マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2018.06.06
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~心惹かれる島々~


                <奄美の風景>

 あれは何年か前の大河ドラマだったが、突然聞きなれない調が流れた。独特の曲と発声。まるで魂の叫びのような初めて聞く響き。どうやら奄美の女性が歌っているようだ。今年の大河ドラマでも再び奄美の歌声を聞いた。以前と違った声だが歌い方は同じ。奄美では民謡歌手を唄者(うたしゃ)と呼ぶらしい。哀切に充ちた唄者の声が愛加那の西郷への想いと重なって、南島の郷愁を蘇らせた。


   <斎場御嶽(せいふぁうたき)から久高島(平坦で見え難い)を遥拝する>

 YouTubeで偶然イザイホーの動画を見た。上下で1時間40分ほどの作品。撮影場所はは沖縄本島東南部の沖合5kmにある久高(くだか)島で、南城市の所属。私が沖縄に勤務していた時は、知念村に属していた。ここは神の島と呼ばれ、琉球王朝時代から神聖な島。男は海人(うみんちゅ)として貿易船の水夫となり、留守を守る女は神人(かみんちゅ)となって神行事を司った歴史がある。



 イザイホーは12年に1度、午年の11月15日から5日間行われる神行事で、30歳以上の島の女性が神職に就くための儀式だ。久高祝女(くだかノロ)、外間(ほかま)祝女を頂点とする神職は普通の主婦で、5種ほどの歴然とした職階があり、男も一部役割がある。これが琉球王朝時代から500年以上継承されている。まさに卑弥呼時代を彷彿とさせる神行事だが、高齢化により役職者が欠落し、1978年(昭和53年)を最後に途絶えた。



 私が沖縄に赴任したのが平成元年、翌年がイザイホーの年だったが不成立。資料を読んで興味を持ったが、実際の姿を見ることは出来なかった。初めてその姿を見たのは3年後。大阪の国立民族学博物館のビデオテークで14分ほどに編集された画像を観た。雰囲気は分かったが実態は不明。そしてそのまま20年が経過した。今回その実態を、映画会社が制作した記録でようやく知ることが出来た。


        <フボー御嶽の入口。ここより先は祝女しか入れない>

 久高島が神の島と呼ばれる理由は、沖縄人の祖先であるアマミキユ、シネリキユの男女神がこの島に漂着したこと、及び五穀の種がイシキ浜に漂着したことによる。どちらも沖縄の神話だ。祖先神は恐らく海人族で、九州南部から島を伝って来たのだろう。そして種は水と地味の乏しいこの島では育たず、対岸の海岸の小さな田、受水走水(うきんじゅ・はいんじゅ)で育ち、そこから島内に広がったとされている。



 イザイホーに初参加の女性ナンチュたちは、祭に先立って決められた泉で斎戒沐浴する。そして5日間祭に出て、神職の資格を問われる。祈る場所は外間殿、久高殿だが、フボー御嶽(うたき)など島内7つの聖なる場所に連日お参りする。そこはクバが茂るだけで何もない御嶽。まさに日本の原始神道の姿そのものだが、祝女以外の立ち入りは許されていない。また島内の一木一石も持ち出し禁止とされている。



 それが島の掟。畑も共用で、使用する畝は順番に交代する。狭く貧しい島では、原始共産制が最も公平な生活の仕組みだったのだろう。さて、男たちの長い航海の間、女たちは留守を守る。その間、貞操の保持のためにも神行事を頻繁に行った由。不貞を働いた女は恐怖のために地上に置かれた梯子すら渡れず、神職に就くことが許されなかった。古代日本の祭祀同様、沖縄の女は男の守り神だったのだ。



 ここは知念半島にある斎場御嶽(せいふぁうたき)。琉球王朝随一の霊場で、神職の最高位である聞得大君(きこえおおぎみ=王の姉妹)がここで王の代わりに祈った。琉球を征服した薩摩藩によって、久高島での神行事が禁止されたためだ。三角岩の向こう側にある通し御嶽(とおしうたき=上から2番目の写真)から、5km先の久高島を遥拝した。琉球開闢の地に行けない無念さは、推して知るべしだ。


           <宮古島=手前と池間島=前方を繋ぐ池間大橋>

 あれは10年ほど前のこと。私は「宮古島ワイドーマラソン」(100km)に出た。コースであるこの池間大橋も走って往復した。橋の上は北風が強く、吹き飛ばされるような勢い。それでも私は宮古島の民謡「なり山あやぐ」を口ずさんだ。先日YouTubeで歌詞の正確な意味を知って驚いた。そこには島の女の悲しみが潜んでいた。昔から奄美や沖縄の女は、絶えず祈り続けていたのだ。



 沖縄勤務を解かれて早や27年。その後20回は沖縄の島々を訪れ、色んな箇所を走った。4年かけて沖縄本島を一人で走ったこともあった。懐かしい集落。懐かしい風景。懐かしい文化と歴史。恐らく死ぬまで忘れることはないだろう。いずれまた城(ぐすく)巡りをしたいものだ。たった1度だけ訪ねた久高島。白猫が港まで導いてくれたあの不思議な島は、私にとって幻の神の島だったのだろうか。

 今日は短歌の会ですが、前夜の宿泊先から直接会場へ向かう予定です。コメントへの返事や訪問の遅れはお許しくださいね。では。





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Last updated  2018.06.06 00:00:06
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