おばあさんは春樹の決意を聞き、驚いた表情を見せたが、やがて目を細め、嬉しそうに微笑んだ。「春樹君…その気持ち、本当に嬉しいよ。ずっと店を守ってきた甲斐があったと思えるわ。けれど、『梅屋』を継ぐということは、ただ大福を作るだけではないんだよ。季節ごとの味、町の人々との付き合い、どれもがこの店を支えてきた大事なものなの。大変なこともあるけれど、本当にやりたいと思っているなら、私は全力で応援するよ。」

春樹はおばあさんの言葉を真剣に受け止め、さらなる覚悟を決めた。大福を作り、町の人たちを笑顔にするだけでなく、この店を町の一部として守り続ける役割を引き受ける。それが自分に課された責任であり、誇りとなる道だと感じたのだ。

それからの春樹は、さらに熱心に修行に励み、季節の変化や町の行事に合わせた新しい大福のアイデアも積極的に提案していくようになった。冬には柚子の香りを生かした温かみのある「冬の贈り物大福」、春には桜の香りが漂う「桜の舞大福」、夏には冷たい餡を使った涼やかな「夏涼み大福」など、四季折々の風情を感じられる大福を次々と生み出した。

そしてある日、「梅屋」で春樹が新作を準備していると、店に一人の見知らぬ若い女性が訪れた。彼女は東京から帰省してきたという幼馴染の絵美だった。久しぶりに再会した彼女は、都会での生活が忙しく、時折故郷が恋しくなることがあると話した。「春樹が大福を作っていると聞いて、どうしても食べたくて来ちゃった」と微笑んで言う絵美に、春樹は自分が作った最新作の「柿の香り大福」を手渡した。

絵美が一口食べると、表情がほころび「これだ…これが、故郷の味。優しい甘さが心に染みるわ」と感動してくれた。その言葉に春樹は改めて、自分の作る大福が町の人々にとって、心の支えや故郷の象徴になっているのだと実感し、自分の選んだ道が間違っていないと確信を得た。

それからも春樹は、町の人々との交流を深めながら「梅屋」を守り続け、いつしか「梅屋の若大将」として愛されるようになった。季節ごとの大福は町の風物詩となり、町の行事や祝い事には春樹の大福が欠かせない存在になっていった。

そして、おばあさんはある日、静かに春樹に言った。「春樹君、私の役目はここまでだよ。これからは君が『梅屋』を守っていくんだ。きっと大丈夫、君の作る大福には、心が込められているから。」おばあさんはそっと微笑み、店を託す決意をした。

その日、春樹は店の暖簾を揺らし、静かに新しい看板を掲げた。「和菓子処梅屋 — 春樹の贈り物」。新しい一歩を踏み出した春樹の顔には、決意と誇りが宿っていた。

こうして春樹は、大福を通じて町の人々を支え、笑顔を届け続ける道を歩み始めた。春樹が心を込めて作る大福は、いつまでもこの町に愛され、故郷の味として受け継がれていくことだろう。そして、春樹もまた、自分の生きる道を確かに見つけ、故郷と共に歩む一人の職人として成長し続けるのであった。