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空が遠い
固い床に仰向けで寝そべる
誰もいない宙を抱く
一度だけ君はそこにいて
いまは いない
だからそっと
自分の腕で再現してみる
大好きな 君のかたち
左の肘を右のてのひら
右の肘に左のてのひら
柔らかく当てたまま
近い方の手首をそっと頬に
後ろから抱き締めたときの
静かな情熱
君の手首に頬を当てたら
見えないタッチセンサーの
スイッチにふれたように
てのひらがくるりと反転して
大きな暖かい手が頬を包む
それが当たり前の
決まりきった動作のように
私の頬は 君のてのひらで
安堵して休息する
まるで
何万回も繰り返されてきたかのように
ひとつの不自然さもなく
それが正しい形であるかのように
左の肩を右のてのひら
右の肩を左のてのひら
押し当てて出来た
わずかな隙間に顔をうずめて
君と過ごした時間
甘い溜息を思い出す
君にしか見せない表情で
私がうたう幸せなハミング
隙間なく抱き締めた腕の
産毛が肌で遊ぶことに
歓びを感じながら
その腕がいつか離れる
切なさも予感して
そして時が経った今
私の上に広がる空の不在を
ひとり 噛みしめながら
いとしいあたたかさを思い出して
私はかなしい雨雲になる
幸せも 愛しさも
切なさも
すべて雨の粒に変えて
音も立てずに静かに降る
君は知らない
ひとりの私は
追憶の世界に雨を降らせる
ブルーグレーのかなしい雨雲
ネット詩誌 MY DEAR
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