ねねみにみず

ねねみにみず

『のんきな患者』梶井基次郎


 「梶井基次郎全集 全一巻」ちくま文庫より

さて、このところがーがー騒ぎながら(日記参照)読んでいた本です。私は速読術とか知らない割りに、結構読むスピードは早いほうだろうと思っていたのですが、今回はなかなか進みませんでした。何故か?全編を覆う病気の影が読者まで息苦しくするためかと思われます。

 体の病が心まで病ませるのか、それともその逆か。本当に、息苦しい。驚くことに、それでもいやな感じがしない。明らかに病んでいるにもかかわらず、奇妙な明るさが死の影を凌駕しているんですよね。木々や鳥に対する暖かな目線。毛の湿った猫を追い出せなくて四苦八苦するところなど、本人は癇癪がおきそうだ~といっていますが、読んでいるほうはくすっとしてしまう。六十を越した母親へのつっかかりかたなど小学生のようです。そして最後のエピソードを読むにつけ(天理教の勧誘にひっかかり、住所を教えそうになる)、私はすっかり母親の気分になりました。母親がどう思ったかなどという描写は一切ないのですが、「しょうがないね~この子はもう。そういうところがかわいいんだけどお」という気持ちに、私自身がなってしまうのです。今回の新しい発見です。梶井は、母性を刺激する。

 『檸檬』『ある心の風景』で主人公が求めている心の平安が、この短編にあるのではないかと思いました。読み終わったあとに、『のんきな患者』・・・このタイトルが、私の心を打つのであります。(2004/11/5)


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: