2009/11/20
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カテゴリ: ワインプローベ
ゴー・ミヨ


1. 大山鳴動して鼠一匹


4ヶ月ほど前にワインガイドの制作費協力依頼に反発、同ガイドでもトップクラスにランクされている14醸造所がサンプルボトル提供と掲載拒否を宣言し、これを受けて編集主幹の一人アーミン・ディールが辞任して話題になったことは記憶に新しい。


さて、反旗を翻した醸造所の扱いはどうなったかといえば、まるで何事もなかったかのように掲載されていた。ベルヒャー、デンホフ、ルドルフ・フュルスト、グンダーロッホ、Dr.ヘーガー、ヘイマン・レーヴェンシュタイン、ケーラー・ループレヒト、ヨゼフ・ライツ、ヨーナー、クニプサー、キュンストラー、マイヤー・ネケル、エゴン・ミュラー、ゼーガーはもとより、声明に同調したヨハン・ルック、テッシ、グッツラー、スティグラー、ハーンミューレ、ヴィルヘルムスホーフ、K.F.グレーベなども昨年と同様の扱いであった。


大山鳴動して鼠一匹。一体あの騒ぎは何だったのかと思いたくなる。
ドイツのワインブログ Würz-Wein でアーミン・ディールとジョエル・ペインのインタビューの動画を見ることができるが、それによればディールが辞任した後編集主幹を一人で引き受けることになったペインは、意見書に署名した醸造所の大半を訪問してまわったそうだ。その結果3分の1前後の生産者はサンプル提出に同意し、あとの醸造所も訪問の際におおっぴらにではないがサンプルを渡してくれた。2,3の醸造所だけはやむなく市場に出回っているワインを購入して評価を行ったという。訪問したいずれの生産者も友好的で、ガイドブックの存続を希望し、「ほんとはみんな、あなたの本で良い評価を期待しているんですよ」と言ってくれた醸造家もいたそうだ。


雨降って地固まる、といったところか。
エチケットの大半はカラーになり、産地の風景写真が要所要所に入り、4つ房以上のトップヴィンツァーはポートレートも追加された。今後の動向が注目される醸造所の房は赤で表示され、醸造所解説に段落見出しが加わり、各醸造所の試飲ワインの本数と最高点とともに最低点が記載され、仕上がりのばらつきの有無も一目でわかるなど、様々な改善が行われ読みやすくなった。



2. 醸造所とワインの評価 雑感


ワインと醸造所の評価については、それを受け入れるかどうかは読み手の判断に任されるとして、大筋で了解しうるし、一応の参考にしてよいと思う。以下に2010年版の受賞醸造所・ワインを挙げる。

醸造家大賞  ティム・フレーリヒ (Weingut Schaefer-Freohlich/Nahe)

コレクション大賞 ベッティーナ・ビュルクリン・フォン・グラッツエ、フリッツ・クノル(Weingut Dr. Buerlkin-Wolf/Pfalz)

向上醸造家大賞 ヨハネス・フライヘア・フォン・グライヒェンシュタイン(Weingut Freiherr von Gleichenstein/Baden)

新発見醸造家大賞 エヴァ・フォルマー(Weingut Eva Vollmer/Rheinhessen)

ソムリエ大賞 メラニー・ヴァグナー(Restaurant Schwarzer Adler/Oberbergen)

ワインリスト大賞 ガビ&ハンス・シュテファン・シュタインホイアー(Restaurant Alte Post/Heppingen)


Bester Winzersekt Brut
2004 Pinot Noir & Chardonnay Cuvee MO Brut Nature (Diel/Nahe)

Bester Spaetburgunder
2007 Pinot Noir (Friedrich Becker/Pfalz)

Bester Weisser Burgunder
2008 Im Sonnenschein Weisser Burgunder Grosses Gewaechs (Rebholz/Pfalz)

Bester trockener Riesling
2008 Forster Kirchenstueck GC (Dr. Buerklin-Wolf/Pfalz)

Bester feinherber Riesling
2008 Wiltinger Gottesfuss Alte Reben (Van Volxem/Saar)

Bester Riesling Kabinett
2008 Wehlener Sonenuhr (Joh. Jos. Pruem/Mosel)

Bester Riesling Spaetlese
2008 Bockenauer Felseneck Goldkapsel (Schaefer-Froehlich/Nahe)

Bester Riesling Auslese
2008 Scharzhofberger Auslese -10- (Egon Mueller/Saar)

Bester Riesling Edelsuess
2008 Monzinger Harlenberg Riesling Eiswein Goldkapsel (Emrich-Schoenleber/Nahe)

・ゼクト

夏の騒動で編集主幹を辞任したアーミン・ディールはナーエの醸造所シュロスグート・ディールのオーナーでもあるが、彼の醸造所のゼクトがいきなりゼクト大賞に選ばれているのは、後を引き受けたペインからのはなむけのようだ。また、昨年まで評価なしだったシュロスグート・ディールは4つ房にランクインしている。個人的には3房と4房の間くらいかな、という気がする。

・ブルグンダー

シュペートブルグンダーのフリードリヒ・ベッカーはここ数年不動の地位。レープホルツのヴァイスブルグンダーは試飲しているはずだが、あまり印象に残っていない。94点のレープホルツより93点のベルヒャーのFeuerberg Grauer Burgunder Grosses Gewaechsの方が強い印象を残している。


