7. 血糖調節システム




血管は、最も内側 (血液との接触面) に一層の内皮細胞 (血管内皮細胞膜) が存在し、その外側周囲を多層の平滑筋細胞、更にその外側周囲を血管外膜が取り囲んだ構造を持ちます。
血管内皮細胞膜は血液中の赤血球、白血球、血小板などの細胞成分を透過させません。
けれども、血管内皮細胞膜の透過性は、脳と脊髄を完全に収納している袋状の「くも膜」の内外で全く異なります。
くも膜内の体液は脳脊髄液と呼ばれ、くも膜外の体液 (リンパ液) と非常に異なる組成を持ちます。
     図 血糖値、飢餓中枢、満腹中枢および調節ホルモンの合成・分泌の関係

くも膜内の血管では、内皮細胞が互いに隙間なく並んでいるのに反して、くも膜外の血管では、内皮細胞間に 15-20 nm (150-200 オングストローム) の間隙があります。
したがって、くも膜外の血管内皮細胞膜は IgM (免疫グロブリン M) などの分子量の大きい物質を透過させませんが、蛋白質でも、IgG (免疫グロブリン G) 程度の分子量 (約 15 万) のものを容易に透過させます。
したがって、くも膜外の血管内皮細胞膜は、通常の栄養素のような分子量の小さい物質を容易に通過させるので、これらの物質の濃度は血液とリンパ液の間で短時間で平衡に達します。
一方、くも膜内の血管内皮細胞膜は血液中の無機イオン、水分子などでさえ自由に通過させず、必要な栄養素をいったん内皮細胞に取り込んだ後に、細胞内を通過させ、反対側の細胞膜から脳脊髄液中に遊離させます。
くも膜内の血管内皮細胞膜の物質透過性は、内皮細胞の能動輸送系に厳密に制御されています。
この現象は、如何にも物質通過の関門が存在するように見えるので、血液脳関門と呼ばれます。
くも膜内の血管内皮細胞の物質透過に関する特徴を下記します。
くも膜内の血管内皮細胞はグルコース能動輸送系を持ち、それによって効率よく、ぶどう糖の細胞内への取り込みと脳脊髄液への放出を行います。
くも膜内の血管内皮細胞はぶどう糖以外の単糖 (果糖、ガラクトースなど) に対する能動輸送系を持ちません。
これらの単糖は拡散的透過によって血管内皮細胞内へ入るだけであり、ほとんどが内皮細胞によって代謝されてしまうので、脳脊髄液には入りません。
健常人の血液 (静脈血) のぶどう糖濃度 (血糖値) は、絶食後 8-12 時間は、70-110 mg/100 mL (空腹時正常値)です。
絶食を継続しても、数日間は、血糖値はほとんど減少しません。
体重 1 kg 当たり 1 g のぶどう糖を経口投与すると、血糖値は、1 時間後に最高 140 mg/100 mL に上昇し、 2 時間後にほぼ正常値 (≦110 mg/mL) に戻ります。
糖尿病患者では、血糖値は空腹時には ≧120 mg/100 mLであり、ぶどう糖の経口投与 2 時間後でも ≧180 mg/100 mLです。
体内の組織は絶えずぶどう糖を利用するので、血液の循環によって、ぶどう糖は各組織へ運ばれる必要があります。
ぶどう糖の必要度は組織の種類ごとにかなり異なります。
ぶどう糖の必要度の最も高い組織は脳 (中枢神経) です。
筋肉などの他の組織は、ぶどう糖に加えて、脂肪酸やアセト酢酸などの他の物質も利用できるので、脳に比して、血糖値に対して低い依存度を示します。
心筋は、脂肪酸や乳酸をエネルギ源として利用することができるので、飢餓などによって血糖値が低下しても、心臓は長時間にわたって鼓動する営むことができます。
脳は、他の組織に比して、非常に大きいエネルギを消費します。
脳の重量は体重の約 1/50 にしか過ぎませんが、成人が通常の生活で消費する全エネルギの 1/4-1/5 を脳が消費します。
他の組織と異なり、飢餓状態が続かない限り、脳はぶどう糖しかエネルギ源にできません。
成人の脳が消費するぶどう糖量は約 120 g/日です。
更に、中枢神経の作動にも、ぶどう糖は重要な働きをします。
自律神経の中枢は視床下部ですが、その視床下部の中に満腹中枢と摂食中枢があり、何れも、ぶどう糖と結合する受容体 (ぶどう糖受容体;ぶどう糖レセプター) を持ち、脳脊髄液中のぶどう糖濃度を感知します。
ぶどう糖濃度が高いとき、満腹中枢は満腹であることを知覚します。
反対に、ぶどう糖濃度が低いとき、摂食中枢は空腹であることを知覚します。
脳脊髄液のぶどう糖濃度が高いという情報は自律神経の交感神経を通じて膵臓ランゲルハンス島の β 細胞へ伝わり、β 細胞によるインスリンの合成・分泌を促進します。
ぶどう糖からのグリコゲン合成・分解は多くの組織でも起こりますが、肝臓は最も多量のグリコーゲンを貯蔵します。
インスリンは、解糖系の反応速度を調節している 3 種の酵素 (調節酵素) の量を増加させることによって、解糖速度を高めます。
解糖によるぶどう糖のピルビン酸への代謝に共役して、 ATP と NADPH2 が合成されます。
ATP と NADPH2 の濃度上昇は、エネルギを必要とするグリコーゲン、脂肪、蛋白質の合成を促進します。
脂肪組織細胞は、ぶどう糖を素材として中性脂肪を合成し、貯蔵する能力を持ちます。
この中性脂肪の合成はインスリンによって促進されます。
結果として、インスリンは、血糖値を低下させる方向へ働きます。
逆に、脳脊髄液のぶどう糖濃度が低いという情報は、自律神経の副交感神経を通じて膵臓ランゲルハンス島の α 細胞および副腎皮質細胞へ伝わり、α 細胞によるグルカゴンの合成・分泌および腎皮質細胞によるグルココルチコイド (糖質コルチコイド) の合成・分泌を促進します。
グルカゴンは、解糖系の調節酵素の量を減少させることによって、解糖速度を低下させ、グリコーゲン分解を促進します。
グルココルチコイドは筋肉細胞などにおける蛋白質のアミノ酸への分解および、アミノ酸から、糖新生系 (解糖系の逆反応:正確には、上記の 3 種の調節酵素は異なる)によって、ぶどう糖を合成する反応を促進します。
結果として、グルカゴンとグルココルチコイドは血糖値を高める方向へ働きます。

