2013/12/03
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トリーアで学生をしていた一昨年までと同じで、相変わらずお金も時間もない。困ったものである。とはいえ、ワインは飲まないと書けないので、たまに声をかけて頂ければ出かけて行き、ほろ酔い気分で帰ってきてから見聞きしたことを、こうしてブログに書いたりしている。

考えてみたら、トリーアにいた頃とやっていることはほとんど変わっていない。
「今度醸造所行くけど、来る?」という友人の誘いに、博論に集中するかついて行くか、しばし頭を悩ませたものだ。行った後は気前よく試飲させてくれた醸造所に、せめてもの罪滅ぼしにとホームページかブログに訪問記を書いたりしていた。本当に罪滅ぼしになっているのかどうかも定かでは無いのだが、少なくとも私の気休めにはなった。そうやって10年以上ドイツに居座っていたわけだなのだが。



イヴェント会場への入り口には長蛇の列が出来ていた。


さて、それはともかく、今回お誘い頂いたイヴェントはピーロート・ジャパンの「レディス&ジェントルマン ワインメーカーズ・ディナー」。フランスを中心に世界各国から28人の生産者が来日、30醸造所のワイン178種類を東京と大阪の2会場で4日間にわたりプレゼンテーションする大イヴェントだ。夜7時前、青山一丁目のカナダ大使館の地下にある「青山ロビンスクラブ」に降りる階段はすでに長蛇の列が出来ていた。受付の脇にはミス・ブライダル2013に選ばれたという女性がピーロートのロゴの並ぶ看板の前に立って笑顔を振りまき、会場入り口には容姿端麗な男女がならんで訪問者を出迎え、赤い絨毯のしかれた通路を撮影用のライトが煌々と照らし、インタヴュー用のお立ち台まで用意されていた。まるでどこかのフィルムフェスティバルを思わせる。



会場入り口で参加者を出迎える人々。


こんな華やかなワインイヴェントは、一昨年3月のヴィースバーデンのVDP主催の舞踏会以来だ。もっとも、あちらでは生産者は訪問者と一緒になってディスコで夜通し踊っていたが、こちらではスターのような扱いだ。ディナーのテーブルにはそれぞれひとりずつ生産者が座り、参加者は彼らと身近に会話を楽しむことが出来る。ざっと見たところテーブルごとに8人前後着席していたので、参加者は約240名前後だろうか。まもなく始まった開会挨拶で、お立ち台に登った生産者がひとりずつ紹介される度に、会場のあちこちから拍手と声援があがった。シャンパーニュ2004 Champagne Boizel Grand Vintageの乾杯でディナーが始まり、手際よく料理が運ばれ、生バンドの演奏が流れる中をチャリティ抽選会のチケット売りが訪れ、キャロライン・ケネディ大使御用達というブランドCH Carolina Herreraの新作を纏ったモデル達が、会場のどこかでファッションショーをしているらしかった。私は日常との落差にめまいを感じた。




ラヴァンチュール(カリフォルニア)の生産者、ステファン・アッセオ氏。


私のテーブルに同席した生産者はカリフォルニア南部はパソロブレスの醸造所ラヴァンチュールL´Aventureのオーナー、ステファン・アッセオ氏Stephan Asseoだった。長髪にラフなシャツを着て、右手首には入れ墨が見えた。聞けば、フランス領ポリネシアで魚釣りして暮らしていた時に入れたものだという。「ここにはもっと大きいタトゥーが入っているんだ」とシャツに隠れた左腕上腕部をさすった。

アッセオ氏はフランス出身の54歳。カリフォルニアに移住してから今年で15年になる。ブルゴーニュで栽培醸造を学んだ後、1982年にボルドー右岸のサンテミリオン近郊にDomaine de Courteillacを購入しワイン造りを始めた。今から31年前ということは、彼が23歳の時には既に醸造所のオーナーだったことになる。やがてサンテミリオンにChateau RobinとChateau Fleur Cardinaleの二つの醸造所を購入し、その評判が良かったのでChateau Guillot Clauzel (Pomrol)やChateau Corbin(St. Emillion)の面倒も見ていたというから、地元では腕利きとして一目置かれる存在だったらしい。

