2017/04/09
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ドイツワインセミナー@フーデックスジャパン2017。

3月上旬に幕張メッセで開催されたフーデックスジャパンのドイツワインセミナー。主催はワインズ・オブ・ジャーマニー日本オフィス(以下WOGJ)で、何はともあれ無事終えてほっとしています。テーマは「ドイツワインの現在」。プレゼン資料もワインのセレクトもドイツワインインスティトゥート(以下DWI)とWOGJが用意していましたから、私の役割はそれを参加された方々に伝えることでした。

目の前にある対象が、一体何であるのか。どのような意図をもって選ばれたのか。このワインを使って、依頼者は何を人々に伝えようとしているのか。それを読み解きながら、言葉を添えるようにしたつもりです。もっとも、人前に立つとあがってしまって文法や言葉の選択が乱れることもしばしばですから、わかりにくいところもあったと思います。

フーデックスで開催されるセミナーは基本的に、ドイツワインに限らず、そのワインの生産国の概要を紹介することが目的です。ですから、生産国ドイツの全体像(位置、気候、生産量、ワインの特色)と、生産地域の特徴(位置、名称、面積、栽培品種、地形、気候、土壌)を、試飲するワインとともに伝えることがメインとなります。もっとも、データを羅列したりスライドを読み上げるだけでは退屈になってしまいます。どこにポイントがあるのか、特徴のなかでも何がいちばん重要なのかを考えながら話しますが、それはその時々の話の流れで変わってきます。

さて、用意されたのは以下の7種類のワインでした。

・ファーストフライト:リースリング以外の辛口白

1. 2015 ヴァイサー・ブルグンダー、クヴァリテーツヴァイン・トロッケン(Michael Schneider, Weinkellerei Zimmermann-Graeff & Müller/ ファルツ)
2. 2011 ジルヴァーナー、フリッケンホイザー・カペレンベルク・グローセス・ゲヴェクス(Weingut Bickel-Stumpf/ フランケン)

ファルツのヴァイサー・ブルグンダーとフランケンのジルヴァーナーです。ここでポイントになるのが、ドイツの辛口の生産比率の上昇(現在全生産量の約70%が辛口もしくは中辛口)と、温暖化で辛口が造りやすい気候条件になっていることだと思います。温暖化する以前は葡萄が熟しにくく、未熟なブドウに残っていた酸とバランスするための甘味が必要だった。ところが、今では葡萄が毎年完熟するようになったので調和のとれた辛口が造りやすくなっています。もちろん、甘味と酸味の調和した甘口ワインの魅力は、他の国では作れないドイツならではの魅力ですが、ドイツでも高品質な辛口が安定して出来るようになったことは喜ばしいことです。

また、辛口の増加には1990年代以降、ドイツでも食事にあわせてワインを楽しむ習慣が普及してきたこともあります。かつては料理を必要とせずに、会話しながらワインだけで楽しめるタイプが求められていたのが、現在では料理にあわせて楽しむワインが求められるようになっています。これが辛口比率の上昇の要因の一つです。

このセットのもう一つのポイントが、大規模生産者のデイリーワインとVDP加盟醸造所のグラン・クリュの比較という点。それぞれの蔵出し価格は前者が2.5Euro、後者が17.39Euro。7倍の開きがあります。前者は日常的に消費される気軽なワインの安定した品質を、後者はグラン・クリュの持つポテンシャルを引き出すために手間暇を惜しまずに作り込んだ個性を示しています。ここで注目したいのは、日常的に消費されるワインでは、大規模な生産者は、ブドウを栽培して納める小規模な栽培農家に高品質な葡萄を栽培するノウハウを指導して、収穫の品質によって買い取り価格に差を付けるといった工夫が行われている点です。かつては醸造協同組合などの大規模な生産者のワインは、安かろう、まずかろうということが少なくなかったのですが、近年は普段飲み用として十分美味しいワインが増えています。中には若手チームを結成して、従業員や栽培農家のモティヴェーションを上げようとしている協同組合もありますから、大規模生産者とはいえあなどれないのが最近のドイツワインです。