7・2. 血糖値が低下した場合の反応

     図 血糖調節システムの作用メカニズム

健常な状態では、血糖値が 90 mg/100 mL 程度以下に低下すると、血糖値の上昇がシグナルとなって、次のメカニズムが働き、血糖値の過剰な低下が抑制され、その結果、血糖値は正常型の範囲に保たれます。
血糖値が低下すると、膵臓のランゲルハンス島 α 細胞は、グルカゴンと呼ばれるペプチドホルモン (後述)を血液中に分泌します。
グルカゴンは肝細胞 (肝臓の組織細胞) の表面に存在するグルカゴン受容体に結合します。
その結合によって、肝細胞内のアデニル酸シクラーゼと呼ばれる酵素が活性化され、その結果、サイクリック AMP (cAMP)濃度が増加します。
肝細胞中で、cAMP 濃度が増加すると、グリコーゲンのぶどう糖 6-燐酸 (G6P) への分解が促進されます。
生じた G6P は肝細胞膜を透過できませんが、G6P は肝細胞内でグルコース-6-ホスファターゼと呼ばれる酵素によってぶどう糖と燐酸へ分解されます。
肝臓にとって、ぶどう糖は主なエネルギ源ではありませんので、生じたぶどう糖は血中へ放出され、血糖値が上昇します。