・ファインヘルブとファンフォルクセン

ベスト・リースリング辛口のForster Kirchenstueckは同感。やっぱりね、と思う反面、ベスト10にヴィットマンが入っていないのは不思議。ベストファインヘルブはファン・フォルクセンのヴィルティンガー・ゴッテスフース、アルテ・レーベンだが、ファン・フォルクセンはこのカテゴリーのトップ10に4本ランクインしている(Wiltinger Gottesfuess Alte Reben, Kanzemer ALtenberg Alte Reben, Scharzhofberger Pergentsknopp, Wiltinger Volz)。

新酒試飲会でも2008のファン・フォルクセンは確かに繊細な仕上がりでクリーンで、畑の個性もそこそこに出ており欠点もみあたらなかった。成功した生産年とは思ったが、反面整いすぎて何かが欠けている気がした。香味だけではなく、ワインから伝わる何か-驚き、感動、背筋がぞくぞくするような、何か起こりそうな期待感-がそこには無かった。栽培・醸造技術的にはファン・フォルクセンのワインはほぼ完成の域に達したと言って良いだろう。それは新酒試飲会-満員の会場で人混みにもまれながら、ほんの一口ぶんだけ注がれたワインを口に含むだけでも感じられた。同時に、そのワインが本領を発揮するのは当分先だろうということも明らかだった。小さなバラの蕾を愛でているような気がして、いつか大輪の花を咲かせたときの様子を見たいものだと思った。


・甘口評価は著名醸造所偏向か

ちなみにベストファインヘルブの1位、2位はファン・フォルクセンで、3位はフォン・シューベルトのアプツベルク・スペリオールがつけている。フォン・シューベルトは高貴な甘口部門でアイスヴァインがトップ10に入っている。私も試飲しているはずなのだが、あまり印象に残っていない。端麗でエレガントで、シューベルトらしくニュアンスに富んだワインだったとおぼろげながら記憶している。

ベストカビネットのJoh.Jos.プリュムは無難な選択。マルクス・モリトール、ヴィリ・シェーファーも当たり前すぎるし、醸造所名で選んでいるようにも見える。「軽く、生き生きとして、さっぱりとしつつ、それでいて凝縮感があり余韻を残す」のが良いカビネットの条件というけれど、特に2008年のような生産年には選択の幅はかなり広かったはず。

この他、シュペートレーゼ、アウスレーゼと続くが、モーゼルのリースリングが多い。高貴な甘口ではラインガウのヴァイルとシュロス・ヨハニスベルク健闘が目立つ(Kiedricher Graefenberg TBA (Weil), Kiedricher Turmberg TBA (Weil), Johannisberger Eiswein Blaulack, Kiedricher Graefenberg BA Goldkapsel (Weil)。ここでもどうも、知名度の高い醸造所を優先しているような気がする。


・新酒と飲み頃とワインの評価

ラインガウといえば、栗山朋子さんがケラーマイスターを勤める アルテンキルヒ醸造所 が二つ房に昇格した。ということは、ドームデヒャント・ヴェルナー、トーニィ・ヨースト、フォン・ジンメルン、フュルスト・レーヴェンシュタイン、オッテスなどと同格である。たいしたものだ。

だが、2008年産をリリースまもなくに飲んだ時、あれ、と肩すかしを食らったような気がして正直、心配になった。Steillage Riesling trockenはほっそりとして軽くやや酸が鋭く、feinherbは甘酸のバランスがやや不自然に分離して感じられ、難しい年だったのかな、と思った。Grauschieferは酸が物足りなくアフタがあっさりとして、Quarzschiefer feinherbでようやく甘酸のバランスと力強さを感じるものの、昨年試飲したワインに比べて土臭さが足りなかった。

彼女の初年度2007は衝撃的だった。個性的でテロワールの特徴が素直に表現されて、コルクを抜き、一口目を味わう度に背筋がゾクゾクするほどだった。それなのに、2008は甘みで欠点をカバーしようとしているかにも思われた。それ以上試飲を続けるのが怖くて、他のワインはしばらく寝かせておくことにした。

9月末にLorcher Bodental Steinberg, Riesling trockenを抜栓。ミネラル感たっぷり、繊細で綺麗な酸味、上品。しかし、あっさりしてやや物足りない。こんなものなのかな...それとも、谷の時期に開けてしまったのか。それで、再び試飲を止め、しばらく待ってみることにした。

11月12日、Lorcher Krone Riesling trocken抜栓。フレッシュ、繊細で切れ味のある酸味、丸く深みのあるたっぷりとしたボディ、ほのかに赤く固い桃のヒント、長いアフタに軽くピリピリとするペパリ-な刺激。ようやく片鱗をみせはじめたようだ。11月19日、Lorcher Schlossberg, Riesling trocken。力強くスパイシー、厚みのあるボディに明瞭な酸味のアクセント、スグリ、ライム、スターフルーツ、肌理の細かいミネラル感、長く続く余韻。他のどこにもない、個性的な味のリースリング辛口でとても楽しめる。テロワールをストレートに表現した感じがして、そこが良い。それでいて様々な要素のバランスがとれている。ようやく期待に応えてくれた気がした。

ゴー・ミヨの評では2008は2007を上回るものもあるという。
2009の仕上がりが楽しみだが、飲むのはやはり、11月以降にしよう。それまで多分待てないだろうけれど(苦笑)。


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などと色々思い出しながらワインをすすりつつゴー・ミヨのドイツワインガイドのページをめくるのは、はやはり楽しい。ドイツワイン好きなら一冊手元においておいて損はない本です。


Joel B. Payne, Gault Millau WeinGuide Deutschland 2010, Christian Verlag 2009. 29.95Euro






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Last updated  2009/11/21 09:21:36 AM
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李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002 @ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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