一方で、VDP加盟醸造所のグラン・クリュのワインの明確な個性は、辛口ドイツのポテンシャルを示しています。ドイツを代表する高品質なワインを生産する醸造所が約200あまり加盟するVDPがグラン・クリュに認定した畑で、収量を50hℓ/ha以下抑えて(このジルヴァーナーでは35hℓ/ha)、手作業で収穫して手間暇惜しまず造った職人技の味。ジルヴァーナーという品種は果皮が厚いので、マセレーションを長めに行ってアロマを引き出して、木樽で半年以上熟成しています。さらに2011年産ですから香りも開いて華やか。ジルヴァーナーの栽培面積は近年減りつつありますが、酸味がゆるくて複雑で香り高い魅力的なワインが出来る品種です。

・セカンドフライト:辛口リースリング

3. 2015 リースリング、クヴァリテーツヴァイン・シュタイルラーゲ・トロッケン(Moselland e.G./ モーゼル)
4. 2014 リースリング、クヴァリテーツヴァイン・トロッケン(Weingut Kruger-Rumpf/ ナーエ)

次がリースリングの比較。ここでも大規模生産者と小規模生産者が対になっていましたが、それはさておき、リースリングといえばドイツを代表する品種です。辛口ブームになってからますます栽培面積が増えている。なぜか。テロワールの個性を反映しやすい品種だからです。異なる土壌、地形、気候、生産者によって様々なワインが出来る、その多様性がリースリングの魅力であり、面白いところです。ミュラー・トゥルガウはどこでも栽培出来て安定して収穫出来、そこそこ高品質なワインが出来ますが、どこでもだいたい同じ味なってしまう。そこがリースリングとの違いです。3.のモーゼルの大規模生産者モーゼルラントもまた、栽培農家にノウハウを指導しながら高品質なデイリーワインを造っています。「シュタイルラーゲ」は急斜面の葡萄畑の意味で、蛇行するモーゼル川の両岸に聳える粘板岩土壌の水はけの良い葡萄畑から、この繊細でスッキリとした味の辛口リースリングが出来ます。

一方ナーエの約17haの葡萄畑でワインをつくる、やはりVDPに加盟している小規模生産者のクルーガー・ルンプのリースリングは、軽く繊細で張りのあるミネラル感と落ち着いた果実味で、いかにも手作りというか職人の手仕事を感じさせます。ナーエは粘板岩・斑岩が上流の険しい斜面に分布し、下流のラインガウに合流する平野ではレス土壌のやわらかい土が堆積しており、比較的狭い地域で多様な個性のワインが出来る産地です。昔からナーエが栽培実験場といわれる所以です。

ちなみに、ドイツワインを理解するには、まずそれぞれの産地の個性を理解することが早道だと思います。産地ごとに気候、土壌、地形、文化が異なり、それがワインの個性を造っている。ドイツというくくりに捕らわれていると、なかなか本質が見えてきません。

・サードフライト:ドイツの赤

5. 2014 レンベルガー、クヴァリテーツヴァイン・トロッケン"Mann im Fass" (Weingärtner Stromberg-Zabergäu/ ヴュルテンベルク)
6. 2014 シュペートブルグンダー、アスマンズホイザー・ヘレンベルク、クヴァリテーツヴァイン・トロッケン(Weingut Meine Freiheit/ ラインガウ)
7. 2014 シュペートブルグンダー、クヴァリテーツヴァイン・トロッケン(Weingut Frey/ ラインヘッセン)