7・3. 血糖値が上昇した場合の反応


正常では、血糖値が 90 mg/100 mL 程度を越えて上昇すると、血糖値の上昇がシグナルとなって、次のメカニズムが働き、血糖値の過剰な上昇が抑制され、その結果、血糖値は正常型範囲に保たれます。
血糖値が上昇すると、膵臓のランゲルハンス島 α 細胞によるグルカゴン分泌が減少し、代わりに、膵臓のランゲルハンス島 β 細胞はインスリンと呼ばれるペプチドホルモンを血中に分泌します。
肝臓、膵臓、筋肉などの細胞はインスリンに応答し、ぶどう糖透過速度を増大させます。
肝臓、膵臓、筋肉などの細胞内で、ぶどう糖はグリコーゲン分解酵素 (ホスホリラーゼ α) に結合し、その酵素活性を阻害します。
同時に、肝臓、膵臓、筋肉などの細胞内で、ぶどう糖はグリコーゲン合成酵素 (グリコーゲンシンターゼ b)を活性化します。
結果として、肝臓、膵臓、筋肉などの細胞はグリコーゲンを合成・蓄積します。
同時に、インスリンの作用によって、肝臓における糖新生が抑制されます。
高血糖症 (糖尿病) では、その症状の程度に比例して、血糖調節システムの作動は不十分です。
その結果、血糖値は、特に食後、正常値を超えて高くなります。
高血糖症が悪化し、β 細胞のインスリン分泌量がさらに減少すると、肝臓における糖新生が抑制されなくなり、空腹時血糖値も上昇します。
小腸の粘膜細胞はぶどう糖を特異的に効率よく吸収する機能を持ち、ぶどう糖を濃縮して体内へ取り込みます。
留意しなければならない点は、血糖調節システムは比較的ゆっくりと作動し、急激な血糖の上昇に即応できないことです。
     図 マウス肝細胞のグリコーゲン分解酵素と合成酵素のぶどう糖注入に対する応答

砂糖を摂取すると、砂糖は果糖とぶどう糖へ分解され、生じた果糖とぶどう糖は濃縮された状態で小腸上皮細胞に取り込まれた後、門脈血中に入ります。
上記の反応は非常に迅速であるので、血糖調節システムの作動が追いつかず、血液局部の血糖値が急上昇します。
この血糖値の急上昇は短時間のものですが、これが重なると、血糖調節システムの弱体化が進行し、年々、血糖値が高くなります。
一方、澱粉を摂取すると、澱粉は唾液、膵液および腸液に含まれる消化酵素によって、特に胃に 約 4 時間滞留する間に、ぶどう糖に分解され、小腸上皮細胞に取り込まれた後、門脈血中へ入ります。
上記の反応はかなり緩慢であるので、血糖調節システムの作動によって、血液局部の血糖値はほとんど上昇しません。
血糖調節システムの弱体化によって、血糖値が恒常的に高くなり過ぎた状態が高血糖症 (糖尿病)です。
高血糖症は、血糖調節システムの弱体化の程度を高めます。
糖尿病に罹ると、血液・尿の糖濃度が高くなり、全身に様々な障害が起こり、口が渇く、尿が多くなる、やせるなどの症状から、動脈硬化の急進、ひどくなると眼の網膜の障害 (失明)、昏睡が起こります。
糖尿病の発症には、遺伝的要素に加えて、様々な環境要素が原因になりますが、日本を含む先進国では、糖尿病患者のほとんどが、少なくとも発症前まで、多量の砂糖の習慣性摂取者です。

