェスチャーをしてくる。
思わず綻びそうな頬を引き締めて、かすかに頷き返す。
落ちついて見てみると、立っている後ろでは、仲間達が
笑いを堪えているのか、お腹を抱えて、身を震わせながら蹲っている。

「そうじゃな、じゃあ彼にも淹れてもらおうか。
 遠路はるばるきたんじゃからな」

「はっ・・・」
了承の返事はしたが、不愉快な表情が瞬間過ぎる。
いくら総統の推薦人と言えども、ここに入る限りはロイの部下になるのだ。
それが、総統と並んでもてなしを受けるなど、分不相応すぎる。
『どこかの子息か?』
そうなれば、厄介な預かり者になるだろう。

「入ってきなさい」

総統の掛け声に、ゆっくりと姿を現した人物を見て、
ロイは人生そう何度もないだろう、驚嘆の空白に陥ってしまった。

「本日より、ロイ・マスタング少将の下で、
 研修をさせて頂きます、エドワード・エルリックと申します。
 若輩の身ですので、閣下、お呼び皆様のお力で、ご指導・ご鞭撻の程、
 宜しくお願いいたします!」

敬礼する様も見事な挨拶に、ホークアイは嬉しそうに頷き、
後ろに控えていた司令室のメンバーからは、歓迎の拍手と声が上がる。
が、肝心の相手と言えば・・・。

予想に反して、相手の
余りの無反応さに、エドワードは、
酷くつまらなそうに近づいていく。

そして、気づいたのだ・・・無反応な筈だ。
ロイ・マスタング少将は、驚嘆も過ぎすぎて、
魂が飛ばされたご様子だったからだ。

「じいちゃん・・・、少将、気を失ってる・・・」

思わずタメ口になるほど、エドワードも動揺しているのだろう。

「ホッーホッホッ! なるほど、なるほど。
 人も余り驚くと、気が飛ぶんじゃなー。
 これは、少しやりすぎたの。
 折角の反応が見れなくて残念だが、なかなかどうして、
 有意義な発見をしたものじゃ」

ホークアイ中佐は、痛む米神を押さえながら、
司令室で爆笑している面々に声をかけ、
速やかに少将の撤去・・・いや、医務室への誘導を指示した。

その後、大総統とエドワード、ホークアイは、
和やかな雰囲気の中、ゆっくりとお茶を愉しみ、
また来るよと楽しそうに帰っていった総統のお見送りをした。

「エドワード君・・・いえ、少佐。
 謀ったわね」

楽しそうに問い詰められれば、エドワードも困ったように笑うしかない。

「ごめん・・・黙ってて。
 でも、こうでもしないと、軍には入隊できないだろ?」

それに軽く頷くと、今度は真剣な瞳でエドワードを見据えてくる。

「あなたの事だから、簡単に考えての事ではないと思うけど、
 あなたが入隊する、イコール少将の為ばかりではないのよ?」

念を押すように告げられた言葉にも、エドワードはしっかりと
相手を見て頷き返す。

「ああ。 じぃ・・・いや、総統にもそう問われたんだ。
 俺も、よく考えれば、自分自身が何もできない状態なのには
 今更ながら気が付いた。
 でも、必ず、返してみせる。
 どんなに些細な事からでも、あいつやあいつを支持する人達、
 そして、俺の夢の為に」

決して大きな声ではなかったが、その声はホークアイの心の中に
しっかりと響いてきた。
彼が、生半可な決意をしたわけではないことを。
そして、自分が忌避していた事柄さえも、覚悟している事も
その言葉の中に、含まれて。

「そう・・・。
 頼もしい限りよ。 ぜひ、力を貸して頂戴ね」

「うん、最初は足手まといだろうけど、出来るだけ早く
 役に立てれるように頑張るからな」

どちらともなく差し出された手に、固く握り合う。
こうして初めて、エドワードは司令部の仲間と盟友になった。
仲間と盟友は違う・・・それは、同じ目的を持つ者と持たない者の差だ。
長い付き合いをしてきたと思うが、今互いに一番近く感じられている。
そして、この関係を大切にしたいと思った・・・。





(あとがき)

また、再開させて頂きました。
スローライフシリーズthirdです。

こうして、彼らの成長(主にエドワードのですね。苦笑)を
書き続けさせて頂けるのは、本当にありがたく、感謝の気持ちで一杯です。
1部2部のように、日常の甘さからは少し離れたお話の展開になりますが、
それぞれが、自分のベストの関係を築く為に頑張っていくお話になります。
たまに番外編で出ているものとは、関連があるようでないような。
余り気にせず、色々なシーンもあると楽しんで頂ければと思います。
他の連載も、少しづつではありますが、合間に更新していくつもりですので
気長なお付き合いを宜しくお願いいたします。 m(__)m




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