2016/07/09
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カテゴリ: 試飲会
 今年再開されたドイツワインインスティトゥートの日本支部であるワインズ・オブ・ジャーマニー・ジャパンが去る6月中旬、東京・白金台の八芳園でドイツワインセミナーを開催した。

 テーマは「New German Wine Stories-新しいドイツワインの物語が始まる」。ドイツ人でソムリエの経験が長いロマナ・エヒェンスペルガーMWと、日本から酒販業界に通じた大橋健一MWが2時間にわたり交互に語った。二人は2015年にMW(マスター・オブ・ワイン)の資格を獲得した同期でもある。


セミナーを担当した大橋健一MWとロマナ・エヒェンスペルガーMW。


テーマ1・辛口ワインの生産国としてのドイツ

 まずロマナさんがドイツワインの概要について語った。
 13の生産地域があり、そこには異なる土壌・品種・ワインのスタイルがあり、多様性に富んでいる。ドイツワインというとリースリングが代表的だが、バーデンではリースリングの栽培面積は少なく、ピノ・ノワール、ピノ・グリなどのピノ系品種が多い。特にドイツのピノ・ノワールは近年世界的に評価が高まっているが、その一方でドルンフェルダーのような量産型で日常用の赤もある。

 ドイツ国内に住んでいると気がつかないが、国際的にはドイツワインは甘口のイメージが根強い。しかし実際にはドイツで生産されるワインの大半が辛口・中辛口である。
 その代表例としてロマナさんはジルヴァーナーを挙げた。
 主にフランケンとラインヘッセンで栽培されているが、特にフランケンの大陸性気候の夏の暑さが、酸味を穏やかにして調和のとれた味わいにしている。また、近年は果粒の間隔が広く小振りな房の低収量で高品質なクローンが普及し、50~60年代に流行った量産型のクローンにとってかわりつつある。さらに80年代まではステンレスタンクで低温発酵といった人為的な醸造が主流だったが、現在は伝統的な木樽や卵型コンクリートタンクなど、実験的な醸造も行われている。このように、ジルヴァーナーは現在のドイツの辛口白のトレンドを象徴している。

 ジルヴァーナーの他にはピノ・ブランも辛口白の代表品種だが、これも気軽に飲むタイプからバリック樽で熟した凝縮感のあるものまで様々なスタイルがあり、状況に応じて使い分けることが出来る。ピノ・ブランについて大橋氏は、日本ではとくに国際的な比較を理解することが大切と指摘した。アルザスやマコンなどフランスのワインはテロワールを明確化して個性を表現しようという意図を感じさせることが多い。それに比べるとドイツの生産者は、そうしてフランス的な個性を真似しようとしているような面が感じられる。またバーデンは大陸性の気候もあり、酸が穏やかなイメージがある。

試飲:
1. 2014 Nordheimer Vögelein Silvaner Kabinett trocken, Divino Nordheim (Franken)
2. 2012 Bienenberg Weissburgunder GG VDP.Grosse Lage, Weingut Huber (Baden)

リースリングを気まぐれな女王とすればジルヴァーナーはひかえめな性格なので、ロマナさんもマルクス・デル・モネゴMWも、ジルヴァーナーは魚介類にあわせやすい品種という意見で一致しているそうだ。最初は大人しいが口の中で膨らみ、余韻にグリーンな香草とスパイシーな粒子感が残る。

様々なスタイルのあるピノ・ブランのなかでもこのフーバーのピノ・ブランは樽香が軽く効いて凝縮してエレガントな味わい。熟した柑橘がアロマティックでありつつ、中心に向かって収斂していく。ほっそりとして非常に長い余韻。絶妙な樽香のアクセント。



ロマナ・エヒェンスペルガーMWはドイツ本国のドイツワインインスティトゥートでもセミナーを担当している。


テーマ2・オーガニック・ムーヴメント

 次にロマナさんがドイツのビオ事情について説明した。現在ドイツの有機農法で栽培されている葡萄畑は全体の約8%を占め、世界的なトレンドと同様に上昇傾向にある。昔はビオといえばヒッピーのような、反体制派の文化と同一視されていたが、現在は高品質なワインの生産者がビオに取り組むというイメージがある。EUのビオ認証とともに、主な認証団体だけで4つある(Ecovin, Bioland, Demeter, Naturland)。