7・4. 血糖調節に関与している臓器


胆嚢は肝臓の下側に位置する小さい器官で、肝臓で生成された胆汁の濃縮および貯蔵を行います。
胆嚢は、肝臓から肝胆汁として排出された胆汁の約半量を貯蔵し、水分や塩分を吸収して 1/5-1/10 に濃縮した後、粘液を加えて、食物摂取にタイミングを合わせて、十二指腸へ送り出します。
脂肪分の多い食物が入ってくると、その中のアミノ酸や脂肪酸の刺激によって、十二指腸および空腸から消化管ホルモンの一種であるコレシストキニンが分泌されます。
コレシストキニンは胆嚢の平滑筋を収縮させて胆汁を絞り出し、胆汁は脂肪と混合することによって、脂肪の消化を促進します。
膵臓は胃の裏側に位置する臓器で、強力な消化酵素を生成し、また、インスリンやグルカゴンを内分泌して、血糖値を調節します。
膵臓には、膵液を生成し、十二指腸へ外分泌する部分と、インスリン (β 細胞) やグルカゴン (α 細胞) を生成し、血液中に内分泌する部分があります。
内分泌細胞群は、外分泌部分の中に球形の島のように分散していることから膵島あるいは発見者の名前を付けてランゲルハンス島と呼ばれます。
膵液は蛋白質、脂質、炭水化物 (澱粉)を消化する酵素を含んでいます。
胃内容物が十二指腸へ入ると、十二指腸粘膜から消化管ホルモン (ガストリンやセレクチンなど) が血中へ放出され、消化酵素の合成および膵液の分泌を促します。
インスリンは、ぶどう糖が筋肉やその他の組織へ取り込まれ、利用されるのを促進し、血糖値を下げます。
グルカゴンは肝臓のグリコーゲンの分解を促進して血糖値を高めます。
門脈は、消化器系に広く分布する城間yくからの血液を集めて、肝臓に運ぶ静脈です。
つまり、門脈は一大化学工場である肝臓で、同化・異化といった様々な化学処理を行うため、その素材である各種の栄養素を吸収した消化管からの血液を、肝臓に搬入する血管です。
また、各種のホルモンの運搬路でもあり、脾臓で破壊された赤血球の分解物を肝臓に送る道でもあります。
消化管で一度、毛細血管網に分かれ、静脈に集合して門脈となり、肝臓中で再び毛細血管網に分かれます。
すなわち、両端に毛細血管網を持つという特異的な構造を持っています。
門脈以外の静脈では、動脈とつながる端だけが毛細血管となります。

7・5. 血糖調節に関与しているホルモンおよび消化管ホルモン


血糖調節システムを構成している組織は肝臓、腎臓、膵臓、神経中枢、自律神経系などです。
その機能はインスリン、グルカゴン、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、アドレナリン、甲状腺ホルモンなどの相互作用によって遂行されます。
消化管ホルモンは消化管で産生されるホルモンの総称です。
代表的な消化管ホルモンとして、ガストリン、セレクチン、コレシストキニンなどがあります。


7・5・1 インスリン

     図 人のプロインスリンおよびインスリンの構造

血糖値に関与するホルモンの中で、膵臓のランゲルハンス島 β 細胞から分泌されるインスリン (インシュリン) が最も効果的に作用します。
インスリン分子は 2 本のペプチド (A 鎖と B 鎖) で構成されています。
A 鎖は 21 個のアミノ酸そしてB鎖は 30 個のアミノ酸の結合したペプチドで、A 鎖とB 鎖は 2 個所で SS 結合 (ジスフフィド結合) しています。
インスリンは血糖値を下げる方向 (低血糖) へ作用し、他のホルモンは血糖値を上げる方向 (高血糖) へ作用します。

7・5・2 グルカゴン

     図 グルカゴンの化学構造
グルカゴンはランゲルハンス島 α 細胞から分泌されます。
肝臓のグリコーゲン代謝は結局はグルカゴンと呼ばれるペプチドホルモンによって制御されます。
筋肉、その他の組織では、アドレナリンとノルアドレナリンで制御されます。

7・5・3 アドレナリンおよびノルアドレナリン

     図 アドレナリンとノルアドレナリンの化学構造
     図 アデニル酸シクラーゼの反応および性質と、cAMP の化学構造

アドレナリンおよびノルアドレナリンは闘争ホルモンあるいは逃走ホルモンとも呼ばれます。
ストレスに対応して、アドレナリンおよびノルアドレナリンが血中に分泌されます。
血中のアドレナリンは、肝細胞および筋細胞の表面に存在するアドレナリン β 受容体に結合します。
その結合に応答して、グルカゴンに対するグルカゴン受容体の場合と同様に、肝細胞および筋細胞内で、アデニル酸シクラーゼが活性化され、細胞内のサイクリックアデノシン 3',5'-一燐酸 (cAMP: サイクリック AMP) 濃度が増加します。
同時に、アドレナリンは膵臓ランゲルハンス島 α 細胞も刺激し、グルカゴンの放出を促進させ、肝細胞内の cAMP 濃度を上昇させます。
その結果、筋細胞内で、グリコーゲン分解が進みます。
生じた G6P は解糖系に入って ATP を生産し、アドレナリンを放出させたストレスに見合うエネルギを供給します。
供給されたエネルギは闘争あるいは逃走に利用されます。
同時に、肝臓は血中にぶどう糖を放出し、必要な闘争用あるいは逃走用の燃料を筋肉に供給します。