用意された7種類のうち3種類が赤というのも、ドイツの赤をアピールしたいう主催者の意図が感じられます。温暖化の恩恵をうけて、ドイツではフランス系の品種の栽培面積が白・赤ともに増えていますが、赤は1990年代の世界的な赤ワインブームの影響で特に増えて、現在は約35%を占めています。中でも赤ワイン用ブドウの栽培比率が高い産地の一つがヴュルテンベルク。シュトゥットガルトというメルセデス・ベンツやポルシェが本社を構える産業都市があり、ドイツ全体の年間ワイン消費量平均約20リットルよりもはるかに多い47リットルと、ワインが非常に良く飲まれているのもこの産地の特徴です。地元で特に愛飲されているのが、軽くて口当たりのよい赤ワインのトロリンガー。試飲に出ているレンベルガーはオーストリアではブラウフレンキッシュという、高品質な赤を産する品種です。この5番のワインの生産者も、約1100もの小規模な栽培農家のブドウを買い取って醸造・販売する大規模な醸造協同組合ですが、日常的に飲むのに申し分ない品質です。ラズベリーの柔らかい果実味、こなれたタンニンで口当たりも良い。

6.と7.はシュペートブルグンダー、つまりピノ・ノワールのラインガウとラインヘッセンの比較。ピノ・ノワールはドイツではシトー派がラインガウに12世紀に持ち込んで以来栽培されている伝統品種で、リースリング同様テロワールを反映する能力のある品種としてよく知られています。一方意外に知られていないかもしれませんが、ドイツはピノ・ノワールの栽培面積がフランス・アメリカに次いで世界で3番目に広いワイン生産国です。温暖化の恩恵と栽培・醸造のノウハウの蓄積を通じて近年品質の向上が著しく、注目を集めています。

6.はシトー派の修道士が開墾したといわれるアスマンズホイザー・ヘレンベルクの葡萄畑の、斜面の上の方にある約1haの畑。粘板岩が多く水はけがよく冷涼な栽培条件を反映して、スッキリと抜けの良いクールでピュアな味。一方7.のラインヘッセン南部のフレイ醸造所のピノ・ノワールは石灰岩土壌で温暖な気候のピノらしく、濃いめで柔らかい果実味。参加された方に聞いてみると、前者はニュイ、後者はボーヌとタイプの違いを的確に表現されました。

生産者という側面に目を向けると、6.は2010年に設立されたばかりの醸造所。投資銀行の経営者のワイン好きが昂じてラインガウに葡萄畑を購入して醸造所を造ってしまったそうです。もっとも、オーナーによれば異業種の進出は一種の経営多角化なのでリスクヘッジになるそうです。ラインガウでは他にもシャ・ソヴァージュ醸造所が、ハンブルクの建設会社のオーナーの趣味が昂じて設立されたという点で共通します。他にもドイツ各地で類例があり、異業種から醸造への進出は近年のドイツの傾向といえます。

また、7.の生産者は若手醸造家です。今回単独でフーデックスに来ていたクリストファー・フレイは24歳で、兄と一緒に実家でワイン造りに取り組んでいます。2000年ころからラインヘッセンをはじめとする各地で若手醸造家達が団体を結成して、互いに切磋琢磨し助け合いながら品質の向上を目指してきたことはよく知られています。フレイのワインもそういう流れの中にあります。

以上、振り返ってみると、よく考えられて選ばれた試飲ワインだったと思います。主催者のスタッフも温度管理に細心の注意を払って手際よくサーヴして頂きましたが、一つだけ、グラスの匂いが気になったという指摘がありました。来年は誰が講師になるのかわかりませんが、フーデックスでセミナーを行う際は気をつけたいところです。

ともあれ、主催者のワインズ・オブ・ジャーマニー日本オフィスの皆様と、貴重な時間を割いてご参加いただいた皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。


セミナーに出たワイン。写真は友人のK.U.さんの提供。多謝。





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Last updated  2017/04/09 10:36:00 PM
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Comments

李斯。@ お久しぶりです。 御無沙汰しております。 何時も拝見してい…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その64(04/05) 「ムスカテラー辛口」は私も買おうかと思…
mosel2002 @ Re[1]:ひさびさのドイツ・その54(03/14) pfaelzerweinさん >私の印象では2013年…
pfaelzerwein@ Re:ひさびさのドイツ・その54(03/14) 私の印象では2013年からは上の設備を上手…

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