つまり、アッセオ氏は醸造家としてかなり成功していたのだ。にもかかわらず、ボルドーのシャトーを売り払ってカリフォルニアに移住し、ワイナリーを起こした。「レバノンや南アフリカなど、色々なワイン産地に行って様々なスタイルを経験してから、造りたいワインのイメージが湧いたんだよ。でもそれはフランスでは実現不可能だった。アペラシオンの規制が邪魔だったんだ。生産地域によって栽培可能な葡萄品種が決まっていて、その産地のスタイルにあわせたワインを造らなくちゃいけない。そんな決まりで縛られたくなかったんだ」という。
そして1996年から1997年の2年間、理想のワインを世界のどこで造るか探し回っていたそうだ。南アフリカへも行った。海の近くは暑すぎ、標高の高い冷涼な地域ではソーヴィニヨン・ブランなど品種によっては素晴らしいワインが出来る、テロワールは悪くないと思ったが、政治的状況が不安だったので止めたという。フランスのワイン造りの影響が強く、品質とコストパフォーマンスで成功を収めているチリにも行ったが、滞在して数日後奥さんがアッセオ氏に言ったそうだ。「いつまでここにいるつもりなの?」と。

そして次に訪れたのがカリフォルニアだった。まずナパに行ったが、斜面は良いが谷間の土地は肥えすぎていて、葡萄栽培には向いていないと感じたそうだ。そして見込みのありそうな畑は非常に高価だった。あちこち見て回るうちに、南部のパソ・ロブレスの海に近い丘陵地帯で「ここだ」と感じたのだそうだ。「テロワールは『魔法の場所(マジック・プレイス)』なんだ」と、アッセオ氏が言うとき、その目に心なしか強い光が宿った気がした。

そこはパソ・ロブレス東部の海に近い斜面で、大昔には海の底だった場所である。海洋生物の骨や貝殻だったケイ酸質や炭酸カルシウムを含む土壌に、葡萄樹は「まるで血管を伸ばすように」根を地下深くまで張るのだという。地中海性気候で昼間30℃を超える熱気は夜には海風に冷やされて5℃前後まで下がる。様々な向きの斜面の51haあまりの葡萄畑にはカベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドといったボルドー品種と、シラー、グルナッシュといったローヌ系品種が栽培されている。ローヌの包み込むような懐の広さとボルドーの深遠な力強さを兼ね備えたワインが、彼の造りたかったワインのようだ。

同じテーブルに座る我々に気さくに語っていたアッセオ氏は、語りながらワインのボトルをクーラーから取り出し、手のひらで温度を確かめながらボトルの上下を何度もひっくり返していた。用意してあったのは2011Cote a Cote, 2011 Optimus, 2011 Estate Cuveeの3種類で、いずれも赤ワインだったのだが、何本かをディナーが始まる前にアッセオ氏は白ワインと一緒にクーラーに入れて、時々触っては温度をみていた。その時見せた表情は、恐らく樽の中のワインに向き合う時と同じ醸造家の表情だった。


アッセオ氏と彼の冒険の成果。


個人的にはオプティムスとコート・ア・コートは似ていると感じた。どちらも口中で素直に広がり、軽やかでほのかにベリーの甘みがあり、親しみやすくエレガントで心地よい。口の中で果実味が翼を広げ、大空を滑空するような感じがした。前者はシラー50%、カベルネ・ソーヴィニヨン33%、プティ・ヴェルド17%で後者はシラー40%、ムールヴェドル38%、グルナッシュ22%。ラヴァンチュールのカリフォルニアらしい開放感と気さくさは、力強くむっつりとしたカベルネ主体のボルドーと比較すると一層際立つ。

それに対してエステート・キュベは、渾身の一作であることを口に含んだ瞬間に感じさせる。力強さと濃厚さがあり、熟成のポテンシャルを示しつつも今飲んで十分に美味しい。凝縮感のあるブラックベリー、カシス、カカオなどのヒント。口の中の中央で柔らかく繊細な丸い味の塊が、トリュフチョコのように溶けていく感じ。シラー48%、カベルネ・ソーヴィニヨン28%、プティ・ヴェルド24%。

どれも良いワインだった。ラヴァンチュールは英語のザ・アドヴェンチャーで、ボルドーを離れて新世界に乗り出した冒険から生まれたワインという意味だそうだ。「でも、アヴァンチュールといえば『恋の火遊び』という意味もありませんか」と聞くと、あれ、わからなかったの、という顔をした。たぶんヨーロッパ系の人には一目瞭然なので、あえて説明しなかったのかもしれない。

ブルゴーニュ、ボルドー、カリフォルニア以外にパリ、フランス領ポリネシアに住んでいたことがあるアッセオ氏は、いずれ引退したらスペインで暮らしたいのだという。既にバルセロナの近郊カタロニアの小さな村に住居と葡萄畑を買ってある。「死ぬ時はそこで死ぬ。もう決めてあるんだ」と言う。小さな葡萄畑は自家用かと思ったら「いや、それでちょっとお金も儲けるつもり」と笑った。

(つづく)





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Last updated  2013/12/04 01:20:38 AM
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Comments

李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002 @ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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