7・5・4 副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)


副腎皮質刺激ホルモンの略号は ACTH であり、コルチコトロピンあるいはアドレノコルチコトロピンとも呼ばれます。
     図 副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) の化学構造

ACTH は、視床下部ホルモンである副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) の作用を受け、下垂体前葉 ACTH 産生細胞で産生・分泌されます。
ACTH は、副腎皮質からのコルチゾール、副腎のアンドロゲンおよび少量のアルドステロンの分泌・産生を促進します。
ACTH は 39 個のアミノ酸からなるペプチドで、N 末端の 1-24 残基は各動物で共通であり、25-33 残基は動物種によって異なります。
ACTH の 15-18 残基は副腎皮質 ACTH 受容体との結合部位です。

7・5・5 ガストリン


ガストリンは消化管ホルモンの一種で、摂食が刺激となり、胃の幽門前庭部の上皮内に存在する G 細胞から放出されます。
G 細胞は、胃内の pH 上昇によって刺激され、ガストリンを分泌することに加えて、自律神経系による調節も受けています。
ガストリンは 17 個のアミノ酸からなるポリペプチドです。
     図 ガストリンの化学構造

ガストリンは胃の体部壁細胞に作用し、胃酸の分泌を刺激します。

7・5・6 セレクチン


セレクチンは消化管ホルモンの一種で、胃液の HCl による酸性化に呼応して十二指腸粘膜で合成・分泌されます。
セレクチンは 27 個のアミノ酸から成るポリペプチドです。
セレクチンは、膵臓による HCO3 の分泌を促進し、酸を中和する作用を示します。

7・5・7 コレシストキニン (CCK)


コレシストキニンの略号は CCK であり、パンクレオザイミンとも呼ばれます。
     図 コレシストキニン (CCK) の化学構造

CCK は、摂取した食物中の脂肪や脂肪酸などの刺激によって、十二指腸粘膜中の内分泌細胞から放出される消化管ホルモンの一種です。
CCK は、33 個のアミノ酸からなるポリペプチドです。
CCK は、胆嚢の収縮および膵臓の酵素分泌を促進する作用を持ちます。
CCK は、脳や末梢神経系にも存在します。
脳に存在する CCK は睡眠や食欲に関係すると云われています。

7・6. 血糖調節システムにおける肝臓の役割


血糖調節システム中で、肝臓は重要な役割を持っています。
肝臓の機能 (肝機能) が正常であるとき、絶食を数日間続けても、低血糖にはなりません。
肝臓は、血糖値が低下すると、その細胞内に蓄積しているグリコーゲンを加水分解し、生じたぶどう糖を血中に放出します。
人では、食事後のグリコーゲン量が最も多いとき、肝臓の細胞 (肝細胞) に含まれるグリコーゲン量は肝臓の重量 (1200-1400 g) の約 10% に達します。
したがって、肝臓の最大グリコーゲン量は 120-140 g であり、エネルギに換算すると、460-530 kcal です。
通常の生活において、肝臓に貯蔵されているグリコーゲン量は 75 g 程度で、約 300 kcal に対応します。 
心臓以外の臓器や組織は血中ぶどう糖をエネルギ源として利用します。
脳細胞はグリコーゲンをほとんど蓄積していないので、そのエネルギ源を血中ぶどう糖に完全に依存します。
低血糖が続くと、脳細胞は不可逆的に変性し、生命の維持が困難になります。
肝臓に貯蔵されているグリコーゲンが枯渇すると (飢餓状態で 4-5 時間経つと)、蛋白質の分解が起こり、生じたアミノ酸は肝臓へ運ばれ、そこで、ぶどう糖へ変換 (糖新生) され、血液中へ放出されます。
糖新生に最初に利用される蛋白質は主として筋肉蛋白質です。
飢餓状態では、脂肪酸もエネルギ源として利用されますが、脂肪酸は糖新生には利用されません。
ダイエットなどの目的で絶食を継続すると、消化器の筋肉が次第に減少し、程度を越えると、胃などが機能し難くなります。