 ビオはモーゼルのような急斜面の狭い葡萄畑よりもラインヘッセン、ファルツといった開けた土地の方が容易で普及率も高いが、南仏に比べるとドイツは葡萄樹の成長期である夏に雨が降るため、有機農法は難しくコストのかかる手法であるといえる。

 ビオによる葡萄栽培が増えているもうひとつの原因が温暖化の影響で、近年は豪雨と渇水が交互に訪れるなど、その差が極端になっている。そのため土壌が健康であることが葡萄栽培の前提条件であることが、次第に認識されるようになってきた。また、農薬には葡萄樹の体内に浸透して作用するものがあるが、これは光合成と糖分の生成にも影響し、糖分の合成を促進する傾向がある。有機農法で栽培した葡萄は糖度が低めに、酸度が高めの状態で完熟するので、醸造段階での雑菌の繁殖を抑制出来て亜硫酸の使用量も低くてすむ。また、辛口に仕立ててもアルコール濃度も低めに留まり、同時に酸と糖とのバランスがとれる。ビオの普及には様々な要因があり、ワインのスタイルにも影響を与えている。

試飲:
3. 2014 Niersteiner Riesling trocken, VDP.Ortswein, Weingut Kühling Gillot (Rheinhessen)
4. 2012 Riesling Buntsandstein, Weingut Odinstal (Pfalz)

3. はラインヘッセンの赤土の葡萄畑。繊細で華やか、カモミールなどハーブの香り、スパイシーな余韻。なだらかな丘陵地帯が多い産地だが、ローター・ハングのような急斜面もある。
4. はファルツの標高の高い畑のリースリング。桃などの石果のヒント、奥行きのある味わい。熟した繊細なグレープフルーツ、ヘーゼルナッツのヒント、懐の深さ。熟成を経てストラクチャがしっかりしてきた。


テーマ3・ピノ・ノワール

 次にピノ・ノワールについて「ゼロからヒーローになった」品種とロマナさん。栽培面積は60年代の約2000haから現在は約12000haまで広がったが、その背景には気候変動にともなう温暖化とともに、葡萄栽培技術と醸造技術の向上も影響しているという。また大橋さんはドイツのピノ・ノワールはこれから日本で非常に注目されることになるだろうと予測。昨年あたりからイギリスのMWの同僚達が夢中になっており、日本の酒販関係者は注目した方が良いと指摘した。

試飲:
5. 2013 Pinot Noir trocken "Crescentia", Hessische Staatsweingüter Kloster Eberbach (Rheingau)
6. 2012 Pinot Noir trocken "Tschuppen", Weingut Zierreisen (Baden)

5. のラインガウは酸味とブルーベリー系の果実味のバランスのとれたエレガントなスタイル。スッキリとして余韻にビターチョコ。粘板岩土壌の個性。
6. のバーデンは独特な青みのあるハーブぽい香りと、酸ときめ細かいタンニンによる柔らかな厚みを感じる。ほのかにキノコっぽいアロマ。石灰質土壌の個性。


第二部・テーマ別比較試飲

 以上のドイツワインの概要に続き、第二部では二人のMWはそれぞれテーマ毎に選んだワインを比較試飲した。導入で大橋さんはドイツは世界最大のワイン輸入国であり、世界中のワインが集まっているだけにバイヤーがとてもシビアなので、美味しいワインが安くなければ売れない。そういう環境の中でドイツワインは切磋琢磨されていると指摘。

テーマ1. リースリングのスタイル
7. 2014 Mineralstein Riesling trocken, Weingut Gerd Stepp (Pfalz)
8. 2014 Schieferstern Purus Riesling, Weingut Rita & Rudolf Trossen (Mosel)

 7. は大橋さんチョイス。手頃な価格で良質なリースリングのサンプル。みずみずしい柑橘にバランスの良い甘味。素直に美味しい。

 8. は希少なワインとロマナさん。畑面積2haの小規模生産者で、ドイツのビオディナミ草分け的存在の生産者が造る亜硫酸無添加のリースリング。添加物を何も使わない、ただ純粋に葡萄だけで醸造したワイン。酵母の香りとピュアな果実味、素直に体に染みこみ、もっと沢山飲みたくなる味わい(私見)。大橋さんはこのワインはまだ若く硫化物のヒントが強く、品種・産地の特徴を発揮するには時間が必要とコメント。

