マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2012.02.13
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カテゴリ: 健康
 怒り 

9階の「病室」に案内された私は、あることをきっかけに怒りがムラムラと湧き上がった。昼間病院の食堂で食べた「和定食」の内容があまりにも貧弱だったからでもないし、室内が汚れていたからでもない。怒りの対象は私をこの部屋に導いた看護師の態度だった。入院初日、翌日に早速手術を受ける患者の不安を全く考えていない彼女の姿勢。

その前に先ず驚いたのは、この「病室」にはロッカーがないことだった。着て来たジャンバーは仕方なく床に紙袋を敷いて、その上に載せた。洗面具や筆記用具は取り敢えずテレビの台のすき間に入れた。財布は小さな引き出しにしまい、鍵をかけた。持参した果物はテレビ台の下の狭い空間に無理して突っ込んだ。だが脱いだズボン、シャツ、帽子、マフラーを置く場所がない。仕方なくスポーツバッグの中に押し込んだ。

そこまではまだ我慢が出来た。だがW看護師の言葉遣いに私は思わずかっとなった。年長者に対するものではなく、まるで認知症の老人に対するような口ぶり。確かに彼女は看護師と言うプロで、毎日大勢の患者を相手にしている。今日入院して来た爺さんはパートの警備員。そんな態度が言葉の端々に見え隠れしていた。だが、同室のもう1人の入院患者に対する言葉遣いは、まるで違うのだ。

渡された資料は今後の治療計画や予定表など厖大なもの。中には6ページにも及ぶ「問診票」もあった。これがまた面倒な項目が多い。子供の住まいや自分の宗教などが本当に必要な情報なのか。それに外来時に記入した項目を、再度書かされる。W看護師は入院当日、つまりこの日の予定を矢継ぎ早に説明した。それは良いのだが、患者としては何を優先させたら良いのかが分からない。

何とか書き終えて血圧測定した時には最高血圧が160、最低血圧が120ほどに上がっていた。「ずいぶん高いですね」彼女が言う。「そうだね、相当頭に来たからね」私は開き直って答えた。翌日の手術に備えて入浴しておく必要があるのだが、その時間が迫っている。「入院案内」の持参品には、「洗面具」とはあったが、せっけんやシャンプーのことは書かれてなかった。仕方なくお湯を被り、タオルでゴシゴシ擦った。

狭い浴室には、老人の患者と若い看護師もいた。自分では洗えない人を手伝っていたのだと思う。手術を終えた患者の腕には紫色のあざ。血管に注射した際の失敗だと、その人が言う。W看護師の態度が少し変わったのは、私が入浴から戻って以降。私は問診票の「どんな診療を望むか」の項目に、「誠実で謙虚な医療」と書いた。また「前職」の欄には、41年間勤めた仕事と地位を書いた。きっとそれを読んだのだと思う。

尋ねられた「病院への希望」に対しては、「良心に基づいた医療を望む」と答えた。まさか見栄えのしない爺さんから、そのような答えが返って来るとは思ってもみなかったのだろう。プロが自分の職業や地位に誇りを持つのは良い。ただ、どんな人にも同じように誇りがあることを、狭い世界に住んでいると気づかなくなるのだ。<続く>





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Last updated  2012.02.13 15:48:38
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