7・7. 糖新生


脳、赤血球、副腎皮質ぴょび精巣はぶどう糖を唯一のエネルギ源として使用します。
空腹時には、脳は、肝臓に貯蔵されているグリコーゲンの分解によって生じるぶどう糖を利用しますが、肝臓のグリコーゲン貯蔵量は、脳の約半日分の活動に必要なグルコース量にしか過ぎません。
空腹時に、肝臓のグリコーゲン貯蔵量が底をつくと、糖以外の物質からぶどう糖を合成します。
このぶどう糖合成を糖新生と呼びます。
糖新生のほとんどは肝臓で、そして僅かな部分が腎臓で行われます。
蛋白質は 20 種のアミノ酸で形成されています。
20 種のアミノ酸中で、ロイシンおよびリシン以外の 18 種のアミノ酸は糖形成型アミノ酸と呼ばれます。
糖新生の基質になる主な物質は乳酸、ピルビン酸および糖形成型アミノ酸であり、これらはオキサロ酢酸を経て糖新生 (ぶどう糖合成)へ利用されます。
グリセロールも糖新生の基質になりますが、上記の物質とは別の経路でぶどう糖合成に利用されます。
筋肉には赤筋 (遅筋) と白筋 (速筋) があります。
赤筋は遅い筋収縮、そして白筋は早い筋収縮を司ります。
赤筋はミトコンドリアを持っていますが、その数は非常に僅かにしか過ぎません。
白筋は、多くの他の組織と異なり、ミトコンドリアを持たず、非常に嫌気的な (無酸素状態の) 組織であり、解糖系によって、ぶどう糖を乳酸へ分解しますが、乳酸を利用できず、また、糖新生の能力も持っていません。
     図 筋肉中で生じる乳酸と肝臓の糖新生の関係

白筋で筋収縮の際に生じた乳酸は血液循環によって肝臓に輸送され、そこで、糖新生によってぶどう糖に再生されます。
再生されたぶどう糖は血液循環によって白筋に戻され、そこでグリコーゲンとして貯蔵されます。
白筋中のグリコーゲンは必要に応じてぶどう糖へ分解されます。
白筋中で、ぶどう糖は解糖系によって乳酸へ分解され、その際に生じる ATP を用いて筋収縮が起こります。同時に、ATP は ADP と燐酸 (Pi)へ分解されます。
ちなみに、白筋内に生じた乳酸は筋肉細胞を酸性にし、その酸性のために疲労感が引き起こされます。
乳酸は疲労物質と呼ばれますが、乳酸自体が疲労感の原因ではありません。
糖新生には、脂肪酸は使用されません。
したがって、飢餓状態で、血糖値が低下すると、主として筋肉の蛋白質が分解され、生じたアミノ酸 (ロイシンとリシン以外) は血液循環によって肝臓に輸送され、そこで、糖新生によってぶどう糖に再生されます。
このように、肝臓と白筋は血液循環を介して代謝サイクルを形成します。
ちなみに、全身の骨格筋の重さは体重の約 1/2 であり、体重 50 kg の人では約 25 kg です。

7・8. ぶどう糖だけをエネルギ源にする組織


エネルギ源は組織によってかなり異なります。
脳、副腎髄質、精巣および赤血球は、ぶどう糖を唯一のエネルギ源とします。
心臓 (心筋) は脂肪酸だけを唯一のエネルギ源とします。
他の組織は、三大栄養素である糖質。脂肪、蛋白質の何れもエネルギ源にできます。
ぶどう糖の分解生成物は、脳では、二酸化炭素 (CO2)と水 (H2O)でが、脳以外の組織では、乳酸 (CH3CH2(OH)COOH) です。
生じた乳酸は肝臓へ送られ、そこで、糖新生によって、ぶどう糖へ作り替えられます。
脳は利用できるぶどう糖濃度 (血糖) が低下すると、他の組織に「ぶどう糖を至急に補充しなさい。」という指令を出すと考えられたことがありますが、そのような指令発信部位は脳中枢に見いだされていません。
ダイエットなどによって、急に血糖が低下すると、脳の指令によって、糖新生が起こります。
糖新生では、筋肉などの蛋白質の分解によって、ぶどう糖が生成されます。
無計画なダイエットが健康にとって危険である理由です。


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