テーマ2. ピノ・ノワールのスタイル
9. 2012 Spätburgunder, Weingut Friedrich Becker (Pfalz)
10. 2012 Dürkheimer Feuerberg Dornfelder trocken, Vier Jahreszeiten e.G. (Pfalz)

 9.はドイツでも人気のある生産者で入手がなかなか難しい、と大橋さん。醸造手法としてもマセレーション発酵を冷却せず、発酵温度26, 7℃で行い、約1200ℓの古樽で熟成した土臭さがあり、ドイツらしいスモーキーさも。

 10.はラモナさんのチョイスでドルンフェルダー。ピノ・ノワールがサラブレッドとすると作業馬的な品種でエレガントさはないがアプローチしやすく、ジューシーでフルーティ。残糖が8~18g/ℓ前後ある赤はカリフォルニアをはじめとする新世界のデイリーワインでは珍しくないが、このドルンフェルダーはそのカテゴリーに入る、と大橋さん。ドイツではワインの約1/3を醸造協同組合が生産している。一方あまり知られていないがフランスでは50~60%が醸造協同組合が醸造したワインであり、協同組合のワインの市場における意味は大きい。

テーマ3. ヴュルテンベルクのスタイル
11. 2011 Kreation Rot S, Weingut Dautel (Württemberg)
12. 2013 Lemberger trocken, Schlossgut Hohenbeilstein (Württemberg)

 ヴュルテンベルクはトロリンガーのイメージがあるが、レンベルガーも主要品種。オーストリアではブラウフレンキッシュと言う。急峻な斜面の葡萄畑の麓にメルセデスやポルシェの工場があり、経済的に豊かな地域で、あまりいろいろ考えずにお金を出して気軽にワインを飲むイージーゴーイングな消費スタイルが主流だとラモナさん。反面、裕福な消費者が多いので高品質なカテゴリーでは輸入ワインとの競争が厳しく、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといった品種を他の生産地域に先駆けて栽培しはじめたのもヴュルテンベルクだった。

 11.はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロとレンベルガーのブレンド。濃厚で角がとれて柔らかでクリーミーなテクスチャの赤。高品質だが日本国内価格は1万円を超えるので、飲むシチュエーションを選ぶワイン。12.はレンベルガーにしてはトロリンガーぽい、チャーミングでクリアな明るい色調の赤で、ヴュルテンベルクらしい個性。地元の人に好まれるタイプ。


テーマ4. リースリング甘口
13. 2008 Ratzenberger Riesling Spätlese, Weingut Ratzenberger (Mittelrhein)
14. 2012 Bernkasteler Doctor Riesling Spätlese, Weingut Wwe. Dr. H. Thanisch (Mosel)

 1995年のフレンチパラドックス以来、赤ワインの消費が増えて甘口は市場で影が薄くなっていったが、本当に日本人の嗜好にあうのは中甘口から甘口ではないかと大橋さん。とりわけエントリーレベルで一般消費者に受けるのは間違いなく甘味を感じるワインであり、甘口の見直しがなされてしかるべきと指摘した。

 13.はミッテルラインの急斜面で有機農法で栽培されたリースリングの甘口。UNESCO世界遺産の産地でもあり、日本人は世界で一番世界遺産を重視するので、販売方法として利用しない手はない。しかもアルコール濃度が低い。US市場で特に若者にアルコール濃度8%前後のマスカットの甘口が人気となっている。日本でも同様のブームが期待される、と大橋さん。

 14.はモーゼルの甘口。甘味は欠点を隠すためのものという人もいるが、モーゼルの甘味はマジカルな味わいだ。つまりスレート土壌、冷涼な気候によるタイトな酸味が甘味と調和し、他にはない味わいをもたらしている。甘味は熟成とともに後退し、うまみが前に出てくるので、例えばモーゼルで地元の人がやるように、鹿やイノシシなどのジビエにもあう、とラモナさん。和食との組み合わせを考えた場合、みりんを使った料理との組み合わせも考えられ、熟成した甘口のうまみとの相乗効果が期待出来る、と大橋さん。

 以上、二人のMWによるドイツワインの今を伝えるセミナー要約でした。ご参考になれば幸いです。

(以上)





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Last updated  2016/07/09 10:36:37 PM
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Comments

李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002 @ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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